13
その後。
ニアが自室から出てくる頃には通常運転に戻っていた。
無理矢理通常運転に見せているようにも見えたが、それも初めのうちだけだろう。
イトナが大浴場を出てから最初にニアを見た時、そう感じとれた。
でもその前に、ニアが大浴場から出てからなにかあったのか、イトナが大浴場が出た瞬間、取り押さえられた。血相を変えたユピテルとラヴィに。
「うちのニアになにしやがった!?」
「リアルはダメ! ゼッタイダメだから!」
と、訳のわからないことを言ってきた。
二人はえらくご立腹だった。二人がイトナとニアを風呂に入れたというのに。
事実、イトナはなにもやましい事をしていない。
先に出て行ったニアを見てなにを勘違いしたのかわからないが、取り敢えずは中での出来事をかいつまんで話した。
ニアがギルドマスターを続けると分かると、素直に喜んではくれたが、イトナへの疑いの目は消えない。
むしろ何かされた方はイトナの方だが、それを言って話をわざわざややこしくする事もないだろう。
ニアがいつも通りになった。
それでいいじゃないか。
それから遅れてラテリアとテトも到着した。ラテリアは大きく肩が上下していた。
急いで走ってきたのだろう。
テトはラテリアのログインに鉢合わせたようで、着いてきたとか。
パレンテに入るためにラテリアのご機嫌取り……でなくてもテトは来たか。テトはニアが好きだ。
残念なことにニアは何故かテトの事をあまり好きではないらしい。男のイトナから見ても、テトの顔立ちは整っていように思うが、ニアの好みとは違うようだ。
そんなニアはテトの気持ちを知ってか、付きまとってくると少し突き放すような事をよく言う。
でも、今日は何も言わなかった。手伝ってもらう立場だと、やっぱり嫌な顔はできないのだろう。
いや、何も言わなかったけど、嫌そうな顔はしていたか。
そんな感じでサダルメリクメンバー以外の戦争の当事者が揃って、会議室に招かれた。
立派な円卓のある会議室。それを見てラテリアとテトが「おぉー……」と声を漏らす。
それもそうか。なんたって会議室だけで広さはパレンテのギルドホール以上ある。
それに加えて円卓は綺麗に磨かれていて、隅々まで綺麗に掃除されていて、新築同然。
サダルメリク城は会議室に限らず、どこも一定の綺麗さを保っている。端に置かれてる観葉植物のセンスもいい。きっとNPCが優秀なのだろう。
もちろん、うちのNPCを悪く言っているわけではない。
パレンテホールがあまり綺麗に見えないのは素材の違で、決して汚いわけじゃない。
隠居中だからあまり立派なものは建てられないだけだ。
観葉植物だって負けてない。セイナが自主的に集めてくれる。回復薬に変わる観葉植物だけど。
でも最近は隠居の意味が薄れつつある。あまり目立たないようにするに越したことはないが、ラテリアが入って、色々問題が残っているけどテトも入るかもしれない。
テトが入ったらもう隠居の意味ないだろう。そうなったら少し立派なギルドホールに建て替えるか。
会議室にはニア、ユピテル、小梅、ラヴィ。それにイトナ、ラテリア、テトが揃った。
それぞれ適当な席に座る。
このような場は初めてなのか、ラテリアは少し緊張気味だった。
いつもよりピンと背筋を伸ばし、動きが少し硬い。
そんなラテリアを微笑ましく感じながら、周りを見渡す。
風香がいない。
それにそわそわしているのはニアとユピテルとラヴィだ。
まだニアは風香と仲直りしていないのだろうかと。
時折、話が違うじゃないかと言わんばかりの視線が二人から飛んでくる。
いやいや、ニアがギルドを抜けないって言っただけで風香の仲はまた別の話だ。
きっと、仲直りはしてないだろう。
だってお風呂に入ったのはついさっきのことだ。
それからこの時まで、大して時間があったわけでもない。
それでもこの会議に呼んだのか、ニアがさっきから出入り口をチラチラ見ている。
「どうかしたんですか?」
隣に座ったラテリアから小声で質問される。
皆の落ち着きが無く、なかなか始まらない会議に疑問を持ったのだろう。
「どうしたんだろうね」
それにイトナは知らないフリをした。
わざわざ話すことでもないだろう。サダルメリクの問題だ。それに大元の問題はもう解決している。
少しの時間を空けて、ニアがゆっくりと席を立つ。
「では……」
ニアの改まった声が発したと思った時、会議室のドアが開いた。
「すみません。遅れました」
現れたのは風香だった。
一斉に視線が風香に集まり、少しだけ緊張が走った。
ニアは真っ直ぐ風香を見ている。
ユピテルはニアと風香を交互に見比べ、
ラヴィは何故か手を合わせて祈っている。
小梅は……いつも通りだ。
ラテリアはよくわからない空気に首を傾げ、
テトは空気を読めてないのか普通だった。
風香はそれらに気を止めず、静かに空いている席に着いた。ニアの隣の席だ。
「風香」
風香だけに聴こえるように音量を絞ったか、ニアの声は小さかった。
でも、静まり返った会議室にニアの声は隅まで行き届いた。
「なんでしょう」
視線が集まる中、ニアは気まずそうにしていた。
イトナは二人がどんな形で仲違いしたのか知らない。
でも、普段仲がいい相手に改まって謝るのは気まずいというか、恥ずかしいというか、なんとも言いづらいものだ。
もっとも、ニアが謝る事でもない。謝るなら、ごめんで終わるが、今回はちょっと違う。
だからか、ニアは言葉に迷っているのかもしれない。
「……昨日言った事、取り消すわ。変なこと言ってごめん」
「そうですか……。私の方こそごめんなさい。余裕がなくて少しキツイ言い方になってしまいました」
二人は柔らかい笑みを浮かべる。
周りはあんなに騒いでいたのに呆気ないものである。
ギルドの崩壊は些細なことで起きる。
でも、それを繋ぎ止めるのもまた些細な一言のやりとりで済んだ。
そんな些細なことで立ち直ることができたのも、今まで築き上げてきたサダルメリクがあってこそなのだろう。
ユピテルとラヴィはその様子を見て安堵し、状況を知らないラテリアはまた首を逆に傾げ、テトは適当にうんうん頷いていた。
小梅は通常運転だ。
なにはともあれ一件落着。
これならサダルメリクはもう大丈夫だろう。
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サダルメリクの会議が始まった。
会議はイトナ達に対するお礼から始まった。
戦争を終わりにしてくれたお礼だ。
親しき仲にも礼儀あり。そんな感じである。
それから本題に入った。
「他のメンバーに何をしてもらうとか、NPC安全とか色々課題はあるんだけど、せっかくイトナくんたちが来てるから、そっちの話をするね」
そこでニアは一つの方針を提示した。
「ギルドホールの、サダルメリク城の建て直しは後回しにしようって考えてるの」
イトナとしては少し予想外だった。
今回の被害の殆どはサダルメリク城だと思っていたからだ。
他の被害を挙げるとするならNPCと、キルされたプレイヤーから一つずつ所持アイテムを失っているくらいか。
NPCはどうすることも出来ない。同じNPCを復活させる事は不可能。また別のNPCを雇うしかない。
所持アイテムは確率の問題だが、失った所持アイテムは対策さえしていれば、レアアイテムはまず取られないし、してなかったとしてもそうそうな確率だ。
とすれば、やはりギルドホールの建て直しがギルドメンバーのモチベーションを考えても優先だと思うが。
だがそれに反対意見をする人は無かった。
何か理由があるんでしょう? と言った感じだ。
ニアは話を続ける。
「みんな知っての通り、もうすぐグランド・フェスティバルが始まる。その準備を優先しようと思う」
成る程。
ギルドホールの建て直しはいつでもできる。グランド・フェスティバルは四年に一度。なら、その出場権に向けて準備を優先する考えはしっくり来る。
「だから……」
ニアはテトを見る。グランド・フェスティバルの出場権は三ギルド。
それは狭き門である。
サダルメリクと黎明の剣。お互いに強者であり、出場を目指す有力候補のギルド。
お互いに頑張ろうと言い合う事もあれど、ライバルを落とそうと争う事もあれど、手伝う事はあり得ない。
ましてギルドマスターならそうだろう。
全てを言わなくてもわかるだろうとニアは視線を送るが、テトはそれを正しく理解していないように見えた。
その顔は、ニアと目があってる。もしかして俺に気があるんじゃね? ぐらいにしか思ってなさそうな、おめでたい顔だ。
そんなテトを全員が頭お花畑すぎるだろとジト目を送るが、テトは気にも留めない。
「こほん。テト」
風香が咳払いをする。
「んあ?」
「あなたのギルドも出場を目指しているでしょう。そのギルドマスターがうちの手伝いをすると、ギルドメンバーからいい目で見られないのではないでしょうか」
風香が一から説明する。
「あ、あー……そうなのか?」
テトは振り返り、何故かイトナに聞いてきた。
「一応、黎明にとってサダメリはライバルだからね。ライバルギルドの手伝いをするなら、黎明のことをやった方がいいと思うけど」
でも黎明の剣の勇者パーティの面々はそうは思いそうにない。
この前だって、アイシャが「レベルが他の者に知れたところで強い方が勝つ」と豪語してパーティ全員のレベルを晒したくらいだし。
「そうか? お互いにベストを尽くせた方がいいだろ。ホワイトアイランドで強いギルドが三つ代表で出る。だって、そうじゃなきゃ本戦で勝てねぇじゃねぇか」
イベントの本質はそうだ。
どの島が一番強いか決めるイベント。
なら、全ギルドがベストを尽くした上で、上位三つのギルドを決定する事が、ホワイトアイランドにとっては最もいい。
だけど、実際はそんな単純じゃない。
出場を目指してるギルドはどこだって出場したいものだ。例えライバルギルドを蹴落としてでも。
全員が全員、テトのような考えを持っているわけではない。
「周りに変な風に思われたくないのよ。特に今の時期はね」
ホワイトアイランドは良くも悪くもリエゾンの存在で噂は瞬く間に広がってしまう。
事実はテトの善意で手伝っても、世間は色々裏を読んで変な噂が広まるのは目に見える。
今の時期、出場権の一つ、推薦枠を考えるならあまり悪い噂はない方がいいだろう。
裏で黎明に手伝ってもらっていたーなんて噂は推薦の影響に大きく響く。
と言うのは考えすぎか。
サダメリは昔から強かった。多少、他ギルドの援助があったところで、その強さは揺るがない。
別に弱いのを強く見せているわけではない。
援助があって、もっと強くなるわけだ。インチキでも偽りでもなく強くなる。
そう考えてみれば、テトの手伝いはそれ程影響は無いように見える。だって、推薦枠は単純に強いと思われるギルドに多くの票が集まるのだから。
「しかし、テトの協力は大きいですよ。ニア」
「そうだけど……」
風香の言葉にニアは渋る。
「んじゃ、俺が手伝わなかったことにすればいいじゃん」
「テトがそれでいいなら、いいけど……」
「大丈夫だと思うよ。前だって、デスタイラントやアダマントの素材を集めるのに勇者パーティとヴァルキュリアの混合パーティを結成した事もあるし、今更大きな話題にはならないんじゃないかな」
と言ってから、そもそも準備は何をするのかイトナは知らない事に気付いた。
勝手に元七大クエストのボスモンスターを挙げたが、それは城の建て直し資金調達の方法をイトナが勝手にそう考えていただけだ。
「テトが手伝ったって事になるとあまり意味ないんだけどな」
ニアは出場のための準備として何をするつもりなのだろうか。
イトナに手伝って貰いたいというと、やっぱり元七大クエストのボスモンスター討伐だとは思うけど。
「ごめん。手伝いって具体的になにをするんだっけ?」
いまいちニアの話が見えない。
予選の準備と言ったらレベリングか新装備の新調くらいしか思いつかない。
でも、それならテトが手伝ってもなんの問題も無いはず。
「うん、そうだよね。ちょっと話が前後しちゃったけど、この前の戦争でサダルメリクはコテンパンにやられた。って事になるじゃない? 実際は勝ってたみたいだけど?」
「そうだね」
「そうなると、推薦枠でうちが不利になると思うの。
もちろん、序列一位か、予選一位で決めるつもりだけど、念には念を、推薦枠でも選ばれるようにしたい。そのための準備をお願いしたいの」
つまり、ギルド単体で活躍をして、ホワイトアイランド民にサダルメリクの株を上げておきたいわけだ。
だから他ギルドのテトの手伝いは世には知られたくないと。イトナも他ギルドではあるが、テトと比べれば圧倒的に目立たないから問題に入れてないのだろう。
しかし、戦争で負けたことによる名誉の挽回をしたいとなると……。
「もしかして、ナナオ騎士団にやり返すとかじゃないよね」
「まさか。あんな面倒臭いギルドと関わりたくないわ。もっと別の、もっと凄いことよ」
もっと凄いこと。
なんだろう。ナナオ騎士団にやり返す以上の凄い事なんて思いつかない。
すると、ニアは一つのあるものを取り出す。
それはクエストの依頼書のように見えた。
ニアはそれを皆に見えるように広げる。
「具体的に手伝ってもらいたいのはこれ。七大クエスト、《白灰の魔女 トゥルーデ》の攻略よ」
白灰の魔女 トゥルーデの討伐。
それは未だ誰も成し遂げる事が出来なかった未開の地の攻略を意味している。
かつてのパレンテが攻略してきた七大クエスト。
パレンテのメンバーが卒業してから約四年。七大クエストの攻略は進展していない。
そんなクエストを攻略したとなれば、ゲーム攻略の最先端にサダルメリクがいる事を示す事ができる。
その影響は間違いなく大きいだろう。それこそ序列一位でなくても、予選の大会に出場しなくても、ほぼ確実に推薦で選ばれる程に。
S級クエストボードから一枚クエストを減らすことはそれ程大きい偉業と言える。
それを聞いて、テトと小梅は興奮して立ち上がり、ユピテルとラヴィは難しそうに依頼書を眺めた。
風香は特に驚きを見せていない。
「どうかな」
ニアが皆に問う。
「悪くないと思います。かつてのパレンテで攻略した最もレベルが高いボスはLv.130のデスタイラント。それを当時のパレンテはレベルは100から110の間に討伐しています。今のサダルメリクなら手が届くかもしれません」
風香が冷静にニアの提案を肯定した。
確かにレベルだけの差を見れば、前のパレンテは20以上差もあるボスモンスターの討伐に成功している。
数値で相手を選ぶ基準としては合っているだろう。
しかし、
それは比べてはいけない対象だ。
スペイド達がいた頃のパレンテは異常だった。
その基準で考えるのは危ない。
彼らのレベルはもちろんトップだったろう。
装備だって、理想に近い物を揃えていた。
だが、それ以上に、
彼らは上手すぎた。
数値にしてもなんにしても、〝強い〟のは確かだったが、イトナから見れば少し違う。正しいチュアンスは〝上手い〟だろう。
彼らは上手いのだ。もちろんニア達だって他のプレイヤーと比べれば上手い。テトも〝相手を最も知った状態での対人戦では〟最後、スペイドと互角にやり合っていた。
が、やっぱり彼らは別格だったのだ。
それに、ギルドの方針も大きく違った。
サダルメリクや黎明の剣は対人戦、主にギルド戦の勝利を目指して活動している。
もちろん、レベリングや、レアアイテムの収集などでダンジョンにはよく潜るが、それは基本的に適正レベルに準じたダンジョンだ。
それに比べて、パレンテは対人戦にはあまり興味はなかった。
ボス戦の挑戦権を争ってpvpをしたり、大きなイベントだからグランド・フェスティバルに参加してみたりはしていたが、活動の殆どがダンジョン攻略だったのは間違いない。
それも、自分達の適正より高いダンジョンに進んで挑んでいた。
つまり、ダンジョン攻略の経験でも大きく差があると言える。
「でもよ、そのデスタイラント……いや、その下のアダマントですらあたしらだけで討伐できてないよな」
ラヴィが不安そうに言う。
実績を見るとラヴィの言う通りである。
レベルの差を見れば、ヴァルキュリアの平均レベルを115として、Lv.120のデスタイラントの攻略に成功していない。
つまり、言い方を変えればレベル+5の七大クエストボスモンスターの攻略実績がないわけだ。
自身のレベルより実力がパレンテは+20、サダルメリクは+5より下。やっぱりパレンテと比べるのは難しい。
何度も言うが、サダルメリクが弱いわけではない。
黎明の剣だって、勇者パーティだけでデスタイラントの攻略実績はないし、ナナオ騎士団もLv.110のホワイトレックスでやっとだ。
そんなサダルメリクがトゥルーデに勝つためには、どうすればいいか。それはつまり、
「そこで、イトナくんにお願いなんだけど」
全員の視線が集まる。
イトナはトゥルーデとの戦闘経験がある。リセットの薬を作る時の素材で、ニアはその事を知ってトゥルーデの討伐をと思いついたのかもしれない。
「イトナくんに頼むのはずるいって分かってる。分かってるよ。未開地の、しかも七大クエストのボスモンスターの攻略情報提供と、その手伝いをお願いをしといて、手柄をサダルメリクに寄こせなんて。ありえないよね。でも……お願い、できないかな」
ニアの強い目線を受け止める。
普通に考えればありえない……と思うのが普通なのだろう。
自身の集めた情報を提供して、共闘して、倒したのはサダルメリクってことになる。
しかし、それはいつか訪れる事だ。
イトナはあまり興味のない事だ。むしろ、せっかくリエゾンに協力してもらって隠居しているのに、【イトナ復活! サダルメリクと協力してトゥルーデ攻略に成功!】なんて記事が出てきてみろ。面倒なことになるに決まっている。
理由があるならまだしも、進んで目立ちたくはない。
とすれば今後、サダルメリクや黎明の剣が強くなって、イトナと共にトゥルーデを討伐する事になった時、誰が倒した事にするか。
きっと、イトナではない事は確かだ。
なら、ニアは気にしなくてもいい。
「考えすぎだよニア。協力させてもらうよ」
「ありがとう」
それにそこはかとなくニアがホッとした顔をした。断られると思っていたのかもしれない。
「でも、討伐は難しいと思うよ」
イトナは正直に思ったことを付け加えておく。
無駄に期待させてもしょうがない。
「ここのメンバーでパーティを組んでも?」
「うーん」
イトナは前に一度だけトゥルーデと戦った。初見で削れたHPは40%程。
ソロで40%なら六人でやればと思うかもしれないが……。
「ここのメンバーでパーティを組むなら」
この場に揃ったメンバーを見る。
トゥルーデに挑めるのは1パーティのみ。この場にいる八人から二人あぶれてしまう計算になる。
しかし、本気で攻略を目指すなら、トゥルーデに対してベストな構成にしなければならない。
ホワイトアイランドのペンタグラムが三人も揃っている豪華メンバーではあるが……。
「僕、テト、小梅、ラヴィ、……風香、かな」
トゥルーデに有効と思うプレイヤーを順に言っていき、五人目で口をつむぐ。そして、六人目のメンバーの名を出さなかった。
名前を出さなかったメンバーでは足手まといだと判断したのだ。
その中に、レベルの低いラテリアはしょうがないとして、ニアとユピテル。サダルメリクのツートップが入っている。
それをニアも察したようだった。
「私が入らない理由を聞いてもいいかな」
ニアのポジションは特殊だ。
効率を考えたレベリングだと、少し扱いが困るクラス。
でも、強敵に挑むならニアの存在はかなり大きい。
回復スキルが無いこのゲームの回復手段は回復薬のみ。ニアがいればHPが減る機会が多く減り、安定感が増す。
トゥルーデは強敵だ。
ならニアの存在は大きいと思うのが普通だと思うが、奴はちょっと特殊だ。
「トゥルーデは魔法を食うんだ」
「魔法を、食う?」
「うん。あいつは魔法のスキルを食べるんだ。あまり検証はしなかったけど、魔法攻撃を食べると回復する。補助魔法も吸われて効果が魔女に移る」
それが理由だ。
ニアとユピテルとラテリアをパーティに入れなかったのは、彼女らのスキルは主に魔法である事。
攻撃でも補助でも、魔法スキルを使えばトゥルーデに有利を与えてしまうのは間違い無い。
ニアの場合、魔法で展開したシールドを食われて、魔女の防御力が上がるだろう。
ただでさえ高い物理防御力を持ったトゥルーデに、ニアのシールドを食われたら討伐はかなり困難になる。
「なる、ほど……」
ニアは考えるように手を口元に当てる。まさか自分が戦力外になるとは思ってもみなかったのだろう。
「トゥルーデの攻略は物理攻撃が要になる。だからやるとしたらテトと小梅をメインのアタッカー。ラヴィと風香はフォローの役割になると思う」
トゥルーデで住まうモノクロ樹海は足場がかなり不安定だ。慣れるのに時間がかかるし、慣れても咄嗟の攻撃に足を踏み外しかねない。その点、ラヴィと敏捷の高い風香は地形を有利に使えるだろう。
特にラヴィのラビットヒューマン特有の能力である空中を蹴って移動する〝兎跳〟は、あの地形でかなり有効だ。
しかし問題は六人目。
もしイトナが対トゥルーデ戦でドリームチームを作るなら、イトナ、テト、小梅、ガトウ、アクマ、ラヴィだろうか。
ホワイトアイランド物理特化パーティだ。
アクマを誘うのは論外として、ガトウならもしかしたら……。
「テト、ガトウって誘うことできるかな」
「あー、どうかな。あいつ頭固いところあるからなぁ。まぁ、誘ってみてーー」
「ちょ、ちょっと待って!」
テトが早速ガトウに念話するのをニアが慌てて止める。
「ねぇ、イトナくん。本当に私がいたら役立たずかな?」
改めて聞かれてもイトナの意見は変わらない。
イトナが困った顔をしても、ニアは諦めきれないようで、
「魔法を食べるんだよね? なら食べる動作があると思うんだけど、食べられる前に消せば問題ないんじゃ無いかな」
「それができれば、そうだけど……」
言うのは簡単だ。ニアの言う通り、スキルを使った瞬間効果を取られるわけじゃ無い。口を開けてスキルのエフェクトを中に取り込んで、初めてスキルを食べたことになる。
だけどリスクは高い。特にニアは相手の攻撃を全てブロックするように立ち回る。そうすれば、スキルを使う機会はかなり多くなるだろう。そのうちの一回でも失敗すれば面倒なことになる。
が、ニアの意見を尊重することにした。
メインで挑むのはあくまでもサダルメリク。マスターであるニアが頑張るのも道理か。
「わかった。ニアを入れたパーティで考えてみようか」
「ありがとう!」
これでトゥルーデに挑むパーティが決まった。




