中編
「ふふふーん」
鼻歌を歌いながらもゼラは歩く。何処を歩いているかといえば、人間たちが整備した道をである。
自由気ままな性格をしているゼラは普通に森の外へと飛び出していく。
キノコの娘の中でも人間の前に姿を現す事も多く、ゼラの存在は人間の歴史の中で数多く目撃されている。
人間と進んでかかわろうとし、キノコの娘排除派の人間が居る町にだろうが平然と進み出る。危機感がない馬鹿なのか、よっぽど自分が人間たちに危害を加えられても問題がないという自信があるのか不明だが、ゼラはそういう存在である。
猫耳に、尻尾。
明らかに人間ではない見た目でありながらこんなに堂々と人前に姿を現すキノコの娘なんてゼラぐらいである。
時折すれ違う人間たちは当たり前のように道を歩く彼女を余りにも自然すぎて一度スルーして、次の瞬間驚いたように目を見開くというのは一度や二度ではない。
それでもそんな視線に気づいていないはずはないのに、ゼラは全く気にすることなくご機嫌そうに微笑んでいる。ゼラという少女は何処までもマイペースな少女であった。
「かーんてーん」
周りに人が居るのはお構いなしに歌いだす。
「寒天を求めて、今日も行く~」
しかもその場で即興で作られた謎な歌ばかりである。
街へと向かう途中で、「おい、キノコの娘が何故こんなところに居る!」と言い放つキノコの娘をよく思っていない人間とか、「よう、姉ちゃん遊ばないか?」とゼラの可愛らしい見た目目当てで話しかけてくる人間も居たものの、全て華麗に撃退したり交わしたりして進んでいく。
マイペースで、自分のしたいように生きているゼラは自分の関心のある人以外とはまず話さえもしない。その性格は気まぐれの一言で説明できる。
そうこうしているうちに町へと到着する。
人が大勢住まう町であるのもあって、その場には沢山の人間がいる。突然町の中へと足を踏み入れてきた人外の存在―――キノコの娘であるゼラを目を見開いて見て居る。
キノコの娘の中には人間と変わらない見目を持つものも多くいるが、残念なことにゼラはその耳と尻尾が明らかに人間ではない。キノコの娘が町にやってきたと、その町では大騒ぎになった。
「ねぇねぇ」
「え、は、はい。何の用ですか?」
「おいしい寒天スイーツ知らない?」
「し、知りません」
キノコの娘に一度もあった事がないようなそんな平凡な一般市民たちはゼラが屈託なく話しかけてくる事に戸惑いの様子を見せた。それも無理もない事であった。
幾らゼラが無邪気で、危害を加えなさそうな人柄に見えたとしてもその見目はキノコの娘である。人間とは違う存在と何も気にせずに交流を持てる者なんてほとんどいない。
ゼラは相手が委縮している事など関係なしに話しかける。それは彼女の性格ゆえだ。彼女は気まぐれで、自由で、相手がどう思っているかなどとお構いなしである。
そんな不用心で、警戒心のない彼女だからこそ、「おいしい寒天スイーツをあげよう」などという甘い誘いに乗るのも仕方がない事でもあった。
甘い言葉にささやかれて、寒天スイーツと飲み物をいただいた彼女は気づけば意識を失った。
目が覚めたのは牢獄の中である。しかし、そこで目が覚めたからといってゼラが動揺するかどうかといえば、そんなことはない。
「うーん、騙されたのかー。ま、いいか」
牢獄の中で目が覚めたというのに、すぐに現状を理解しての言葉がそれである。ゼラはそういう性格であった。
そもそもの話、身柄を押さえられているという事はゼラにとって別に脅威でも何でもないのである。キノコの娘は別に食事をとらなくても生きていける。ただとっているのは食べる事に楽しみを感じているキノコの娘だけである。
このままとらえられたところで餓死する恐れはない。
そしてたとえば人間たちがゼラの事を処刑しようとしたり、何らかの形で使おうとしたところで、それはそれで対処できるものである。
人間とキノコの娘は違う生き物である。
どちらの方が強いかといわれれば、圧倒的に後者である。
キノコの娘は、人外であり、化け物である。それは紛れもない事実なのだ。人間と酷似しているとはいっても、まったくもって別の生き物だ。
「ねぇねぇ、門番さん、私どうなるのー?」
にこにこと微笑みながら無邪気に牢獄の外に居る門番に問いかけるほど能天気なゼラである。そんなゼラを見て、門番は何とも言えない表情を浮かべている。
しかしそんな表情を見ようともゼラは、ゼラであり、あくまでもマイペースであった。
「―――お前を公開処刑する」
そんな風に宣告された時だって、ゼラは笑みを浮かべていた。相変わらずの、何を考えているかわからないような能天気な笑みを。
「あははっ、私を処刑台に立たせるとか面白いねー」
―――処刑台の上に立たされてもなお、笑みを浮かべる姿に見物人たちは息を飲んだ。