彼はスター
真部先輩に、ファーストキッスを奪われて、智樹に目撃されてしまった鈴音。でも、そんな中、智樹と杏ちゃんのスクープで報道陣が学校や智樹の家にまで押し寄せて来てー!?
彼はスターの続編です!
「先輩!今、鈴音に何をした!?」
智樹が、すごい剣幕で先輩の胸ぐらを掴み掛かった。
「やめて!智樹」
私は慌てて止めに入った。
「山城のことが本気で好きだからキスしたんだけど。成瀬こそ、彼女と仲良くやってるんだろ?何をしてようと、関係ないんじゃないかな?」
先輩が言うと、智樹の力が緩んだ。
智樹は何も言えないらしく、無言のまま立っていた。
「そろそろ、1時間目が終わる。行こう!山城」
先輩は私の腕を掴むと、歩き出した。
「せ、先輩!離して」
屋上から出て階段を降りる途中で、先輩の手を振りほどいた。
「ごめん、山城……。いきなりキスなんかして」
「……」
私にとっては、ファーストキスだったのにー!
「成瀬も何も言えないところを見ると、本当に中澤杏と付き合っているみたいだな……」
「……」
本当に杏ちゃんと付き合ってるのかな?だったら、どうしてあんなに先輩に掴み掛かってくれたの?ずっと一緒にいたのに、智樹がわからない。
「鈴音~!」
1時間目が終わって廊下を歩いていると、若菜が走って来た。
「保健室に行ってもいなかったから、どこに行ったのかと思った~」
真部先輩に気づいて、若菜がチラッと見た時だった。
「いた~!詩音。どこに行ってたのよ~」
女の子達が2、3人先輩を囲んだ。
「行こう!若菜」
先輩が離れた隙に、若菜を促すと教室に戻った。
「どうして、先輩も一緒だったの?何かあったの?」
自分の席に座ると、若菜が興味本位で聞いてきたので訳を話した。
「え!先輩にキッ……」
若菜は大声を出しそうになって、慌てて口を押さえた。
「でも、成瀬君。鈴音のことになると、むきになる所を見ると、幼なじみだからとかだけじゃないんじゃない?」
「そうかな……?」
「絶対、そうだよ!」
若菜が、自信満々に言った。
だったら、どうして先輩に言われた時、言い返してこないの?
その夜、智樹が出演のドラマが始まると、お母さんのテンションが高くなっていた。
「鈴音、見て見て!智樹君が出てきたわよ~」 お母さんがウキウキしながら、私に手招きする。
「拓巳、紹介するね。私の親友の千紗」
美奈役の杏ちゃんが拓巳役の智樹に友達を紹介している所だった。
お母さんは、キャーキャー言いながら、見ている。
今は、智樹の顔を見るのが辛くて、自分部屋に入った。
ふと、窓の外を見ると智樹の部屋はまだ明かりがついていない。
智樹。まだ、仕事かなー。
明日、逢ったら智樹と何、話したらいいんだろう。
ベットに寝そべると、そっと目を閉じた。
目を閉じたものの、結局は眠れないまま、翌日、学校に行こうと家を出ようとした時、なんだか外が騒がしい。
見ると、報道陣が智樹の家の前で、智樹が出てくるのを待っていた。
私は、そっと外に出た。
その時、アナウンサーが私に気がつくと、こっちに歩いて来た。
「お隣さんのあなた。ちょっと、いいかしら?成瀬智樹君のことで聞きたいんだけど」
このアナウンサー、知ってる。確か朝の番組にー。
そんなことを考えていたら、
「成瀬智樹君と中澤杏ちゃんの交際がスクープになったの知ってるかな?」
アナウンサーが、聞いてきた。
「……」
胸の奥がチクンとする。
「中澤杏ちゃんは、成瀬君の家に遊びに来たりしてるの見たことあるかな?」
マイクを向けられて、
「……わかりません。私、急いでいるので失礼します!」
私は、慌ててその場から逃げるように駆け出した。
『鈴音!こっちこっち』
学校の近くまで行くと、柱の陰に隠れながら、智樹が小声で手招きしている。
「どうしたの?智樹」
智樹に気づいて近寄って行った。
『し!朝も家の前に報道陣がいたから、撒いて来たのに、学校の門の前にもいて入れないんだ』
智樹は自分の唇に人差し指を当てた。
見ると、門の前にさっきと違う報道陣が群をなしている。
『私、さっきインタビュー受けた……』
私も小声になる。
『ごめん。迷惑かけて』
智樹が両手を合わせて謝った。
「おはよう。山城」
その時、真部先輩が通りかかった。
「お、おはようございます」
昨日のキスのことを思い出して、思わず俯いてしまった。
「凄い報道陣だね。裏から入るようだなー」
先輩は、門の方を見ながら言った。
「裏から?」
裏から入れるなんて、初耳だ。
「裏からの方が近道だから、遅刻しそうな時、よく通ってるんだ。案内するよ」
先輩は、路地に入って行った。
私と智樹は、先輩の後をついて行く。
「ここからは、塀を登らないといけないから、僕が先に行って山城のこと支えるから」
先輩は鞄を塀の中に投げると、登ろうとした。
「先輩、俺が先に行って、鈴音のこと支えるから」
智樹は、先に軽やかに塀を登って行った。
「鈴音。登っておいで」
智樹が、塀の上に立つと、手を差し出した。
「わかった。今、行く」
私は、塀に登り始める。
智樹の手を掴むと、私を引き上げてくれた。
「俺が下に降りたら、鈴音も降りてこいよ」
そう言うと、智樹はタンッとジャンプした。
下を見ると結構、高い。
「鈴音、大丈夫か~?俺、下で支えるから」
智樹が、手を広げた。
思いきって、飛び降りると、智樹の腕の中に飛び込んだ。
智樹に抱き締められる状態になって、ドキドキしている自分がいた。
「鈴音、大丈夫か?」
智樹に言われて、慌てて身体を離した。
「だ、大丈夫。智樹、ありがとう」
恥ずかしそうにお礼を言った。
後から、先輩も、塀を飛び越えてきた。
「ここからなら、誰もいないから。山城、行こう」
先輩が私の手を引いた。
「あ、あの。先輩……」
私は、少しためらった。
「鈴音は、俺と行くから」
急に、智樹が私と先輩の間に入ると、私の腕を掴んで歩き出した。
「ちょ、ちょっと!智樹」
私は、智樹を引き止めた。
智樹は立ち止まると口を開いた。
「鈴音ー。騒動が落ち着いたら、話があるんだ」
「話って……?」
「今は、ちょっとー。落ち着いたら、話すよ」
「……」
なんだろう?話って。もしかして、杏ちゃんとのこと?
なんだか、モヤモヤする……。
「落ち着いたらって言っても、しばらく報道陣が学校や家にも押し寄せてくるだろうし、鈴音のうちにまで迷惑がかかると思うから、事務所とも相談して、治まるまでマンションを借りて、そこから学校に通うことにしたんだ。今までより、学校を休む日が多くなるかも知れない」
「……」
そんなの、やだ……。今までより逢えなくなるなんて。
「あとで、メールするから」
智樹が、私の頭に手をやった。
それから2週間、学校や家の方には、報道陣が押し寄せなくなったけど、テレビの記者会見で、杏ちゃんが交際を認めたものだから、騒動が治まらず、智樹が学校に来ない日が続いた。
「成瀬、今日も学校休みだったのか?」
部活が終わって、昇降口で靴を履いていると、真部先輩がやってきた。
若菜は彼氏が迎えに来て先に帰っちゃって、1人だっからちょっと気まずい。でも、先輩はいつもと変わらず優しい。
「大丈夫か?」
先輩が心配そうに、私の顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫です!」
私は、慌てて顔を背けた。
本当は、杏ちゃんが交際を認めてから、ショックで毎日が眠れない。
「さようなら!」
外に出ようと歩き始めた時、
ピロロ~!
と、携帯のメールが鳴った。
もしかして、智樹からかな?
急いで、携帯を出してメールを見た。
メールの相手は、智樹のお母さんからだった。
ー鈴音ちゃん。もう、学校終わった?
私は、急いで返事を返すと、すぐにまた、メールが届いた。
ー今日、智樹に着替え届けるはずだったんだけど、風邪引いちゃって、悪いんだけど鈴音ちゃん。私の代わりに届けてくれないかしら?
え、私が!?
智樹に、逢えるのは嬉しいけど、今は逢うのが辛い。きっと泣いてしまう……。
「山城、メール成瀬から?」
気になっかのか、先輩が携帯を覗き込んだ。
「と、智樹のお母さんから。代わりに私に、着替えを届けに行って来てもらいたいって……」
私は、ギュッと携帯を握り締めた。
「山城、成瀬に逢うの辛いんだったら、僕が代わりに届けてこようか?」
「ううん、大丈夫。私が届けに行って来ます」
左右に首を振った。
「じゃあ、僕も一緒に行くよ」
「え!」
先輩の言葉に、思わず声を上げてしまった。
「マンションの中に入るのに、報道陣がいないとも限らないし。一緒に行った方が山城のこと守ってあげられるし」
「……」
もぅ~!先輩ってば、大げさなんだから。
この間は、家の前だったから、たまたま声かけられたけど、マンションじゃ、出入り多いし。大丈夫だとは思うけどー。
結局は、智樹の家に着替えを取りに行って、先輩と一緒にマンションに行くことになった。
マンションの前まで行くと、報道陣の姿はどこにもなかった。
「報道陣はいないみたいだな」
先輩が、辺りをキョロキョロと見渡した。
「う、うんー」
ホッとさせながら、私は頷いた。
マンションの中に入ると、エレベーターに乗る。
部屋の番号は512。智樹からメールを貰った時、そう書いてあった。
テレビや雑誌では見るけど、智樹と逢うのは久し振りだし、ドキドキしてるのに、杏ちゃんのことが気になって顔に出ちゃうかも知れないー。
「山城、大丈夫か?」
先輩が、私の肩を優しく抱いた。
「あ、あの。先輩……」
肩に置いかれた先輩の手を、チラッと見た。
「ごめん!」
先輩は慌てて、肩から手を離した。
「また、山城に手を出したら、成瀬に殴られそうだな。キスした時だって、凄い剣幕だったし。山城のこと大切に想ってる証拠だよな~」
先輩は、苦笑いをした。
「……」
「この間も言ったけど、僕だって山城のこと、大切に想ってるから……。」
真剣な瞳で、見つめられたので、顔を背けてしまった。
「先輩は、凄いですね。いつも、まっすぐで……。私なんか、今だに智樹に告白できないでいるし。気がついた時は、智樹は杏ちゃんと……」
自分の言葉にチクンと胸が痛む。
「いくら、まっすぐでも。君に振り向いてもらえないんじゃ、辛いものがあるけどね」
先輩は、寂しそうな顔をする。
私達は、部屋の前に行くと、インターホンのチャイムを鳴らそうとした。
「鈴音ちゃん……」
私を呼ぶ声がしたので、振り向くと杏ちゃんが立っていた。
見ると、杏ちゃんの髪や洋服もべっとり。
よく見ると、卵の黄身が所々についている。
「杏ちゃん!?何があったの?」
私は、杏ちゃんの姿にびっくりするしかなかった。
「智樹君のファ~ンの子にちょっとね……。あはは……、格好悪いところ見られちゃったね」
杏ちゃんは、唇を噛み締めた。
これじゃ、トップモデルも台無しって感じだ。
私と杏ちゃんが話していると、部屋のドアが開いて智樹が顔を出した。
「なんだか、鈴音の声がすると思ったら。何やってるんだ?こんな所で……」
「おばさんが風邪引いて、私が代わりに着替えを持って来たの」
智樹に、着替えが入った袋を渡した。
「ふ~ん。真部先輩も一緒にか?」
智樹はチラッと、先輩を見た。
「智樹君……」
私たちが話していると、私の後ろから杏ちゃんが顔を出した。
「杏……!?何かあったのか?」
智樹も杏ちゃんの姿にびっくりしている。
「……智樹のファ~ンの子に……」
杏ちゃんは、やっと声を振り絞って言ったけど、その後は言葉が続かなくなった。
「とにかく、中に入れよ……。悪い、鈴音。またな」
智樹は、バタンとドアを閉めた。
ズキン!
また、胸の奥が痛む。
杏ちゃんは、部屋に入れて。私には入れって言ってくれないんだ……?
私はエレベーターに向かって歩き出した時、
「山城……」
先輩が、私の肩をポンと叩いた。
「あはは……。仕方ないよね。今は、杏ちゃんの方が一大事だし……」
また、私の瞳に涙が溢れた。
智樹は、汚れてしまった杏ちゃんに、シャワーを貸してあげるの?まさか、キス以上のこともー!?
頭の中が、妄想でいっぱいになる。やだ、考えたくない!
私の頬に、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。
「もう、何も考えるな!」
先輩が、私の腕を掴んでグイッと引き寄せると、抱き締めた。
「先輩……」
無意識のうちにまた、先輩の胸の中で泣くことしかできなかった。




