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閑話 皆原夢の【悪夢】1


皆原夢の悪夢。



今でも偶に夢に見る、自分が最もどん底にいた時の昏い記憶。


幼少の頃からずっと悪夢を運んでいる悪魔の子と呼ばれたのだ。


切っ掛けは幼稚園の頃だった、皆で寝ているお昼寝の時間、幼い園児たちが揃って泣き出したのだ。


その子達は揃って怖い夢を見たといって泣き叫んだ、中には僕のおててはちゃんとある?やらおかあさん、いきてる?やら半狂乱になってその日からずっとふさぎ込むようになった子もいる事からそれがどんなに凄惨な悪夢だったのかを伺わせる。


・・・そして、そんな中で一人、すやすやとまるで意に介さぬように寝ている一人の子供を見た時の異常性は、周りからどう映ったのだろうか?


――【デメリット】そう言われるのに時間はかからなかった。


それどころか【危険能力者(アウターデッド)】だと悪し様に罵られる事もあった。


涙ながらにごめんね、と繰り返し謝る母とすまないと俯き言葉少なに頭を撫でる父に、何に対してそんなに謝るのか分からず、自分が何か悪いことをした事は朧げに理解していれど、身に覚えのない自分は泣きながら何がおこっているのか尋ねた。


最初は知らなくても良い、と各地を逃げるように転々としていたある日、小学生低学年になるまでは教えてすらくれなかった両親も、成長するにつれ肥大していく【悪夢】がついに夢だけでなく現実に影響を及ぼし始めた時、一番に影響を受けて痩せこけ隈の絶えない容貌になっていたにも関わらず、私の頭を撫で、抱きしめながらお前は悪くないんだよ、と。


そう口にして語ってくれたそれは、私には【加護】が憑いているそうなのだ。


それは本来は神様であったり、妖精であったり、そういった超常の存在が与えてくれるものなのだが、私のは、悪魔の与えた呪いに近いものらしく、神に祓いを賜ろうにも、魂に密接に関わるものらしく一度記憶を消さねばならないもの、また生まれた際の祓いを跳ね除けた事から相当上位に位置する呪いらしく、また、祓いにもお布施やそも、神様に祓いを願うだけの伝手もなく、巫女様や神遣様は穢れをきらったのか、それとも別の理由があったのか、まるで()()()()()()()しまったかのように祓いを受けることは出来なかった。


【夢凶鳥の呪い】私はそう呼んでいる。


この加護という名の呪いが発動したとき、決まって脳裏に走るイメージが見たことも無いほどの鋭い嘴とドロリと濁った白濁の眼、真っ黒な腐臭のする巨躯に常にどこかしらから滴る血が濡らす光景と泡の様なものがパチリと弾ける感覚がする。


悪夢が現実になる。


私が夢を嫌いになるのは当たり前の事だった。


この呪いが及ぶ範囲は私の周りにしか及ばないのは、不幸中の幸いかそれともより深い絶望だったのか、私が家を出ようとした事もあった、いっそ死のうと思った事も何度もあった。


けれど私の愛すべき親達は、そんな不幸の塊である私を捨てようとしたことさえなく、私が決まって姿を消そうとした時には、何故か図ったように多忙の筈の仕事さえ投げ出して、私のそばに居ようとするのだ。


私だけなら、恨みを力に変えれたかもしれない。


どこまでも夢の中に浸って、悪夢の中に住まう人になれたかもしれない、どこまでも墜ちて行って何処かの教団にでも身を窶していたかもしれない。


恵まれている、と思った。


少なくとも、この両親がいる限りは大丈夫だと、心の底から安心できた。


私が今生きていて、学校に通える程の活力になっている唯一の心の拠り所だった。


それにどれだけ救われた事か、それにどれだけ泣きたくなったか。


人に罵倒されるたびに、両親の憔悴した姿を見るたびに、日々眠りに落ちるたびに異貌の鳥は最悪を携えて私の前にやってくる事に心が砕かれる様に辛かった。


容姿なんて、とても酷かっただろう、隈は酷いし寝不足で肌や髪はガサガサでおまけに目は鋭く、周り全てを恨んでいるとでも言いたげで、ガリガリにやせ細っていて生きているだけ御の字、ぐらい。


――思い出が、光のように瞬いて泡のように弾けて消える。


中二の夏、忘れもしない。


私の【悪夢】が消えた日の事。






 夏の日の夕暮れに、一人の家で蹲る。


蝉が喧しく鳴いているこの季節が、私は嫌いではなかった。


もっと喧しく鳴いてくれ、もっと暑苦しく寝苦しく、もっと人を苛立たせてくれ。


――そうすれば私の悪夢が運ばれても、夏の暑さがかき消してくれる気がしたから。


世間は夏休みに入っていて、あの煩わしい学校へは行かなくても済むのはとても嬉しい事だった。


胡乱げな目で少し外れた人気のない所に建てられていたつい先月引っ越してきたばかりのこの家を見渡し、次いで窓を少し開き熱風と少し纏わりつくような水気さを持った風を招き入れる。


何でも昔にダンジョンが在ったところに近いらしく、近所と呼べるものは余りにも少ない。


元々住宅街ではないし、道の途中にある物置小屋を人が住める程度に改築しました、っていう感じがする。


私の悪夢の所為で、私の両親は共働きの多忙さで、余り家に帰ってきてはいない。


これは徐々に私の悪夢が現実に影響を及ぼし始めたのが原因で、私は真っ先に両親に泣きながら訴えたのだ、私の所為で父は仕事を失い、代わりに別の仕事を探す羽目になり母は病弱になり、病院に時折入院や退院を繰り返してしまうようになってしまったからだ。


私は、私の近くに居ない事で私は愛されている事を確認できると泣いて縋り、これ以上私の所為で迷惑をかけたくないと言って聞かなかった為、会うのは月に一度が限度。


なるべく一人でいる事が、とりあえずのこの呪いの対症療法だったからだ。


・・・けれどもやっぱり会いたいし、こんな夏の日には少しだけ心の中の我儘な自分が抑えを聞かなくなった様に暴れまわってしまう。


あまり考える事をしない様にぼうっと空を見上げ、息をそっとゆっくり吐いていく。


ふと、近くの商店街で人目を避け、苦労しながら買ってきた夕食の材料等が入ったバッグが目に入った。


いや、正確には押しの強いおばさんに貰った、一枚の紙きれが目に留まってしまったのだ。



「花火大会のお知らせ、かぁ・・・」



もしも私にこんな呪いが無ければ、友達や、両親と、花火を見に行ったりしたのかな・・・



「・・・いけない」



また考えてしまっている。


けれども、少しぐらいはいいじゃないか・・・悪夢しか寝ている間に見れないのだから、起きている間ぐらいは、いい夢を見てしまっても・・・


そのまま、窓際に体を投げながらぐるぐるとそんな夢を考えていると、途端に眠気が襲ってきてしまった。



(嫌だな・・・また・・・)



そんなまたいつもの悪夢の象徴であるあの化け物が眼前に現れて、そして悪夢を見てしまうのだ。


何時からか私にもこの悪夢を見せつけ、生きていることが最大の悪夢だとでも言いたげにすべてを奪うその化け物が――――。



『giyaaaaaaaaaaaaa!!kaaaaaaaagigigiiiiii!!!!????』



黒い線の様なものに絡めとられながら宛らトリモチに掛かった鳥さながらにビッタンビッタンとのたうち回り悲痛な叫び声を上げて線らしきものにとり込まれているところだった。



・・・・・・・・・は?


余りの事にフリーズした思考に合わせるように体が意識を手放していく直前、夢か現か定かではないが一人の男の子の優し気な声が聞こえた気がした。



「すいませーんビラ配りでーす是非うちの神社の祭りこないっすかー花火も上げ――ってうををを!?悪神の恩寵ーッ!?って千切れたぁっ!?何が!?何が起こったん!?え!!」


  

――その日初めて、私は悪夢を見なかった。








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