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ラテリアちゃんはチュートリアルちゅう?  作者: 篠原 篠
ドールマスター
100/119

25

 まるで最初からそこにいたかのように、突如現れたイトナを見て、ブラックアイランドにいる本体のミスティアが思わず立ち上がる。


「来たわね」


 人形ではなく、本体が呟く。

 人形の目越しに見えるのは、ミスティアが知るイトナより幼いイトナ。

 一見弱そうに見える風貌の中に、ビリビリと伝わる強者の圧力を感じ取れるその人物は間違いなくイトナだった。


 身を守るつもりのない軽装は変わりない。

 現在持つ武器は金と銀の装飾が鈍く輝く三角剣。

 イトナの体を半分以上隠してしまうほど大きい刃渡りは、軽装には不恰好にも見える。


 あの武器はミスティアも見たことがある。

 武器名は《この世界をワールド終わらせる剣エンド》。

 かつてイトナに戦い方を教えた、今は亡きループプレイヤーが持っていた武器の模倣品だと聞いたことがある。


 そしてあの赤い目。

 その目を向けられて、ミスティアは思わず唾を飲み込む。

 昔は自分を守るために向けられていたあの目は、今や敵として向けられている事実に恐怖を感じる。

 あれはイトナが本気の戦闘態勢をとっていることを表している。危険信号の赤。

 目の変色はスキルによってのもの。

 そのスキル名は《未来視悪魔ラプラスノ魔眼》。

 難易度5にして自身強化に部類されるスキルである。

 効果はスキルの名の通り、未来を視ることができる……と本人から教わった。

 数秒先の未来が視える。

 俄かには信じ難い効果だが、あのイトナが嘘をついているようにも思えない。


 イトナは完全に戦う気でいる。

 普段、イトナが手に持たない三角剣ワールドエンドに警戒しつつも、ミスティアは落ち着いて練りに練った、戦闘になった時のイトナ攻略を思い返す。


 イトナは強い。その強さは大きく分けて三つの要素があるとミスティアは考えている。


 一つ。

 それは圧倒的なスピード。


 それも人の思考が追いつかないほどのスピードを彼は持っている。

 イトナもその“人”であって、自身のスピードに思考が追いつかないのだけど、《未来視悪魔ラプラスノ魔眼》がシナジーとなって、思考を追いつかせている。

 目が赤くない時でも恐ろしく速いのだけど、未来視悪魔ラプラスノ魔眼の発動時と比べれば可愛いものだ。

 前の世界で見たステータスでは、レベルアップで得られるステータスポイントを殆ど敏捷に割り振っていた。ダメージを大きく与えるために必要は力や魔力のステータスは装備で補っている。

 それは今回の世界でも変わりないだろう。


 これらを聞けば敏捷特化型、そう思う人が殆どだろうけど、ミスティアは少し違うと思っている。

 もちろん極振りに近い程、敏捷に振っているのだから否定はしないのだけど、それは次のイトナの強みの話になる。


 二つ。

 それは扱うことのできる多彩なスキルと武器。


 イトナはミスティアと、いや、魔法剣士以外のプレイヤーと比べて、果てしない時間フィーニスアイランドをプレイしている。

 それ故に膨大な経験を積んでいるのは言うまでもない。

 そして、その経験は様々な事に繋がる。それがスキルと扱う事のできる武器だ。


 このフィーニスアイランドというゲームは数え切れないほどの、もはや無限と言っても過言でないスキルが存在している。

 それは人の想像できるものであれば、それがスキルとなりうるからだ。

 イトナは様々な世界を旅し、様々な人と関わりを持ち、様々なスキルを見てきただろう。

 スキルは、その発想は、真似る事で同等のもの、またはそれに近いものを習得する事が可能である。

 もちろん、高難易度のスキルの習得はそう簡単な事ではないが、不可能な事ではないのだ。


 様々な人の発想で生まれたスキルをイトナは知り、それを取得していっている。それを積み重ねてきたイトナはフィーニスアイランドにいるプレイヤーの中でも間違いなく桁違いに多いと言い切れる。同期である魔法剣士と比べてもだ。

 魔法剣士との差は扱う武器の種類。

 魔法剣士は剣と魔法を極め、魔法剣士に落ち着き、魔法剣士を貫いている。

 対してイトナは様々な武器に手を出した。剣と魔法はもちろん、銃に双剣に槍……見た事はないが、他にも使えるものがあっておかしくはない。

 本人曰く、自分にはセンスがないから自分に合ったものが見つからないと言っていた。

 なにがセンスがないだ。どの武器を持たせたって、ループプレイヤーでしか太刀打ちできないほどに強いのに。


 普段、銃を持っているところをよく見るが、それは長距離戦とも近距離戦とも立ち回れるからである。

 強敵が長距離にいるのであれば魔法を使うし、近距離戦になれば剣を持つ。

 イトナに苦手な距離はない。

 普通ならクラス別に得意苦手な距離があるのだけど、イトナはそれがないのだ。まぁ、ループプレイヤーにもなれば皆苦手距離なんてものはなくなるのだが、それでもイトナは格別である。


 敏捷特化型。それでもスキルと武器のおかげで、攻守ともに非常にバランスがいいとミスティアは考える。


 そして三つ。

 それは反則にも近い、自身強化のスキル。


 これがミスティアが最も危険視している部分である。

 《未来視悪魔ラプラスノ魔眼》を含め、イトナは多くの自身強化スキルを習得している。

 それもちょっとしたステータスアップとかそんな可愛らしいものではない。魔眼の反則的な効果と同等、またはそれ以上の効果を持つものだってある。

 はっきり言って、イトナの持つ自身強化の中で特定のスキルを使用された瞬間、ミスティアの負けは確定すると言ってもいい。


 そんなイトナだが、プレイヤー単体での最強プレイヤーはと問われれば、ルミナスパーティが全員、魔法剣士と答えるだろう。

 だが、イトナがミスティアが恐れる自身強化スキルを使ったらと、条件を変えたなら圧倒的にイトナが最強になる。

 なら、やっぱりそのスキルを使えるイトナが最強なのではと思うが、実はそうではない。

 イトナの強力な自身強化スキルを使うには厳しい条件がある。簡単には使えない。そのせいで魔法剣士が最強となっているのだ。


 以上がイトナの強さである。

 もし戦うことになるなら、これに勝たないといけない。


 しかし、焦ることはない。

 ミスティアはこの時のために多くの時間を費やしてきたのだから。

 それに戦いになって負けたとして、それがミスティアの死ではない。

 イトナと対峙しているのはあくまでも人形。負けても取り返しがつかなくなるわけではないのだ。


 これらを踏まえて、イトナに勝つにはどうすればいいのか。

 まずは簡単で単純なことだ。イトナの培ってきた経験はミスティアがどう頑張っても直ぐには差を埋められる訳ではない。ゲームの初心者が一週間練習したところで、プロには勝てないのと同じだ。

 なら、分かりやすいハンデを貰えばいい。

 ゲームで最も分かりやすいもの。

 それはあらゆる数値だ。

 レベル、ステータス。スペックそのもので大きく上回る。

 そうすれば、勝機は見えてくるだろう。


 幸い、ミスティアはレベリングに有利となるスキルを持っている。

 このイトナと対峙させている人形、それど同等の性能を持ったものをミスティアは同時に6体作り出すことができる。それらに別々のダンジョンで狩をしてもらえばいい。

 6ダンジョン同時の狩りにより、単純に通常の6倍速でレベルが上がって行く。自分も含めれば7倍速だ。

 それに、人形には疲労がなく、命令しとけば365日24時間稼働が可能。

 これでミスティアのレベルがカウンターストップである200に到達したのは、3年と半年ちょっと。驚異的なスピードで達成することができた。


 イトナのレベルが気になるところだが、この数年監視して、おおよその数字の見当はついている。

 今のイトナのレベルはせいぜい150と少しくらいだろう。

 モンスターに与えるダメージから算出したものだが、大きくはズレていないはずだ。

 約50のレベル差。

 レベルは後半になる程上がりにくくなり、レベルアップ時に得られるステータスポイントも上昇して行く。Lv.200とLv.150のステータス差はかなりある。これはとても大きなアドバンテージと考えていい。


 数値の暴力で圧倒する。そこまで順調に進めた。それで大半の事に余裕が生まれたが、まだ幾つかの懸念することは残っている。


 その一つはあのスピードだ。

 防御を捨ててはいるが、そもそもイトナに攻撃を当てるのが難しい。

 その課題の答えとしては、このダンジョン地形である。

 ある程度の広さを持つが、広大とも言えない広さ。

 この範囲であれば、避けることが不可能な広域攻撃で回避の選択肢を潰すことができる。


 もう一つの懸念がイトナの強力な自身強化スキルだ。

 ミスティアの恐れている幾つかのスキル、その中で最も条件が緩いものが、敵とする相手の目の前で13秒間の待機時間というものである。


 13秒間。とても長い時間ではあるが、決して油断が許されない時間でもある。

 もし戦闘が始まったのなら、イトナに常に攻撃をし、プレッシャーを与え、動かし、スキルの発動を許してはいけない。

 これは何度も脳内でシミュレーションしてきた。

 クールタイムの短くもそれなりに強いスキルを洗い出し、何パターンかの無限使用順序を考えた。


 最後に、時間をかけて作ったこの防御域。

 このルームの半分はミスティアのスキルによって生成された糸が張り巡らせてある。

 ブギーが大袈裟に聖域など言っていたが、うまく言ったものだ。これにはミスティアもかなりの自信を持っている。ネズミ一匹、攻撃一つ通す事を許さない領域を作ったのだから。


 スキル難易度5を誇るこの糸はあらゆる物理攻撃を通さず、魔法攻撃だって弾く。目視するのも難しいほど細さを持つこの糸を毎日欠かさず、四年の時間をかけて完成させた。


 これ程の準備をしてきたのだ。

 さっき、ブギーには五分と言ったが、正直ミスティアに分があると思っている。

 なんたって、こっちは攻撃を受けない。一方的に攻撃ができるのだから。


 だから、だからきっと、大丈夫。


 だが、ミスティアはその過信は捨てる事にしている。

 あのルミナスパーティに出会ったダンジョンでの出来事以来、きっと大丈夫は信じないことにした。

 この世界では、だから、きっとは信じてはいけない。


 だからこそ、ミスティアは油断なくイトナを見る。

 恐れず、油断せずに、イトナが一ミリでも動けばすぐに反応できるように。


 ボタン越しに赤い目と交差すると、イトナはゆっくりと辺りを見渡した。まるでなにかを探しているかのように。

 その行動にミスティアは口元を緩める。


「本体はブラックアイランドよ」


 イトナはそれを無視して、すべての空間を見渡してからミスティアに向き直った。まるで信用されていない。


「なるほど。徹底しているね」


 そして、イトナの目が赤から青に変わる。

 あれは難易度5スキル《久延毘古くえびこノ神眼》。

 視界にある、ありとあらゆるものの情報を見ることのできるスキルだ。

 主に未知のモンスターの弱点やステータスを見る時に使用する。

 これでミスティアのレベルとステータス。この防御域も見られただろう。

 でも、それも想定済みだ。イトナの目が赤へと戻る。


「本当に徹底している」


 2人は出方を伺うかのように不動の時間が流れる。

 そして、お互い攻撃の姿勢を取らない事を確認すると、イトナは三角剣を地面に刺した。


「久しぶりだね。ミスティア」

「ええ。久しぶりね。イトナ」


 柔らかな口調が交わる。

 イトナは緊張を解いたかのように片方の腕を腰に当てている。

 一先ずはミスティアはそのイトナの様子を見てホッとした。

 場合によっては話さえも聞いてはもらえないと思っていたからだ。

 初めから喧嘩腰だったら交渉の余地はない。

 取り敢えず、ミスティアも人形に腕を上げさせて攻撃の意思がない事を伝えた。


「でも驚いたな。海を越えてくるなんて。かなり苦戦したんじゃない? 海の番人は倒せたの?」

「海の番人? ああ、あの亀みたいなドラゴンね。あれには骨が折れたわ。クリスタル人形で凍らせて足止めしてやり過ごしたのよ。あれを倒すのは私1人じゃ無理ね。でも知っているって事はイトナはあれを?」

「いや、僕は渡航に成功した事ないし、海の番人はとても……。僕の知る限り、君が初めてなんじゃないかな。ホント、凄いよ。

 でも、考えたね。クリスか。確かに彼女の力があれば海を渡れるかもしれない。チュートリアル中にルミナスパーティが集まる事が出来るかもしれない……か。それに意味があるかはわからないけど」

「私としては勘弁して欲しいけれどね」


 ミスティアは苦笑いを漏らす。

 余計な事を言ってしまっただろうか。

 ルミナスパーティが海を自由に渡れるようになってしまえば、ブラックアイランドに乗り込んでくるかもしれない。

 それは非常にマズイ。

 ジワリと冷や汗を背中に感じる。


「大丈夫だよ。クリスは体力が無いからね。もしやっても渡る途中でへばるのが目に浮かぶよ」


 果たしてそれは本当なのだろうか。

 あの青の魔導師がへばっている顔が思い浮かばない。

 でも、確かにソロでは難しいか。可能だとしてもクリスタルのいるブルーアイランドとミスティアのいるブラックアイランドは一番離れた場所にある。

 少しの警戒はしても、焦る必要はない。


 互いの情報交換も程々に、ミスティアは本題を切り出す。


「再会して早速なのだけど、イトナに話を持ってきたの」


 しかし、イトナはそっと手を突き出し、ミスティアの話を止めた。


「その前に、他の人たちを解放してもらえないかな」


 その要求に、ミスティアは少し考える。

 これに応えなければ、ラテリアは人質といった風に捉えられるだろう。

 今回の交渉は人質を盾に無理やり頷かせても意味がない。

 表面上の薄っぺらい協力関係を結んで、後々裏切られて殺されるリスクを負うのは嫌だ。

 ミスティアの望むのは確実な身の安全。それ以外は多く望まない。


「わかったわ」


 素直にラテリアの拘束を解く。

 イトナの後ろでラテリアがへなりと同行してきた幼い魔導師に寄りかかる。


「ラテリア!」


 今まで時が止まったかのように動かなかったラテリアが柔らかく動くようになって、幼い魔導師が安堵の声を上げた。それにラテリアは力無く「ありがとう」と答える。

 どうやらあの拘束に抵抗し続けていたようで、ラテリアの疲労は眼に見えてわかった。


 イトナはその様子を見ずに、ミスティアを見たまま。今のところ何もするつもりはないけど、油断ない。


「……心操は?」

「使ってないわ……って嘘をついても仕方がないわね。信じてもらうしかないのだけれど、ここに誘導するためにちょっと使っただけ。あと、そこにいる勇敢なプレイヤーには諦めてもらうためにちょっと使ったけど、本当にそれだけよ。イトナが心配している程の心操は使ってないわ」

「そう……。ラテリア」

「イトナ、くん?」


 ラテリアはまるで、そこにいる人物が本当にイトナなのか疑っているような目で背中を見ている。

 それもそうだろう。ミスティアも昔、彼女と同じような経験をしたことがある。

 イトナが本気を出すときの雰囲気のギャップはかなり大きい。落ち着いて静かな雰囲気の中に、どこか鋭い怖さを感じるのだ。


「セイナにここで起こった事の報告をお願いできないかな」

「セイナさんに、ですか?」

「うん」

「あの、イトナくんは?」


 ラテリアがチラリと人形の方を見た。

 目が合う。

 とても不安そうな顔だ。

 ラテリアが頭が悪かったとしてもこの状況に不安を感じているのは当たり前だろう。

 もちろん、わからない事だらけだろうけど、ラテリアはイトナを釣るために使われたとか、それなりに強者のプレイヤーを簡単にねじ伏せたあの人形は危険とか、色々察するところもあるに違いない。


 それにイトナは少しだけ時間をかけて、「大丈夫」と答えた。


 大丈夫。果たしてそれはラテリアの求めていた答えだったのだろうか。

 色々聞きたい事も多かっただろう。それをラテリアは飲み込むように大きく頷いて、街への転移アイテム《帰還の魔石》をインベントリから取り出した。


「ノノアちゃんも!」

「え? でも……」


 ラテリアは迷うことなく行動に起こした。

 でも、それ程不思議なことでもない。イトナぐらいの強者が「大丈夫」と言ったなら、それを信じるのが普通だ。それに首を横に振る方が愚かだろう。


 ミスティアはそれをただ眺める。

 手は出さない。それが約束なのだから。


「他の2人は?」

「ああ、見学したいんですって」

「見学?」


 ああ、また余計な事を言ってしまったかもしれない。

 どうもイトナを前にして冷静さを失ってしまっている。

 これで素直に戦闘するからなんて言えばイトナの警戒を高めるだけだ。

 でも、あえてミスティアは開き直ることにした。


「ええ。もし話が上手くいかなかった場合、どうなるかわからないでしょう? その時の見学をしたいのよ」


 イトナの顔色を伺う。特に変化はない。

 どうせイトナもその可能性だってあることは考えている。なら、正直にこちらもそう考えていると言って、大して変わらないだろうという考えだ。


「なるほど」


 イトナはそれだけを静かに呟く。

 その間にもラテリアは幼い魔導師の手を握り、両腕の失った少年に手を伸ばすところだった。


「おい、黎明の犬」


 突然のアクマの声に、イトナを除くプレイヤーの目が集まる。


「これは見ものだぜ。逃げていいのか?」

「……あ?」

「今の話を聞きゃわかんだろうよ。あの人形と、そこのイトナがやるんだ。見たくないのか?」


 それはアクマの珍しい善意だった。

 確かに、ミスティアとイトナが戦うことになれば、彼らにとって、それはとても貴重なものだろう。強者を目指す者が、強者の戦いを見たいのは当然の衝動だ。

 ただ、それがわかるのはこちら側のプレイヤーで、他のプレイヤーはその言葉になにか裏があるのではと考えるだろう。


 ラテリアはそれを無視し、少年の肩に触れる。《帰還の魔石》は使用するプレイヤーに触れているプレイヤー全員を転移させるからだ。

 でも、少年はその手を肩だけで振り払った。


「俺は置いていけ」

「え」


 それに続いて幼い魔導師もラテリアから手を離した。


「心操は使ってないわよ」


 一応、そう伝えておく。事実、今の行動は彼ら自身の意思だ。ミスティアは手を加えていない。


「私も……」

「なんで……」


 面白いものだ。

 ミスティアが言うのも変だが、ここは彼らの思っている以上に危険な場所である。それこそ、現実世界に影響を起こす程の人物がいるのに。

 その事を理解していないのか、目の前の興味を優先させた。

 あの2人は人一倍強さを求めているからだろうか。

 それにラテリアは迷う。

 イトナもなにも言わない。


「なんなら私が心操で帰りたいと思わせても構わないけど……」

「いや、いい。ラテリア。一人でも帰るんだ。そこの2人も大丈夫だから」


 これにはラテリアも迷いを見せた。

 なら私もと思ったのだろう。

 でも、ラテリアはなにかに気づいたかのようにイトナに従った。

 ミスティアはそれがなんなのか分からない。でも確かに、はとなにかに気づいたかのようにラテリアは頷いた。


「わかりました」

「助かるよ」


 そしてラテリアがアイテムを使用する。

 ミスティアはそれを見届け、次にフレンド申請をイトナに送る。


「これは?」

「ここからの会話は念話が必要だからよ」

「なるほど」


 理由はチュートリアル後の話になるからだ。

 このゲームがまだチュートリアルで、本番が始まると悪魔のゲームに姿を変える。その事をループプレイヤー以外にに気づかせることは禁忌とされているからだ。

 関節的にでも、その事を伝えようとすると、この世界から罰が与えられる。

 ミスティアはその罰がどのようなものか分からないが、昔イトナは試したことがあるらしい。

 死ぬことはなさそうだけど、痛い目に合うことは避けたい。


 フレンドリストにイトナの名前が加わる。

 これでやっと場は整った。


 長かった。

 命の恩人を、仲間を、その親友の手で殺させて、8年。

 不安に押しつぶされそうな毎日を過ごして、やっと目に見える結果が出る。


 ミスティアはふぅと小さく息を吐く。

 そしてミスティアは前から決めていた最初の言葉を念話で飛ばした。


『私と手を組みませんか? イトナ』


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