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前編

 「ふふふふ~ん」

 森の中に何処までも楽しそうな少女の鼻歌が響く。

 木の上へと登っていく白髪の少女は何処か野性的である。

 楽しそうに笑っている少女の目は、茶色の猫目。目の下には赤い化粧が施されており、顔立ちは猫のようだ。猫背、猫舌で、その髪は不思議である。頭頂部からはガサガサした茶色の髪があり、その下から太く美しい真っ白な髪が腰の下まで伸びている。

 頭頂部には猫耳が生えているが、そこに聴力があるかは不明で、本来の耳も髪に隠れて確認することはかなわない。

 チュープトップブラを着用し、その上から透明なオレンジ色のベストを羽織っている。スカートは茶色い生地を不規則に縫い合わせたもので、穴の開いた部分から白くてぷるぷるした尻尾が生えている。

 名を猫ノ舌 ゼラ (ビョウノシタ ゼラ)といい、キノコの娘の一人である。見た目も中身も『猫』を思わせる。

 性格も気まぐれで、自由奔放。

 目を離すと何処かにいってしまいそうな危うさを持つ。

 そんな彼女が何をしているかといえば、木になる果物を取ろうとしていた。食べる事が何よりも大好きなゼラはいつも何か食べている。それでいて太らない体質なのか、一切太らないというのだからダイエットしている女性陣の敵である。

 木の上を器用に移動して、赤い果物をとると、それなりの高さがあるというのにその場から飛び降りた。ゼラはキノコの娘の中でも運動神経がぴか一であった。

 「おいしぃ」

 その赤い果実を口に含むと、嬉しそうにゼラは微笑む。

 美味しいものを食べる事が幸福だと、その笑顔を見て居るだけでわかる。

 一つ丸々食べおえ、口元についた果実の汁をぺろりと舐めて、満足気な表情だ。


 それから楽しそうに笑いながら、その場を後にする。


 「ゼラ、ゼラ!」

 「なに? 笹子」

 ゼラは同じキノコの娘である毒島笹子に話しかけられ、そちらに視線を向ける。

 「これ、食べる?」

 そして差し出されたのは、スキムミルク&蜂蜜の寒天であった。それを見てゼラは目を輝かせた。

 食べる事が大好きなゼラであるが、最も好きなものは「寒天スイーツ」である。

 「わぁ、ありがとう。笹子! 嬉しい」

 ゼラは笹子の手に触れないようにその寒天の入った器をさっととった。笹子の手は熱しているため、触れると火傷をしてしまうためだ。

 「ゼラのために持ってきた! 喜んでくれて嬉しい!」

 そんなことを言っている笹子と共に、ゼラはのんびりとその寒天を頬ぶる。

 その顔に浮かぶのは、何処までも幸せそうな、破顔した笑みだ。目を輝かせて、嬉しそうに口元が上がっている。

 「おいしい」

 何度も、何度もその言葉を口にしながらもゼラはそれを食していく。

 食べ終えれば満足そうに微笑み、そして次の瞬間、一つの宣言をする。

 「よーし、私今からおいしい寒天スイーツを求めて旅に出るよ!」

 「ゼラ、よくそうやって旅に出るよね」

 「だって冒険って楽しいよ!」

 「前は美味しい林檎のデザートについての旅だったよね! 今度は寒天スイーツなんだ?」

 ゼラはこうやって突拍子もなく、旅に出るなどと口にして実際にそれを実行する。

 その場の思いつきの目的を掲げて、突然言い出すのである。大抵その目的は食べ物の事である。ゼラの煩悩は食べ物に向けられているといえた。

 おいしいものが食べたい。

 ゼラの思いは常にその方向に向かっている。

 「ゼラ! 私も行きたい!」

 「駄目。笹子は直ぐに色々焦がすでしょ。自分の力制御できるようになってからだよー、笹子が冒険に出れるのは」

 ゼラはお姉さんぶっているのか、笹子を諭すようにそんな風に言う。

 実際に笹子は自分の力の制御ができておらず、無自覚だ。だからしょっちゅう色々なものを焦がしたり、誰かを火傷させたりしてしまうのであった。

 「えー。私もいーきーたーい!」

 駄々をこねる子供のように笹子は声をあげるが、ゼラはそれを相手にしない。軽く笹子の事を交わすとゼラはその場を後にするのであった。


 そして、冒険に出るための準備を始める。


 ゼラは特定の家というものを持たない。シラフィーや千野、紫蜘などはそういう家を持っているが、ゼラは大抵睡眠をとるにしても野宿である。寧ろ外で寝る事があたり前だ。物に執着することもないゼラは、宝物などは森の中に隠していたりはするが、持ち物はほとんどない。

 なら、何を準備するかといえば森に住まうキノコの娘たちに「旅に出るよー」と伝えに行く程度である。

 ゼラはキノコの娘たちの事が大好きで、社交的なため、キノコの娘との交流は深いのだ。

 「美味しいもの見つかったら皆で食べようねー」

 などと言いながらゼラは飛び出していくのであった。









 

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