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レイト・デイズ  作者: 有栖
第二章『七不思議』
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第七話『トイレの花子さん』

「はい、それでは皆さん、良い夏休みを送って下さいねー」


担任教師がそう言って、終業式の帰りのホームルームを締める。


「ほんじゃ、ウチら先にかえるわ」

「じゃあね白羽っ!また連絡するねー。」


弥呼子と青葉が白羽に手を振りながら教室を出る。それを見送りった怜斗が、教室に誰もいなくなったことを確認して白羽に話しかける。


「なあ白羽、七不思議だってよ!」

「そうだね、七不思議だね。」

「面白そうだな!!」

「…そう?」

「面白そうだなっ!!」

「なんで二回言ったの…?」

「なあなあ、ちょっと調べてみようぜ?ほかの霊と会ってみたいんだ!!」

「えー…。七不思議って、関わると死んじゃいそうだからやだ。」

「いいじゃねーかよ!ちょっと、ちょっとでいいから!!」

「うーん…。しょうがないなあ…。」

「サンキューっ!!」


怜斗が、今までで1番眩しい笑顔を見せる。


「う、うん。早く終らせちゃおっ!」

「おうっ!!」

「それで、何処にいけばいいんだろ?」

「俺は知らんぞ?」

「というかうちの学校の七不思議って何だっけ…?」

「知らんのかいっ!!」

「だって入院してたから噂ひとつも聞いてないし。ちょっとまって!」


白羽は、携帯電話を取り出し、先程別れた青葉にメールを送る。


『うちの学校の七不思議って何だっけ??』

数分でに返信が来る。凄まじい反応速度だ。

そのメール曰く伏吹高校七不思議は、

『トイレの花子さん』

『保健室の幽霊』

『横を泳ぐ少女』

『追ってくる足音』

『図書室に響く啜り泣き』

『深夜に響くピアノの音』

『鏡の中の少年』

だそうだ。

添付されたURLは、どうやら七不思議の内容がまとめてあるサイトへのリンクのようだ。


「じゃあ、上から調べよっか…。えっと、『トイレの花子さん』かあ…。」

「ベタだな。」

「ベッタベタだね。内容は――」

白羽は、サイトにアクセスし、噂の内容を読み始める。


***


ある夏の夜、部活の合宿で体育館に泊まっていた女子生徒が、教室に忘れ物をした事に気がついた。

少女は、暗く静まった学校に少し怯えながら、自分の教室へ向かう。

自分の教室で忘れ物を見つけて安心した少女は、不安からの解放感からか、ふとトイレに行きたくなった。

非常口の明かりのみがついている薄暗い廊下。雰囲気の違いに足音を忍ばせながら1棟の1階にある、教室から一番近いトイレに辿り着く。

電気をつけて個室に入ると、少女はふと後ろから視線を感じた。

明らかに何かが自分を見ている。気のせいとは思えないそんな感覚に襲われたが、恐怖で少女は後ろを見ることが出来ない。

急いで立ち去ろうと用を足し終えた瞬間、今までははっきりとついていた蛍光灯がチカチカと明滅する。


「ひっ!?」

少女は、驚いて後ろを振り返る。

「ア゛ァァ…」

と、少女の目の前に、血まみれの女が。

「オマエモ、コッチニコイッ!!!」

女の手が少女の首に伸びる。


「ッ!?キャアァァァァァァァァァァァァッ!!!」


堰を切ったような少女の悲鳴が学校に響き渡った。その後、彼女の姿を見た者はいない。


***


「…とまあこんな感じみたい。」

「なるほどな…。」


白羽による朗読が終わり、怜斗はその中で出てきた場所に向かうことを提案する。


「じゃあ、一棟のトイレに行ってみるか…。」

「凄い嫌になってきたよ…。」


白羽は、彼の頼みを聞いたことをかなり後悔し始めた。


伏吹高校は、大まかに言うと本棟に職員室や会議室、一棟に2、3年生の教室。ニ棟に1年生の教室などがある。


「ここか…。」

「ここだね…。」


話に出てきたのトイレの前に立ち、白羽は少し冷や汗が出ているのを自覚する。


「…入るよ。」

「おう。」


白羽は、ゴクンッとひとつ生唾をのみ、トイレに足を踏み入れる。

と、白羽の目に流し場の前に立つ女子生徒が映る。


「あら、生徒?みんな帰った気がするのだけれど…。」


と、不思議そうに白羽を見た後、ふと白羽の背後に目をやって、ギョッとしたようにその女子生徒は叫ぶ。


「えっ!?男っ!?男がっ!!ねえあなた、男が入ってきてるわよっ!」

「あれ?俺が見えるのか??」


怜斗は、女子生徒に近づいて顔を覗きこむ。


「あ、あの、大丈夫ですか?」


あまりの狼狽っぷり――もっとも女子トイレに男子が入ってきたようにみえるのだから当然だが。に心配になった白羽は、女子生徒の肩を叩こうとする。

だが、置こうとした手はスカッと女子生徒をすり抜けて空を切る。


「へ…?」


白羽の顔からサッと血の気が引く。


「おーい、俺が見えるのかー??」


そう言われながら、怜斗に顔を覗き込まれた女子生徒の顔もみるみる青ざめていく。


『キャアアアアアアアアアアアアアッ!!』


トイレに、二人の女子生徒の悲鳴が響きわたった。


『ハアッ、ハアッ…。』


全力で悲鳴を上げた少女二人は、肩で息をしながらも、とりあえず落ち着いた。

白羽は、目の前の少女をまじまじと見つめる。スラリと長い背丈に、整ったスタイル。光り輝くような長い金髪。彼女が着ている制服は、白羽のものと同じながらも、全く別の物を着ているのかと思うほどの完璧な容姿である。


「あの…あなた、幽霊ですか?」


白羽が恐る恐る尋ねる。


「う、うん、そうよ。と、いうことはその彼も?」

「ああ、俺も霊だぜ。」

「そ、そう。ビックリした…。てっきり、その子のストーカー何かかと…。」

「俺、宙に浮いとるが。」

「あ…。女子トイレに男が入ってくるっていう光景でそこまで意識が回らなかったわ…。冷静さを欠くとダメね…。」


なんとなくの状況確認が終わり、白羽は改めて単刀直入に尋ねる。


「あの、あなたはトイレの花子さんですか?」

「ええ、そうね。俗にそう呼ばれる存在よ。」


かなりあっさりと見つかった。トイレに入ったらいた。


「え、花子って感じじゃないな。」


怜斗が、少女の容姿をジッと見て呟く。


「ええ、そうね。私の名前は高山アリアよ。」

「あー、それなら納得。」


トイレの花子さんならぬ、トイレのアリアさんだったようだ。トイレのアリア。逆から読むとアリアのレイト。だがしかし、怜斗はアリアのものではない。そんなことは知っとるわっ!

それはさておき、白羽がアリアにさらに質問をする。

「アリアさんは概念体なんですか?」

「アリアでいいわ。敬語もいらない。そして、私はただの地縛霊よ。」

「そうなの?」

「ええ。でも、どうしてそんな確認を?」

「実は、知り合いの霊が概念体が出来たかもって言ってたから少し七不思議の調査をしてるの。」

「そうなの…。あれ?でも、概念体は結構前からいたわよ?」

『え?』


白羽と怜斗の声がハモる。


「そうね、私が霊になってから40年程たつけれど、私が一番新しい霊だもの。七不思議になったのは私が一番最後。」

「そうなんだ…。」

「ちなみに、どうしてお前は霊になったんだ?」

「怜斗君っ!!」


怜斗がアリアに問いかける。

霊になった理由という、地縛霊に聞くには失礼かもしれない踏み込んだ質問に、白羽は焦る。

そんな白羽をみて、ほのかに笑みを浮かべながらアリアは話し出す。


「いいのよ別に。もう40年も前の話だもの。私、見ての通りハーフなのよ。それでこのプロポーションじゃない?当時ハーフは珍しかったから同級生に妬まれて虐められてね。ほら、私モテたし?」


かなりの自信である。


「それで、ああ、なんかもういいやってなってトイレで自殺したのよ。」

「そう…なんだ…。」


重い話だが、さっぱりと話をするアリアに、白羽は何を言えばよいかもわからず、ただ相槌を打つ。


「そういえばこんな噂があるんだが…。これ、お前がやったのか?」


怜斗が、さっき話したトイレの花子さんの噂を話す。

「ああ、あの子ね。別に死んでないわ。ちょっと、脅かしたくなっちゃったのよ。それにヒレがついて広まっちゃたのね。あの頃はとても退屈だったから…。」


アリアは、自嘲気味に呟く。


「い、今もそういうことしてるの…?」


白羽が恐る恐る問いかけると、アリアは笑いながら答える。


「いいえ、してないわよ。今は結構楽しいから。」

「そう、なんだ…。」


白羽は、少しホッとしたように呟く。


「害はなさそうだな…。」

「そうみたいだね。お騒がせしてごめんねアリア。」

「全然いいわよ。久しぶりに人間と話ができて楽しかった。よかったらまた遊びに来て。」

「私、時々ここ使うんだけど…。」

「あら?じゃあこれからは覗かせてもらうわね?」「や、やめてよ!?」

「気分しだいね…。」

「えー…。」


七不思議のひとりであるはずの少女と他愛もない会話をすませ、『それじゃあ、また』と言いながら白羽と怜斗はトイレを出た。



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