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ラテリアちゃんはチュートリアルちゅう?  作者: 篠原 篠
リトル・カレッジ
9/119

09

 物語に出てくるお姫様が住んでいそうな巨大なお城を見上げる。女の子の夢が詰まったようなこのお城がサダルメリクのギルドホールになる。


 よく間違われるが、サダルメリクのギルドホールはリベラのワープゲートに近くにあるけどリベラの中にあるわけではない。


 巨大過ぎるあの城を建てる土地がリベラに無く、半分はリベラの中に、もう半分はなんと街の外にある。


 街の外は安全地帯じゃない不安定な場所だが、サダルメリクと言う強大な力によって成り立っている。過去に嫌がらせで攻め入ったギルドが幾つかあったが、結果は言うまでもない。それが見せしめとなって今ではすっかりそんなギルドは無くなった。


 そんな広大な土地を使用したギルドホールは入り口の門を潜ってもお城にはまだたどり着かない。綺麗な芝生と花壇が並んだ前庭が広がっている。前庭だけでもパレンテのギルドホールの広さ数十倍はありそうだ。


 あまりにも広すぎる敷地の手入れをするのはかなりのお金がかかるだろう。その証拠に庭師と思われるメイド服を着たNPCが数人せっせと手入れをしている。

 前庭にちらほら見えるプレイヤーは当然、NPCも女の子。全てが女の子で塗り固められたこの空間に、自分が場違いな事に気づいたイトナは少しだけ怖気づいてしまう。


「今更だけどさ、サダメリのギルドホールって男子禁制じゃなかったけ?」


「そんなことないわよ。それは皆んなが勝手に言ってるだけ。先代も私もそんな決まり作った覚えないもの」


 ギルドホールの門を潜ってから歩く速度が激減したイトナを見兼ねて、ニアが腕を引っ張る。


「大丈夫。もし襲われたらちゃんと私が守ってあげるから」


 ワープゲートにいたカップルとは男女逆のセリフを言われながら広い庭を真っ直ぐ突っ切って、あっという間にギルドホールの中に入ってしまった。


 広々としたエントランスホールには光を灯していないのにキラキラ光る大きなシャンデリアがまず目に入り、下には黒い大理石が敷き詰められ、ハイソな雰囲気を際立てている。

 どこを見ても高級感が漂う内装は当然、木造のパレンテのギルドホールとは段違いだった。


 初めてこのギルドホールに入って、一番最初の感想は、改めて物凄くお金がかかってそう、だ。外から見ても相当だけど、中も想像以上。掃除とかの維持も考えると数十億リム……いや、百億はするんじゃないだろうか。


 お金をふんだんに使ったギルドホールを観察する暇もなく、肌で感じる程の視線がイトナに刺さる。


 ニアの入場で、エントランスホールにいた女の子達の視線が集まり、同時に本来いるはずの無い男の存在に注目がいったからだ。この中にさっきコロスコロス言ってた女の子達がいるのだろうか。


 女の子達の視線の嵐。いたたまれない環境に昨日のラテリアのように身体を小さくしていると、また腕を引っ張られる。


「私の部屋一番上だから」


 そうだよね。ダンジョンのボスモンスターが最深部にいるのと同じで、マスターのお部屋は最深部って決まってるよね……。


 痛いほど分かる視線から逃げるようにエントランスホールを直進して階段を目指す。


「ニアさんが連れている人って男の人?」


「え? 嘘、だってここ男子禁制だよね?」


「警察に通報した方がいいかな?」


 様々な声が周りから聴こえるけど。どれもイトナを歓迎する言葉では無い。中には犯罪者を見るような視線も感じられる。それが次第に強くなっていくのに合わせてイトナの歩くのが速くなった。


「あれ~? もしかして、もしかするとイトナくんじゃない?」


 エントランスホールから視線が届かない場所を求めて、階段を上がり二階に足を踏み込むと、今度はイトナの知っているプレイヤーに声を掛けられた。


「おはようございます。イトナ様」


「おはよう。ユピテル、小梅」


 これからクエストに行くのか、クエストの依頼書を片手に他のメンバーを引き連れている。そこにちょうど出くわしたらしい。


「えー。なになに? ニアちゃんイトナくんと手繋いじゃってなーに?」


  ほんわかしたした口調が特徴的なユピテルは、金の長髪と白いドレスを揺らしながら、興味深々に、イトナとニアを交互に見る。




挿絵(By みてみん)




「はぁ……」


 執拗に絡んでくるユピテルにとても面倒くさそうな態度を取るニア。

 そんなニアを見てか、ユピテルの隣にいる小柄のプレイヤー小梅ががユピテルのドレスを急かすように引っ張る。


「ユッピー様。ニア様がお困りです。それよりも早くクエストに行きましょう。小梅は少しでも早く伝説の剣を手に入れたいです!」


 メイド服で背中にゼンマイが取り付いている小梅はどこか興奮気味だった。その証拠にお尻から生えている尻尾? のコンセントをクルクルさせている。


 小梅は伝説という言葉と、金色が好きだ。


 どうやらこれから向かうクエストの報酬が 《伝説の剣》らしく、小梅の伝説好き魂がくすぐられたらしい。


「あっ、そうだ。ニアちゃんとイトナくんも一緒に行こうよー」


「む、先に言っておきますが伝説の剣は小梅のです。道中のアイテムはいりませんが」


 イトナくんとニアちゃんのパーティ参加けってーい! とパーティの加入申請を送ろうとするユピテル。小梅はその隣で、伝説の剣は譲らまいとクエストの依頼書を背中に隠す。


 クエストに誘われたかと思えば、クエストの分け前の話になり、ユピテルと小梅のペースでどんどん話が進んで行く。


「ちょっと! 勝手に話を進めないで、イトナくんはこれから私と話があるの。クエストは行かないの」


 盛り上がるユピテルをニアがぴしゃりと言うと、ユピテルが心底ガッカリする。


「えー。つまんなーい」


「小梅はそれでも構いません。早く行きましょう! 早く行かないと小梅の伝説の剣が無くなってしまいます!」


 早く行きたくて仕方ない小梅は、早く早くとユピテルの裾を引っ張る。


「朝から賑やかでいいね……サダルメリク」


 結局、ユピテルは小梅に引っ張られて離脱、イトナとニアは無事に四階にあるニアの自室に辿り着いた。

次回は0時投稿です。

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