戦慄のゲーム
本編と同時進行は、精神的なテンションの差が出てしまってなかなか辛いですね。
■未知の項・ルコラの依頼③
僕は覚悟を決めてダイスを振る。
十二面のダイスは、見た目には木でできている。
軽い音をさせながら、石畳を跳ねながら転がる。
“3”
しかし、何も起こらない。
先程は光の玉がゆらゆらと動き出して、罠が発動したのだが。
「あれ、なんだろう。
なにか間違ってるのかな?」
とりあえずダイスを回収して周りを見渡す。
「あのう、ひょっとしたらですけど。」
メイシャがおずおずと、ラケインの影に隠れながら言う。
「多分、アロウ先輩の番じゃないんですよ。
私たちが四人、玉が四つですから。」
なるほど、言われてみればそうだ。
ということは、クリアするまでの罠の数が単純に4倍増えるということか。
「誰かがクリアすればいいと言っても、それまで耐えきれるかな。」
一気に疲労感が増していく。
「アロウ、そのダイスを離さないでください。
1度作戦を立てましょう。」
リリィロッシュが提案する。
「作戦?順番があるみたいだけど、あとは運次第で罠を突破するしかないんじゃない?」
このゲームはスゴロクだ。
なら、余程ダイススローのテクニックでもなければ、作戦も何もないと思うのだが。
「そこですよ、アロウ。
まず前提が違うのです。
恐らく、このゲームでは、罠を突破する必要はありません。
見る限り、魔法陣は複雑ですが、罠の突破を感知する仕組みはないのです。」
確かに、スタート地点にあった説明には、ダイスを振ってゴールすることしか書かれていなかった。
「じゃあつまり、時間がかかりそうな罠なら、クリアせずに次へ進むってこと?」
「ええ、それもありますが、先程アロウが言ったように、私たちには時間がありません。
可能なら罠を確実に潰すべきですが、封印系や発動系で拘束されるようなら、その仲間の救出は諦めるべきです。」
いくら凶悪な仕組みだろうと、仮にもゲームだ。発動しただけで死ぬような罠は使われていないはず。
ならば、発動した罠やギミックは、突破するのでなく回避した方が有効だ。
「見捨てる、か。
少し、辛いな。」
「いえ、信じるんです、アロウ。
仲間を。」
リリィロッシュは、かつて人間との戦争を経験している。
人間の立場からは想像しにくいのだろうが、魔族にだって感情はある。
部隊の魔族とは、不仲だったと聞いているが、それでも、そういう場面もあったのだろう。
「わかった、リリィロッシュ。
みんなもそれでいいね。」
「あぁ、わかった。」
「はい!そして一刻も早くクリアして解放してあげるんですね!」
僕達は互いに頷き、決意を新たにする。
「それじゃあ、次は誰かな?」
どうやらダイスは、部屋に入った順になっているようだ。
即ち、ラケイン、リリィロッシュ、メイシャ、僕だ。
ここまで、コウモリの大軍、巨大な杭の嵐、大型の鳥の群れ、水攻めなどの罠を突破した。
三巡目、メイシャが“8”を出すと、
“レベルアップ”
の文字が浮かぶ。
「ん?罠じゃ…ないのかな?」
「告知のようなものか。
するとレベルが上がるというのは…」
「私たちのレベルが上がっているという訳でないなら、上がっているのは罠の方でしょうね。」
嫌な予感しかしないが、ここで悩んでいても仕方がない。
僕はコロンっとダイスを振る。
“10”
光の玉が大きく進む。
そして現れた文字は、“鎧の王”。
玉が進んだマスからは、大きな魔法陣が浮かび上がる。
これまでに無い威圧。
現れたのは、
「大鎧獣っ…いや、もっとでかい!」
見たこともない野獣。
四足を地についてなお、その体高は見上げるほど。
その肌は硬質化した鎧のような皮膚に守られ、尾には棍棒のように膨れたコブがある。
肌を覆うような硬い皮膚が首周りを覆い、何よりその頭からは、巨大で鋭い角が三本も突き出している。
「くるぞーー!!」
ラケインの叫びで我に返る。
まるで猪種のような突進。
そのスピード、質量、そして瞳に込められた殺意。
全てがボアとは比べ物にならない。
これは防御に回るのは無理だと判断し、大きく横に飛び退く。
その瞬間、巨獣は僅かに首を下げ、突進の勢いのままに、鋭い角で石畳を掘り返し、辺りに振りまいた。
「ぐぅ…。」
方向転換による追撃を恐れた僕とリリィロッシュ、メイシャは難を逃れたが、カウンターを考え最小の回避しかしなかったラケインが、石畳の暴風を浴びる。
「ラケインっ!!」
「来るなっ!大丈夫だ!」
ラケインは、半月の魔鎧と大剣で身を守り、何とかダメージを抑えていた。
そして、リリィロッシュの魔法で牽制しながら、ラケインが巨獣の胴体にフルイーターをくい込ませる。
しかし、手強い。
表の世界なら、優に地方の主クラスはある。
これが、この先のマスのアベレージなのだとしたら。
これだけの戦闘をしながらも、冷たい汗が背筋を伝う。
リリィロッシュの言う通りだ。
このレベルの戦闘や罠を続けていたら、こちらの体力より時間などいくらあっても足りない。
どこかで、決断する時が来るだろう。
その時に向け、密かに心を固めるのだ。