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ラテリアちゃんはチュートリアルちゅう?  作者: 篠原 篠
ドールマスター
85/119

10

「ごめん。私、ギルドマスター辞めるね」


 ニアのその言葉で場を凍らせたのは昨日の話である。


 デスペナルティーが終わり、ログインしたヴァルキュリアの面々は安全地帯に用意された会議室に集まっていた。

 今後のサダルメリクの方針を決めるためだ。

 なのに、そこでの言葉の半分はニアの謝罪だった。


 ごめん。ごめんなさいと、思いつめたように、ニアらしく謝り続けた。

 ニア不在時のナナオ騎士団の戦争は相当(こた)えているように見えた。


 ギルドを抜けるつもりは無いようだが、責任を強く感じてしまっているらしい。

 ニアはサダルメリクの顔と言ってもいい。実際、ニアに憧れて加入してくれたメンバーも少なく無い。


 ギルドを抜けないにしても、ギルドマスターを辞めれば他のメンバーが不安になるのは間違いないだろう。

 ただでさえ城がこの有様で、ギルドが不安定なのに、ギルドのトップがこうではギルドそのものが半壊しかねない。


「ニアちゃんは悪く無いよ〜。ニアちゃんがマスターで頑張っていこうよー。ね〜?」


 と、あのユピテルがふざけないで、慌てながらも優しくニアを引き止めようとしているくらいだ。

 ラヴィはどう声を掛けていいか口を噤んだまま黙り込んでいる。

 小梅はこの場にいない。

 ヴァルキュリアメンバーではあるが、まだ幼すぎるためだ。


 表層に疲弊が浮かぶニアの顔は、この場の誰が見てもただ事でないことを察するに十分だった。


 きっと寝ないで悩んでいたのだろう。


 ニアの責任感、そしてこのサダルメリクに賭ける想いは誰よりも強い。

 最古参のプレイヤーでもある。

 マスターを辞める選択を取るなんてよっぽどだ。


 止めるユピテルの言葉をニアは頑なに拒んだ。


「風香〜。風香も何か言ってよ〜」


 自分ではどうにもならないと思ったユピテルは風香に助けを求める。

 だが、風香がニアに言った言葉はユピテルの求めているものでは無かった。


「それはサダルメリクのため?」


 それはきっとユピテルにではなく、ニアに言ったのだろう。


「え」


 抑揚の無い風香の声は少し残念そうにも聞こえる。

 それと同時に、誰にも砕くことのできないサダルメリクにヒビが入る音が聞こえた気がした。


 風香はこれでは会議をする意味がありませんと言い残して去ってしまった。


 なんで風香は弱っているニアにそんなことを言ったのだろう。

 ユピテルは戸惑いながらも、フォローを入れようと、ニアに振り返る。

 できるだけ明るく励まそうと開けた口は、涙を流すニアを見て固まった。


 長い間一緒にいて、初めて見るニアの涙だった。



÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷



「ヤバい〜〜! 絶対ヤバいやつだよ〜〜! ふえぇぇぇ〜ん」


 ニアがいなくなり、残されたユピテルはラヴィに泣きついた。

 いつもならウザいと突き放すラヴィだが、今日は難しい顔を作る。


「マジでヤバいかもしんねぇ」


「だよね!? だよねぇ〜!? サダルメリク一世一代の大ピンチだよ〜!」


 ラヴィの言葉にことの深刻さを再確認する。

 今まで大なり小なり問題が発生することはあった。

 大ギルド、多くのメンバーを抱えているのだから多くの問題が発生するのは当たり前。

 それを先代から上手くまとめてきて、今はニアと風香が上手くやってくれている。

 ユピテルとラヴィが首脳メンバーとして籍を置いているのは高学年でヴァルキュリアのメンバーだからに過ぎない。

 基本二人がなんとかしてくれていたのだ。


 今回はその二人で問題が起きてしまっている。

 つまり解決してくれる人がいない。

 由々しき事態だ。


「……もしこのままニアちゃんがマスター辞めちゃったらどうなると思う?」


「風香がギルドを抜けるかもしれない。そしたらニアも……ギルドが崩壊するかもしんねぇ」


 ギルドとは思っている以上に脆いものだ。

 一人がギルドを抜けると言えば、連鎖が起こる。

 誰々が抜けるなら私も抜けようかなと、

 次々と人が去っていき、気づけばギルドが無くなっている。

 そんな結末を迎えた上位ギルドを昔からよく見てきた。


 ギルドの繋がりより、個人の繋がりの方が強いのかもしれない。

 一人が抜ければ、繋がったメンバーも一緒に抜けていってしまうのだろう。


 でもサダルメリクなら大丈夫だと思っていた。

 卒業はあれど、ギルドを抜けるなんてそうない。

 それこそ、高学年のプレイヤーなら尚更だ。


 それが今回はニアと風香。二人が今の状況でギルドを抜けたらどうなるか。

 場所とトップを失ったギルドに残ってくれるメンバーがどれだけいるだろうか。


「な、なんとかしないと!」


 ユピテルが立ち上がる。


「そ、そうだな! あたし達がなんとかしないとな!」


「ど、どうしよう!?」


「そうだな。と、とりあえず小梅を呼ぶか!」


「小梅!? なんで小梅ー?」


 ユピテルは思う。今回小梅は戦力外だ。

 年齢が低いのもあるが、その年齢以上に精神年齢が低い。

 そんな小梅がニアの悩みを、または高学年の人間関係の修復をする案を出せるだろうか。


 否だ。


 小梅にそんな難しいことができるわけがない。


 が、この時の二人はテンパっていた。


「ほら、三人寄れば文殊の知恵って言うだろ。二人より多い方がいい。でも下手に高学年プレイヤーを混ぜれば情報が漏れて変な噂が流れるかもしんねぇ。その点小梅なら大丈夫だ!」


「た、確かに! 逆に私たちが難しく考え過ぎてて小梅なら案外いい案を出してくれるかも?」


「おお! それだ! それもあるかもしんねぇ!」


 お互いに言うことを正当化してみればみるほど、正しく思えてくる。


「よっしゃ! 小梅呼んでくる!」


 小梅を入れて脳筋超火力組でサダルメリク崩壊阻止作戦、第ニラウンドの開始である。



÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷




 ニアと風香の仲直り大作戦会議(仮)の第二ラウンドは開始する前から躓いていた。


 予想外の躓きである。


 それはサダルメリク城敷地内の安全地帯、その一角に建てられたコテージで起こった。


 安全地帯に建てられたコテージはNPCの寝泊まりに使用されている。

 サダルメリクの雇う半分ほどのNPCはここを使用していて、もう半分は自分の家を持っているとか。話によると、うちのお給金は中々いいらしい。


 そんなコテージに、サダルメリクが雇うNPCが集まっていた。


 本当は当分休みとニアが通達したのだが、皆んな来てしまったのだ。

 なにか手伝う事はありませんかと。


 しかし、今の状況でNPC達を安全地帯から出して手伝わせるわけにもいかない。

 NPC達はサダルメリクメンバーを信頼しているようだが、この前の結果を無視するわけにもいかない。


 困ったニアは、一旦NPC達を安全地帯にあるコテージに集まるように指示した。


 そんなNPCが集まるコテージの中に、一人のプレイヤーが混ざっていた。


 小梅だ。


 戦争で多くのNPCを失った。

 それに多くのプレイヤーが悲しむ中、人一倍悲しんだのが小梅である。


 デスペナルティが明けてログインした小梅は真っ先にNPCの元に駆け寄っていた。

 風香が抱えて守っていたNPCの所だ。


 目を赤くしていたのはリアルでも不安で泣いていたのだろう。

 ログインして、NPCの無事を確認できて、安堵の涙を流していた。


 感動の再会って感じだ。


 それから小梅はNPCから離れようとしない。

 メイド服のお姉さんに混じって、小梅もコテージに入っていったのだ。


 そんな小梅を念話で呼び出してみたが、今忙しいですの一点張りで、会議室に来てくれない。


 それに困ったユピテルとラヴィは、コテージまで迎えにいった訳だが……。




「小梅は参加しません。小梅はハルカたちを守ります」


 沢山のメイドさんを背に、小梅はキッパリと拒否した。


 表情一つ変えずに。

 その顔には固い決意を感じた。


 守るってなんだ、とは聞かない。

 ここが安全地帯だとしても、小梅は不安で仕方がないのだろう。

 もともとサダルメリク城は安全だと思っていた。それが違ったのだから。

 だから常にNPCの近くに居座り、守るなんて発想になったのだろう。


 小梅は頑固なところがある。

 一度イヤだと言ったら大抵それを曲げてくれない。


 しかし、いつもは小梅のワガママを甘やかしてきたが、今回はそうもいかない。サダルメリクの緊急事態である。


「なぁ、頼むよ。ちょっとだけ。ちょっとだけでいいから会議に参加してくれないか?」


 手を合わせて頼むラヴィに、小梅はぷいっとそっぽを向いてしまう。

 それは小梅の絶対拒否の意を表していた。


 こうなってしまったらどうしようもない。そもそもラヴィの思い付きで小梅を呼ぶ事になっただけだ。

 今回は絶対小梅が必要なわけではない。


 しかし、今の小梅の状態はかなり不安なのも確かだ。

 無視できるものではない。


 この先、ダンジョン、ギルド戦、グランド・フェスティバル。どんなイベントがあろうともNPCから離れない可能性がある。

 ニアと風香と同じように、小梅もまた戦争で大きな影響を受けてしまっているのだ。

 小梅もどうにかしないといけない。


 だが、現時点の優先度はニアと風香だ。


 もちろん小梅を蔑ろにしているわけではない。


 サダルメリクへの影響と緊急性を見れば、圧倒的に二人の問題を解決が優先なだけである。

 それに、小梅の問題は少し時間をかけた方が良いかもしれない。

 これからNPCの安全対策を盤石にして小梅が安心できれば、自ずと小梅の問題は解決できるはずだ。


 だから今は小梅をそっとしてあげて、やりたいようにやらせてあげよう。


 意地をはる今の小梅を見て、ユピテルとラヴィは同時にそう思った。


 今日のところは引き下がろう。そう思った時。


「小梅様。行って下さい」


 小梅のすぐ後ろにいるNPCが小梅の肩に手を置いた。

 もしかしたら前に押したのかもしれない。

 と言っても機械でできた重い体をした小梅はビクともしない。


「ハルカ?」


 小梅は少し寂しそうな顔をして振り返る。

 なんでって顔だ。


 NPCは小梅の目線まで腰を落として、諭すように言った。


「小梅様には小梅様のできることをなさって下さい」


 それは優しい声だった。

 丁寧語だが、姉がまだよく分かっていな妹に物事を教えるかのような感じ。


 それでも小梅は上手く言葉の意味を捉えることができなかったようで、首をかしげる。


「小梅はハルカたちを守れます」


「そうですね。小梅様がいて下されば私たちは安全です。でも小梅様が今やるべきことではありません」


 NPCは首を横に振る。

 今小梅がやるべき事はそれじゃないと。


「小梅様。今ここにいるNPC達はなにか手伝える事がないかと集まった者です。

 ですが、残念ながら当分はなにもできそうにありません。

 ニア様が心配して下さっているみたいで、安全地帯から出していただけませんので」


「だから。危ないから小梅がお守りしないと」


「違います小梅様。ここは安全地帯です。小梅様に守って頂く必要はないのです」


「でも……でも……」


 小梅はなにか言い返さないとと、もどかしく口を開いては閉じ、開いては閉じた。

 でもなかなかここに居座る口実が浮かばないらしく、言葉が出てこないようだ。


「私たちには出来ないことを小梅様には出来るのです。どうか私たちの代わりにお城の復興をお手伝いして下さいませ」


「でも……」


 小梅は不安で仕方ないと言ったげな顔を作る。


「ありがとうございます。でも、大丈夫です小梅様。私たちは安全です」


 そう言ってNPCは小梅をそっと抱きしめた。

 NPCの大きな胸の中に、小梅の顔が沈む。


「突然いなくなったりしません。むしろずっとこのままだと、お仕事が無くて皆んないなくなってしまいますよ?」


「えっ?」


「ふふっ。冗談です。あ、でもお給金が貰えないとさすがに別のお仕事を探さないとですね」


「そ、それは困ります!」


 ガバッとNPCの胸から顔を上げると、小梅は真面目に焦る。


「では小梅様。私たちが今までどおりお城で働けますよう、ユピテル様とラヴィ様のお力になって頂けますね?」


「任せて下さい! 小梅が全部倒します!」


 全部倒す?

 小梅はたまに、いや、よく斜め上の面白い返事をする。

 多分、ちゃんと理解していない。

 モンスターかなにかを倒しに行くとでも思っているのだろう。


 NPCも、「ん?」とクエッションマークを浮かべている。


 よく人前で話ができない人の事をコミュ症と言うが、小梅のような人を本当のコミュニティ障害と言うんじゃないだろうか。

 普段、学校で上手くやっているのかちょっと心配だ。


 それから一言二言応援の言葉をNPCたちから貰うと、小梅はユピテルとラヴィの元へときた。


「それではユピテル様、ラヴィ様。小梅様をお願いいたします」


「ああ、助かった」


 一人のNPCが頭を下げると、後ろのメイドたちも一斉に頭を下げる。


「みんなまた来ます!」


 不安より、やる気に満ちた小梅の元気な別れでコテージを後にした。




÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷−÷




「小梅も会議に参加していいんですか!?」


 小梅を会議室に招くと、さっきまでの態度と一転してコンセントをブンブン振り回して喜んでいた。


 小梅はやる気満々だ。

 目をキラキラ輝かせている。


「ああ、小梅はここで会議するのは初めてか」


「はい! 丸い会議は大人になってからなので!」


 丸い会議? 円卓の事を言っているのか。

 どうやら小梅の中で円卓会議は特別なものらしい。

 小梅のツボはよく分からないが、それでやる気を出してくれているなら、よしとしよう。


「よし小梅。言っておくがこれは遊びじゃない。マジでやれ。意見を言う時は挙手。わかったな」


「はい!」


 小梅の元気のいい返事を貰ってからユピテルとラヴィで現状を小梅に説明した。

 言葉だけでは無く、深刻そうに。

 それはもう深刻そうに語った。

 サダルメリクが今凄く危ない状況にある事を。


 だが、


 話し終えた後の小梅はキョトンとしていた。

 完全に分かっていないやつだ。


 ダメか。

 小梅にはまだ早かったか。

 そう思い肩を落とす二人を前に、小梅は堂々と挙手した。


「……はい。小梅」


 呼んだからには除け者にはできない。

 元気よく手を挙げた小梅に、ラヴィは力のない声で発言権を与えた。


「ニア様が元気になればいいと思います!」


 小梅は元気に、堂々と答えた。


 ニアが元気になればいい。

 うん。

 そうだね。

 まったくその通りだ。

 でもそんな事は二人とも知っている。


 ……いや、違う。分かっていなかった。


 二人は、はと単純な事に気付く。


 目の前の問題は二つだと思っていた。

 自信を喪失してニアがマスターを辞めようとしている事と、それにより風香と仲違いしてしまっている事だ。

 でも改めて小梅から聞いて、問題は二つでは無く一つである事に気づいた。


 先の事も考えれば城も崩壊したし、これからの事とか色々問題が山積みだと焦っていたが、その一つさえ解決すれば全て上手くいくのではないだろうか。


 そうだ。ニアが元どおりになれば、自然と風香との問題は解決するはず。


 城の復興だってメンバーのみんなは前向きに取り組んでくれている。

 普段のニアさえいれば、全て上手くいくのだ。


 わかっているようで、わかっていなかった。

 それに気づいた二人は落としていた肩を上げて、顎に手を置く。

 考えるポーズだ。

 そしてチラリとラヴィとユピテルは視線を送る。


「……なるほど、じゃあどうすればニアは元気になると思う?」


 それにも小梅は元気よく手を挙げた。


「ニア様の好きな事をすればいいと思います!」


「……具体的には?」


「ニア様はお風呂が好きです。お風呂に入れば元気になると思います!」


 そんな事で解決するなら苦労しない。なんて思ったが、どうだろう。

 お風呂はリラックスできる場所だ。一人でゆっくりと湯に浸かって、冷静に考えられる場所を用意すれば考え直してくれるだろうか。


 いや、流石に難しい。

 お風呂なら昨日自宅のに入っただろう。リラックスした状態で考える時間はあったはず。でもその結果がマスターを辞めるなのだからやっぱりダメだ。


「……他には?」


「ニア様はイトナ様が好きです!」


 確かに。ニアが好きなものといえばイトナだ。好きな人といれば何か心境が変わるかもしれない。好きな人といれば心揺れ動くものだ。

 まだ恋したことのないユピテルとラヴィだが、イトナといる時のニアの様子は少し違うのは知っている。声のトーンが少し高くなったり、やけに身だしなみに気を使ったり、いつもよりお姉さんぶったり。


 と、そこまで考えたところでユピテルは閃いた。


「ニアとイトナくんを二人っきりでお風呂に入れる……」


 そんなことをポツリと呟くユピテルに、ラヴィは折れた耳を更に折って眉をひそめる。


「何言ってんだ? ふざけてる場合じゃ……」


「ううん! ふざけてないよ! 名案だよ!」


「はぁ!?」


 ついにユピテルの頭がオーバーヒートしたんだとラヴィは思った。が、ユピテルは「もしかして私、天才かもしれない」みたいな顔をしている。


「よく考えてみて。二人でお風呂に入ったらどうなると思う?」


「どうなるってそりゃ…………どうなるんだ?」


「イメージしてみて」


 ユピテルが人差し指を立てる。


「悩みを持った人が信頼できる人と二人っきりで同じ湯船に入ったらどうなると思う?」


「!!」


 そこでラヴィも気づいた。ユピテルのイメージしているシミュレーションが頭に浮かんだ。


 裸の付き合い。それはお互いの本音を言い合う意を表す。そんな事をどこかで聞いた事がある。

 イトナはサダルメリクのメンバーじゃない。メンバーじゃないからこそ話せることもあるんじゃないだろうか。

 それにイトナは頼りになる。普段頼りない部分もあるが、いざって時は頼りになる奴だ。

 お風呂というリラックスできる場で、ニアがぽろっと悩みを零す。イトナならそれに上手く対応してくれるんじゃないだろうか。


「名案……かもしんねぇ」


「でしょー!?」


「いや、でもまて。イトナは男だぞ? 男と女が一緒に風呂ってのはマズくないか?」


「緊急事態だよー」


「まぁ、そりゃそうだけど……でも二人が一緒に風呂に入るか? 普通どっちかが出るだろ。あたしだったら男子が入ってたら速攻で出るぞ」


「でも好きな男の子だよ?」


 好きな男子が入っていたらどうするだろうか。喜んで一緒に入るだろうか。


「いや、普通入らないだろ」


「えー、そうかなー?」


「じゃあユピテルは好きな男子が入ってたら一緒に入るか?」


「んー好きな男の子いないからなー……小梅は好きな男の子いる?」


「オスなら小梅はカブトムシが好きです! ツノがカッコイイです!」


「そっかー」


 話を振っといて軽く遇らう。会議に混ぜてあげるユピテルなりの優しさだ。


「でも、ニアちゃんなら入ると思うなー」


「そうなのか?」


「うん。だってニアちゃん、積極的にイトナくんと手を繋いだり、スキンシップするけど本当はニアちゃんが恥ずかしがってるの。イトナくんは気づいてないけど、顔を赤くしてるもん。

 イトナくんの前だから強気でお姉さんぶってるんだよー。そんなニアちゃんだったら……」


「恥ずかしいけど、強がって入ると」


 それにユピテルは頷いた。


 ラヴィと比べればユピテルの方がニアとの付き合いは長い。それにイトナとニアが一緒にいるところをあまり見ていないのもあって、ユピテルの言っていることに不思議と説得力があった。


「よし分かった。その方針で話を進めようぜ。どうせ失敗したってこれ以上悪くならないしな! 可能性が少しでもあるならやってやろうじゃないか」


「うん!」


「よし! 小梅、これは極秘任務だ。誰にも言っちゃダメだぞ」


「極秘、任務……ですか?」


 小梅は目を輝かせていた。極秘任務という単語がカッコイイとかそんな事を思っているのだろう。


「そうだ。これはサダルメリクの存亡がかかっている。失敗は許されない」


「わかりました!」


「よし! じゃあ作戦の詳細を詰めるぞ!」


 こうして、ニアと風香が抜けたサダルメリク脳筋首脳陣による珍作戦が始まったのだった。


次回!

ニアが脱ぎます。

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