ルコラの依頼
四校戦の前あたりのお話です。
「反逆者」のメンバーは、ギルドの看板嬢・ペンネの依頼で、ある遺跡を訪れます。
■未知の項・ルコラの依頼①
「謎の魔法陣…ですか。」
「そうなのさ。
見たこともない魔法陣になっていて、飲み込まれた人たちが誰も戻ってこないみたいなのさ。」
珍しく《砂漠の鼠》亭の受付嬢、ルコラさんから、依頼の要請があった。
なんでも、先週の大雨で郊外にある遺跡が崩れ、未発見の通路が発見されたらしい。
通路は大広間に繋がっていて、そこには、巨大な魔法陣が描かれており、調査に向かった冒険者団を飲み込んでしまったという。
「つまり依頼内容は、調査団の救出、ですか?」
「…違うのさ。
依頼は、謎の魔法陣の破壊または封印なのさ。」
言いにくそうにルコラさんが告げる。
つまり、これ以上の被害が出る前に、謎の魔法陣を壊せ、という事だ。
囚われている調査団を見捨てでも。
こんな依頼、どこのギルドも引き受けたがらないだろう。
頭では分かっていても、割り切れるものではない。
まして、調査団の身内には、確実に恨まれてしまう。
「無理にとは言わないのさ。
うちも引き受けたくないのは山々の案件だし。」
ルコラさんは、務めて明るくそう呼びかけた。
やりたくはない。
しかし、誰かがやらなくてはならないのだ。
見知らぬ人間とはいえ、自分のやりたくないことを他人に押し付けるのは、それも気が引ける。
それに、僕達なら救出の可能性も十分にある。
元魔王と現役魔族がいるのだ。
魔法陣は専門分野と言ってもいい。
「分かりました。
念のため、依頼期間は二週間もらいます。
二週間経ったら、遺跡を破棄してください。」
これは、2週間以内に完了の報告がなければ、飲み込まれたものと思って、遺跡を破壊することを指す。
調査団と同様にだ。
「分かったのさ。
引き受けてくれてありがと。
救出や調査は依頼内容じゃないのさ。
くれぐれも、無事に戻ってきて欲しいのさ。」
ルコラさんの激励を受けて、僕達「反逆者」のメンバーは、郊外の遺跡へと向かう。
遺跡付近の森へたどり着いてすぐに気がつく。
「…これ…。」
メイシャは、顔を青ざめて口元を手で覆う。
「澱んでますね。それも類を見ないレベルで。」
遺跡内部ならともかく、その手前の森でさえ、かなりの魔力によって空気が澱んでいた。
既に森の木々の一部が魔力によって変質を始めている。
「ギギギギッ…!」
動かぬはずの木が、こちらに向けて枝を伸ばす。
Eランクの魔物、動く木だ。
このレベルならまだ討伐も容易だし、魔力さえ払えば元に戻るだろう。
しかし、より高位の樹人や樹巨人が出てくるようになれば、被害は恐ろしいことになってしまう。
「急いで遺跡へ向かおう。
もうあまり時間はないのかもしれない。」
遺跡の中は簡単な作りになっていた。
入口から広く短い通路があり、すぐに広間に出る。
広間の周辺には、いくつかの小部屋があり、食料倉庫や待機所、竈などがあり、集会などが開かれていた施設だと考えられている。
「こちら側は、特に異変は無さそうですね。」
リリィロッシュと僕で、既に発見されていた遺跡を確認する。
通路と広間と小部屋、それだけの小さな遺跡だ。
しかし、だったら尚更に人を飲み込んで返さないような危険な遺跡がすぐ近くにあるのはおかしいのだ。
「何かの関係があるはずなんだけど…。
これ以上はもう片方を見て見ないと分からないのかもね。」
とはいえ、専門の訓練を受けた調査団が戻ってこられないような遺跡だ。
ノーヒントでそっちへ行くことは、できれば避けたい。
そこで付近を哨戒していたラケインが僕に問いかけてきた。
「アロウ。俺は魔法には無学だが、人が飲み込まれるって言うのは、具体的にどんな状況なんだ?」
「んー、人が消えるってことは、転移系か封印系の魔法陣だろうね。」
「遺跡に罠がある場合、殆どは迎撃用の罠です。
転移系ならば密林や洞窟、魔物の巣へ放り込まれたり、封印系ならば永続トラップである可能性が高いですね。」
「うわぁ、えげつないですねぇ。」
メイシャは、苦虫を噛み潰したような顔をする。
まぁやられる方のみになればたまったものではないだろうが、魔王軍と人間の戦いでは、お互いによく使った手だ。
「アロウ、やはりここでは何も見つけられません。
何より魔力が濃すぎて魔法の痕跡が分かりませんね。」
「そうだね、やっぱり新しい遺跡へ行くしかないか。」
僕達は、がけ崩れのあった斜面へと向かう。
「ここが今回見つかった通路ですね。」
メイシャが中をのぞき込む。
光の魔石が所々に配置されており、薄暗いながらも光源はあるようだ。
「メイシャ、何人もの調査隊が戻らなかった遺跡だ。
迂闊に近づくなよ?」
「わかってますよぉ。
でも結局は、入らないと分からないんですよね?」
まぁ。たしかにその通りだ。
僕の探知も、周囲の魔力が濃すぎて役に立たない。
するとラケインが尋ねる。
「それなんだが、中に入らないとダメなのか?」
通路は真っ直ぐに伸びているようだが、中は薄暗く広間まで見通せないのは見ての通りだ。
どういう事かとラケインを見返すと、
「いや、保全するならともかく、今回の依頼は封印だろ?
なら、広間当たりの天井を崩して覗き込めないのか?」
「はぁ!?」
とんでもないことを考えつくな。
確かに、今回の依頼なら遺跡を壊しても構わない。
それにリリィロッシュなら、遺跡上の土を吹き飛ばすことも可能だ。
「…ラケイン。それだ。」
僕達は、遺跡付近の発掘を始める。
リリィロッシュが広範囲の風魔法で遺跡を覆う土を吹き飛ばす。
埋まっている大岩や大木をどかすのは、ラケインとメイシャの仕事だ。
僕は水魔法で遺跡の外縁を洗い流す。
「リリィロッシュ、もう少し右。
岩盤が乗ってる。
メイシャ、その切り株そっちへ落として。」
そして問題の広間が見つかると、ラケインが天井の一部を切り崩す。
すると、この魔法陣の全体図が見える。
「これは…なんなの…?」
リリィロッシュも首を傾げる。
こんな魔法陣は見たことがない。
広間の床にはたしかに図形が描かれている。
しかしそれは、四角や丸の羅列が乱雑に繋がっているだけだ。
しかし、僕は知っている。
「冗談じゃないぞ…。
何でこんなものが残っているんだ…」
嫌な汗が背筋を伝う。
「アロウ、知っているのか?」
「これは…“遊戯迷宮”だ。」
往年のアメリカ映画「ジュマンジ」(95')です。
ジュマンジ、ジュウマンジ、10ま…
ごほんごほん、いや、なんでもありませんよ?