閑話 初めての冒険1
「なぁ」
「んぁ?」
大学からの帰り、ファーストフード店でダラダラと過ごしていた時にスマホから顔を上げて不意に思いついたように元春が俺に話しかけてきた。
それに適当に返事をしてそれで?と無言で話の続きを促す、人気らしいソーシャルゲームから指を離し、顔を向ける。
「お前さ、ダンジョンで冒険者してるって言ってたよな。やっぱり初めての冒険ってキツイもんなの?」
「いんや?寧ろ楽だったかなぁ、浅井低級ダンジョンにしか行かないし、パーティーを組んで複数で行動する様に初めての奴等で組ませるようにするんだ、まぁ研修みたいなもんだったかな、俺の場合」
「へぇ」
「勿論初めての奴等が複数なんて事もそんなにはないからそういう場合にはギルド側からポイントを餌に同じ様なレベルの奴等で引率みたいな感じで最初の一回は色々な簡単な注意事項を交えて冒険してくれるもんらしいな、まぁ殆どは本に書かれてたりネットの冒険者の冒険で気を付ける事とか調べれば出て来る程度のもんだけどな。それでも聞くとやるのとじゃ大違いだが」
「それじゃお前は同じ様な初心者でパーティーを組んで潜った訳だけど引率の人っていたの?」
「ああ、いたよ。でも殆ど説明役みたいでダンジョンでは動かない人だったけど色々教えて貰えてよかったよモンスターの解体の仕方とか、売れそうな部位とか、そういった知識は知りたければどうすればいい、とか、ギルドの冒険者が利用できるシステムとか」
いなかったらかなり苦労していたと思う、男のソロの冒険者でその場限りの関係だからって適当に済ませずに色々便利な事を聞いた。
実際にスマホに入っているアプリの掲示板機能で依頼を受けれたり出来る事や【ジョブ】によるレベルアップでのステータスの上がり幅が違う事だったり、冒険者として必要な知識を教えてくれた。
「じゃあ、結構助かったんだな。その人とは今でも親交はあったりする?」
「あ、いや・・・」
少し気まずくなり俺はジュースのストローを加えると仕切り直しみたいに元春が別の会話を振って来た。
元々ただの暇つぶしの会話みたいなものだったから奴もそこまでは興味がなかったのだろう、俺が口ごもるとじゃあ、と言いながら別の話をして来た。
「パーティーメンバーとはどうなんだ?お前が今ソロなのは知ってるけど、当時のメンバーとは話をしたりくらいはすんだろ?綺麗な女の子とかさ、気になる奴はいなかったのか?」
「・・・いや・・・それも・・・その・・・」
「何だよ、お前よく俺の事大学デビュー野郎とかいうけどお前はクソコミュ障じゃねぇか」
「そういうんじゃねぇよ。クソ、呪いの事がなきゃあ・・・・・・・・・」
やけにやれやれ、とでも言いたげに肩を竦めながら此方を煽る元春にイラつきながらも、自身の悪神の恩寵という呪いについて思い毒づく。
「呪い?」
「ああ、話したろ?俺の呪いの事だよ、偶に持ったもんが壊れる奴だ」
「それの何処が関係してんだよ、大切なモンでも壊したのか?」
「・・・それがどうもそれだけの呪いでもなさそうでさ、どうやら俺とパーティーを組んで行ったら一緒に倒したモンスターが死んだと思ったら俺の呪いの発動対象に入っちまうみたいで何故だか結構な確率で黒く飲まれて消えちまうんだ、それにレベルもなんだか上がらないらしい」
「・・・割と致命傷じゃね?っていうか、レベルが上がらない?」
「ああ、パーティーもそれが原因で解消までいっちまってなぁ・・・討伐対象の指定部位の剥ぎ取りも出来なきゃ貴重なモノだって消えちまう事もあるし、俺がいない時に他のパーティーで冒険にいったらしいんだが、その時にはレベルが上がってたのあって、厄介者扱いされて、もう・・・後はお察しってもんだ」
「うひゃあ・・・そんなんでよくまだ続けられるな。俺ならもう冒険者やめるわ・・・」
「学費も事もあるし金が欲しかったからな・・・(登録料が高かったし)何でレベルが上がんねぇのかなんてのは俺だって知らないしさ、俺の呪いの事はメンバーには話をしたけどさ、レベル云々については色々言われたよ・・・そこまで知らなかったって言っても、もう俺が関係してる事は明確だったし信じてもらえなかったしな。・・・色々悔しくて、その後はソロで無茶したなぁ」
「無茶?」
「ああ、レベルが上がらないのは俺の呪いが関係してるのか?と思って兎に角モンスターを倒しまくってさ、レベルが2にあがると自分の才能の方向性が少しは分かるって話だったからさ、ダンジョンを初心者用とはいえ中層辺りまでいったりなぁ・・・いや、ホント死にかけたよ、思えば、アレが俺の初めての冒険って感じだったな・・・それまでは、何というか金稼ぎの為に浅い所でパーティー組んで冒険者生活!ってかんがえてたからさ・・・」
「ちょっとアレだがその話興味あるな、お前が死にかけたお前にとっての初めての冒険の話」
――そうだな・・・あれは――
「・・・クソ、クソッ!」
思わず悪態を突いて自分の感情を発露する。
そうしても何も変わらないのは知ってはいたがそうでもしないととてもではないがやってはいられないからだ、根本的な原因はこの悪神の恩寵の呪いなのだが、直接的な原因は仲間だと思っていたパーティーメンバーから吐き捨てる様に言われた言葉だった。
「お前は俺達に隠し事をしてたんだろう?俺達だって信じたくなかったさ・・・けど、実際に俺達はお前といなければ普通にレベルが上がったんだ!!呪いの事だって、黙っていただろう!?お前の持ち物が消えるだけ?違うだろ!!みんなで苦労して倒したモンスターは消えるから、受けた依頼は達成できない!違約金だって発生する!消耗した武器や武具の手入れだって金がかかる!」
「おまけにレベルが上がらない!?その為だけにダンジョンに入る奴だっているんだぞ!!お前は俺達仲間を何だと思ってるんだ!!・・・これまでの時間も、金も全部お前の所為で無駄だ!無駄になった!!負債は払ってもらうぞ!!・・・何だよ、お前【呪い持ち】なんだろ!!」
【呪い持ち】、何度も呼ばれて来たそれは、一種の差別用語だ。
この神秘の蔓延る世界で、不名誉なスキル、呪い、ステータスなんかを持つ者はそれなりの数がいるが、その中でもただ何のメリットもなくただデメリットだけを持つとしか言えず、自分だけでなく他人にさえ及ぼす程のデメリットを持つものはそう呼ばれる事がおおい。
ただ存在するだけで周囲に不幸を招き、過去にそんな者達が凶悪な犯罪等に加担してきたことから世間に対する風当たりは酷く冷たい・・・環境がそんな犯罪者を作ったかどうかは、別として。
俺は明確に今までそういわれた事はなかったが、成程俺の呪いはダンジョンの中では最悪と言っていいものだろう、だが俺にとっては悪意をもって行ったことではないし生まれつきで、知らなかった。
だが知らないという事は免罪符にはなり得ない。
叫ばれた場所も悪かった。
場所はギルドの広間、冒険者が配当なんかで揉めるのはよくある話しだが事【呪い持ち】に関しては別だ、不利益だったりする話には日本人は目ざとい、冒険者なら特に。
結果として俺は諦めと憤り、そして失望の眼をパーティー申請の取りやめとそれに関する賠償を求める話をギルドの受付嬢に詰め寄り、いかに俺が悪辣非道であったか、自分達がどんな被害にあったかを誇張して話をする元仲間に向けた。
俺に呪いがある事は確かで、ギルドに登録したステータスにもそう載っている以上、強くは出れず、またこれ以上公にすると俺がギルドに居られなくなる可能性まであったので、賠償を払う事になった。
金がいる、仲間がいない、糞みたいな呪いとステータスしか残っていない俺は、必死に頭を絞り、出来得る限り準備をして初級のダンジョンの中でも討伐による稼ぎが大きいが危険度があるダンジョンに目を付けた。
賠償をする、つまりこれから手に入るものは自分の物ではない、という事を利用する事で呪いを避ける事が出来ると知ったのもこの時だった、これは不幸中の幸いだった、それがなければ俺は真っ当に稼ぐ事等無理だっただろうから。
呪いが発動しない条件がある、抜け道の事について知れたのは大きかった。
クエストも利用して錬金術のサブも取る事を考えたのもこの時だった。
自作する事で劣化するが、市販よりは安くアイテムを作る事ができるのは今後の大きな指針にもなったからだ。
――兎も角、俺は自作したアイテムと安価な武器と防具でダンジョンに向かった。