調査団と合流
そろそろきつい。
■未知の項・ルコラの依頼⑤
2度目の“レベルアップ”のあとは、基本的に魔物が強くなることは無かった。
その代わりと言わんばかりに、それまでは別々だった雷や濃霧、毒ガスと魔物が一緒に出現するのだ。
「リリィロッシュ!ガス避けの風結界を!
ラケインは大型に専念して、小型は防御に徹してくれ!」
今襲ってきているのは、麻痺効果の毒ガス+1m近くある昆虫だ。
かなりの敏捷性があるため、ラケインでは分が悪い。
ラピスを使えば討伐は可能だが、罠はこれで終わりでないのだ。
「すまん!アロウ、頼んだ。」
ラケインはラピスを右手に構える。
僕は魔力を集め広範囲魔法を繰り出す。
魔法耐性もあるだろう鈍く光る甲殻に無詠唱魔法では威力に不安がある。
「我、アロウ=デアクリフが精霊に乞い願う。
我が願いに答えその力を顕現させたまえ!
鈍色の茨、千の棘、万の剣!
この荒れたる大地に舞い踊れ、鉄剣の戦姫よ!
土系魔法・幾千万の剣閃ぉぉっ!」
足元から巨大な魔法陣が発動する。
現れるのは、無数の黒い棘。
昆虫たちは串刺しになるや、バラバラに切り刻まれる。
地面から棘を生やすくらいなら、第一領域の無詠唱魔法でも可能だ。
しかし、この魔法は、鋼鉄の強度を持ちながら、味方を避け敵と認識したものだけに襲いかかる。
しかも、付随する効果は“刺突”と“斬撃”。
わずかに針が掠っただけでも、斬撃の効果で体を真っ二つにされる。
物理的な攻撃効果を魔法によってねじ曲げる、この魔法は第5領域。
魔力が濃いこの場所で長い詠唱を唱えて初めて可能となる、今の僕でさえ本来は荷が重い大魔法だ。
昆虫を全て倒しきると、毒ガスも晴れる。
「はぁ、段々きつくなるなぁ。」
思わず弱音が出る。
しかし、ここまで来ればゴールは目の前だ。
こう言ってはなんだが、メイシャが封印されたおかげで、突破する罠が減ったのも大きい。
正直、難易度そのものよりも、魔物がしぶとく倒しきるのが大変なのだ。
「アロウ、ラケイン。
ここまでは罠が重複するリスクの方が高いので全て突破してきましたが、全ての罠をクリアする必要は無いのです。
提案ですが、私たちのうち2人が残り8マスまできたら、ダイスを連続で振りましょう。」
そう、この“遊戯迷宮”のクリア条件は、ゴールマスで「ジュマンジ」と唱えることだ。
この罠の数々は、異空間だからこそ可能なものだ。
ゴールして、現実へと帰還できれば罠も全て解除される公算が高い。
まして、これだけの凶悪さでもあくまで古代人のゲームだ。
勝ち負けが付けば、トラップを発動させる意味は無い。
封印されているメイシャも同時に帰されるはずだ。
そうしてダイスを振った次の目は、
“5”
「5だ!」
ダイスを振ったラケインが目を輝かせる。
そう、メイシャが飲み込まれた罠は、“1が出たらジャングルだ、5か8が出るまでジャングルだ”だった。
ゆるゆるとラケインの玉が五マス移動する。
現れた文字は、
“ジャングルの旅は楽しかったかい?”
なんとも嫌味な文言だ。
ラケインの玉が移動したマスから、もう一つの玉が出現する。
そして、光る霞の中から現れたのは、
「くっお!?まぶしっ!」
「なんだ!?こんどはなんなんだぁ!?」
「もぅいやだぁぁ、助けてくれよぉぉ。」
「おっらぁぁぁぁっ!ぶっとべぇーっ!」
調査団の面々と、クレリックスターを振り上げ、まさに振り降ろさんとするメイシャだった。
「ってうお!?ラク様ぁ!?」
凄まじい形相で危なくラケインを撲殺する所だったが、瞬時に飛び退き、何故か顔をゴシゴシ擦っている。
そして、スグにラケインの所に戻り、
「…てへっ。」
可愛く舌を出した。
「…無事だったか。」
「はい♪魔獣をいっぱいぶん殴りました♪」
ラケインも安堵の方が大きいのか、今の一瞬を無かったことにしたようだ。
後ろを見ると、調査団の面々が抱き合って喜んでいる。
どうやら、元々のメンバーは5人。
3人がジャングルに飲み込まれ、2人は罠の餌食になってしまった。
つまり、ゲームとして詰んでしまっていたのだ。
幸いにも、隠密系の魔法を使えるメンバーがジャングル行きになっていたおかげで、3人はこれまで生き延びていられたようだ。
確認したが、新しく光の玉は出現していない。
彼らは僕達のゲームには関係ない扱いらしい。
「おかえり、メイシャ。
ラケインが心配して暴走しかけていたぞ。」
「ただいまです、先輩!
そうですか、ラク様が。」
ニマニマ笑うメイシャだったが、のんびりもしていられない。
もうじき、僕達のタイムリミットである2日が過ぎる。
この時点で、ラケインとメイシャが残り5マス。
僕が9マス。
リリィロッシュが12マスとなっている。
運が良ければ、誰でもあと1振りでクリアできる状態だ。
「メイシャ、それと調査団の人たちも聞いてください。
僕達は全員、あと1振りでクリア可能なところにいます。
僕達の脱出期限も近いので、これから、罠をクリアせずにダイスを連投します。」
調査団たちが顔を青ざめる。
「おい、罠をクリアしないってどういう事だ!?
あんな恐ろしい罠を二重、三重と同時にうけるってのか!?」
「もうやだよぉ、罠なんて辞めてよぉ。」
泣き言を言うメンバーもいたが無視する。
「これはただの告知です。
僕達も脱出に専念します。
あと一振り、多くても二振りづつ、計八振りで突破できる換算が高い。
その間、皆さんを守ることは難しい。
申し訳ないですが、自力で罠の回避をお願いします。」
そう言って踵を返す。
調査団の面々は、既に心を折られている。
戦力にならないのはもちろん、僕達の邪魔をしかねない。
冷たいようだが、罠を連続で発動する僕達にも余裕はないのだ。
「メイシャ、聞いた通りだ。
多分、もうそれほど時間に余裕はない。
最悪この空間に取り残されたまま、遺跡が破棄される。
その前に何としても、ゴールして脱出する。いいね?」
「分かりました、先輩。
私ももうジャングルは嫌ですから。」
僕達4人は、ダイスを手に円陣を組んだ。
あと1回で終われそうです。
はぁ、まだ僕には同時投稿は無理ですな。