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エイプリル

作者: 音無威人

「――私はな、世界は明日終わると思っているんだよ」

 俺の前に座る女は、優雅に紅茶を啜りながらそうのたまった。

 突然の発言に面食らいはしたが、俺はいつものように女の発言を咀嚼し、一つの結論にたどり着いた。

「いくらエイプリルフールだからってよ。そんな嘘に騙されるやつなんざいないと思うぜ」

「いやいやいやそういうわけではないのだよ。エイプリルフールであることはこの場合関係ない。重要なのは今日が四月一日という点だ」

 女は大仰に手を振り、呆れた声を出した。

 しかし重要なのはなぜ俺がこの場所に呼び出されたのかということである。

 もし本当に明日世界が滅びるとしても、俺にはどうでもいいことなのだ。


「今日が四月一日ということは明日は四月二日ということだ。大事なのは四と二の漢字だ。四の八の部分が枠から突き出るイメージをしてくれ。……できたか?」

「あぁ、できた。それで?」

「そこに二日の二の漢字を足してくれ」

「酉という漢字だな。んでそれがどうしたっていうんだ?」

「そうその漢字こそが明日世界が終わる理由なのだよ」

 何言ってんだこの女? 酉が終わる理由……?

 ……あーまさかそういうことなのか? いやいやいやまさか……な。

「お前まさか酉、つまりトリだから世界が終わるっていったわけじゃねえよな?」

「えっ? そのまさかだけど……何か文句でもあるのかい?」

「おおありだよ! そんなくだらないこと話すために呼び出してんじゃねえよボケ! 俺もう帰る……来て損したぜ」

 俺は紅茶を飲んで、女の反応を待った。

「待ちたまえよ、今日はエイプリルフールなんだよ。お茶目なジョークとして受け流してくれたまえよ」

「俺が席を立っていない時点で帰るって言葉、嘘って分かってんだろ。つまり受け流している証拠だぜ」

「見れば分かるよ見ればね」


「さて君を呼び出した本題に入るとしよう。といっても最初のセリフでほとんど言っているのだけどね」

 最初のセリフっていうと、『――私はな、世界は明日終わると思っているんだよ』だな。今日がエイプリルフールであることを考慮に入れると、世界は今日始まると思っていないということになるのか? それとも昨日か?

「あぁ、一つ言い忘れていた。嘘をついたのは明日終わるの部分だけだよ」

 つまり世界は今日始まると思っているか。

 ……はっ、どっちにしろ意味が分からねえなぁ。


「――そしてもう一つ、私は君が嫌いなんだ。意味分かるよね」

 嫌い、これは嘘になるから、私は君が好き。

 さっきの世界は今日始まると組み合わせて考えると……なるほどそれが用件か。よーく分かったぜ。

 回りくどい女だな。でも、まっ、


「奇遇だな俺もお前が大嫌いだ。俺とお前の関係は明日が終わりってことだな」

 ――俺もお前が好き、俺とお前の関係は今日始まる。


「そうだね別れることにしようか」

「あぁ」


 俺とお前は同時に時計を見た。今日が終わるまで後五分。


 終わったら真っ先に伝えてやるよ、愛してるって。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「世界は明日終わる」という、不穏な発言で始めておいて、丁々発止のやり取りになり、最後は温かい結末を迎える展開に引き込まれました。 敢えて、日付が変わる前で物語を終わらせている点も余韻深い…
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