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迷子の…  作者: 如月冬美
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 翌日、お兄さんに誘われ森へと向かった。奥へ奥へと進むお兄さんを見失わないように一所懸命ついて行く。周りの景色を眺める余裕もなく、ただひたすらお兄さんの後を歩いていた。やがてお兄さんはそびえ立つ一本の巨木の前で足を止めた。

「………ここで君を見つけた」

 思いがけない言葉に驚いた。

「ここで……」

 呟きそっと幹に触れる。

 あの日、大切にしていた髪飾りを取り戻そうとわんこを追いかけて異世界ここに来た。出会ったお兄さんを好きになった。まだ三ヶ月ぐらいなのに何年も過ごしたような気がする。お兄さんとの生活にそれぐらい馴染んでいた。

「………」

「………」

 二人とも何も言わなかった。ときおり吹く風が梢を揺らしさわさわと葉擦れの音がする。静かで穏やかな時間。

 このまま時間が止まればいい。そんなことを本気で思ってしまう。でもいつまでもこうしていられない。

「…ありがとうございます」

 お兄さんがなぜここに連れて来てくれたのかはわからない。だけど心はとても穏やかだった。お礼を言えばお兄さんは微笑み返してくれた。

 そして帰り道。木の根に足をとられ私はものの見事に足を捻った。お兄さんに言われるまま適当な場所に座ると怪我の具合を診てくれた。

「…捻挫だな」

「ごめんなさい…」

 自分がこんなに鈍臭いとは思わなかった。

「次はもっと気を付けるんだぞ」

「はい」

 素直に頷くといきなりお姫様抱っこされた。

「お、お、お、お兄さん…⁉︎」

「なんだ?」

「降ろしてください」

「駄目だ」

「で、でも…私、重いし」

「重くない」

「え?」

「軽過ぎる」

 重くないのセリフはお約束としても「軽過ぎる」はオーバーじゃないだろうか。

「けっこう食ってるのになぁ…」

「そ、それはお兄さんのご飯が美味しいから…」

 慌てて言い訳をする。

「そうか?」

「はい」

「気を使わなくていいぞ?」

「使ってません」

「本当に?」

「本当ですってば!コニーのご飯よりも美味しいですよ」

 あ、しまった。バラしちゃった。ん?なんだかお兄さん嬉しそう。

「それは光栄だな」

 あ、嬉しかったんだ。でもコニーが知ったら拗ねるから口止めしとかなきゃ。

「あ、コニーにはナイショね」

「わかった。二人だけの秘密だな」

 囁かれた。耳元を掠めた声に背中がゾクゾクする。一気に体温が上がる。

「!」

 きっと真っ赤なんだろう。私を見てお兄さんが声をあげて笑う。

「あはは、可愛いな」

「お、お兄さん!」

「ん?」

「からかうのやめてください」

「からかってないぞ」

「〜〜〜っ!」

 ダメ。もうダメ!恥ずかしすぎる!お姫様抱っこだけでも恥ずかしいのに耐えられない。更に赤くなっただろう顔を隠すにはしがみつくしかなくて。ぎゅっとしがみつけばさらに笑われた。

「…意地悪」

 意地悪。意地悪!意地悪‼︎睨んでみても平気な顔してるし。

「知らなかったか?ああ、エミが知らないことはまだあるな」

 お兄さんがたまにすご〜〜〜く意地悪なのは知ってるもん。…私の知らないことってなんだろう?気になる。いっぱいあると思うんだけど。でもこういう言い方するってことは訊いてほしいってことかな?

「……なんですか?」

「俺がエミを好きだってこと。もちろん女性として、だぞ」

「え………?」

 お兄さんが?私を?好き……?

 あり得ない。あり得ない。あり得ない。お兄さんみたいにカッコいい人が私を好きになるなんてあり得ない。

 私は異世界人で。マロウドで。いつかいなくなる人間で。

「好きだよ、エミ」

「………」

 何も言えずにいる私を見てお兄さんが困ったように微笑む。

「悪い。言えば困らせるってわかってたんだけどな。俺ももう限界だったから」

「…限界?」

「エミのことが好きで好きで。好き過ぎて何も言わずに『お兄さん』するのはもう無理」

 お兄さんは軽く言う。

「あ………ご…」

「謝るなよ。謝ってほしいわけじゃない。ただ俺が言いたかっただけ。もちろん『お兄さん』から昇格してくれれば嬉しいけど」

 口の端だけを上げる笑い方はワイルドな顔立ちのお兄さんによく似合ってる。でも初めて見る笑い方だ。

「…悪い顔してる」

「ははは!バレたか。こういう言い方すれば優しいエミは『お兄さん』から昇格してくれるかと思ったんだが」

 失敗失敗と笑うお兄さんはきっとワザとやってる。

 本当に優しいのはお兄さんだよ…

「…私のこと、いつから?」

「最初から可愛いとは思ってた」

 話しながらヒョイと木の根を避ける。私を抱えていることもハンデにはならないみたい。

「頼られるのも嬉しかった」

 歩きながら、考えながらお兄さんは話す。

「ハッキリいつから…とは言えないな。気付いたらどうしようもなく好きだったから」

 気付いたらどうしようもなく好き。それは私も同じ。私は気付いた途端、手遅れだって思っちゃったけど。

「エミ」

 あ、この声。お兄さんが大事な事を話す時の声だ。

 顔を上げると目が合った。

「エミはこれからどうする?」

「?」

「俺と一緒に暮らせるか?君を好きだと言うおとこと暮らせるか?」

「あ…」

「もちろん無理矢理なんて卑怯で最低の事はしない。けど、たぶん、きっと、いや、必ずスキンシップは増える」

「……え…と………」

「今までみたいに頭を撫でるだけじゃなくて抱きしめたり…額や頬なんかに口付けも確実にする自信がある」

 そんな事に自信なんか持たないで!

 突っ込みは言葉にならず私は口をパクパクさせるだけ。

「……悪い」

 私の言いたい事がわかったのだろう。目を反らしたお兄さんの頬がかすかに赤くなっている。


 照れてるお兄さん、なんか可愛いです!

開き直ったお兄さんが一気に仕掛けました。

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