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もふぽて  作者: しーにゃ
第二章
101/121

第1話 春はのんびり過ごします

百話超えたので章編成してみました。

最初は百まで続くと思っていなかったので漢数字を使っていましたが、百を超えると自分が面倒くさいと感じたので、今度は普通の数字でまた1から始めたいと思います。

第三章がいつになるかは未定です。

それでは今後ものんびり書いていきますので、よろしくお願いします。

 春。暖かな木漏れ日と心地よい風を浴びていると眠気を感じてしまうような日々が続く季節。そんな季節の今日この頃、われは側近のミリアと配下であるヴィム、ルーア、それに隣人である森の動物たちと一緒に相変わらず修行に勤しんでいた。


 春先にケイとフレイの第二子である息子のサクヤが産まれるにあたり、拠点全体がそわそわとする時期もあったが今ではすっかりといつもの雰囲気に戻っている。まあいつも通りとは言っても、われ以外のものは毎日サクヤと遊ぶ時間を新たに設けているので、以前と変わったと言えば変わったのかもしれない。


 だが少なくとも修行に身が入らないということはなくなったので、われとしては何の問題もない。動物たちが修行の手を抜く分にはわれとの実力差が縮まるだけなので一概に悪いとは言えないのだが、やはり競争相手がいるというのは大事な要因だからな。全力を出した相手に正面から勝つ。これこそ頂点たるわれにふさわしい生き様だろう。


 ということで今日も今日とて修行に精を出し、きちんと昼寝して、拠点の平和を守るため、主としての実力を伸ばすための努力を惜しまないわれなのだった。



 春と言えば、ケイの故郷には春になると花が咲く『さくら』という美しい木があるらしい。この森では季節の巡りは天候や気温に影響を及ぼすが、植生が規則的に変わるということはない。不規則にでたらめに変わるだけだな。そのため特定の季節に決まった花が咲くというのはミリアや動物たちにはいまいち伝わらなかったようだが、森の外で暮らしたことのあるわれには理解できた。


 そしてその『さくら』という木に似たもの、便宜上桜と呼んでいる木をケイは毎年森に出る時に探していたようだ。未だに見つけられておらず、ブラドに訊いてもさっぱりらしい。そこで色々と思い出のある故郷の木のことを忘れないように、そして美しく何度でも咲き誇れるようにと息子にサクラと名付けようとした、という隠しエピソードをこの前ケイが子守歌代わりに話していた。


 その時は一緒に昼寝しようとしていたわれやミリアたちも興味深げに聞いていたのだが、ミリアたちが眠りについた後ケイが言っていたセリフがわれにとっては強烈だった。


 なんでも桜は出会いと別れの象徴でもあるらしく、また失恋の思い出が残りやすい木でもあるそうだ。そしてケイも例に漏れず悲しい思い出があったらしい。そのせいで昔は大嫌いだったそうだ。そこでここに来た当初は桜ににた木があったら切り倒すために探しており、フレイと森で再開してからはそんなことは忘れてなんとなく惰性で探し、最近は郷愁の思いからまた見たくなって探しているらしい。


 それを聞いてやはりケイはどこかおかしいやつだな、とわれは再確認したのだった。様々な木が生えるこの森に住み始めて考えたことが、嫌な因縁のある木を切り倒すこととか、出会った頃のケイは意外とストレスが溜まっていたのだろうか。


 だがまあ今は問題ないそうなので気にしないことにしよう。幸いその時のケイの暗い呟きを偶然聞いていたのはわれだけだったようなので、黙っておけば大丈夫だろう。


 と、そうではなかった。桜のことを思い出したのはそんなケイのどうでもよい話を思い出すためではない。本題はその桜とやらに似た木が魔族領にあったということだ。


 ケイから桜エピソードを聞いたシルフィが無駄に気合を入れて王命を出し捜索させた結果見つかったらしく、本日無駄にやる気のシルフィがその木をまるまる一本ここまで持ってきたのだ。運搬にはブラドも協力したらしく、その見事な桜の木は現在無事拠点の家の近くに植えられている。


 白にほんのりと桃色を足したような色の五枚の花弁を持つ無数の花を咲かせた桜の木は美しいし、登りやすく眠りやすいため、植えること自体は特に文句はなかった。だがわれが気に入らなかったのは、例のごとくと言っても良いほどに毎度のことだが、事前にわれの許可を取らなかったことだ。


 たしかにここはブラドの管理する森の中にある拠点だが、この拠点はブラドが認めたわれの拠点なのだ。あまりにも好き勝手されるのは困るし、どうせわれが最後には許すなどと舐められるのはもっと困る。おい、シルフィ、ブラド。その辺おぬしたちはどう思っているのだ?


 われが植えたばかりの桜の木の下で二人に正座させて説教している姿を、ケイたちや動物たちが微笑ましく見守っている。いや、ケイだけは二人に向けて小憎たらしい顔をしていた。だがシルフィとブラドに反応などさせない。われは演出として体の周りにパチパチと雷を発生させながら厳しく二人に説教を続けた。


 われが今回気合を入れて説教しているのは、いわば見せしめのためだ。ケイたちに二人目の子供が産まれ、今後更にこの拠点は賑やかになるだろう。主に子供を愛でるために。だがブラドやシルフィ、ベルなんかはともかく、動物たちや更に遠くから来た客にも同じように自由にさせ過ぎるのは良くない。


 ミリアやサクヤにわれが主だと伝える意味でも、配下たちに拠点の内外で行動にメリハリをつけさせるためにも、そしてわれのプライドのためにも、定期的にこうして主としてのポーズを取らないとダメなのだ。馴れ合いの関係だけではいつか必ず痛い目に遭うだろう。


 最近動物たちがサクヤの為に暴走気味だったので、いちいちあやつらに注意するよりもこの二人に生贄になってもらうのが効率的なので、二人には今回は我慢してほしい。それにわれがこやつらに正論で説教できる機会はありそうでなかなかないからな。


 ひとしきり説教を続けた結果、ブラドとシルフィは黙って最後まで話を聞いていてくれた。若干不貞腐れた顔をしているのは、説教され慣れていないせいだろうか。まあ森の主と魔族の王が説教されることは少ないだろうしな。…いや、こやつらは普通に部下から説教されているんだったな。単純に叱られるのが嫌いなだけか。


 とにかくわれは一仕事終えすっきりしたし、こやつらにはきちんと飴と鞭を与えてやらねばな。そう思ったわれは事前の打ち合わせ通りケイに視線を送った。それを受け取ったケイは徐に桜の木の下にシートを敷くと、大量の料理を並べ始めた。なんでもケイの故郷には花見という文化があり、毎年春になるとこうして桜の花を見つつどんちゃん騒ぎをするらしい。


 ブラドやシルフィにはうまいものを与えておけば機嫌が良くなるからな。これで今回説教の生贄にした分の借りは返したことになるだろう。決してわれが豪華なご飯を食べたかったわけではないぞ。われは普段のケイの料理で満足しているからな。うむ。


 こうして春の新たな宴の習慣を作りつつ、われたちはご馳走を楽しむのだった。



 春を満喫しつつ、今日の昼寝タイムを桜の木の上でのんびり過ごそうとしていると、家の中からサクヤの大きな泣き声が聞こえてきた。ミリアの時はあまり感じなかったが、どうやら人間の赤子は泣き叫んでコミュニケーションをとるものらしい。


 まあミリアも泣いてはいたのだが、われが近づくといつも泣き止んでいたからな。そのせいであまり赤子にそういう印象がなかったのだ。


 サクヤはどうやらミリアと違って、われを見て泣き止むという習性はないらしい。そのことにケイとフレイは何故か安堵していたが、親心というやつだろうか。二人はミリアや動物たちと一緒にあの手この手でサクヤの機嫌を取ろうとしている。


 ただ最近、そんなサクヤにはとある好物があることが判明した。それは、紫色のものだ。なぜかシルフィがいる時は泣くよりも笑っていることが多いことを不思議に思い、ギルが嫉妬からいたずら、もとい検証した結果わかったことだ。


 ギルが魔法で変身して様々な姿を見せたのだが、共通してサクヤが喜んだのが紫色の髪や服を持つものの姿だったのだ。それに気付いたギルがケイと共謀しシルフィに金髪のウィッグを被せた所、見事にサクヤは泣き出した。


 シルフィはあまりのショックにその日の夕飯は三杯しかおかわりをしなかった。


 だがそれがわかってからはケイが紫色の入ったおもちゃを、フレイが紫色の生地を用いた服を作り、無事サクヤの機嫌が良い日が増えた。シルフィには辛い事実だったかもしれないが、われは配下の味方なのでな。まあ、これからもがんばるのだぞ。


 そんなことを思い出しながら桜の木の上でうつらうつらとし始めると、眼下に何かを持ってきょろきょろと辺りを見回しているミリアの姿が目に入った。


 直感的に危険を察したわれは枝の陰に身を潜めつつミリアの持っているものを注視する。するとそれが紫の染料を溶かした水入りのバケツだということがわかった。あれはケイが時々罰ゲーム用に用いる色水の一つで、無毒無臭の安全なものだ。


 なぜミリアが遊びもしていないのにそんなものを持っているか考えると、答えは一つしかない。われにかけるためだ。


 思考回路としては、ミリアはわれを敬愛している。しかしサクヤはわれが近づいても泣き止まない。そんなサクヤは紫色が好き。われを紫にすればサクヤは喜ぶのではないか。結果、サクヤはミリアと同じくわれのことが好きになる。そうなればみなハッピー。そんなところだろう。


 われが一瞬でそこまで考えを巡らせると、バッとこちらを向いたミリアと目が合った。ミリアの恐ろしい気配察知能力にわれは素直に感心する。だがまずいな、あの目は親とそっくりの目だ。自分の目的のためにはあくどい手段に手を染めることも厭わない、そう決意している目だ。


 おそらくミリアは実行した後でわれまたは親に怒られるか、実行しようとしてわれに本気で怒られるか、どちらかでなければ行動をやめることはないだろう。


 最初から本気で叱ってやっても良いが、なんでもかんでもやる前から怒るのも教育上良くないかもしれんな。今回われが紫に染められて困るのは、最終的に洗われるついでにもふもふされるわれだけだしな。


 よろしい。ならばミリアよ、正々堂々と勝負しようではないか。そうそう自分の思い通りにことは進まないことを、改めて実感させてやろう。


 この瞬間、われとミリアの本気の勝負が始まった。



 最終的に動物たちの妨害が響きわれは紫に染められることになったが、鮮やかな紫色のわれの姿をサクヤは気に入ってくれたようだ。まあミリアとの勝負も中盤までほとんどわれの勝ちみたいなものだったし、配下からの好感度が上がったのなら実質われの勝ちと言っても良いだろう。そういうことにしておこう。


 騒動を聞きつけたフレイがこっそり親指を立てながらもミリアを注意したので、教育という点でも悪い結果にはならなかったようだ。うむ。めでたしめでたし、だな。


 だからケイよ。その手に持っている洗面用具セットをおとなしく降ろせ。ほれ、そっちにも自ら紫に染まった動物たちがいるだろう。われは自分で自分を洗うから、おぬしはあちらを洗えばよい。


 われは必死に説得を試みたが抵抗虚しくケイに捕まり、あわあわのびしゃびしゃ、ふかふかのふさふさにされた後、ケイ、フレイ、ミリアの三人から思う存分もふもふされたのだった。


 ううむ、サクヤはもふもふ好きになるのだろうか。なってもよいが、われをもふるのは勘弁してもらいたいものだな。


 そう思う春の平和な一日だった。



*****



 今日はあったかい日でした。しゅぎょーにおひるね、サクヤのお世話と、いつもどーり楽しい一日でした。


 この前ギルじいが、サクヤが紫が好きなことを発見してくれたので、パパにお願いしたら紫の色水をよーいしてくれました。


 さっそくタマを紫にして、サクヤにタマのことを大好きになってもらおーと思いました。でもタマはすぐにそれに気付いて、にげだしました。やっぱりタマはすごいです。どうぶつさんたちのお手伝いがなかったら、失敗してしまうところでした。


 なんとかタマを紫にしてサクヤに見せたら、とっても喜んでくれました。このままタマのことも好きになってくれないかな。


 後でむりやりタマを紫にしたことをママに怒られてしまいました。でもママも本当はたのしそーだったので、今度はパパのいうとーり、ちゃんと聞いてから、じつりょくこーししたいと思います。


 最後はみんなでふかふかのタマをもふもふできて、今日はとってもいい一日でした。


 明日もいい日だといいな。


最後の別視点は、ミリアの日記のような、一日の感想みたいなものです。実際ミリアが日記を書いているわけではないと思います。賢いと言ってもまだ五歳児なので。

というわけで、二章からは時々短めの他キャラの視点を入れてみようかと妄想していますので、もし突然出てきても驚かず読んでください。明言はしませんが、読んでれば誰視点かはわかるように書きたいと思います。…書けたらいいなあ。


前書きでも書きましたが、これからも適度にがんばりますので、よろしければお付き合いください。


お読みいただきありがとうございました。

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