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閑話 初めての冒険3



体当たりではない、仮にも魔物避けの香を焚いていたのだ、警戒心の高さ故に生き残っているインビジブルモンスターは自ら攻撃する事はしない。


だが、俺は攻撃された。


それはひとえに俺自身が、自らが弱いが故に警戒心が高くなったモンスターでも、攻撃される程に弱かったという事だ。


攻撃方法が直接攻撃ではなく魔法による神秘的手段での攻撃なのは、流石というべきか。


せめて体当たりでもしてきたならばまだ反応出来たかもしれないのに。


神秘の一欠けらも持ち合わせていないレベル1じゃあ、畏れるに足らずってか。



「・・・ってぇなぁ!」



ざざざ、と。


びくりとしながらもおっかなびっくり攻撃をしようとしてきてるのを声で威嚇し牽制を試みる。


これまで近づく努力をして来たのに、ここからは寧ろ奴等を遠ざける努力をしなきゃならないっつーのは中々に泣けてくる。


おっかなびっくり攻撃しようとしてるのが分かるのは、今さっきぶつかった木を背にしながら囲まれているからだが・・・此奴等、全員風魔法でさっき俺を弾き飛ばした衝撃系の魔法と思われるものを使ってこようとしてやがる。


え?君達雑食?嘘でしょ?兎みたいなつぶらな瞳をしてる割にはやることエグくない?しかも囲んでフクロ?チンピラでもこんな事しないよ?財布でもだせばいいんですか?(切れ気味)375円しか入ってないけど???


拳銃握った野生動物ってこんなに脅威何ですか?


何とか今膝がガクガクしながら漸く立ち上がった所で・・・



「・・・後、何分だったかな・・・」



気になるのはタイムリミット。


さっきの衝撃で腕に嵌めていた帰還用の腕輪の留め具が壊れたのか、投げ出された俺の鞄や道具類と共に落ちている、最悪、体を食われながらでもアレを時間内に手に入れられればまだ助かるかもしれない。


こうなったらもう手段は選んでられない、何が何でもこの状況を切り抜けて帰還してやる。


といっても、俺に残された手段はもうこれしかない。


用意してきた勝算は、ダンジョンに対して余りにも考えが足らない自分自身の落ち度により通じなかった。


残るは最終手段。


これを交わされるか発動して不発に終われば俺は無残に死ぬだけだ。


金を稼ぐために格が足らない依頼を無理に受けたツケで命を懸けなくてはいけなくなった。


別に家に頭下げれば済んだ話、だがどうしようもない俺の根っこのようなところでソレを拒否した。


これはただの自暴自棄だ、後は暴れて泣きわめいて腕を振り回してあたりゃあ、それで儲けもん。


ないない尽くしの凡人以下の、レベルが上がらないクソみたいな、冒険者と呼べないゴミクソだが、唯一ある異常、この一点だけは明確に俺と他人とを分ける神様の贈り物(汚物)


上着を脱ぎ棄て、可能な限り荷物から距離を取りながら意識を俺と目の前の獲物にだけ集中する。


「――とびっきりの糞だ、喰らいやがれ――【悪神の恩寵(カルス・ニヒツ)】!」


瞬間、神の呪いが溢れた。


ここにくるまで、ずっと抑えていた。


反動が物凄いことになるから絶対に普段からはやらないが、半日ぐらいなら気力でどうにかダンジョンの中という何故かこの呪いが反応する異空間の中でも抑える、抗うことができる。


更に、自重を無くし一切の枷をその呪いからは外す、自分で絞ることもなく、寧ろ全力で呪いを排出する様に体から溢れさせる。


――体から黒い線どころではなく濁流ともいえる程の黒い闇が溢れ出す。


宛ら暗黒の海がその場に現れたのではないかと錯覚するほどの濃密で深く巨大な呪いの塊。


突然の事に反射で能力を使いながら逃げようとしたインビジブルモンスターの群れだが、使ったところで逃げられるものではなく、あっという間に闇にのまれた。


俺自身も、感覚でしか伝わらないが、恐らくこれは俺自身にも影響を及ぼすものだ、何かしらのデメリットが付くだろう。


――そう思ったのだが、不思議とそうはならなかった。


元々これは使い勝手のいい加護じゃなく呪いだ。


前に使った際は、明確に手酷い後遺症を引いたし、ヤバい被害を起こした。


だからこそこれは使いたくなかったのだが、闇は俺の体を離れ、ダンジョンをまるで犯すように辺りを黒い沼地のように覆った後――まるで満足したかのように俺の体に帰ってきた。


「――え、ちょ、まっ―――――!」


まるで溺れるという錯覚――いや、錯覚じゃなかったのかもしれない。


呪いに溺れるという呪症間違いなし、過去トップクラスのデメリットを負うという覚悟の元行われた俺の自爆行為は何故か俺自身には影響を及ぼさずに済んだ。


最もそれに気づいたのは闇に飲まれて溺れて意識を失い、目を覚まし、周りに同じ様にまるで死んでいるのではないかと思うほど何も身動きをしなくなった――この世と縁遠くなったと思うぐらい無反応のぶっさいくなカエルの様な面をした兎っぽい生き物――ドモモを一匹、鉄の捕獲籠の中に入れて上着を着なおして、帰還の腕輪を回収しようと触ろうとした所粉々に破裂して胡散した為ため息をついて――まるで辺りの神秘を全て()()()()()()()()()様なこの惨状を見て、ふらつく体に鞭打って、何故かモンスターの気配が()()()()()()()()()このダンジョンの状況に気づくことなく、鉄籠を抱えてダンジョンを後にした。




「――まぁ、その後依頼主様にはドモモを渡したがこんなのドモモじゃない、姿を隠さないし神秘の欠片も感じないし第一にまるで死んでるみたいだとごねられたがギルドに嘘看破使ってもらって鑑定も使って不良品ドモモを引き取ってもらってまぁ・・・金は貰えたんで何とかなったんだけどね」



そういうと元春が得心いったというようにポテトをこちらに向けながら。



「あーそれでギルドには評価がガタガタに下がった、と」


「ん」



ずずず、とジュースを啜りながら思い返す。


依頼主とは揉めるわグレーゾーンギリギリな手段でグレーゾーン気味なクエストの捕獲依頼で問題を起こすわで一時期は普通のクエストがほぼ全部挿し止められた。


何とかギルドの奉仕クエスト――通称カルマクエストを行う羽目になった。


二束三文な上にキツイ。おまけに俺は弱いし装備は呪いでほぼ全部駄目になるわでほんとヤバかった。



「ま、こんな感じで俺の初めての()()は惨敗だった訳で。結局、いろいろな意味で得たものも失ったものもあったけどいい経験にはなったのがせめてもの救いだな」


「教訓?それってどんな?」


「準備しないと死ぬから死ぬ気で準備する事」


「そ・・・ふーん、大変だったね」


「そそそ、だったのよ、だからここ奢って」


「えー・・・」


「恥みてーなもんを喋ったんだし現役冒険者の英雄譚(サーガ)だぜ、だから報酬。ほらはよ」



ため息を吐きながらポケットからお釣りの五百円玉を投げてくるのをキャッチしながらこの日常を楽しんでいた。


将来の事なんて分からないけど今ちょっと楽しいから、漸く、俺が俺として生きている気がするから。


差しあたっては、明日の日銭。


さて、どんなクエストを受けようかな?





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