経験→→ひきにぃと
ピコピコ。
ゲーム機の音で俺は目覚める。
『2:55』
「もう、そんな時間か…」
と、つぶやきながらゲーム機をのそのそと下に下ろす俺は天月真渚聖。
今年17歳。高校は…そ、そう!!天月高校だ!(イコール、自宅です。イコール、ニート。)
両親は俺が小学生の時に、事故で死亡。
その時の怪我で俺は片方、目が見えない。
今は一人暮らし。
そして、只今絶賛、ヒキニート中なのだ。
俺の一日はゲームで始まる。
『You are win!!』
「フッフッフッ…俺にかかれば楽勝だな…」
「You are lose」
「フッフッ…ふえぇぇぇぇ?
…な、なんでぇぇぇぇ…うぇっ…ゴホッ…ゴホッ!!
み、水っ!!!!」
ま、こんな代表的な(?)ヒキニートをしているが
よくマンガや小説にある、チート君というわけではない。
と言うか、めっちゃ平凡…
今はこんなだが、学校は嫌いではなかった。
人間は好奇心、欲望でできている。
俺もその内の一人。
何事も経験しないと気が済まない性格なのだ。
(好奇心バンザーイ!!)
友達から、
「お前って変わった奴だな…」
と、引かれるほどに。
けれど、この言葉は俺にとっては褒め言葉。
そして次はヒキニートという職業(?)に俺の好奇心は向く。
いざ経験してみると、案外ヒキニートの枠にはまってしまい現在までダラダラ続いている、というわけだ。
結果は(まだ中間結果かな)メリットがいくつかあった。
例えば…あの平凡だと思っていた日常が異常な日常だったのだと分かったこと。
周りの機嫌を気遣いながら過ごすことも無くなったしな。(これ、疲れるだろ?)
だがしかし、いつまでもこの生活を続けるわけにもいかないのが今の俺の悩みだ。
何か他に経験になることを探し、脱・ヒキニートをしなければ、社会的に抹殺されかねない…
―と、言うことで…
二年ぶりに外へ出ることにしてみた。
「なんかなぁ…猫を助けて、猫に恩返しされるとかねぇかな。はあぁ…」
そんなことが日常的にあれば、今頃俺は悩んでいなかっただろう。
俺の独り言を聞いた人が怪訝な顔で俺を見てくる。
て言うか、ジャージで外出するだけで俺を遠回りで抜いていく人々。
「…世も末だなぁ…」
そんなことをつぶやいた自分自身にじいちゃんかっ!!とツッコミを入れる。
―あっ…猫…
俺は見つけた丸々太った白い猫に近づいていった。
…「付いて来い」とか言ってくんねぇかな…
ジ~・・・
「…………………ニャ~。」
その猫は俺の目ヂカラに負けたのかして、早足で逃げて行った。
「はぁ…そんな都合のいいことがあるわけ無い
よなぁ…あったら俺、もう死んでもいいわ。」
もうすでに、当初の目的から外れまくっている俺。
それほど、この時は追い詰められていた。
―そんな俺にも奇跡が起きた。
もう帰ろうと思っていた頃だ。
俺の目にそれは映った。
『ミナさん、あるオウコクの、オウサマになってみませんか?
・どなたでもダイカンゲイ!!
・ちぃとじゃなくてもダイカンゲイ!!
・ひきにぃとでもダイカンゲイ!!
・ショウライにコマっているヒトでもダイカンゲイ!!
なりたいヒト、スコしキョウミをモったとイうヒト
しガツいつカ、えいえむにじ、チョウドにイエのマエにおムカえにアがります。
オウボナドはありません。
ただ、オソれイりますが、おムカえにアがるジカンにはイエにイてもらいますよう、
おネガいいたします。』
―一言、感想を言うならば…
怪しっっ!!
ただただ怪しいの一言。
「このポスター信じる人、見てみてぇわ…」
そんなことを、乾いた笑みを零しながら言う。
…だが、こんなポスターを信じる人はすぐそこにいた―
―これは、興味を持つなと言う方が難しいだろ…
見事に好奇心の塊のような俺は、その魅力的なポスターに心惹かれてしまった。
―ポスターを見つけた数日後の夜、
正確には4月5日のAM2:00:00。
それは来た。
(少し違うがまさかの~猫からの恩返しin実写~)
まさか、本当に来るとは誰も思っていなかっただろう。(だろ??)
俺も色々経験してきたが、こればかりは…ビックリヒックリだなっ!ハッハッハ。(??)
現に、ポスターを見て独り言をつぶやいただけで応募とかしていない。
「え~…えっと…」
「天月真渚聖様でいらっしゃいますか?」
「あっ、はいっ!!」
俺の前に立ったのは猫…ではなく、
おそらく可愛いの分類に入るであろう、俺と同年齢ぐらいの普通の女の子だった。
ただ一つを除いては…
「あの…それって…」
俺は彼女の頭上を指さしながら質問した。
ピョコピョコっ
動いた!?
「あぁ…これでございますか?」
彼女は頭上にある…いや無いはずのモノを触りながら答えた。
「耳ですね」
「…は?…ごめん。よく聞き取れなかった。もう一回言ってくれ。」
「…『み・み』でございます。」
彼女はさも当然のように言った。
…俺の目と耳がおかしいのか…ハハッ。それだな…
「って、なんでやねん!!!!!!」
「おおっ!!これが人間界で言う『TSUKKOMI』なのですね!!」
ガクッ!?
彼女は俺のツッコミを違う意味でスルーし、
一人でに目をキラキラ輝かせていた。
「―え~…コホン、気を取り直してー…では本題に参りましょう。」
「は、はぁ…?」
うん…一人で進めちゃうのね(付いていけてない)
彼女は無表情で少し首をかしげ聞いてきた。
「……あっ!!もしや、真渚聖様ではないのですか?」
「…はっ!?い、いえっ!!俺が真渚聖です!!!!」
彼女に釣られて俺も敬語になってしまう。
「では、行きましょう。」
「…ん?…ど、どこにでしょうか?」
彼女は、耳を疑うような…俺が密かに望んでいたような、答えを口にした。
「人間様の言う、『イセカイ』へですね。」
この時、正直俺はナメていた。
すぐに、脱・ヒキニート出来るだろうと。
だがそこまで俺に、奇跡は起きてはくれなかった。