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迷子の…  作者: 如月冬美
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 お兄さんのお家は森の中にありました。一階にリビング、ダイニングキッチン、研究室。二階は部屋が四つ。なかなかの広さです。

「少し狭いが…この部屋でいいか?」

 お兄さんは狭いと言ったけど六畳ほどの広さがある。日当たりの良い部屋の中には寝心地の良さそうなベッド。天井まで高さがあるクローゼット。あとは机と椅子。

「はい。ありがとうございます」

「こっちにトイレとシャワーがある」

 お兄さんは丁寧に使い方を説明してくれた。日本と大差ないレベルの水回りに安心する。不便は感じなさそう。

 部屋が決まると一階に戻る。

「適当に座っててくれ」

 言われた通り座って待っているとお兄さんはすぐに来た。両手に持っていたカップの一つを私の前に置く。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 カップの中には薄い色の液体。一口飲むと爽やかな香りが口いっぱいに広がった。ほんのりと甘みもある。

「美味しい。これ、なんですか?」

「コニーがブレンドしたハーブティーだ」

 へぇ。そういえばハーブ育ててるとか言ってたな。

「コニー、凄い」

 正直に言うとお兄さんが目を細めて優しく微笑んだ。眼福!心臓バクバクだけど。

「コニーが喜ぶな」


 そうかな?そうだといいな。






 異世界こっちに来て三ヶ月が過ぎました。ようやく慣れてきた感じがします。

 キッチンの使い方もバッチリ覚え朝食作りが私の仕事になりました。他に任されてるのは食器洗いと洗濯、お兄さんが研究している植物達の水やり。

「おはよう」

「おはようございます」

「今日は上手くできたみたいだな」

 テーブルに並べた料理を見てお兄さんが悪戯っ子のように笑う。

「最初、ちょっと焦がしただけじゃないですか」

「あれをちょっととは言わないと思うぞ」

「お兄さんの意地悪!」

 睨んでみでもお兄さんはまだ笑ってる。迫力不足なのはわかってるけどそんなに笑わなくてもいいと思う。

 この三ヶ月でお兄さんの笑顔にもだいぶ慣れた。最初の頃のような心臓壊れる!っていうバクバクも落ち着いて、今は普通にドキドキしてる。お兄さんがドストライクのイケメンさんなのは変わらないからね。

「おはよー!」

 元気な声がしたと思った時にはぎゅーっと抱きしめられていた。

「エミ、元気だった?今日も可愛いね」

「コニー、苦しいから離して」

「え〜〜ヤダ」

「…ご飯作れない」

 言った途端、ぱっと離れてくれた。わかり易い。

 コニーとはすぐに仲直りできた。お兄さんの家(ここ)に来た日の夕方、コニーが来てくれたのだ。私のために用意した着替えを持って。結局、コニーの家には戻らなかったけどお兄さんが何日も家を空ける時は泊まりに行っている。

 そして私が朝食作りを任されてると知ってからはこうしてちょくちょく朝ごはんを食べにやってくる。日本ではごく普通のモーニングメニューが気に入ったらしい。

「わざわざ来なくても自分で作ればいいじゃない」

 フライパンを温めながら言うとコニーが軽く拗ねる。

「エミのご飯がいいの」

「なんで?」

「美味しいから」

 これ言われたら大抵の人は仕方ないなぁって気になるよね。

「コニーのご飯も美味しいよ」

「そうかな?」

「私は好き」

 喋りながら玉子を落す。ジューっといい音がする。

「目玉焼きなんて油引いて、玉子落として、塩コショウして焼くだけだよ」

「そうなんだけど…」

 コニーが大きく溜息を吐く。気持ちはわかるよ。同じ材料、分量、手順で作っても人が変わると味も変わるんだよね。料理って不思議。

「何度やってもエミみたいに作れないんだよねぇ」

 再び溜息。

「溜息吐くと幸せが逃げるよ」

「なにそれ?」

 コニーがぱちぱちと音がしそうなぐらい不思議そうに目を瞬かせた。

日本むこうではよく言ったり聞いたりする言葉だよ」

「初めて聞いた!お兄ちゃんは?」

 コニーがいつものように黙って私達のやり取りを聞いていたお兄さんに振る。

「俺も初耳だ」

 へぇ。異世界こっちでは言わないんだ。

「そんな事例があるのか?」

「いえ、特には。軽い励ましのようなものじゃないかな、と」

 あ、そろそろ焼けたかな。皿に移した目玉焼きをコニーの前に置く。

「はい、コニー。できたよ」

「わー!ありがとう!」

 コニーとお兄さんが手を組み「今日の糧に感謝を」と短く祈る。私はもちろん「いただきます」と手を合わせる。

「ん〜〜!やっぱりエミのご飯、美味しい〜ぃ!」

「も〜コニーってば大げさだよ」

「大げさじゃないって!ね、お兄ちゃん」

「ああ」

 お兄さんに肯定されて頬が熱くなる。

「いつでも嫁に行けるな」

「お兄ちゃんが嫁にもらえば?」

「コ、コニー!」

「あはは!エミってば真っ赤だよ」

「だって!」

「ね、本気で考えてみない?お兄ちゃんとエミならお似合いだし」

「だから…お兄さんも何か言ってください!」

「…嫁にくるか?」

 真面目な顔でお兄さんが訊いてくる。

「⁉︎お兄さんっ⁈」

 本気⁈本気で言ってますか⁈冗談ですよね⁈

「ははは!冗談だ」

「も、もうっ!」

 兄妹揃ってタチの悪い冗談はやめて!


 久しぶりに心臓壊れるかと思った…

コニーは本気。

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