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中編

 「おーい、持ってきたぞー」

 千野が食べ物を分け与えるのは、何も人間にだけではない。

 同じキノコの娘である少女たちにだって、持っていく。千野はその明るい性格も相まって色々な人から慕われているキノコの娘だった。

 キノコの娘の中でもその社交性はトップクラスであるといえるだろう。

 そして千野はとある下半身蜘蛛、上半身人間というキノコの娘の中でもトップクラスに人外比率の高い少女の元へと作物を届けていた。

 というか、そのキノコの娘の場合人の前にはまず立ち寄れないのだから、千野から多くの人間の話を聞くのが楽しいらしい。

 「あ、ありがとう」

 「ふふんっ、お礼はいらないぞ。私が好きで持ってきているんだから!」

 千野はそんな風に笑って、お礼はいらないという。

 晴れやかな、太陽のように明るい笑みを千野は浮かべていた。

 そんな千野の笑みを見て、そのキノコの娘も楽しげに笑うのであった。

 「そうだ、紫蜘、今日は一緒に狩りでもしようよ!」

 「えっと、いいけど……」

 紫蜘と呼ばれたキノコの娘はその恐ろしい外見とは裏腹に、おどおどとした話し方をしていた。元々人見知りのある紫蜘は千野のような性格のキノコの娘に促されてようやく外出するといったいわゆるインドア派なキノコの娘であった。

 「でも、あの、私人間に見られたくないからあんまり人里に近づくのは嫌だな」

 「大丈夫! もちろん、人間が来ないようなところでやるに決まってるじゃんか!」

 下半身が蜘蛛という事もあり、紫蜘の見た目は人間にとって異形であり、刺激が強すぎる。それもあって人間に自身の姿を見られる事が彼女は嫌なのだろう。

 不安そうな彼女の言葉に、千野は心配しなくても大丈夫とにこにこと笑うのであった。

 友人である紫蜘の嫌がる事を千野が好んでするはずもなかったのだ。



 そして、二人は狩りをするために外に出た。



 千野は食べる事が好きだ。キノコの娘に食事は要らないけれど、食べる事は千野の趣味でもあった。作物を育てる事はもちろん、動物を狩る事さえも千野はする。

 キノコの娘の中には、フリゴのように食事をとる必要性を感じていない者もいるが、紫蜘は千野同様食事に魅力を感じているキノコの娘であった。

 「紫蜘との狩りも久しぶりだな!」

 にこにこと笑う千野はいつも通りの恰好である。しかも、これから動物を狩りに行くというのに手に持っているのはいつもの鍬である。普通狩りに向かうならば銃や弓、剣などを持つものだろうが、此処に鍬を持つ彼女に突っ込みを入れる存在は居ない。

 千野の隣を歩く紫蜘も武器らしいものは持っていない。というより、紫蜘の場合はその身体が武器といえる。

 森の中をご機嫌そうに鼻歌を歌いながら千野は歩く。正直その鼻歌は音程がずれまくっていて、聞いていて心地よいものではないのだが本人は楽しそうだ。紫蜘も千野のそれを止める気はないようで、その鼻歌はしばらく森の中に響いた。

 鼻歌が止んだのは、千野が動物を見つけた時だった。

 そこに居たのは猪である。体長約3メートルもある巨大な猪を見つけて、得物発見! と笑う千野は中々強者であるといえる。

 「紫蜘、いくよ!」

 「うん」

 突然の言葉と共に駆け出した千野を紫蜘は止めない。巨大な猪だろうとも、千野にとって危険なものではないと知っているからこそ、止めない。頷くと紫蜘は行動に移る。

 千野が右手に持つ鍬で猪に襲い掛かり、猪がその攻撃に傷ついているのを見ながらも勢いよく空気を吸う。そしてその口から吐き出すのは――――蜘蛛の糸である。粘着力のある得物を捕食するための蜘蛛の糸が、猪に向かって放たれる。

 蜘蛛と関連深いキノコの、キノコの娘であるが故に紫蜘はこういった能力も持ち合わせているのだ。

 狩りをするにはぴったりな、生け捕りをするには文句なしの能力である。

 もちろん、糸が吐き出される寸前には千野は糸に絡み取られる事がないように猪から離れており、意図で絡まれた猪を見て嬉しそうに笑みを浮かべる。

 「流石、紫蜘! 相変わらず凄いよね」

 「あ、ありがとう」

 「あとは私がやるね!」

 ほめられた紫蜘は照れたように微笑む。そんな紫蜘に対して、千野はそう言い放つと意気揚々と生け捕りされた猪に相変わらず鍬でとびかかった。

 そして、鍬で猪を絶命させると手にもつ鍬で”猪を解体”し始めた。

 「千野の、鍬も、相変わらず凄い」

 「これは私だけの特別な鍬だからね」

 感嘆の声を上げる紫蜘に千野は自慢げに、解体したことによって猪の血で穢れてしまっている鍬を見せて笑う。

 解体を終えると千野はそれを袋に包んで、紫蜘と一緒に並んで彼女の自宅へと向かうのであった。そして、紫蜘の家で猪の肉パーティーをして二人で笑いあうのである。

 狩りをして二人で食事をするのは、時々千野の気まぐれにより行われる事であった。



 ―――千野の鎌は狩りをするためにも、解体するためにも使われる。



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