閑話 初めての冒険2
「ただ、そのまんまダンジョンに向かっても金を稼ぐにゃ俺のチカラじゃ元パーティーの奴等がギルドに提示した賠償金を完済するなんざ土台無理な話だからな」
「完済?借金でもなんでも、もうちょい引き延ばして時間を貰ってコツコツ返すとか、やり方はあったんじゃないのか?」
「当時の俺は高校生で、大学に入って家を出る為に動いてる真っ最中だったんだよ、親になんて頼ってみろ!心配だからとか借金あるのに更に大学にとか何とか言われるに決まってる!・・・親に知られずに近場のダンジョンに潜るのが最適解だと思ったんだよ」
「ふーん」
実際俺を育ててくれたあの人達は心配性だし俺を自分の子供だと思ってくれてるから、心配をかけさせない為にも俺の為にも養子である俺を疎ましく思っている妹の為にも家を出たかったからそのための手段が失われるのは避けたかった。
・・・実家が神社で、巫女である妹がいるから実子でない俺は家的には邪魔だ。
それに妹も、子供の頃はあんなにも慕ってくれていたのに、成長するに連れて両親と同じ様な雰囲気を感じるようになったし、会話も少なく、よそよそしくなったから。
「で?金の良いクエストはあったの?」
「あ、ああ。運が良い事にな」
妹の事を思い出していて、元春との会話のレスポンスが遅れたのを誤魔化す様にジュースを口に含み喉を潤すと、当時のあのクエストを思い返した。
「確か『インビジブルモンスターの捕獲依頼』だったな、アレ・・・いやー悪い事したよ、ホント。あれで大分ギルドからの評判が更に下がってさ、ギルドポイントがマイナスになりかけたぜ、お陰で今も苦労してるんだが・・・金は手に入ったからさ、うん」
「はぁ?」
「いやぁあはははは・・・」
いや本当に運が良かったんだよあのクエストは。
本来はまだ俺が挑めるレベルじゃないインビジブルモンスターの依頼。ギルドへの指名依頼分の手間賃をケチったのかそれとも他の事情があったのか、常時依頼のクエストボードサイトにその依頼があって、額が中途半端だから適正レベルにはやや旨くない話で格下はそもそもそのモンスターを捕獲できない。
そんなだから誰でもそれを持ってくれば金を受け取れる、冒険者ランク関係なしの依頼だから俺も受けれた。
そして、依頼の文が簡潔で、インビジブルモンスター『ドモモ』一匹の捕獲。だったのも良かった、というかこれが一番助かった。
この依頼の書き方が俺が無茶なダンジョンアタックの一歩を進ませたと言っても良かった。
「いやだから!一体何が助かったんだよ!それの!!」
「うおっ吃驚した。まぁ、ちょっと待てよ、話は最後まで聞けって。そんなに俺話すのが上手くないんだからさ」
えーと、先ず俺はそのクエストを発見して、サブジョブを【錬金術】にする為にサポセンに向かって、それからインビジブルモンスタードモモ捕獲の為の麻酔薬?っつーか痺れ薬っつーかを作って、それから・・・
ああそうだ。
ダンジョンに何の策も無く、何の情報も無く、ただ無為に挑んで・・・ボコボコにされたんだっけ。
「・・・っく・・・」
ダンジョン名『姿なきモノの草原』
ダンジョンの中には国が管理しているモノとそうでないモノがある。
大体のダンジョンは管理されているが、そうでない不明なものも多く世の中に蔓延っている。
ダンジョンと聞いてパッとイメージするのは後者の自然発生するダンジョンだが、未だに多くの謎が解明されていないダンジョンだ、ダンジョンコアと呼ばれる核であるモノを排除すれば周りから神秘を吸収する機能が失われる事は分かっているがそれぐらいのもんだ。
そして前者の管理されているダンジョンというのは結界で神秘の取り込みが制限されていて尚且つコアが破壊されていないという事である。
その他に管理というだけあって一種の安全装置のようなものもある、神様の力ありきのものだが。
俺の潜ったこのダンジョンは市の管理してるダンジョンで、その安全装置として貸し出されたのがこの腕輪だ。
貸し出された腕輪にはタイマーで時間が表示されていてカウントダウンされている、この時間がゼロになった時まるでゲームみたいに元の場所に戻される。
それこそ、死んでいようと生きていようと。契約した本人なら。
この場合俺は広間のホールだろうか?管理してる関係上ダンジョンの入り口に建物を建てる訳だから必然的に戻るなら室内だ。
「はい、それじゃあ冒険者さん・・・ソロ?まぁ、死なない様に気を付けて安全マージンだけはしっかりとってね、それじゃあ契約の時間は?」
「五時間で」
「はいはい、この時計は絶対無くさない様にね。これをつけてる契約した本人だけが戻れるからね、よくいるんだよね勘違いしてパーティーメンバーでバラバラに付けちゃって戻り損ねる人達」
「・・・ソロなんで関係ないっすよ」
「ああ、ああ。悪かったね、マナーが悪い人達が悪くってね、注意しなくちゃあいけなくてね・・・これも規則、規則のうちなんでね、すいませんがね」
「いえ、構いませんよ・・・」
「大体一時間前には戻り始める準備をした方がいいので気を付けて下さいね、あくまでも安全装置なので自分で帰りたいなと思ったら普通にダンジョンから自力で帰らないといけないですからね、転移系統のモンでも使えない限りは辛いと思うのでね、特にお一人でダンジョンに潜るならお気をつけて・・・」
「はい、ありがとうございました」
・・・なんて忠告されたっつーのに残りは一時間、もう既に草原近くの森に入ってからかなり時間が経っている。
隠れながらダンジョンに入っている所為か全然見当たらない。
それもその筈で、インビジブルモンスターの厄介な点というのが正にそれなのだ。
姿が見当たらず気付く事もなく攻撃される。
探知できる程の力量がない者は容赦なく狩られる事から別名を『下位殺し』何かしら特攻出来る力がないと
負けは必至の相手である。
それに『ドモモ』は群れを作って行動するモンスター、上手く一体で透明でないモンスターを見つける事が出来れば良かったのだが、これではじり貧だ。
これ以上森の奧に進めば余計なモンスターが出て来るし、ここは余り力のないモンスターの中でも良く木の実なんかを主食にするモンスターの生活圏内で見張るのも限界が近い。
何故なら俺の安全の為にギルドで買ったモンスター除けの魔法護符ももうないからだ。
対策としての先行投資とはいえ、金を稼ぐために金を使わざるを得ないのは厳しいものがある・・・。
「後の残りの手持ちは、手製の痺れ薬を仕込んだ木の実と余った痺れ薬と失敗して出来た毒。捕獲用の檻とそれに幾つかのモンスターの素材や森で手に入れたダンジョンの資源ぐらいか」
(役に立つのはあらかじめ準備してきた痺れ薬ぐらいだが・・・)
「キョォォ」
「!?」
咄嗟に身を屈めて辺りを見回すと風が吹いている訳でもないのに揺れている木の実を発見した。
あそこの辺りは俺が予め痺れ薬を仕込んだもんだが・・・食うか!?
ジッと見ていると、風が一際強く吹き、いやより正確に言うと風の鎌の様な魔法が小さく一部分の枝ごと切り落とされた。
他にも五、六ケ所の俺が仕掛けた罠が切り落とされていく。
「・・・え?魔法使えたの?君等」
冒険者として閲覧出来る様になったギルドの情報には姿の消す魔法は先天性の所謂才能みたいな魔法が体に常時かかっているとは知っていたが流石に詳しく餌をとる際の取るに足らない風魔法の様なものまでは載せていなかったのだろう、それに事実としてレベルアップして神秘に適応?と言えばいいのか成長している奴にとってはそよ風程度なのだろう、小枝を切り飛ばす程度。
・・・だが。
(俺にはそれぐらいがピンチなんだよぉぉぉーーッ!!)
情報不足に準備不足、資金不足に武力不足、ちゃんと調べてないから一歩抜け、罠なんて簡単に看破されてそもそも捕まえる事も出来ない、おまけに・・・
風魔法が使えるという事は風に乗せた匂いも分かるだろう、痺れ薬に混ぜた甘い匂い、良く食いつくかな?と思って市販でも売ってる対捕獲用の薬品を混ぜ込んだのが不味かった。
そもそもがダンジョンに生息している身に生まれながらに神秘を宿した生物。
自分たちの縄張りを犯した存在の匂いがする。
――俺からも匂ってる筈だ。モンスターなら、嗅ぎ取っている筈だ
(マズイ————感じ取られた!!)
そう思った時には遅く、体に鈍い衝撃、弾ける様な風の荒々しさを感じながら横っ腹に痛みを伴いながら隠れててた茂みから弾き飛ばされ、先程まで彼らがいたであろう近くの果実が生っていた木々まで転がった。