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僕の後輩  作者: 御馳走
3/8

彼が僕の後輩になるまで

 新年度が始まった。僕の部活は強豪なだけあってスポーツ推薦の人が大半だ。一部僕のように血迷った一般生や中高一貫であるがゆえの内部生がいる。大抵内部・一般組は、推薦組との力量差にたえきれず、入部一週間もすれば辞めていってしまい、一学年に二、三人しか残らない。そして、彼は内部組だった。

 彼への第一印象は『小さい』だった。男子お揃いの坊主頭が、部活指定のジャージに着られ、僕の胸の位置で跳ねていた。満面の笑みで。


「先輩、自分はこれから競歩チームに入るそうです。よろしくお願いします。」

「あ、ああ。よろしく。」

 五月頭に急に言われて、僕は驚いた。

「それは~顧問の指示?」

「はい!先輩には言えば分かると仰ってました。」

 そういうことか……。たぶん彼も練習に付いていけなかったのだろう。僕を厄介払いしたように、コーチに足手まといを任せようということだ。僕のマンツーマンの時間が減ってしまっては、より良い記録も残せないと思うのだけれど。別に僕や彼が記録を残せなくても、かまわないらしい。


「いや~先輩が見つかってよかったです!他の方に場所を聞いても分からないばかりですし。顧問に聞いても『奴は誰より早く練習を始めて、誰より早く帰るからな。レア度が高いぞ。』と言っただけで、行動の把握をしていないようでしたし。」

 それはそうだろう。僕が周りと接触しないためにそうしているのだから。

「僕は皆とメニューが違うからね。自由にやらせてもらってるんだ。」

 だからこそ僕は驚いたのだ。

「はい!知ってます!」

 元気な奴だ………。何故常に笑顔なのだろう。

「だから、誰より早く学校に来れば会えるってことですよね!」

「……君、始発ならここに何時に着く?」

「6時半ですかね!」

「……今は?」

「6時ですね!おはようございます!」

「おはよう。ってそうじゃない!どうやって来たんだ!」

「先輩?そんなに難しいことじゃありませんよ。第一例え始発で五時半に着けても、先輩より早く着くかは、自分には分からないんですから、残る選択肢は一つです!」

 何故嬉しそうなのだろう……。

「部室でずっと待ってればいいんです!」

「間違ってないけど間違ってる!」

 僕が自宅周辺で練習を済ませてたらどうするつもりだったのだろう。

「でも先輩、部内に先輩の連絡先知ってる人もいないから、仕方ないと思いませんか?」

 痛いところを突いてくる。

「いやいやいやいや、それにしたって午後練習の時でいいじゃん。授業終わる時間は同じなんだから、僕が練習始める前なら部室で会えるじゃん!」

 すると彼は神妙に頷きながら

「それもそうですね。そこに気がつくとは流石です!」

「当たり前じゃん!一般的な考え方だと僕は思うよ!」

 どうやらオツムが足りないタイプのようだ。

「細かいことを気にしてると大きくなれませんよ。」

「君よりはよっぽど大きいし、これ以上は要らない!」

「贅沢な話ですね~。ちょっと苛ついたので先輩には呪いをかけておきますね。」

 なかなかというか、随分と失礼な奴だ。 

「身長が伸び続ける呪いです!」

「やめろお!」

 初対面とは思えないコントを繰り広げていると背後から声が聞こえた。


「楽しそうなことをしているね~。」

 瞬間、僕の身体は自然と背筋が伸び完璧な回れ右をした。

「おはようございます。本日もよろしくお願いします。」

 コーチは僕の急変に吹き出しながら応える。

「ああ、おはよう。よろしくね。そっちの君は後輩君でいいのかな?」 

「はい、自分はこれから競歩チームの一員となります!よろしくお願いします!」

 彼は急なコーチの登場にも怯むことなく笑顔で礼をした。

「よかったね~。後輩ができたじゃないか。張り切らないとね。」

 コーチは微笑を浮かべてそう言うが、どちらかといえば彼の方が、張り切っているのではないだろうか。

「後進に情けない姿を見せないよう、より一層努力します。」

 正直に言ってしまえば後輩は欲しくなかった。一から教えなくてはならないだろうし、練習のペースも合わせなければならない。本当の所は邪魔だったのだ。

「良い心掛けだね。それじゃあお喋りはこれぐらいにして、今日の練習を始めようか。」


 コーチは僕に後輩ができることに関して反対の意志はなさそうだった。僕は内心溜め息をつきながらグラウンドに向かった。

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