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夏の魔法  作者: 真知
4/5

◆3話 明音の憂鬱3

雨脚は随分強くなってきた。時折黒い空に稲光が走り、雨音の合間から低い雷鳴が響く。


明音は重い足どりで家に辿り着いた。

店から2キロ先のマンションは通勤には多少不便だが、近くにスーパーやコンビニがあり、レンタルビデオ屋も徒歩5分。生活に必要なものは、近所で全て事足りる。

大学の頃から住み始めたマイホーム。もう8年になる。5階の501号室は、もちろんいつも真っ暗で、明音の帰りを静かに待っている。



鍵を開けると、いつもと変わらない暗い静寂に、廊下の光が射しこんだ。


「ただいま…」


誰もいない部屋に向かって、明音は呟いた。



明音は靴を脱ぎ、部屋に入った。

外の雨音と、吹き付ける風でガタガタ震えるベランダの音だけの部屋で、明音は電気もつけずにソファに寝そべった。


8年も経つ部屋は、色んなもので溢れかえっている。昔は

「まだ若いのに家庭的な家」とよく言われた部屋も、仕事に追われた日々の中で、いつの間にか手の施しようもないほど散乱し、泥棒が入ってもわからないほどである。


部屋には、去年昔からの友達が一度来たきり。あとは新聞の勧誘や宅急便のおじさんが来るくらい。

誰も人が来ない家なのだから片付ける必要がないのである。




部屋の暗さと静寂は、いつもと少しも変わらないのに、今日はいつになく明音の心を強く締めつけた。



「信吾……かぁ……。」



さっき帰り道でうっかり呟いてしまった

「信吾」という言葉によって、今まで封印していたはずの想いがこみあげてきた。


―今何してるのかな。




思い立った明音は、鞄の中から徐に携帯を取り出し、画面を開いた。暗闇に白い明るい光が明音の手から浮かび上がる。


番号もメールアドレスも残っている。誕生日も住所も全て3年前のそのまま。彼だけ変えてあった着信音は、もちろん当時流行った歌のままで、今では懐かしい歌特集なんかで耳にするものである。


その着信音は、もうあの日から鳴ることはない。


わたしが別れを告げたあの日から、もう決して鳴らない音である。



明音はメール送信画面を開き、彼のメールアドレスを入力した。

そして、件名に

「久しぶり」と打ったところで明音は思い止まり、携帯を閉じ、壁に向かって投げつけた。



もう忘れよう。

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