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 NPK事件解決からセイナがパレンテのギルドホールにすぐ戻ることはできなかった。というのも、パレンテのギルドホールではまたセイナが誘拐される可能性があったからだ。


 今回のことをリエゾンが代表して運営に報告し、安全地帯でのキル行為ができなくなるよう対応されるのが三日後になった。


 それまでの間、ニアの提案でセイナはサダルメリクのギルドホール、それも最深部であるニアの部屋に身を置くことになった。あそこならそう簡単には誘拐されることはないと考えたからだ。


 サダルメリクでの生活はセイナにとって退屈でたまらない時間だった。

 普段パレンテホールの掃除、回復薬の調合でセイナの生活が成り立っている。回復薬の調合薬はニアに「匂いが付くからダメ」と言いつけられてしまって、当たり前だけど外には出してくれない。やることを全て封印されたセイナは時間を持て余すことになる。


 そんなセイナの唯一の暇つぶしが毎日……といっても三日間だけだけど、必ず顔を出すラテリアとの会話だった。相変わらず同じ話を何度もされたけど、一人でジッとただ時間が経つのを待っているのと比べれば何倍もマシな時間になった。


 そんな普段とは違った時間を三日間過ごして、やっと自分の居場所、パレンテホールに戻ってきた。

 自室から漏れる微かな薬品の香りに懐かしさを覚える。


「お帰りなさいセイナさん!」


 さっきまでサダルメリクホールからの送り迎えをしていたラテリアがセイナを追い越し、セイナにとっては普段はあまり聞くことのできない帰宅する者に対する挨拶で出迎えてくれる。


「お帰り、セイナ」


「な”ー」


 既に中でセイナの帰りを待っていたイトナとディアからも挨拶が加わる。


「ん……ただいま」


 気恥ずかしさが込み上げてくるのが自分でも分かった。頬が少し火照るのを感じ取りつつ、表情だけは平常心はなんとか保つ。


「セイナさんセイナさん! みんなで写真撮りましょう! 写真!」


「……は? なんで急に写真?」


 唐突なラテリアの提案に疑問を唱える。


「ずっと思っていたんですけど、写真私だけ写ってないじゃないですか」


 飾ってある昔の写真のことを言っているのだろう。自分も写っている写真飾って欲しいですと言いだすラテリア。


「別にあなたの写真なんて……」


 いらない。と言いかけて、そこで止まった。

 三日前の出来事を思い出す。必死に、懸命に、自分の体を呈してまで守ってくれたラテリアのことを。

 実のところあれからラテリアに感謝の言葉を言えないでいる。イトナには勢いで言えても、ラテリアにはどうしても素直になれない自分がいるのだ。


 だから……写真の一枚くらいならラテリアが望むなら付き合ってあげよう。


 不器用すぎる形でラテリアに感謝の想いを乗せて言葉を作る。


「一枚だけなら……」


「やった。ニアさんカメラマンお願いしていいですか?」


 付き添いで来てくれたニアにカメラを頼み、ラテリアが隣に並ぶ。イトナも立ち上がり、ラテリアの隣に着く。


「ねこねこ丸も来てください。写真ですよ」


 おいでーて手招きをするラテリアにディアはそっぽを向く。


「ディア。おいで」


 代わりに呼ぶセイナの声にディアはピクリと反応し、セイナの元へ歩み出す。


「ええ!? ディアって何ですか!? ねこねこ丸は!?」


 そういえばラテリアには言ってなかったけ。名前がディアになったこと。

 む~と唸りながらも、元々セイナへのプレゼントだったことを思い出して納得したようだ。


「あ、イトナくんは真ん中ですよ。ギルドマスターなんですから」


 当然です。とイトナを真ん中に持ってこようとするが、イトナがそれを断る。


「今のギルドマスターはラテリアなんだけど……」


「え、あれ!?」


 露骨に驚くラテリア。三日前のあの時、イトナは一度パレンテを脱退している。その時に残り一人しかいないメンバーであるラテリアにギルドマスターの肩書きが自動的に移ったままだったのだ。

 それに気づいたラテリアが慌てて宙に指を走らせる。


「か、返しますっ! ってあれ? これどうやって返せるんですか!?」


 セイナの目からはあたふたしているラテリアしか見えないけど、きっと目の前にはギルドの情報が表示されたウィンドウが浮かんでいるんだろう。


「いいよ。これからもラテリアがマスターで。セイナのこと、本当に助かった。これからもよろしく頼むよ」


「そ、それは嬉しいんですけど、マスターは流石に……」


「そろそろ撮るわよー?」


 と、ニアの声にラテリアが急いで向きなおり、控えめにピースを作る。


「セイナさん。私、強くなりますね」


「え?」


「この前は情けなかったですけど、今度は……もしまたセイナさんがピンチになったら、ニアさんに頼らなくても、イトナくんと私でセイナさんのこと守ります」


 ラテリアには似合わない力強く、はっきりとしたその宣言はどこか昔の友人、コールの声にとてもよく似ていた。


「生意気」


 その言葉と同時に、シャッターが切られた。


 終わりかけていた伝説のギルド……いや家族のようなギルドがまた再び動き出したその瞬間の一枚は、きっと素晴らしい宝物になる。そう心の中で思うセイナだった。


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