密林
まさかここまで長くなってしまうとは。
だれだ、一話完結予定とか言ってたのは
■未知の項・ルコラの依頼④
その時は、唐突に訪れた。
メイシャがダイスを振る。
“1”
「えぇ~、そんなぁ。」
基本的に楽観的なメイシャは、既にゲームに慣れ、本当のスゴロクのように楽しんでいる。
もちろん罠はどんどん凶悪になっている。
それでも力を合わせれば、なんとかクリア出来ないことは無い。
そんな時だった。
光の玉がマスを移動する。
そこに浮かび上がる文字は、
“1が出たらジャングルだ、5か8が出るまでジャングルだ”
ジャングル…?
これまでに見たことのない文章だ。
途端、メイシャの体が揺らぐ。
マスに描かれている魔法陣が大きく光る。
これは…、転移系の魔法陣っ!
「メイシャーッ!!」
ラケインが叫ぶ。
「ラク様!来ないでください!」
駆け出そうとしたラケインをメイシャが拒む。
「私は大丈夫です!
だから、ラク様もお気をつけて。
はやく5か8を引いてくださいね。」
そう言ってメイシャの姿は、光の粒となり魔法陣へと飲み込まれていった。
後に残された僕達は、静まり返った遺跡の中で立ち尽くすしかなかった。
「クッソーっ!!!」
ガァンっとラケインが、大剣を石床に叩きつける。
「ラケイン!メイシャは転移しただけだ、何も死んだわけじゃない!」
「当たり前だっ!
こんな所で、メイシャが死んでたまるかよ!」
今度は大剣を横に払って石柱を切り砕く。
「落ち着けって!
下手に魔法陣を傷つけたら、帰還できなくなることだってあるんだぞ!」
「落ち着いてなんかいられるかっ!!
メイシャなんて心配じゃないって言うのか!
お前だってリリィロッシュが同じ目にあったら、そんなに冷静じゃいられないはずだろ!」
ラケインが僕に掴みかかる。
「そうだ!
僕だってその時は冷静じゃない!
だから、その時はお前が冷静になって僕を止めてくれよ、ラケイン。」
ラケインの目をしっかりの見つめ返し、掴みかかってきた拳を両手で覆う。
「ラケイン。
メイシャは大丈夫だって言ったんだ。
だったら、僕達は僕達の出来ることをしよう。」
「…そうだな。
すまないアロウ。迷惑をかけた。
それにリリィロッシュ先生、失礼なことを言いました。」
「いえ、あなたの動揺は私だって理解しています。
もちろんアロウも。
だから、一刻も早くクリアするか、5か8を出して、メイシャを救いましょう。」
僕達は、頷き、ダイスを握りしめた。
龍種と思われる凶暴な魔物、落雷の嵐、視界を奪う霧と野獣の群れ。
炎を身にまとった魔狼、氷でできた蛇、鋼の様な甲殻に覆われた虫の大群。
様々な罠を突破するが、ダイスの目は、無情にも欲しい目が出ない。
「くそっ!バカにしやがって!」
「ラケイン、」
「分かってる、大丈夫だ。
だがこれは…きついな。」
ラケインの苛立ちは、メイシャの心配だけではない。
メイシャがいなくなった事で、パーティの負担が格段に増えている。
回復役がいないのはもちろん、ラケイン並のパワーと打撃での攻撃手段が失われたのだ。
「装甲系の魔物が厳しいな。」
そう言っていると、次に現れる文字は、
“甲冑の騎士王”
現れたのは、甲冑などとは程遠い岩石の塊。
剣と盾らしき岩を装備した、岩人形。
「ちょっと、ラケインがそんな事言うから…。」
冗談だとしても、そうぼやきたくなる。
目の前が光に包まれ、気がつくと森の中にいた。
「ラク様!」
光から抜け出し、辺りを見回すが、誰もいない。
ギギギギギギ…
ギャーッ、ギャーッ…
オッオオオオオ…
周り中から得体の知れない鳴き声が聞こえてくる。
「ここが…密林。」
長く旅をしてきたメイシャだが、こんな森は見たことがない。
異常に曲がりくねった木々の背は高く、葉が生い茂り、陽の光を遮っている。
しかし、薄暗いということもなく、周囲を見渡す分には十分な採光がある。
湿度が高く、土はぬかるみが多い。
そうしていると、バキッバキッと茂みを断ち割り、黒い影が現れる。
「でっかー…。」
メイシャが呆気に取られる。
現れたのは、体高が3mはあるだろう猛獣だ。
メイシャの身長程もある2本の牙、しなやかな体躯は強い膂力と優れた瞬発力が伺える。
牙魔豹によく似ているが、遥かに大きい。
魔獣が一足飛びにメイシャに襲いかかる。
「うわっ、うわぁぁぁ!?」
横に飛び退いて魔獣の攻撃を躱す。
しかし、そこにあわせて槍が飛んできた。
いや、槍じゃない。
「枝…??って、木が動いてるぅ~??」
遺跡の手前に見た、動く木だ。
よく見れば、奥の方の大木など、根を持ち上げ、完全に移動してきている。
あれが樹人か。
呆気に取られていると、牙の魔獣が再び襲いきってきた。
「もぅ!こっちはいそがしいんだってのぉ!」
大型の戦鎚·銀賢星で力いっぱい殴りつける。
空中で飛びかかる体勢にいた魔獣はそのまま真横に吹き飛び、大木の幹に叩きつけられ、そのまま黒いモヤとなった。
「うえっ!?消えた…。
そっか、ここは木も魔物も魔法で作られた擬似世界なんだ。」
気づいてみれば、確かに周囲の魔力の濃度は異常だ。
この濃厚な魔力で擬似世界を構成しているのか。
モヤとなって消えた魔獣の方を見ると、新しい魔獣が木々の奥から現れる。
明らかに異常発達した両腕をもつ大猿だ。
そして、後ろからは立派なタテガミを付けた獅子。
左からは樹人もやって来る。
そしてその奥にも様々な魔獣がひしめいているようだ。
「うぇぇ、これはいじめだぁぁ。」
メイシャは、観念したようにクレリックスターの先を地に下ろす。
目を伏せ、体の力を抜く。
「はぁ、ここに飛ばされたのが私だけでよかった。」
無抵抗のメイシャに、タテガミの魔獣が襲いかかった。
「…1人だったら。…この能力、使っちゃっていいもんね!!」
魔獣の鋭い爪がメイシャを引き裂こうとした瞬間、魔獣の身体は爆散する。
メイシャに降りかかるはずだった返り血は、どういった理屈なのか、煙となってメイシャに取り込まれる。
血煙の中から現れたのは、血のように紅い光を放つ双眸。
「偽物の生命だとしても恨まないでね、恨むなら、ここに私を呼び込んだあなた達を恨むことね。」
そして、惨劇の幕が開かれる。
メイシャの能力解放です。
この時点では、本編にも登場させてませんので、これ以上は掘り返しません。
後日の本編にご期待ください。