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Youは何しに異世界へ⁉︎

作者: かすたどん

コンセプト:あの番組のパロディ

文字数4500

執筆期間5日

Youは何しに異世界へ?



100以上の異世界を結ぶ、この世界最大の魔法陣ポートで。

わたしはひたすら『You』に声をかけていました。


「こんにちは。インタビューよろしいですか?」

「ああごめん。すぐ乗り換えなんだ、またの機会に」

「そうでしたかー。お気をつけ……あ、そちらの方、インタビューを」

「俺? 俺はこっちに帰ってきた現地人だぜ?」

「す、すみません! ああそちらの方、お時間よろしいですか?」

「ククク……我に目をつけるとはお主も邪眼の持ち主かーー」

「ごめんなさい人違いでしたっ!」


わたしは自分からインタビューを打ち切りました。

ああいう放送コードに掛かりそうなYouはボツなのです。

一応公共の電波で流す番組ですからね。そこには気を遣わなければなりません。



こんにちは、わたしはレキ・フォールマンです。



Youは何しに異世界へ⁉︎ の密着レポーターをやっています。

あ、『Youは何しに異世界へ⁉︎』は、わたしたちの世界で1番人気の番組なんです。

異世界を行き来するYou(勇者)を魔法陣ポートで待ち伏せ。

わたしたちレポーターがYouに突撃インタビュー。

そして、おもしろそうなYouの滞在に密着しちゃう番組です。


サクラなし。

演出なし。

ノンフィクション。


リアルなドラマを楽しむ新感覚バラエティ。

しかしその舞台裏は結構苦労が多くて……


「ああ、次が今日最後の便なんですねぇ……」


わたしは魔法陣ポートのロビーため息を吐きました。

夜明けと共に張り始めて8時間が経過しましたが、密着取材の約束はゼロ。

ちょこちょことインタビューはできているのですが、ピンとくるYouは現れません。

さっきみたいなアブないYouもダメですが、面白味に欠けるYouもダメです。

未だにこのバランス取りには苦労させられますねぇ……。

最後の便に望みを託して、ゲートで待ちます。

すると。


「#$%€£$?^*+⁉︎ @¥#£=+*⁉︎」


ワケのわからない声が、聞こえてきました。

ゲートの向こうです。

反射的にゲートの奥を覗き込むと、そこには珍しい黒髪黒目の青年You。

魔法陣ポートの警備員と揉み合いを起こしていました。


その光景を見た瞬間ーー


「いい……すごくいいです……っ」


わたしの中で『おもしろYou発見センサー』が激しく鳴り響きました。

これです。

こういうのを求めていたんです!

あ、警備員がゲートの外に投げとばしました。

直感を信じて、わたしは黒髪黒目Youに近づきます。


「こんにちは。インタビューよろしいですか?」

ちょ、ここどこ(¥;€>%)⁉︎ てか言葉わからない(@^&¥€\)!」


うーん、こちらの言語がわからないYouのようです。

しかしご安心を。ここに魔法のかかった通訳シールがあります。

これをYouに貼り付ければ……。


「どうして? 確か俺はガケから落ちたハズじゃ……」

「まあ、ガケから落ちられたんですか。大変でしたね」

「え、言葉が通じてる⁉︎」

「こんにちは。わたしはレキです。あなたは?」

「…………佐藤、大地」

「じゃあダイチさん、改めてインタビューいいですか?」



「Youは何しに異世界へ?」



「…………」

「…………」

「何か言ってくださいよぅ」

「何を言えばいいんだ」

「それだと番組が成立しませんよぅ」

「そんなこと言われても……」


やれやれこれだからシロウトさんは……

と、肩をすくめた瞬間。

ダイチさんは「あ」と声を漏らしました。

何か思いついたような表情です。


「なになに、やりたいことがあるんですか?」

「ああ。一応思い付いだけ。やっぱ異世界に来たからには……」

「からにはぁ……?」



「ハーレムをつくってモテモテになってやるぜ!」



「…………」

「…………」

「何か言ってくれよ」

「…………ざ」

「ざ?」

「斬新……」


わたしの選You眼に狂いはありませんでした。

いにしえの古来から一夫一婦制が続き、浮気と不貞が死罪という倫理観溢れる超健全世界でハーレムをつくると豪語するなんて。

何というチャレンジ精神!

恐れ知らずなおもしろYouです!

わたしはダイチさんの手をガッシリと握りしめました。


「是非そのハーレムづくりに密着させてください!」

「密着? まあ別にいいけど……この世界のことよく知らないし」


密着決定です!

今回のYouは……ハーレムづくりに命を賭けるYou。



この後、ハーレムYouが異世界の婚活パーティーで大暴れ!



★★★★★★★★★★



次の日。

朝チュンと同時に宿屋に向かいます。


「というわけで、具体的な予定など聞かせてほしいのですが」


ロビーで待ち合わせをして、ダイチさんとお会いしました。

今後の展開について質問すると、ダイチさんは気まずそうに頭をかきました。


「昨日は勢いで言ったけど、ぶっちゃけノープランだからな……」


まあ、なんという計画性の無さでしょう。

しかしYouなんてだいたいこんなものです。

道中で目的地を大幅変更したり。

待ち合わせ時間に現れずそのまま連絡が途絶えたり。

ヒッチハイク旅のはずが飽きてすぐ電車を使い始めたり。

その辺の理解を示しながら発言を待っていると、ダイチさんは「そうだ!」と手を打ち鳴らしました。


「とりあえず1人目は奴隷市ってのがテンプレだよな」

「奴隷市? この世界では人身売買禁止ですよ?」

「じゃあ……クエストを受けて依頼者の女性と仲良くなるのは」

「クエストはありません。あ、ギルドもありませんからね」

「じゃあモンスターがボクっ娘になったりーー」

「モンスターはいますけど、人化した話は聞きませんね」

「あー! 詰んだ! 俺のハーレム計画全部潰れた!」


ダイチさんは現実逃避をするかのように耳を塞いで、しゃがみ込みました。

むむむ。今回のYouはとりわけ計画性がないタイプのようです。

しかしこの密着取材レポーターレキ、諦めるわけにはいきません。

何としてもこのダイチさんには視聴率を稼いで貰わなくては。


「よかったらコレ、行ってみませんか?」

「これは……婚活パーティーの招待状?」

「はい、最近こちらの世界では空前の婚活ブームでして!」

「えらく現実的かつ俺のいた世界と共通してるんだが……いいか」


決まりです。

ダイチさんはイマイチ納得のいかない表情で「思ったより異世界っぽくないなぁ……」と呟いていますが無視しました。

そのままわたしたちは婚活パーティーの会場へ。

大きなゲストハウスを貸し切った中に、数十名の男女が集まっていました。

ダイチさんは手続きをするために受付へ。

わたしたちは責任者を呼んでもらい、取材交渉です。


「失礼します、『Youは何しに異世界へ⁉︎』の取材で……」

「ああ、よく見てるよ。ファンなんだ。中へどうぞ」


取材オッケーが出ました。有名番組の強みです。

ダイチさんから遅れて10分後、わたしたちは会場に潜入できました。

お、ダイチさんを発見しました。

独りで軽食をとっています。

ちらちらと女性グループを窺っていますから、ターゲットを定めているとこなのでしょう。

あまり近づくと邪魔になると思ったので、少し距離をとってカメラさんに撮影をお願いします。



10分が経ちました。



30分が経ちました。



1時間が経ちまーー



「ちょっとダイチさん!」


たまらずわたしは、食べてばかりのダイチさんに詰め寄りました。

こんな映像1時間も撮って何に使えっていうんですか。


「で、でもなぁレキ。俺、女の子と付き合った経験ないし……」

「そんなにウジウジして! それでもダイチさんYouですか⁉︎」

「いや、You(勇者)ではないけど……」

「女なんて『君は他の女性と何か違うね』とか『君は特別だよ』って言っておけばコロッと落ちますから!」

「女のレキがそういうこと言う?」

「とにかく! フラれてもいいから口説いてください! いいですね⁉︎」


後のことはカメラマンさんにお願いし、肩を怒らせながらお手洗いへ。

とにかく、番組のためにおもしろいVTRが必要なのです。

怒りたくはありませんが、心を鬼にしなければ。



……そして10分後。



わたしはお手洗いを出て、再びダイチさんのいた場所へ向かいました。

すると……ダイチさんは無事に女性3人に囲まれていました。

うんうん、さすがはYou。

やればできるじゃないでーー


「『君は他の女性と何か違う』って言ったじゃない!」

「ウソ⁉︎ わたしも『君は特別だよ』って言われたわ!」

「わたしなんて両方よ! サイテー! この女たらし!」





わたしの思ってた囲まれ方と違う。





修羅場です。

誠に遺憾に思わずにいられないことこの上なしです。

というか番組的にもマズイです。

ある程度のトラブルはスパイスになりますが、ここまで騒ぎが大きくなるとスパイスが効きすぎて放送コードに引っかかる可能性大。

せっかく見つけたダイチさんの映像がお蔵入りになってしまいます。

ここはわたしが止めに入って……


「あ、あの、この方実は……」

「あなたも被害者ね⁉︎ 言ってやりなさい!」

「サイテー男! どれだけ節操なしなのよ!」

「こんな若い娘まで弄ぶなんていい度胸してるわね!」


一味に加えられてしまいました。

どうしましょう、これではますます収拾がつきません。

わたしがあたふたと混乱していると……


「違う、誤解なんだ!」


ダイチさんが火事場の馬鹿力を発揮しました。

真剣な声に、女性3人も沈黙します。

そしてダイチさんはすぅーっと息を深く吸い込んで。





「俺はここにいる全員を、平等に愛せるっ!」





そう宣言しました。

対する怒り狂った女性たちは……





「「「ざ、斬新…………」」」





堂々としたハーレム宣言に、女性3人は手のひらを返しました。


「素晴らしい甲斐性ね。良かったらお話しない?」

「男のやんちゃを許すのも女の懐ですもの」

「あなた面白いわ。こっちで飲みましょう?」


そのままダイチさんはその3人といい感じになり、パーティー終了の時には全員の連絡先と部屋の鍵を手に入れていました。

奇跡です、奇跡が起きたのです。

わたし個人としてはまったく納得行かない展開ですが、一応職務として改めて感想をうかがってみました。



ーーハーレム作りの第一歩、いかがでしたか?



「幸先のいいスタートが切れて良かったよ。

 あとはどうやって保たせるかが問題だね」



ーーダイチさんにとってハーレムとは?



「平等の象徴だね。

 100の愛を等しく分配するような平等じゃなく

 全員を全力で100ずつ愛するっていう平等さ、HAHAHA!」



まあ、なんと力強いお言葉でしょう。

少しうまく行っているからって調子に乗っている気がしましたが、ダイチさんに密着を決めて本当に正解でした。

これからも番組は、ダイチさんのハーレムづくりに密着しちゃいます。

今後の展開については近日中に放送予定!

お楽しみにー!








……ところでわたしは、何か大事なことを忘れているような?









★★★★★★★★★★



判決、主文。

被告人を、一夫一婦制度違反にて有罪とする。


この貞潔な世界でハーレムをつくるなどという極めて不潔な態度を示し、実際に複数の女性をたぶらかすという行為は、被告が異世界人であることを加味しても許されるものではない。

よって、情状酌量の余地はないと判断する。

また、そうした欲望を煽った番組側にも責任の一端がありーー



『Youは何しに異世界へ⁉︎』は打ち切りになりました、えーん。





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