たにぐち
まあ、ゆうしゃそーども手に入れたことだし、いよいよそんちょーを助けに行くか。
えっと、そんちょーが行ったのは西の山だっけ?
「まちな!」
そう、思って西の山へと続く出口へと向かう途中でまたもや突然声をかけられた。
「だれだ?」
「だれだとおもう?」
知るか、そんなこと。
俺はさっさとそんちょうを助けに行って、俺の話を聞かなければいけないんだ。
「きいておどろけ!」
おれはたぶんそんなことにはおどろかないんだろうな。
心の奥底でそう思いながらもそいつの言葉を聞くことにした。
「おれはたにぐちだ!」
だれですかね、その人は?
少なくとも俺は谷口という名前に覚えはないし、別にすごいとも思わないから、やっぱりおどろかなかった。
「おれはおまえのなかまになる」
これも勇者補正なのか。
1人さって、また1人やってきた。
断るのは面倒くさいけど、
「ことわる!」
「むりだ!」
そっかー、無理なのか。
コンマ1秒で返答してきた、たにぐちに俺は素直にはいというしかなかった。
「おれはたにぐちだ」
それは分かっている。
「おれは……たにぐちだ!!」
やかましいな。
「たにぐちって……やっぱすごいよなー」
俺には少しもちっともすごいとは思えない。
西の山を登ってばっさばっさモンスターを切り殺していくのに、若干の快感を覚えながら、後ろで何もせずただ話しているだけのたにぐちに対してそう思った。
「しっているかい?」
「なにがだ?」
「このせかいにはたにぐちのひほうとよばれているほうぐがあるのを」
「しらないな」
「すごいだろ」
こいつはすこし人の話を聞くことを覚えた方がいいのではないだろうか。
「おれはたにぐちのゆいいつのまつえいだ」
たにぐちのまつえいってなんだよ!
たにぐちっていう部族かなんかがいたのか?
「たにぐちはぶきしょくにんだった」
駄目だ、こいつ。
もう完全にトランス状態に入ってる。
多分、もう何を言っても、何を思っても、必須イベントのように昔話を始めるに違いない。
「たにぐちはとにかくすごかった。たにぐちりゅうとよばれるひぎをくしして、このよのものとはおもえないぶきをつぎつぎとつくりだしていった。たにぐちのひほうとよばれるものは、このよのなかに7こそんざいしていて、そのうちの4こがどらごんだ!」
まじかー!
やっぱ、前言撤回だ。
どらごんつくったのはすごいわー、そんけいする。
ただ、いまのよのなかをみるかぎりでは、そのたにぐちとかいうやつはちゃんとものごとを考えて武器を作っていたのだろうか。
「あとの3つはゆうしゃそーどだ」
まじかー。
俺の持っているこのソードも谷口が作ったのかよ。
なんだか、興ざめとかしか言いようがない。
「ゆうしゃそーどは3つそろえると、1つのけんになる。そして、いつかあらわれるまおうをたおすためにはそのそーどがひつようになる」
もう、先の展開が読めてしまった。
ゆうしゃそーどを使えばドラゴンはいちころだった。
村長を助け出して、話を聞いたところ、今まさにまおうがたんじょうしそうなんだって。
だから、伝説の勇者はまおうを倒すためにゆうしゃそーどを集めるたびにいけないらしい。
いつのまにか、たにぐちはいなくなっていた。
再び、町に戻ってきて、しばらく休むことにした。
そして、ついちょっとまえに言われた言葉を思い返して思った。
最初からゆうしゃソード1つにしろよ!と。
その日の夜は月がきれいだった。




