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今後どうするかは大まかに決まりました。で、具体的な話になった途端コニーと揉めました。しばらくはお客さん扱いしたいコニーとされたくない私。ずっと平行線のままです。
「コニーだってしなきゃいけない事、いろいろあるでしょ?私にばかり構ってるわけにいかないでしょ?」
「大丈夫だって。たまにお兄ちゃんの仕事手伝うぐらいであとはハーブを育ててるだけだもん」
「ほら!やっぱりする事あるんじゃない」
コニーの気持ちは嬉しいよ。一日、二日で帰れるとかだったら喜んでお客さんになる。でもいつ帰れるかもわからないのに甘えるわけにはいかない。
「でも」
「わかった。もういい」
ごめん、コニー。
「コニーがそういうつもりならお兄さんの所に行く」
「え?」
「お兄さん。迷惑とは思いますがお願いします。家事でも雑用でもなんでもしますから私をお兄さんの所において下さい」
深々と頭を下げる。
「………わかった」
お兄さんはしばらく考えてから頷いた。
「俺は君に部屋と食事を提供。こちらのことは手の空いた時に教える。君は俺に労働力を提供。これでいいか?」
「はい」
「ダメ!絶対ダメ!」
コニーが目に涙をいっぱい溜めて見つめてくる。ホントごめん。
「コニー。俺がさっき言ったこと覚えてないのか?俺は全て教えろと言ったんだ。客扱いしろとは言ってない。それでは彼女のためにならない。優しさと甘やかしは似ているようで全く違うぞ」
「でも」
「コニー、返事は?」
「………」
睨むだけで返事をしないコニーにお兄さんがわざとらしい溜息を吐く。
「そうやって好きなだけ拗ねていろ。行こうか」
「あ、はい」
びっくりした。こんなにあっさり突き放す人とは思わなかった。
お兄さんの後について森を歩く。しばらくしてお兄さんが足を止めた。
「休憩にしようか」
「え?」
戸惑う私にかまわずお兄さんは倒れていた木に腰掛ける。
「少し話がしたい」
「あ、はい」
そう言えば私、お兄さんのことほとんど何も知らない。
少し間を空けて隣に座る。
「………」
「………」
えーと?お話するんでしたよね?
「…その……すまない」
「え?」
なに?なになになに?なんで謝られてるの?
「コニーが迷惑をかけた」
「いえいえ、そんな。迷惑だなんて。コニーはずっと親切にしてくれました。私の方こそ恩を仇で返すようなことしてごめんなさい」
「君が謝る必要はない。あれはコニーが悪い。…いや、俺も悪いか。コニーを甘やかしたのは俺だからな…」
そっと伏せた睫毛が長い。お兄さん、憂い顔もステキです!
「だ、大丈夫!」
「?」
「コニー、良い子ですもん。お兄さんの言った意味もわかってくれますって!」
だってお兄さんはコニーを甘やかすだけじゃなくて叱ることも出来る人だから。そんなお兄さんが身近にいてちゃんとした子に育たないはずない。
「コニーはお兄さんの妹ですよ。まずお兄さんが信じなくちゃ」
「ありがとう」
偉そうなこと言っちゃったのにお兄さんは怒らなかった。内心では「ガキが生意気言ってるな」って思ってるのかもしれないけど。
「お、お礼なんて…。私がお客さん扱いなんて考えただけで落ち着かないだけですし。」
貧乏性というか日本人気質というか。働かざる者食うべからずって言葉もあるしね。
「若いのにしっかりしている。親御さんの教育がいいのか?」
いえいえ。うちの親は揃ってテキトーですよ?私がマトモに見えるのはおじいちゃんおばあちゃんのおかげです。
「別にそれほどでは…」
コニーの方がしっかりしてると思うけどなぁ。十六で一人暮らしなんて中々出来ないもん。
「あれ?そういえばお兄さんておいくつなんですか?」
「ん?ああ、俺は二十三だ」
「二十三…五つ上かぁ」
もう少し上かと思ってた。異世界の人はみんな少し上に見えるのかな?コニーとお兄さんしか知らないからわからない。
「え?五つ?」
「はい」
「…じゅう、はち?」
「はい」
「………嘘だろ」
お兄さん、驚きすぎです。そんなに十八には見えませんか?
「てっきりコニーより下だと…」
あ、コニーと同じこと言ってる。兄妹揃っていくつだと思ったんだろう?訊いたらなんかとんでもない答えが返ってきそう。
「…油断した」
「え?」
「いや、なんでもない」
微笑まれて心臓が跳ねた。あう〜やっぱりステキ。カッコイイです〜。
「あ、あとお兄さんの仕事ってなんですか?」
気を取り直して質問する。
「植物学者だ」
「学者さん⁈」
細マッチョで、ワイルド系で、犬、なのに学者?騎士とかじゃなくて?
またしてもお兄さんに驚かされた私です。もうお兄さんは私を驚かせるために存在しているとしか思えません。
なんか驚いてばかりなんだけど私の心臓、大丈夫かなぁ?
お兄さんは学者さんでした。