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15

「終わった……んですか?」


「お疲れ様。クエスト完了」


「ん」


 タッチを求めたニアの手を軽く叩いた。


 イトナが取り出した依頼書にはクリアーの文字が刻まれている。それを見たラテリアはホッと息を吐く。


「それにしても本当に五分で終わっちゃうなんて、流石ね」


「僕はほとんどなにもしてなかったけどね」


「それを言ったら私も最後だけ。一番頑張ったのは小梅……かな?」


 力なく倒れている小梅を見下ろす。小梅がいなかったらこのスピードで攻略をするのは不可能だったろう。まぁ、このスピードで攻略せざる負えなくなったのは小梅のせいなのだけど……。


「あとユピテルとラテリアが最後決めてくれて助かったよ。あれがなかったらだいぶ長引いた」


「よく分からなかったですけど、お役に立てたみたいで良かったです」


「イトナくんああやるんだったら先に言っといてよー。最後どこを狙えばいいかすっごい悩んだんだからー」


「あの時は時間がなかったから……。あと、ラテリアレベルアップおめでとう」


「え?」


 本人は気づいていなかったのか、ユピテルが魔法で一掃したあと、レベルアップを知らせる紅い光がラテリアを包んだのが見えのだ。

 今回このクエストで得たEXPは相当な量だろう。ラテリアのレベルが上がっても不思議じゃない。


「Lv.78になりました!」


 声高らかに自分のレベルを言って喜ぶラテリア。それを祝福するユピテルの横で、ニアは微妙な表情を作る。


「いいの? 言っちゃって」


 ニアがそっとイトナに耳打ちしてくる。


「いいんじゃないかな。今のパレンテはガチギルドじゃないし」


 上位、または上位を目指すプレイヤー達は自分達の情報を他人には教えない。レベルもスキルも、クラスさえも秘密にしているプレイヤーもいる。

 情報は勝敗に大きく関わる。かつてのパレンテメンバー、クラースがよく口にしていたことだ。知っていると知らない、知られてると知られてない。対人ゲームではとても重要なことだと。


 それなのに、さっきユピテルが習得してるスキルが書かれたメモ帳を、ギルドメンバーでないイトナに見せてきた時は驚いた。テンパっていたのもあるだろうけど、このことはニアには報告しないでおいてあげよう。


「ふーん。でも今のイトナくんにはそれもいいかもね」


「イトナ様……」


 倒れていた小梅に足を掴まれる。


「ご、ごめん。忘れてた。今巻いてあげるから」


「いえ、小梅のことはいいです。それよりも伝説の武器を……」


 そうだ。まだ今回の目的である報酬を確認してなかった。

 たしか依頼書には〝報酬はこの音色だ〟と書かれていた。だとすると……。

 ダンジョンの一番奥、棺桶の手前に落ちたままの笛が強く光っていた。


「取ってくるよ」


 ゴーレムの残骸を避けながら笛の元まで辿り着く。

 金色の小さな笛を持ち上げると、説明文が表示された。


 《魔笛 ルーエ》獰猛なモンスターさえも魅了する音色を奏られる……か。


 残念だけど伝説の武器ではなく、伝説のアイテムの様だ。

 これはきっとモンスターをテイムするのには凄く役に立つ伝説級のマジックアイテム。小梅が求めていたものとは少し違うけど、伝説級という部分は変わりない。気に入ってくれるだろうか。


「小梅、報酬はこれだったんだけど……」


 倒れている小梅が見えるように笛を顔の前まで持って行ってあげる。


「こ、これは……」


 プルプル震える手でなんとか笛を受け取ると、それをまじまじと見つめる。


「金ピカです!」


挿絵(By みてみん)


 欲しかったプレゼントをサンタさんから貰ったかのように瞳を輝かせる。どうやら喜んでもらえたらしい。


「いいの? 武器じゃないけど」


 なんか金色ならなんでもいいように見えたけど。


「いいんじゃない? 小梅が喜んでるなら。さて、あとは帰るだけね。早く終わっちゃったし、この後なにか美味しいもの食べに行く?」


「さんせー」


「その前に小梅ちゃんのゼンマイを巻いてあげないと……」


「その必要はありません。小梅は今日疲れたのでユッピー様におんぶしてもらいます」


 そう言って、最後の力を振り絞ってよろよろと立ち上がった小梅はゾンビのようにユピテルの肩に腕を掛ける。


「え”!? ちょっと小梅なにやってー!?」


 そのまま全体重をユピテルに預ける。途端、ユピテルがドシンと思いっきり倒れた。

 状況がよくわかっていないラテリアが「え? え?」と戸惑う。

 それもそうだろう。小梅は見た目は小柄だけど……。


「ちょっ、ちょっとー! 小梅、自分が何百キロあると思ってるのー!?」


「三十と少しくらいです。小梅は全然重くありません!」


「それリアルの話でしょー!? こっちだとあなた、三百キロはあるのよー!」


 メカニックというクラスは全身が機械でできているという設定になっている。その影響でとてつもなく重いのだ。小梅自身はそれを認めたくないらしく、むしろ自分は軽いと思っているみたいなんだけど……。


「早くどいてー! お願いだからー!」


「もう完全に動力を使い果たしました」


「なんでいつも私だけこうなのよー!」


 やっぱりいつもこうなんだ……。


 この後、イトナがゼンマイを巻いて帰路に着いた。小梅は重たがられたことに凄い不服な様子。ユピテルは小梅に文句。ラテリアはそれを仲裁しようと頑張っている。


 微笑ましくも見えるやり取りを一歩離れて見ながら、イトナは昨夜のことを少し思い出していた。

 今日くらい冷静に先のことを考えていたら、きっと結果は変わっていたに違いない、と。


 もう変わることのない結果と、その後のオルマの失望の言葉が頭に浮かんでくる。

 今更後悔してもしょうがない。テトも気にしてくれて、このクエストをもらったのにこんな調子では意味がないじゃないか。


 そう分かっていても、中々引きずっているものが取れてくれない。あの時ああすれば、こうすればと、後悔が広がっていってしまう。


「ねぇイトナくん」


「……ん?」


  考え事をしていたせいか、少しラグついたかのように遅れてニアに返事をする。


「ごめん。どうかした?」


「それはこっちのセリフ。イトナくんがどうかしたの?」


「え?」


 なんのことかさっぱり分からなかった。いつもとなにも違うところなんてないと思うけど。


「どこか、変?」


「変。なにかあったでしょ。ちょっと元気ないもん」


「そうかな、そう見える?」


「うん。イトナくんって顔に出るから分かりやすいし。それに……」


 ニアがそう言ってニッと笑みを浮かべると、


「長い付き合いだもの。イトナくんのことはなーんでもわかるんだから」


 腰を低くして上目遣いでイトナの顔を覗いてくるニア。いたずらな笑みにイトナは少し動揺してしまう。わざとやっているのだ。そうすればイトナが困るのを知っててわざと。


 それが分かっていても全然馴れない。女の子の上目遣いってなんでこんなに破壊力が高いんだろう。

 すぐに負けて、ニアから視線を外すと、次に視界に映ったのはラテリアの顔だった。不満と不安が混ざったような顔がイトナをジッと見つめている。

 さっきまで小梅とユピテルの相手をしていたのにどうしたのだろうか。


 喧嘩をしていた二人を見てみると、なぜか小梅がユピテルを肩車していた。

 意味不明である。

 上にいるユピテルは「降ろしてぇー」と喚いているけど、どうやら仲直りしたらしい。


「あの、イトナくんとニアさんって、ど、どういう関係なんですか?」


「え? なんで?」


 いきなりの質問を疑問に思う。


「だって、さっきニアさんが長い付き合いって、なんでも分かってるって……」


 ああ、そういうことか。


 今のラテリアの言葉で質問の意味が分かった。

 少し前まで強度な男性恐怖症だったラテリアもやっぱり女の子。男女関係の話には興味があるのだろう。イトナとニアが付き合っているんじゃないか、みたいな言い回しだったけど、ニアとはそんな関係じゃない。


「ああ、僕とニアはーー」


「実は付き合ってるの。私たち」


「「え~~」」


 ニアは腕を絡めてくると、涼しい顔でそんなことを言ってきた。

 どうしたことか、ニアの揶揄いの魔の手がラテリアにも伸び瞬間だった。


「やっぱり……そう……なんですか……」


 なぜか酷く落ち込むラテリア。


「いや、嘘だから! 僕とニアはそんなんじゃないから!」


「え? 嘘?」


「うん! 全然、まったくそんな関係じゃないよ!」


 慌てて誤解を解く。


「ちょっと、そんなに強く否定するの酷くない?」


「ご、ごめん」


「そ、そうなんですね……。ニアさんそういう嘘はよくないと思います!」


 珍しく強気で反撃するラテリア。


「ごめんね。ラテリアちゃんが私のイトナくんが取られちゃうーみたいな顔をしていたからつい」


「そっ、そんな顔してません!?」


 顔が真っ赤になるラテリア。やっぱり一枚も二枚もニアの方が上手のようだ。

 ニアがラテリアを揶揄いながら振り返る。


「イトナくんも元気出して。私にできることがあったらいつでも頼ってよ?」


 やっぱりイトナもニアには敵わない。


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