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彼はスター  作者: 夢遥
7/7

彼はスター

 いよいよ、撮影が始まり、鈴音はドキドキ。 でも、新たなハプニングが……!?

 最終話になります!!



「あ!山城さ~ん。そろそろ、出番だから卓君を読んできてもらえるかしら?」

 屋上に行くと、女のスタッフさんが私に気がついて声をかけた。

「あ、あの。さっきまで一緒だったのでもうすぐ来ると思います」

「そう?じゃあ、山城さん。先に準備よろしく」

「はい……」

 返事をしたものの、さっきのことを思い出すと、一緒にやれる自信がない。


 どうしよう……。どんな顔をしたらいいんだろう。


「首のところ、髪でも隠せそうだから、ファンデーション塗らないわね」

 スタイリストさんに言われて、鏡で見てみると虫に刺されて感じに赤くなっている。

「……!!」 

 もしかして、さっき卓君にキスマークつけられた!?


 私は、顔を真っ赤にさせて俯いた。


「うふふ……。大丈夫よ、誰にも言わないから。いいわね~!彼氏と仲がいいなんて。私も彼氏が欲しいわ」

 スタイリストさんは、羨ましそうな顔でブラシで髪をとかしながら、隠れるように調節してくれた。

「いや、あのー。虫に刺されただけですから」

 私は、慌てて誤魔化した。


 絶対、信じてないよね……。


 私がオロオロしているうちに、卓君も来て撮影が始まった。

「拓巳から聞いた。俺、幼なじみ以上に、ずっと凪のこと女の子としてしか想ったことない」

 卓君が、真剣な顔で私を抱きしめた。


 さっきのことを思い出して、思わず身体を固くしてしまい、

「……は、は、颯人。わー」

 私もと、言おうとした時、

「カット、カット!!」

 途中で、合図がかかってしまった。 

「山城さん。どもらないで、言ってみよう!」

「はい……」

 監督さんに言われて、しょんぼりとさせながら返事をした。

 また、やり直しで撮ることになったけど、なかなか普通にできなくて、5回以上もダメ出しを押されてしまった。

「仕方ない。ラストシーン先に撮るしかないなー。成瀬君と杏ちゃん、スタンバイして!」

 監督さんが溜め息をつく。


 はあ~、どうしよう。このままだと、みんなに迷惑かけちゃう。


「鈴音」

 卓君が後ろから、私の肩に手を置いた。

「……!」

 私は思わず、ビクッとさせた。

「落ち込むな~。そんなに、拒否反応されると」

「でも、あんなことされたら……」

「君のこと好きだから、身体に触れたいのは当然だと思うけど?」

 卓君は、私の肩を抱いた。

「や、やめてよ!」

 私は、卓君の手を払いのけた。



 卓君に気を取られているうちに、ラストシーンの撮影が始まった。


 演技している時の智樹って、普段の顔と違って一段とかっこいい。


「拓巳君。颯人君、凪に告白して付き合うことになったみたい」

 杏ちゃんは、ニコッと微笑んだ。

「聞いてる。お互い幼なじみ以上の気持ちがあったのに、気持ちを伝えないままでいたみたいだな」

「うん。でも、今まで想い合っていたなんて素敵だな~」

 杏ちゃんの表情が、恋する顔になっていた。

「俺達だって、想い合ってるだろ?」

 智樹が、優しく杏ちゃんを抱き締めた。


 私は、胸が苦しくなって胸に手をやった。


「はい。OKで~す!」

 その時、スタッフさんが一旦、合図を出した。

「成瀬も杏も、初主演とは思えないくらい上手いな~。お互い想い合ってるから、できるんだろうけど」

 卓君が感心しながら、2人を見た後、私の方をチラッと見た。

「何よ。何が言いたいわけ!?」

 私はムッと睨みつけた。

「別に~。ただ、俺はこんなに鈴音のこと想ってるのにな~」

 さり気なくまた、卓君が私の肩を抱こうとしたので、さっと交わした。



 想い合ってなんて無理だよ。

 ふと、真部先輩が相手を智樹だと思ってやれって言っていたことを思い出した。


 卓君は、智樹だと思ってやればできるよね?そう思っていたら、スタッフさんがやって来た。

「卓く~ん。山城さんが少し落ち着いたら、最後のラストシーン取る前に、さっきのシーンもう一度撮るのでスタンバイお願いします」

 スタッフさんに言われて、私は思いっきり深呼吸をした。


「は~い。いきま~す」

 掛け声がかかると、さっきの卓君とは思えないほど、別人の顔になっていた。


 卓君は智樹、智……。


 私は、何度も自分に言いきかせる。


「拓巳から聞いた。俺、幼なじみ以上に凪のことー」 

 卓君が、さっきと同じセリフを言うと、私を抱き締めた。

「颯人。私もずっと好きだった」

「凪!」

 卓君はもう一度、私をギュッと抱き締めた。

「はい。OKで~す!」

 今度は、一発でOKの合図がかかった。


「お疲れ~!やればできるじゃん」

 卓君が、にっこりと微笑んだ。

「……」

 智樹だと思って、やっとできた。


 お互いに告白する場面だったけど。セリフみたいに、智樹に告白できるかな?


 私は、チラッとっと智樹を見た。


 もう、次のラストシーンが始まるところだった。


「だって、拓巳君モテるから心配だよ……」

 杏ちゃんは、智樹の腕の中で、捨て猫のように不安そうな顔をさせた。


 杏ちゃん上手……。急に、キスシーンに変わっても顔色一つ変えない。


「バカだな~。そんなこと心配してたのか?俺の気持ちは変わらないのに」

 智樹がそっと、杏ちゃんの顔に近づいて行った。 


 ……!!


 演技だってわかっているのに、また胸がギュッと締め付けられる。


「こんなことも、他の子にはしないけど」

 そう言いながら、智樹は杏ちゃんにキスをした。


 卓君がキスをしている振りって言ってたけど、見ているのも辛い。


 思わず目を瞑った。


「お!やる~」

 卓君を始め、スタッフさん達もザワザワ騒ぎ立て

た。


 どうしたんだろう?


 私は、恐る恐る目を開けた。

 すると、智樹と杏ちゃんがキスの振りではなく、本当にしているのが見えた。


 私はショックで、その場を逃げ出した。



 どのくらい経っただろう……。


 学校の裏庭で、泣きはらした顔でぼんやりしていると、智樹がやって来た。


「鈴音。ここにいたんだ」


「智樹……」

 私は、ハッと振り向く。

「撮影が終わったから、これから打ち上げあるんだけど、鈴音も来ないか?」

「……でも、私。部外者だし」

 泣いた顔を見られたくなくて、智樹から顔を逸らした。

「鈴音?」

 智樹は、私の様子がおかしいことに気がついたのか、肩を掴んだ。

「み、見ないで!」

 私は、智樹の手を払いのけた。


 その拍子に、卓君につけられたキスマークが、見えてしまったのか、智樹の顔色がみるみるうちに変わっていった。

「……首、どうした?」

「え?む、虫に刺されたの……」

 私は慌てて手で隠した。

「虫って嘘だろ?真部先輩と……」

「違う!先輩は関係ない」

 私は、ブンブン首を振ってから、慌てて口に手を当てた。


 ヤバッ!私の反応でキスマークだって、ばれちゃったよね……。


「知らなかったな。そんな彼氏がいたなんて……」

 智樹が、真顔で私を見る。

「ううん。彼氏はいないから……」

「じゃあ……」

 智樹は眉をひそめた。


 キスマークだって、智樹に知られたくなかったのに!これじゃ、告白もできない。


「ごめん。言いたくないなら、いいんだ」

 智樹が謝った時、卓君がこっちに歩いて来た。

「鈴音。こんな所にいたんだ?」

「卓君……」

「これから、打ち上げに行くけど、一緒に行かないか?」

 卓君が、私に近づいた。

「卓さん。もう、俺が先に鈴音のこと誘ったんだけど」

 智樹が、卓君の会話に入ってきた。

「智樹ー。なんだ、あんなに杏と濃厚なキスしてたから、撮影終わっても続きでもやってるのかと思ったら、こんな所にいたんだ?」

 卓君は、嫌みたらしく言った。


 濃厚……。そんなに、激しいキスしたんだ……。


 私は、スカートの裾をギュッと掴んだ。


「あれは、杏が勝手にしたことで、俺の意志じゃないし。撮影中だったから仕方なく……」

「ふ~ん。それにしては随分、長いキスだったな~」

 ニヤニヤしながら、卓君は私の腕を掴んだ。

「ほら、打ち上げ行くぞ」

「ちょっと、待ってよ!私、行くなんて一言も言ってない」

 私は慌てて、手を払いのけた。

「いいじゃん。もう、こうゆう仲になったんだし」


 卓君が、私の髪をかきあげて、ワザとキスマークを見せた。


「や、やめてよ!」

 顔を真っ赤にさせながら、その場にしゃがみ込んだ時、いきなり智樹が卓君をガツンと殴りつけた。

「や、やめて!智樹」

 私は慌てて、智樹を止めた。

「やっとわかった。相手は卓さんだったんだ?でも、鈴音の様子じゃ、嫌がってるとしか思えない。無理矢理こんな事したのか!?」

 智樹は、身体を震わせながら、怒りに満ちていた。

「何、怒ってるんだよ。杏がいるのに、智樹には関係ないだろ?」

 卓君は、痛そうに顔をさすりながら立ち上がった。

「智樹君~。ここにいたんだ!そろそろ出発するって」

 噂をしていると杏ちゃんが、歩いて来た。

「お!ちょうど、いいところに彼女が来た」

 卓君は、ニヤッと笑った。

「どうかしたの?」

 杏ちゃんは、卓君の赤く腫れている頬を見て、驚いている。

「杏、智樹のこと連れててくれないか?俺達の邪魔して困るんだ」

 卓君が、私の肩を抱いて引き寄せた。

「え!2人ってそうゆう仲だったの?」

 また、杏ちゃんは、驚いた顔で私達を見た。

「智樹君。2人の邪魔しちゃ悪いから行こう!」

 智樹の腕を引っ張った。

「ごめん、杏。俺は行けない……」

「どうして?智樹がいないと私ー、昨日も……」

 杏ちゃんは、顔を曇らせた。


 昨日って……?何だか気になる……。


「わかった……」

 智樹は、仕方ない顔で、さっきとは違う返事をした。


「俺達は、2人で打ち上げやるから、ばっくれる。杏、うまく言っといてくれ」

「わかった。まかしといて!」

 杏ちゃんがOKサインを出すと、2人は一緒に歩き始めた。


 やだ!智樹、行かないでー!


 私は、泣きそうな顔で智樹の後ろ姿を見つめた。


 智樹と杏ちゃんがいなくなると、卓君が、私の腕をギュッと掴んだ。

「俺達も、行くぞ!」

「ちょ、ちょっと。卓君!何処、行くの!?」 学校を出て何分か歩いたところで、やっと手を振りほどいた。

「俺の部屋だけど?言ったろ?2人で打ち上げやるって」

「部屋!?」


 卓君は強引な人だってわかってたのに、警戒してなかった私も悪いけど、部屋に行くなんて絶対にやばいよね……?

 今度は、キスマークだけじゃ、すまないかもー。


「私、帰る!」

 慌てて帰ろうとした。

「まだ、時間も早いし。そんな事、言わずに打ち上げ付き合えよ」

 卓君が、私の腕を掴んだ。

「離して!」

 私達がもみ合っていると、近くのマンションから、杏ちゃんが泣きながら出てくるのが見えた。


「杏ちゃん?」

 私は、もみ合っていたのも忘れて、呆然とした。


 智樹と一緒に打ち上げに行ってるはずじゃ……?


「あそこって、確か智樹が住んでるマンションだったはずだけど、どうしたんだ?杏の奴」 

「え?前に行った時は、このマンションじゃなかったはずだけど……」

 今度は、マンションを見上げた。

「マスコミとかが押し寄せてくるみたいで事務所の方で、マンションを変えた話は聞いていたけど、同じマンションだったなんてびっくりだ」

「……」


 ……って、ことは。卓君も智樹と同じマンションに住んでいるんだ……。

 知らなかった。

何階に住んでいるのか、知りたいー。


「行くぞ!」

 ぼんやり考えていると、卓君が私の腕を掴んで歩き出した。

「ちょ、ちょっと!」

 私は、抵抗しようとしたけど、智樹の部屋の番号も気になって、卓君に引っ張られるままマンションの中に入ってしまった。


 智樹の部屋がわかったら、すぐ帰ればいいんだもの大丈夫だよね?

 そうだ!おばさんに聞けば、部屋の番号わかるかも。


 卓君が、エレベーターのボタンを押す。

私は、こっそりと携帯電話をバックから出すと、智樹の家に電話をかけた。 


「こんにちは、おばさん」

「あら、鈴音ちゃん!」

 電話の向こうで、明るい声が聞こえてきた。

 私は、智樹の部屋の番号を聞いてみる。


「ごめんなさいね。マスコミに嗅ぎつかれて、迷惑かけるかも知れないからって、部屋の番号は教えてもらってないのよー」

「そうですか……」

 私は、がっかりしながら電話を切った。


「鈴音、何やってるんだよ。行くぞ」

 卓君が私の肩を抱いて、マンションの中に入ろうとした。


「ご、ごめん。私、用事を思い出したから帰る!」

 卓君の手を払いのけようとしたけど、

「用事って?」

 反対に聞いてきた。

「え、え~と。と、友達と買い物に行く約束してたの忘れてて……」

 私は、慌てて嘘をついた。

「あはは~!」

 突然、卓君が笑いだす。

「な、何よ!何が可笑しいの!?」

 私は、顔を真っ赤にさせながら叫んだ。

「鈴音って、嘘つけないのな~!目が泳いでるし」

 また、可笑しそうに笑った。

「……」

 やっぱり駄目だ~。若菜にも言われたけど、私って嘘つくのが下手なんだよね……。


 卓君は私の腕を掴むと、エレベーターに乗り込んだ。


 卓君の力が強くて、振りほどこうとしても、びくともしない。


 卓君は、急に壁をドンと叩くと、顔を近づけてきた。


 いくら、壁ドンが流行っているからって、そんな事してもなびかないんだから!


 私は、顔を背けると目をギュッ瞑った。


「こんな事すると思ってるんだろうけど。そんなに、警戒しなくても大丈夫だって」

 卓君がニッと笑った時、エレベーターが止まってドアが開いた。


「鈴音……!?」

 ドアの向こうには智樹が立っていた。

「智樹ー」

 私は、ハッとさせた。

「どうして、鈴音がここに?それに、卓さん。また、鈴音に変なことしたんじゃー?」

 智樹は、私達の姿を見て、眉をひそめた。

「今から、しようと思ってたところなのに、とんだ邪魔が入ったからな~」

 卓君は、私を抱き寄せた。


 その時、智樹が私の腕を掴んでエレベーターから降ろすと、自分の所に引き寄せた。

「と、智樹!?」

 私は、智樹の腕の中でドキドキが止まらない。

「それよりいいのかよ~?杏が泣きながらマンションから出て行ったみたいだけど」

「卓さんには、関係ないじゃないですか」

 智樹はキッと、卓君を睨みつけた。 

「そうだよな~。余計なこと聞いて悪い。鈴音、次の機会に2人だけで打ち上げしような~」

 卓君はエレベーターのボタンを押して、ドアを閉めると、上の階に上がって行った。


「はあ~」

 智樹が突然、溜め息をつくとギュッと私を抱き締めた。

「智樹。く、苦しいてっばー!」

 智樹の胸に、顔を埋めながらジタバタしたけど、私の心臓はずっと、ドキドキしたままだった。

「ごめん。鈴音のこと取られるんじゃないかと思って、ヒヤヒヤしてたものだから」

「えっ……?」

 それって、どうゆう意味?


「落ち着いたら、鈴音に話があるって言っただろ?」

「うん……」

「今日は、打ち上げに顔出さないといけないから。明日の夜、家に帰る予定だから、その時、話したいんだけど。鈴音の部屋に行っていいかな?」

 智樹が、私を抱き締めながら言った。


「いいけど……」

 私は、小さく頷く。

「じゃあ、下まで送ってくよ」

 抱き締めてる手を緩めると、私から身体を離した。


 もしかして、智樹も私のこと……。

でも、そんなはずないー。智樹には、杏ちゃんがいるし……。

 その夜は、何だか寝つけないまま、朝になってしまった。



 ザワザワ……。


 学校に行くと、昇降口近くで、沢山の人が集まっていた。


 何かあったのかな?


「おはよー!鈴音」

 若菜が、私の肩をポンと叩いた。

「おはよう、若菜。なあにこの人の群れ……?」

「これから、成瀬君のインタビューが始まるみたい。ほら、あそこに記者の人が」

 若菜は、人が集まっている方を指差した。


 人の隙間から覗いて見ると、記者の人達が大勢、智樹を囲んでいる。

「ねえ、鈴音。向こうに行くとよく見えるかも」

 若菜が、前の方に移動した。

「若菜。待って!」

 慌てて若菜の後を追って行った。


「成瀬君と幼なじみの子が森村卓君とマンションに入る所がスクープされているんだけど、2人がお付き合いしているって言う話は聞いたことあるかな?」

 記者の独りが、週刊誌を智樹に見せた。


「成瀬君と幼なじみって、鈴音のことじゃないの?」

 若菜が、私に目を向けた。

「……」


 昨日、卓君といる所、写真に撮られてたんだ……!


 私が愕然としていると、記者の独りが私の方に歩いて来た。  

「君、森村卓君と一緒にいた子に似ているけど、本人かな?」

「えっ……!」

 急に聞かれて、私は言葉を失う。


 他の記者達もこっちに気づいて、何人か歩いてくる。


「ち、違います。ひ、人違いじゃないですか……?」

 私は、やっと声を振り絞った。

「いや。絶対、君だと思うんだけどな~。それに、ドラマの撮影で飛び入りで卓君と共演してるよね?」

 記者のおじさんは、週刊誌の写真を見比べながら呟いた。


 ど、どうしよう!本当のことを言うべき?


「週刊誌に載ってるのは、彼女に間違いないです」

 私が戸惑っていると、智樹が人をかき分けるように歩いて来た。

『智樹!何、言い出すの!?』

 慌てて、小声で言った。

「しっ!」

 智樹は、唇に人差し指をあてた。

「やっぱり!もしかして、付き合ってたりするのかな?」

 私にマイクが向けられる。


「つ、付き合ってー」

 付き合っていないことを言おうとした時、智樹が私の手を握り締めた。

「彼女は俺と付き合ってるので、卓さんとは付き合ってないですよ」

 智樹が、思いがけないことを言ったので、びっくりした顔で智樹を見た。

「えっ!でも、成瀬君は杏ちゃんと付き合ってるんだよね!?」

「そんなのデマですよ~。杏さんとは付き合ってません!」

 智樹は、明るく言ってのけると、私の肩を抱いて引き寄せた。

「ドラマの撮影で杏ちゃんと濃厚なキスしたことが、噂になっているんだけど、そのことについては、どう思われますか?」

「あれは、あくまで演技なので、特に深い意味はありません」

「……」

 本当に深い意味はないのかな……?


 私は、唇をキュッと噛み締めた。



 智樹が言ったことは、すぐ学校中に噂が広まった。

『ほら!あの子だよ。智樹の彼女』

『智樹と幼なじみなんでしょ?美人かと思ったら、普通の子じゃない』


 グサッとくる言葉に、私は落ち込むばかり。


 廊下を歩いていても、知らない女子には小声で囁かれるし、私の学校生活が~!


「他の子の言っていることなんて、気にすることないって!」

 横にいた若菜が、私の肩をポンっと叩いた。

「でも、知らなかったな~。あんなに、成瀬君のこと好きだった鈴音がね~、いつの間にか付き合ってたなんて。ま、良かったじゃない!」

「いや、あの。まだ、彼氏じゃなくて、智樹が勝手に言ったことで……」

 慌てて、説明した。


 杏ちゃんとも付き合っていないとか言っていたけど本当なのかなー?



 その晩、智樹に言われた通り、部屋で待っていた。


 もう、9時過ぎかー。

 智樹、遅いな~。仕事、長引いているのかなぁー。


 その時、

「鈴音~!智樹君が来たわよ~」

 お母さんのウキウキした声が、聞こえてきた。


「鈴音、悪い。遅くなって」

 すぐに、智樹が部屋のドアを開けて入って来た。

「ううん」

 私は、小さく首を振る。


 智樹が、家に来るなんて久し振りだから、何だかこっちが、緊張してしまう。


「鈴音。今日はごめん!1日大変だったろ?」

 急に智樹は、土下座して謝った。

「本当だよ!みんなに噂されるし、帰りだって記者の人が待ち伏せしてるし、大変だったんだから」

 私は、頬を膨らませた。

「ごめん。でも、朝言ったことは、本気だから」

 智樹は、真剣な顔で私を見た。

「えっ!」

「俺、鈴音のこと幼なじみじゃなくて、それ以上に、ずっと大切に想ってた。鈴音のことが好きなんだ!」

 智樹が私を抱き締めた。

「でも、智樹には杏ちゃんが……」

「朝も言ったけど、杏とは付き合ってない」


 智樹は、きっぱりと言ってのけた。

「じゃあ、どうしてデートしたり撮影中に恋人みたいにキスしたりするの?」

 あの出来事が脳裏に浮かんでくる。

「撮影の時は、杏が勝手にしたことだし。それに、デートって言っても、ボディーガードみたいなものなんだけどなー」

 智樹は、私の顔を覗き込んだ。

「どうして、智樹がボディーガードしてあげないといけないのよ!?マネージャーにボディーガードしてもらえばいいじゃない!」

 私の方は、だんだん感情的になってきた。

「何、感情的になってるんだよ!鈴音、まさか俺のこと好きなんじゃー?」

「……そうだよ!私だって、ずっと智樹のことが好きだったんだから!週刊誌に、智樹と杏ちゃんが報道されるたび、どんな顔していればいいかわからなかったんだから……」

 私は、思いっきり告白した。


 智樹はびっくりした顔をしていたけど、気持ちを落ち着かせると話始めた。

「杏が、俺のファーンの子に、生卵をぶつけられた日があったろ?」


 確か、真部先輩と一緒に智樹のマンションに行った時だ。


「俺のファーンの子が、そんなことしたと思うと、杏に申し訳なくてさ。自分で犯人を突きとめようと思って、杏と一緒にいたんだ」

 智樹は一息つく。


「……犯人、捕まったの?」

「まだだけど……。 あとは、杏のマネージャーに頼むことにした」

 智樹は、顔を曇らせた。


 智樹は、昔から責任感が強かったから、自分のファーンの子が、そんなことしたものだから、責任を感じちゃったに違いない。


「犯人を捕まえて、落ち着いたら鈴音に告白しようと思っていたのに、鈴音がとられそうなものだから、全国に知れ渡ることになっちゃって、本当にごめん!」

 智樹はもう一度、謝った。

「もう、いいよ。わかったから……。でも、犯人が見つからないなんて、杏ちゃん可哀想ー。泣いてたのに」

 マンションから、泣きながら出てきた杏ちゃんを思い出す。

「……あ、あれ?杏に告白されて、断ったら泣いちゃってさー」

「……」


 だから泣いてたのかー。


「とにかく、俺が守りたいのは、鈴音だけだから。こんな所にキスマークつけさせるなよ」

 そう言って、智樹は、私の髪に手をやると、もう消えているキスマークをつけられた場所にキスをした。

「あっ……」

 私の身体が、ピクッと反応する。

「よし、これで、消毒完了!あと、もう一カ所」

 今度は、顔を近づけるとキスをした。

「これで、卓さんと真部先輩にされた所、消毒終了」

 智樹が、ほっと一息つく。


「智樹……」

 私は、恥ずかしいそうな顔をさせた。

「しばらく、マスコミにつけられると思うけど、鈴音のこと守から」

「うん!」

 智樹の胸に飛び込むと、私は嬉しそうに返事をした。


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