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0 展望
ビルに囲われた曇天の下を、人々は歩いていく。各々の目的地をその目に見据えて、交差点を渡っていく。
しかし、雑踏が鼓膜を揺らすことはない。この世界を彩るのは自分で選んだ音楽だけ。
ふと、交差点の中心で足を止めた。
自分は、どの向きへ進めば良いのだったか。
ポケットから携帯を取り出して液晶に目を落とすと、地図を開いた。地図が示した方向に体を向けて、また歩きだす。
そういえば新しいニュースは入ったのだろうか、掲示板を見てみよう。今日もまたどこかで誰かが亡くなったらしい。地球の反対側の誰かが事件を起こしたらしい。国会がまた税率について議論しているらしい。でも、どれも自分には関係のないこと。
誰かと肩をぶつけた。
その人は何かを言っていたようだったが、目を伏せてさっさとその場を離れた。
気が付くと、交差点を抜けていた。
自分がこれからどこに行くかもわからないまま。