第百話 二人目の子供の誕生
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春の暖かさが感じられるようになってきた今日、朝から続く小雨が夕方頃止んだかと思ったら、元気な産声が聞こえてきた。昼頃から陣痛の痛みに耐えながらも無事フレイは出産できたらしい。
われがそう思った瞬間にはシルフィが扉のノブを握りしめ開けようとし、その背中をミリアがぺちぺち叩いていた。これ、産後すぐ会えるわけではないんだぞ。おとなしく待っていろ。
まあ中からブラドが魔法で扉を開かないようにしているようだから、入ろうとしても入れないだろうがな。魔王であるシルフィでも開けられないとかブラドは気合を入れ過ぎだな。
われがゆっくりと近づいて軽く雷を流し二人の凶行を止めると、ヴィムなどの大きめの動物たちがローテーブルまで引っ張って行き、無理やり座らせた。
われが時間稼ぎにこんこんと説教をしている間も泣き声は漏れ聞こえてくる。それを聞いてミリアたちがそわそわおどおどしながら待っていると、少ししたらブラドが出てきた。みなからの鋭い視線を受け流しつつ、ブラドは言葉を述べた。
「無事産まれた。詳しいことはケイが落ち着いたら話すと思うから、もう少しだけ待っていてくれ」
そう言ってミリアを抱き上げ、椅子に座りミリアを膝の上に座らせた。どうやらミリアが暴走しないようにしているらしい。だが今はシルフィの方が危ないのではないだろうか。と思いシルフィの方に目をやると、シルフィはいつの間にか氷の檻の中に閉じ込められていた。ついでに落ち着きのなさそうな動物たちも一緒だ。
われはそれを見なかったことにし、ミリアを落ち着ける手伝いのため、ヴィムとルーアと一緒にブラドの隣でおとなしく座った。
ミリアは泣き声が聞こえる度にブラドの膝の上から出ようとじたばたするも、もちろんブラドは逃がさない。諦めたミリアは只々熱心にフレイ達の居る部屋の扉を見つめる。
おそらく数分だっただろうが、実際以上に長く感じる時間おとなしく待っていると、やっとケイが部屋から出てきた。その腕の中にはきれいな布に包まれた何かが抱えられている。
再び暴れ出したミリアをブラドが抱えてケイの所まで移動すると、ミリアはようやく動きを止めた。というか停止した。
そんなミリアの様子とシルフィたちの閉じ込められた氷の檻を見てケイは笑いつつ、報告を始めた。
「みんな、お待たせ。俺たちの二人目の子供が無事に生まれた。男の子で、名前はサクヤだ。言うまでもないかもしれないけど、これから仲良くしてやってくれ」
そう言うケイの背中をひょいと登り肩に捕まると、腕の中にいる赤子の姿が目に入った。黒髪の男子のようだな。少しぐずつきながらも藍色の瞳で姉となるミリアと見つめ合っている。
ケイはブラドに抱き上げられたままサクヤと見つめ合うミリアに優しく声をかける。
「ミリア。弟のサクヤだよ。お姉ちゃんになった感想はどうだ?」
ミリアはゆっくりと腕を伸ばして小さなサクヤの柔らかい頬をつつく。サクヤは嫌がらずにミリアを見つめている。そんな弟の姿から目を逸らさずにミリアは呟いた。
「おとーと。さくや。さくや。さくヤ。サクヤ。」
何度か名前を呟いてしっかりと弟の名前を噛みしめたミリアは笑顔を見せる。
「サクヤ。おねーちゃんの、ミリアだよ。これからよろしくね」
おそらくこの言葉は伝わってはいないだろうが、サクヤはきょとんとしてからうっすらと笑ったように見えた。気のせいかもしれんが、そう見えたのだ。
ヴィムが持ってきたカゴにケイがサクヤを丁寧に置き、そのカゴをソファの上に置く。ミリアが産まれた時と同じだな。
われは懐かしく思いつつカゴの隣に降り立つ。そして黒髪の生えるサクヤの小さな頭を右手で撫でてやり、声をかける。
サクヤ、ここの主のタマだ。これからよろしくな。
「うにゃ。みゃおん」
そう言って見つめてやるとわれは場所を空けた。だが離れようとしたらブラドから解放されたミリアに抱き上げられた。うむ。最近特に実感したのだが、余裕のないミリアはわれを無断で抱き上げてしまうようだな。後で注意しておこう。
ミリアの腕の中からヴィムとルーアがサクヤに挨拶する様子を眺める。それが終わると緊張した様子のブラドがサクヤの頬をつつこうとするが、何かを感じたのかサクヤは泣き出した。その事態にブラドはひどく落ち込む。勇気を振り絞った結果泣かせることになってしまったことで時折ガラスになるハートが傷付いたようだ。
その結果かどうかはわからんが、シルフィたちを閉じ込めていた氷の檻が消えた。動物たちは我先にと静かに高速に近付き、閉じ込められていなかった動物たちの作る行列の後ろに並ぶ。
だがサクヤはまだ泣き止まないようで、動物たちは少ししょんぼりしつつもなんとか挨拶を済ませたようだ。
そんな中動きを見せないのがシルフィだ。ブラドを慰めていたケイはそんなシルフィに気付くと声をかけた。
「どうしたシルフィ? 未来の旦那候補に挨拶しなくていいのか?」
ケイの軽口に反応してケイを睨むシルフィは、覚悟を決めたのかゆっくりと泣いているサクヤに近付く。
そしてしゃがみ込んでサクヤを正面から見つめると、次第にサクヤが泣き止んでいった。シルフィはそれに喜びつつ、慎重に腕を伸ばして頬をぷにぷにすると、驚いたことにサクヤがきゃっきゃと笑った。
そのことにブラドや他のものたちがショックを受けている間、シルフィはぷにぷにと柔らかい頬の感触を楽しみつつ挨拶をした。
「サクヤ。自分、シルフィっす。魔王をやってるっす。これからよろしくっすよ」
そう言って右手でサクヤの小さな右手をつまみ握手すると、サクヤが了解とでも言うように元気に一声あげた。
ふむ。これはもしやシルフィはサクヤに気に入られたのだろうか。
そんなことを考えてるとシルフィに嫉妬したミリアがわれを片手で抱えつつサクヤの隣まで行き必死にコミュニケーションを取ろうとし始めた。ブラドやケイ、動物たちも同じような感じだ。
シルフィは一人、初スキンシップが良好だったことを喜び謎の舞をしているが、放っておくのが正解だろうか。いずれにしても大勢で一斉に話しかけている今の状況はまずいな。ほれ、またサクヤが泣き始めたぞ。
われはミリアの腕をぺしぺし叩いてこちらを振り向かせると、しっぽで扉の方を指し示す。
今はみなサクヤに夢中なようだ。この間にフレイに会いに行ってはどうだ?
「にゃむ、みゃあ。みゃぁお?」
われの言葉にハッとしたミリアは急いでフレイの居る部屋へと向かった。そして扉をあけ放ったミリアは勢いよくフレイのいるベッドに突撃した。
「ママ! だいじょーぶ!? サクヤ、みたよ! ミリアのおとーと! ちっちゃくて、かわいかった! ママ、ありがとー!!」
勢いのままフレイに抱き着くのをギリギリで踏み堪え、頭に浮かんだ思いを一気にまくしたてるミリア。フレイはそれを見て驚きつつもあらあらと微笑ましく笑っている。
うむ、フレイの体は大丈夫なようだな。心も落ち着いているようだ。
われは一言、お疲れとミリアの腕の中から声をかける。フレイは少しベッドの端に移動しミリアを抱きしめ頭を撫でながら、ミリアの話を聞き続けた。
ようやく興奮が収まったのか、ミリアは一旦口を閉じフレイの顔を見上げ、再度訊ねた。
「ママ。からだ、だいじょーぶ?」
いつまでもベッドから降りないフレイを心配に思ったのだろうか。ミリアは少し不安げな目でフレイを見つめる。それにフレイは力強く答える。
「大丈夫よ。ひと眠りしたらまた元気に動けるようになるわ。心配してくれてありがとね。今日は久しぶりにパパとママとミリアの三人で寝ましょうか」
ミリアはそれに笑顔で応えた。ふむ。どうやら妊娠騒動もこれでようやく落ち着くようだな。
相変わらずミリアの腕の中にいるわれは安堵の息を吐くのだった。
*****
二人目の子供のサクヤが産まれた日の夕食の後、みんながサクヤに夢中になっているのを眺めつつ俺はブラドとシルフィと一緒にちょっぴりとお酒を楽しんでいた。
心配事がなくなり開放的な気分を味わっているはずの俺だが、そんな俺の顔は少しむすっとしているだろう。サクヤが無事産まれたことにはとても安心したし嬉しいが、ひとつだけ納得いかないことがあったからだ。
「なんでサクヤはシルフィにばっかり笑顔を見せるんだ」
俺は怨嗟の念を込めつつそう呟いた。そう。なぜか息子のサクヤが親の自分よりもシルフィにばかり笑顔を見せるのだ。泣かれないだけマシなのかもしれないが、どうにも納得がいかない。
しかしそんな俺よりも更に低く暗い諦観した声でブラドがブツブツと呟いている。
「どうせ俺は子供から最初は嫌われるんだ。だがそれは魔力が大きすぎるから、ただそれだけだ。だから悲しむ必要なんかないんだ。むしろ後々は頼られるはずだ。未来に目を向けよう。はは、ははははは…」
うん、あれよりかはマシか。ブラドはなんだかわからないが泣かれてしまっているからな。ミリアの時はもう少し普通だった気がするんだが、何か男女で違いがあったりするんだろうか。
そんなことを思いつつ、隣で笑顔を見せるシルフィを睨みつける。
「いや~、サクヤは人を見る目があるっすね~。きっと立派な大人になるっすよ~」
そんなことを言いながら菓子を口に運んでいる。こいつ、調子に乗ってるな。俺はシルフィを睨みつけながら声をかけた。
「シルフィ、うちの息子に色目使ったら追い出すからな」
俺の言葉に思わず口の中のものを吹き出しそうになったシルフィは慌てて返事を返してきた。
「ちょっ、それ、今言うのおかしくないっすか? 赤ちゃんに色目を使うなんて人としてなんか間違ってるっすよ! …ってか色目ってどうやって使うんすか?」
そんなことを俺に聞くな。だがこの残念魔王ならそういう心配はしなくて大丈夫そうだ。ゆっくり時間をかけてサクヤを洗脳しよう。シルフィは残念なやつだから結婚しようとか考えちゃダメだってな。
俺は若干留飲の下がる思いがしたので一息吐く。すると何らかの悟りを開いたのか全てを諦めたのか、すっかり普通の表情に戻ったブラドが会話に混ざってきた。
「それにしてもサクヤとはいい名前だな。俺の意見を大いに取り入れてくれた所が特に素晴らしい」
そんな風に言うブラドの言葉に首を傾げたシルフィが訊ねてくる。
「サクヤって名前、そこの食いしん坊が考えたんすか? 何か意味があったりするんすか?」
その問いには俺が答える。
「俺の故郷の春を代表する花のひとつに『さくら』ってのがあるんだけどな。春生まれになりそうだし男女両方に使える名前だから案として出したら、フレイが気に入ってくれてな。それでいこうとも思ったんだけど、ブラドが色々昔の話だとかよくわからん言語の話を持ち出して因縁をつけてきてな。結局紆余曲折を経てサクヤに決定したんだ。ちなみに意味としては『夜空の下でも色あせない花を愛でるもの』だ」
まあ嘘だが。だがそんな話を信じたのか、シルフィはふむと頷いて返事を返した。
「ああ、確かに古代魔族の一部族で使われていた言葉にも、『サク・ラ』っていう殺戮者って意味の言葉があったっすね。まあそれもカッコいいので一部の魔族の間では好んで付けられることもあるっすけど。それにしてもそんな意味があるんすか。サクヤが成長したら夜遊びに誘ってみるのがいいんすかね」
おい、適当に言った俺の言葉を信じて息子を悪の道に引きずり込むのはやめてくれ。夜遊びを教えるなんて考えるのは十五年位早いぞ。
っていうか、ブラドが言ってた話と全く同じことをシルフィが言ったんだが、もしかして全部本当の話だったのか?
俺は若干ブラドの執念に身を震わせつつも、ひとまず息子の誕生を祝う酒を楽しむことにした。
こうして今日俺は二児の父親になったのだった。
百話目なのに話の内容が適当過ぎですね。まあ素人が書く話なんてこんなものだと思ってください。
それと全国のさくらさん、ごめんなさい。適当に書いただけで他意はありません。
それにしてもほぼ二か月で百話、45万字ですか。ひらがなを多用しているにしても多い気がしなくもないですね。まあ中身すかすかなので実質10万字くらいでしょうか。
とりあえず今後も書ける間は一日一話書いていこうと思いますので、よろしければこれからもお付き合いください。
お読みいただきありがとうございました。