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『殺人鬼が三人だと?』


 犯人を見失い、見たことの報告を始めると、オルマからえらく訝しげな声が返ってきた。


『もしかしたらまだ他にも仲間がいるかもしれない』


『その全員が街の中でダメージを与える術を持っているのか……』


 空から攻撃は当たらず、ダメージがあるか確認はできなかったけど、三体中二体がそうだったのを見ると全員がダメージを与えられると考えていいだろう。


『しかし、今回逃したのは痛いな。せめて一人は捕らえておきたかった』


『ごめん……」


『まぁ突然二体増えたんじゃしょうがねーだろ。しかもこっちはダメージ与えられないんじゃどうしようもねえ』


『相手を目にしていない僕がどうこう言えたことじゃないが、それでもイトナには期待をしていた。僕の知っているイトナならその状況でもなんとかできたんじゃないか……そう思ってしまうのだが』


 期待を裏切ってしまった。オルマの知っているイトナ、それはまだパレンテが攻略の最前線にいた時のことを言っているのだろう。確かに、毎日未開地に挑戦していたあの時と比べれば今の冒険には刺激が少ない。そんな時間が続いて感覚が鈍ってしまったのだろうか。


 責めるつもりはないようには聞こえたけど、どうしても気持ちが沈んでしまう。


『それよりもテト、問題はお前だ。お前がちゃんとしていればほぼ確実に捕まえられたというのに』


『は? 俺なにもやってないだろ。なんで俺が悪いみたいになるんだよ』


 テトはそもそも合流できてなかったはず。現場にいないのならなにもできなくて当然だ。


『なにもやっていないのが問題だ。 イトナは南ゲートって言ったのになんでお前は今北ゲート付近にいるんだバカ者』


 視界の邪魔になるため、滅多に使わないマップウィンドウを開いてみる。一度通った事のある道が細々と記されたイニティウムのマップには赤く点滅するテトの位置を示す点が北ゲートにあった。


『あれ、おっかしいなー。北が前で、後ろが南だろ? 俺はちゃんと後ろ向いて走ったぞ?』


『テト、それ後ろ向いたら北はどっちになるの?』


『前だろ。いや……それだと南が北になるな。……あれ? 大変だオルマ、俺が進む方向が北になるから南に行けないことが分かった!』


『僕は改めてお前が馬鹿ってことが分かった』


『おう。俺がバカなのはしょうがないな。勉強してないし』


 馬鹿と言われて、笑って受け入れるテト。


『イトナ、一応人生の先輩として言うが最低限は勉強しておけ。全く勉強しないで雰囲気で生きているとこうなる』


『うん……』


 反面教師とされたテトを見て、流石にこうはなりたくないと思ってしまった。テトには悪いけど……。


『まぁいい。過ぎたことは仕方ない。戦闘は期待しているぞ〝バグ勇者〟』


『戦うことなら任せてくれ〝引きこもり大魔導師〟。それは俺の唯一得意なことだ』


 お互いに現代の二つ名で呼び合うのを見ると二人が仲がいいように見える。二人とも黎明にいた頃は仲があまり良くなかった……というか、オルマがテトのことを一方的に嫌っていた。嫌う理由はいろいろあると思うけど、多分性格が合わないのだろう。今はあれから数年時間が経って、オルマが大人になったのだろうか。


『さて、話を戻そう。イトナ、他にわかったことは?』


『うん。分かったのは犯人は複数で、それなりに強い。あと、犯人は一般のプレイヤー……だと僕は思う』


『は? でもそりゃおかしいだろ。プレイヤーが街の中でダメージなんてよ。運営が用意した特別設定のイベントならまだ分かるけど、プレイヤーの仕業だったらそれはチートだ』


 チート行為。その一言で済むならその方が楽かもしれない。でもこのゲームが開始されてからこれまでチートをする人、いや、できる人なんていなかった。フィーニスアイランドは十八歳までの人しかプレイすることができない。意識をゲーム内に移すこのタイプのゲームでチートができる一般人、しかも子供なんてそういるものではない。


『そもそも毛むくじゃらで羽根が生えてるんだろ? 羽根は天使クラスがいるけど、毛むくじゃらな亜人なんて存在するのか?』


『いや、実際にやられたのはプレイヤーじゃないよ。モンスターだった』


『モンスター?』


『うん。毛むくじゃらは 《エビルコング》。羽根の方はわからないけど、NPCの首を斬り落としたもう一体は 《ソードマン》かな』


 イトナを吹き飛ばしたあれは間違いなく人間ではなくモンスターだった。大きさと攻撃モーションから見てエビルコングで間違い無いだろう。NPCの首を切り落とした犯人は、今思えば人間にしては細すぎる。


『話がややこしくなってきたな。相手がモンスターなら運営の用意したイベントと考えるのが妥当と思うが……。どうしてプレイヤーだと思う』


『逃げたから、かな。イベントなら普通プレイヤーから逃げないと思う。前に現場を見たプレイヤーは返り討ちになったんだよね。でも、今回はすぐに逃げた。相手を見て判断してる。それに、こんな酷いイベントなんて運営が用意するとは思えない』


 あくまでも推測の域を出ない。でも、イベントのような暢気なことなんかじゃない。そんな気がした。


『でもよぉ。イトナが見たのはモンスターなんだろ? で、犯人がプレイヤーって意味分からねーぞ?』


『ビーストテイマーなら手懐けたモンスターを武器としてプレイヤーが使える。戦闘で簡単な指示出しもできるし、逃げるという挙動はそれで説明がつく。だが……』


 オルマの言葉が止まる。そう。さっきイトナとモンスターの戦闘だけならビーストテイマーで実現できる。でも前提からして無理なはずなのだ。街の中ではダメージ無効。これは絶対なのだから。


『でもそうか。ビーストテイマーならモンスター街の中に入れるもんな?』


 テトの言う通り、モンスターが街の中に進入は説明がつく。これでこの事件のルール破りはあと一つになった。


『……これ以上は今考えても仕方ないな。ビーストテイマーについてスキルなどは次までにこっちで調べておこう』


『次? 次って、もしかしてまた明日もやるのか?』


『そうだ。悪いがそうしてもらいたい。まだ解決はしてないし、分からないことも多い』


 今日直接見て得た情報も多いけど、オルマの言うとおり不明な点もまだ多い。もしプレイヤーの仕業としたら、この奇行の理由が余計わからないことになった。プレイヤーがNPCを殺しても得することはなにもない。


『まぁ、別に俺はいいけどよ。自分のギルドメンバーにはあんま強制してあげるなよ。この時間は子供じゃなくても辛いからな……。じゃ、もう今日はなにもなさそうだし、俺は落ちるぞ?』


『それで構わない。明日も頼む。ギルドメンバーはそうだな。他のメンバーで交代体制でも考えておこう』


『じゃあ、お疲れ……。っと、イトナ。あんま気にすんなよ? お前失敗したら結構引きづるからなー』


『ありがとう。大丈夫だよ』


『……いや、ちょっと待てよ。イトナこれからちょっとだけいいか?』


『え? うん。大丈夫だけど』


 時間は既に三時を回っている。こんな時間に何か用でもあるのだろうか。


『呼び出した僕が言うのもあれだが、もう遅い。明日も学校だしほどほどにしろよ。僕は先に失礼する』


 そう言い残して、オルマはパーティを脱退。イトナとテトだけになる。


『集会所に行こうぜ。気晴らしだ』


÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷


 集会所には運営が用意した、いわば公式のクエストが張り出されている施設。


 集会所は各街に存在していて、イニティウムでいえばテレポステーション、リエゾンホール並ぶほど人が集まる施設になっている。


 各街の集会所によって張り出されているクエストは違うのだけど、一番大きい街であるイニティウムは特にクエストの種類が豊富だ。最高難易度を誇るSランクのクエスト、通称七大クエストもここの集会所に張り出されている。


 集会所の中に入ると、広いスペースに両手を腰に当ててクエストボードを眺めるテトが一人だけいた。


「お待たせ」


「おう。イトナとここに入るのも久しぶりだな」


「そうだね。一年ぶりくらいかな」


 お互いレベルが上がり、テトと一緒にクエストを挑むのはもうSランククエストぐらいになってしまった。


「気晴らしに明日……いや、今日か。クエスト行こうぜ」


 そう言うと、ボードから一枚依頼書を剥がして渡してきた。

 ボードは全てで七つ。AからF、そしてS。 それぞれのランクごとに分かれていて、今いるのはAランクのボードの前。Sランクに比べれば簡単だけど、ものによってはSランクにも等しい難易度のものもある。


「やっぱり張り出されたばっかりだから結構良さげのがあった」


 クエストの更新は日付が変わるタイミング。その日に達成されたクエストの種類だけ新しいクエストが追加される。だから夜遅くても更新される時間には、誰よりもいいクエストを受けようと、たくさんのプレイヤーが集会所に集まるのは毎日のちょっとしたイベントだ。


 ちなみにSランククエストは特別で、達成したらお終い。新しいクエストが追加されることはない。


「本当だ。結構当たりのクエストかもね」


 テトから受け取ったクエストの内容は結構な難易度で、報酬も当たりの匂いがぷんぷんするものだった。


「だろ? 落ち込んだ時は気晴らしにいつもやらないことをやってみるといい……って師匠が言ってたからな。たまにはクエストにでも行って失敗したことは全部忘れてこい」


 ぽんぽんと背中を強く叩かれる。因みにテトの言う師匠は元パレンテギルドマスターのスペイドを指している。


「ありがとう。全部忘れたらそれはそれで問題なんだけどね……。って忘れてこいって、テトも一緒に行くんだよね?」


「あー、今さっき思い出したんだけど俺は別用があったわ。補習ってやつ行かないと行けないんだよ。あれ行かないと夏休みがなくなるらしい……。悪いがそれ、一人で行ってきてくれ」


 ここまで用意してくれて、テトは一緒に来てくれないらしい。


 依頼書を改めて眺める。報酬は〝伝説の音色〟か……。


 伝説。その単語で真っ先に一人のプレイヤーを思い出す。

 小梅を誘ってみようかな。もちろんラテリアも一緒に。


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