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迷子の…  作者: 如月冬美
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 徹夜しました。眠いです。

「…コニー、眠くないの?」

「別に」

 爽やかに言われました。これは若さの差でしょうか?世界の差でしょうか?

「これでも飲んで目を覚まして」

 そう言ってコニーがコトリと目の前に置いたカップには毒々しい赤い液体。

「…いただきます」

 出されたものは残さず食べろが佐倉家わがやの教えです。

 曰く「作った人に失礼だ」

 曰く「食事はコミュニケーションの第一歩」

 曰く「食べられないものは出さない」

 まずは一口食べろ。文句は食べてから言え。食べずに文句を言う資格はない。と、物心つく頃から刷り込まれているので思い切って一息にいきました。

「苦っ‼︎」

 苦い苦い苦い!メチャクチャ苦い!

「目が覚めたでしょ?」

 訊かれてこくこく頷く。だって喋れない。コニーはイタズラ大成功!とばかりにニコニコ顔。

「はい、お水」

 渡された水をゴクゴク飲む。う〜まだ苦味が取れない。もう一杯貰おう。

「よく飲んだね」

 コニーが苦笑する。

「へ?」

「これ飲み干したのエミが二人目」

 二人目ってなに?もの凄〜くイイ笑顔で言ってくれちゃってるけど冗談でも笑えないよ!こんなの人に飲ませちゃ駄目!改善を要求します!特に味!良薬口に苦しって言葉あるけど限度があるからね!

「…因みに一人目は?」

「お兄ちゃん!」

「なんだ?」

「ひぁっ‼︎」

 びっくりして変な声出た。

 見ると扉近くにフードを深く被った背の高い人がいた。その人を見たコニーが目を瞬かせる。

「あれ?お兄ちゃん?どうしたの?」

 え?お兄さん?この人が?私の恩人?

「呼び出したのはお前だろう。用は?」

 うわ!お兄さん良い声!低めで…なんていうか腰に響く。ヤバすぎ。

「用?…ああ!あのね、城に行きたいの」

「城?」

「エミをマロウド登録しようと思って」

「エミ?」

「あ、あの、私です。佐倉(えみ)っていいます。助けていただいてありがとうございます」

 慌ててお兄さんに名乗る。もちろん頭も深々と下げた。

 お兄さんが勘違いして保護してくれてなかったらきっと森を出られず行き倒れは確実。野垂れ死まっしぐら。考えただけでゾッとする。

 お兄さん、本当にありがとうございます。このご恩は一生忘れません。その良い声とセットで忘れません。

「………………」

 お兄さんが何か言ったけどよく聞こえなかった。

「ね、連れてって」

 ちょこんと首を傾げてお願いするコニー。か、可愛い〜〜〜!撫でくりまわしたいっ!

「断る」

「え〜!なんで?」

 コニーのほっぺたがプッと膨らむ。怒った顔も可愛い!美少女は得ですな。

「登録はいつでもできる。急ぐ必要はない」

「でも!」

「それに登録は絶対じゃないぞ」

「え?」

「マロウドがいつ帰るかなんて誰にもわからないだろ?」

「帰る…」

「数分、数日、数年先かもしれない。或いは帰れないのか…それは誰にも、マロウド本人にもわからない」

 お兄さんの言うことは正しいと思う。異世界こちらには自分の意志で来たわけじゃない。誰かに連れてこられたわけでもない。なにか予兆や異変があったわけでもない。突然来たと言ってもいい。だったら帰る時も突然になる可能性は高い。

「………」

「コニー」

 黙り込んだコニーを呼ぶお兄さんの声が優しい。うさ耳のある頭をぽんぽんと撫でるその手つきも。

「お前はどうしたいんだ?」

「…エミと一緒にいたい」

「だったら尚更だ。登録はやめておけ」

「なんで?」

「登録が完了したマロウドは城内に住む決まりだ」

「それって…」

「よほどの事がない限り会えない。いいのか?」

「嫌!絶対嫌っ!」

 即答したコニーの頭をお兄さんはまたぽんぽんと撫でる。

「コニー。決めるのは彼女だ」

「う…」

「そんな顔をするな」

「だって!」

「決めるのは彼女だが今すぐじゃない。彼女はまだ何も知らないだろう?」

「うん」

「彼女がちゃんと決められるようにお前が助けてやれ。この世界のこと、この国のこと、習慣や日々のこと…知っていることは全部教えるんだ」

「全部?」

「そう全部。お前が良いと思っていることも悪いと思っていることも全部」

「良いこと悪いこと全部…」

「なにも知らない人に良いことしか言わないのは卑怯だ。違うか?」

「…違わない」

 納得したコニーにお兄さんは頷くと私に振り向いた。

「聞いての通りだ。勝手に決めて申し訳ない」

 お兄さんの謝罪の言葉にブンブンと横に首を振る。

 異世界こっちで最初に会ったのがこの二人だなんて私は本当に運がいい。

「い、いえ!私の方こそ助かります。何から何までありがとうございます!お兄さん!」

「カオンだ。カオン・ウブ・ジョルジュ。宜しくな」

「!!!」

 名乗ってフードを脱いだお兄さんを見て固まった。だって。だってだってだって好みだったんだもん!メチャクチャ好みなんだもん!細マッチョでワイルド系ってドストライクなんだもん!しかも…

「う、うさ耳じゃない⁉︎」

 なんで?なんで?なんで?なんでうさ耳じゃないの?コニーのお兄さんだよね?血、繋がってるよね?どうなってる異世界!

「あ、お兄ちゃんは犬族の血が強いんだ」

 ほ、細マッチョでワイルド系で犬⁈や〜め〜て〜!私に萌え死ねと言うの⁈


 とにかくお兄さんは驚きの塊でした。

お兄さん、やっと出せました。

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