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ラテリアちゃんはチュートリアルちゅう?  作者: 篠原 篠
ドールマスター
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19


「それじゃ、行ってくるよ」


 イトナくんはいつもの様子で言った。

 まるで散歩にでも行ってくるかのように。


「はい。私の分までお願いしますね」

「うん」


 これからイトナくんは七大クエストに挑戦しにいく。それなのに緊張のきの字もない落ち着いた様子。

 やっぱりイトナくんなら簡単に攻略してきちゃうのだろうか。

 少し前にソロで挑戦して、セイナさんに怒られたって話を聞いたけど、今回は違う。

 最強パーティだ。

 イトナくんと、ニアさん。あと大っ嫌いだけどあの変態勇者もいる。

 ペンタグラムが3人。

 最強の剣に、最強の盾。そして最強のイトナくん。

 それに加えて小梅ちゃんとサダルメリクの主力メンバーが2人。

 そんなパーティが負けるところなんて想像もつかない。

 きっと、今日の夜にはリエゾン誌号外が撒かれるに違いないだろう。

 あ、でもスカイアイランドでは同じような過信で、勇者パーティが簡単にやられてしまったことを思い出した。

 ちょっと心配かもしれない。


「ラテリアもどこかクエストに行くんだっけ?」

「はい。今のステータスに早く慣れないといけませんので」


 そう。ついこの前、イトナくんとセイナさんがラテリアのステータスを敏捷型か、防御型かで言い争って保留となったものの、スカイアイランドの戦闘で保留にしていたステータスを全部敏捷に振ってしまったのだ。


 そのおかげで、セイナさんとディアを元に戻す事ができたし、後悔はしていない。けど、やっぱりしっくりこなかった。


 スカイアイランドでの戦闘の時は無我夢中で、速くなった自分のスピードについていけていたのだけど、あれ以降、どうも調子が悪い。

 敏捷を急激に上げると、体が動くスピードが速すぎて、思考が追いつかなくなる。

 フィーニスアイランドでは有名な話で、ラテリアも知っていたが、事実そうだった。


 この敏捷型ステータスはイトナくんの勧めたもの。だからきっと、特訓して慣れればスカイアイランドの時みたいに上手く使いこなせるはずだ。


 セイナさんにも、ステータスのことを話したら眉をひそめられちゃったけど、怒られはしなかった。

 むしろ敏捷型を選んだのなら、攻撃を避ける練習を頑張りなさいと、少しアドバイスを貰った。

 セイナさんはNPCなのに、いろいろと詳しい。不思議だ。


 そんなこんなで、今日のラテリアはやる気に満ちている。よくわからないけど、やる気が溢れてくるのだ。えいえいおーって感じだ。


「じゃあ、お互い頑張ろうか」

「はい!」


 いつか。

 ちょっと難しいかもしれないけど、ラテリアも七大クエストの攻略に参加できるようになりたいなー。なんて、出て行くイトナくんの背中を見て思う。


 それも日々の努力次第だ。

 少なくとも数値は裏切らない。ゲームだから頑張れば頑張るだけ数値が上がって行くものだ。頑張ろう。


「よーし!」


 気合いを入れて、ラテリアも準備する。

 準備といってもなにもないのだけど、イトナくんがいつもやってることだがら真似てみる。


 まずは自分のインベントリを開いて眺める。

 装備品以外はほとんど入っていない寂しいインベントリ。そのおかげで、確認もなにもない。準備をしたくても準備をするためのお金がないのだからしょうがない。


「……あ、アイテムがなくても大丈夫そうなクエストを選べば大丈夫、だよね?」


 とてもLv.78のプレイヤーには見えないインベントリ。

 もしかして、レベルを上げるよりも、お金の問題を解決する方が優先なのでは? と思ってしまう。


 でも、今日はそんな気分ではない。

 一日でも早く強くなりたい。そんな気分なのだ。


「ラテリア」


 後ろから呼ばれる。セイナさんだ。


「イトナは行った?」

「はい。今さっき」

「そう」


 イトナくんとセイナさんはまだ喧嘩中? というとちょっと違うけど、セイナさんが顔を合わせないようにしている。

 まだ、キスの事を気にしているのだろうか。気にするよね。ラテリアだったらファーストキスは一生忘れない自信があるもん。


「ラテリアもどこか行くの?」

「はい。ちょこっとクエストに」

「そう。じゃ、これ持って行きなさい」


 そう言って机に置いたのはたくさんの回復薬だった。


「どうせなにも持ってないんでしょう」


 セイナさんはラテリアのことなんてお見通しだった。まるでお母さんみたいだ。

 前に、セイナさんはお母さんみたいです、なんて言ってみたことがあったけど、その時は「こんな出来の悪い娘はいらない」なんて言われてしまった。頑張って出来のいい娘にならないと。


「ありがとうございます……」


 申し訳ない気持ちで、素直に受け取っておく。最高級の回復薬が20個。今のラテリアではとても買える代物ではない。

 でも、これで準備万端だ。


「では、行ってきます」

「ん」


 素っ気ないようで、ちょっと笑みを含んだ返事をセイナさんからもらって、ラテリアは集会所に向かった。



÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷



 集会所はいつものように混み合っていた。

 そんな中、ラテリアは人の少ないSランクボードの前にいた。


 ボードに貼られているクエストは三つ。

 適正Lv.200、175、100のクエストだ。

 当然、Lv.150のクエストがない。イトナくん達が攻略中だ。


 それを確認して、ラテリアも自分のクエストを探すことにする。


「えーっと……」


 ラテリアの移動したボードはBランクのクエストボード。

 ラテリアレベルを見れば適正のクエストランクである。

 もちろん、ラテリアと同等のレベルのプレイヤー6人パーティ前提での適正だが。


 ラテリア一人でとなると、もうツーランク下げないと難しいかもしれない。

 Dランクが妥当。そう分かっていても、なんとなくラテリアはB級のクエストボードを眺めていた。


 周りでは既にパーティを組んだ人達がアレがいいコレがいいと楽し気な声が聞こえてくる。

 クエストは基本的にパーティを組んで挑戦するのが普通だ。


 ソロでLv.20〜30適正のDランククエストをクリアしても、Lv.78のラテリアにはあまり旨味はない。

 やっぱりなんとしてでもBランククエストに挑戦したいけど……うーん。


 パーティどうしようと考えながら、ボードを眺めていると、一つのクエストに目が止まった。

 クエストの報酬が600万リム。6人で挑戦して、山分けすれば1人100万リムの計算。Bランククエストにしては中々の報酬だ。


 よし。これにしよう。

 お金の解決もできるし、Bランククエスト。

 パーティはクエストを取ってから考えればいい。クエストは早い者勝ちだ。

 そう思って手を伸ばすと。


「あ」

「あ」


 別の方向から手が伸びてきて、お互い伸ばした手がピクンとして止まった。

 伸びた腕を辿って、プレイヤーを見つけると、そこには小さな女の子がいた。

 女の子である事にちょっとホッとする。


 そのプレイヤーはラテリアよりも背が低い。 金髪のポニーテールをリボンで結んだその女の子。歳も下だと思う。


「あの、これ受けるんですか」

「え?」


 驚くほど不機嫌そうに女の子が言った。

 ぶすっとした少女がラテリアを見ている。


 集会所は揉め事が多い。早い者勝ちだがら今回みたいに同時になってしまうとどうしてもギスギスしてしまう。

 しかし、ここは譲るべきだろう。争い事が苦手なのもあるけど、ラテリアはパーティを組んでいない。クエストを受けても挑戦できない可能性が高い。


「パーティまだ作れていないのでどうぞ……」

「そうですか」


 女の子はそれを聞くとパッとクエストボードから依頼書を剥がしてしまう。

 ラテリアはそれを眺めるしかない。


 はぁ、いいクエストだったのになぁ。

 ちょっとガッカリする。

 やっぱりパーティを先に集めないと難しい。でも、パーティを1から集めたことなんて一度もない。パレンテに入る前はずっと誘われていたから。

 ならどこかのパーティにお邪魔できたらと思うも、今のラテリアのフレンドリストは寂しい事になっている。セイナさんに消して貰ったおかげで。

 どうしよう……。


「あの……あの!」

「え?」


 その声がラテリアに向けられたものだと気づいて振り向くと、さっきの女の子がいた。


「もしよかったらこのクエスト一緒に行きます?」

「いいんですか?」

「私もパーティまだ揃えてなかったので」


 どうやら女の子もラテリアと同じ状況だったようだ。


「是非、お願いします」


 素直にお言葉に甘える事にした。



÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷



「ノノアちゃんって言うんだ。よろしくね」


 集会所を離れ、お互い自己紹介を済ませる。

 野良で女の子と、しかも可愛くて歳下の子と同じパーティになれるなんて、今日はなんだかついている。


 これからノノアちゃんの案内で、上級プレイヤーが集まる酒場に行く事になっている。なんでも、その場所はギルドや友達の不在の人がパーティを作るための溜まり場になっているらしい。

 そう簡単に説明された。


「はい。あの、今はいいですけど、酒場の中ではちゃん付けするのやめて下さい」

「え、なんでですか?」

「舐められるからです」


 ノノアちゃんは真面目な顔で言った。


「一応、それなりの人が集まる場所ですので、私のような小さい人は無条件に弱いと思われるんです。女2人でちゃん付けで呼んでいれば尚更です。集まるメンバーも集まりません」

「そう、なんですか?」

「そんなんです」


 ノノアちゃんはしっかりとしていた。自信を持ってハキハキ話しているから余計そう思うのかもしれない。

 ちょっとセイナさんみたいだ。

 もしかして小さくて可愛いけど実はラテリアよりも年上だったりして? アーニャさんも小さいし、見た目で判断するのはいけないのかもしれない。


「あの、ノノアちゃんっておいくつなのかな?」


 その質問に、あからさまな嫌な顔をされた。


「……12、ですけど。なにか問題が?」

「え、いえ。ノノアちゃんしっかりしてるから、もしかしたら歳上だったかなーなんて! 歳上だったら、ちゃんは失礼かなって。あ、私は14歳です」

「そうですか。ならいいですけど」


 なにか気に触ることを聞いてしまったのだろうか。少し不安になったけど、今度は少し機嫌がよくなった気がした。


「ですので、もしよければ対話はラテリアさんにお願いしたいです」

「対話ですか?」

「はい。報酬の分け方はもちろん、こちらの求めているクラスとレベル等。細かな事は話して決めないといけないので。歳が上のラテリアさんの方が私より舐められないと思いますし、顔も可愛いのでよく釣れると思います」

「釣れるって……」


 小さい女の子なのに凄いことを言う。ギャップだろうか。なんかベテランさんみたいだ。

 しかし、どうしよう。対話なんて上手くできるだろうか。やっぱり相手は男の人になるのだろうか。知らない男の人と……。不安だ。


「あらかじめ簡単なところは決めておきましょう。ラテリアさんは後衛ですよね?」

「はい。支援といいますか、援護といいますか」


 改めて考えてみると、ラテリアのポジションはどこなのだろうか。前までは後衛で間違いなかったけど、敏捷を上げて攻撃をするようになった今、イトナくんと同じような遊撃のような位置にいるのかもしれない。

 支援と援護。間違ってはいないよね。


「私も同じです。後衛の魔法攻撃なので。では募集は前衛クラスですね」


 実際に対話をするのはラテリアだ。募集するのは前衛の人。うん。それくらいなら大丈夫。


「あと、大体のレベルも確認してもいいですか? 一番上の位の数字でも、四捨五入をした数字でもいいので」

「レベル、ですか?」


 ちょっとびくっとする。

 確かこのクエストの適正Lv.は80だった。

 ラテリアのレベルは78。どうしよう。ちょっと足りない。

 でも、マナー違反とは言わないくらいの範疇のはずだ。


「四捨五入で80……です」

「そうですか」


 四捨五入で誤魔化しつつ、ちょっとドキドキしながら言ってみたものの、ノノアちゃんは嫌な顔一つしなかった。よかった。


「私は切り捨てで100です」


 ふふんっと誇らしげに言った。少し胸を張ったようにも見えた。可愛い胸を。やっと子どもらしいところを見せてくれてなんだか嬉しい。やっぱりノノアちゃんは可愛い。


「わぁ。凄いですね」


 最近、周りに強い人ばかりがいたせいで感覚が狂っているけど、レベル三桁は素直に高い。しかも12歳でだ。可愛いくて強いなんてまるで小梅ちゃんみたいだ。


「このクエストくらいなら後衛火力は私だけで充分。ラテリアさんの支援も考えれば盤石ね。なら前衛は2人で十分でしょう」

「2人だけですか?」

「その方が1人の取り分が多くなるので」


 それはそうだ。6人よりも4人で割った方が多くなるに決まっている。


「なのでLv.90以上の前衛を2人探しましょう。これで大丈夫です」


 大丈夫なのだろうか。Lv.100以上の人が言うのだから大丈夫だとは思うけど。うーん。


 それからも細かな事を話して酒場に到着した。

 募集するのはLv.90以上の前衛2人。報酬は平等に山分け。

 もし、Lv.90より低い人や、報酬を多く寄越せとか、3人組以上で入りたいとか言われた時にお断りするのがラテリアの役目だ。

 お断りするのは苦手だ。でも、頑張ろう。

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