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プロローグ
『キスしねぇ?』
それは突然だった。今まで何事もなく過ごしてきたのに、その一言で一瞬に魔法をかけられた。
一瞬の沈黙…。
時は刻々と流れるのに、あたしの思考回路はショートした。
『いいの?ほんとにいいの?今まで培ってきたものが全部水の泡になるよ?』
『いいんだよ。どうせその気がなかったわけじゃないだろ?いつもちょっとは期待してたんだろ?』
頭の中の天使と悪魔の対決は、しばらくののち、悪魔に軍配があがった。
『いいよ』
二人は幸せのまどろみに転がり落ちた。
何も考えられなかった。
ただ、頭のずっと奥で、天使が叫んでいた。
『ほんとにそれでよかったの?』
天使の声を掻き消すように、わたしは無心で目の前の快楽に身を埋めた。