第五話『登校』
「はあっはあっ…。あれ??」
遅刻しないように全力疾走していた白羽は、10分ほどで異変に気づき走るのを止める。
「なんだ、みんな歩いてるじゃないか…。」
「うん…。どうしてだろ…。」
時計を見ると、8時20分。
なぜかさっきと変わっていない。
「あれ?時間止まってる?」
「いや、多分見間違えたんじゃないか?」
歩けば間に合ったにも関わらず走ってしまった徒労感が白羽を襲う。
だがしかし、どのみち全力疾走でも間に合っていなかったことをここに報告しておこう。
「うーん…。そうなのかな…?」
白羽は、どこか釈然としないなからもとりあえず納得して息を整える。
と、周りの視線が自分に集まっていることに気がつく。
「白羽、みんな見てるぞ。」
「うん、そうだね…。どうしてだろ…?」
「いや、気づけよっ!!お前、周りから見たらただの独り言野郎だぞ!?」
「あ、そっか…。そうだよね…。」
「しゃべるの止めんのかいっ!!」
「あ…うん。ゴメン…。」
怜斗は、いくら言っても無駄であることを悟り、話しかけるのを止めた。
そして、白羽は久しぶりに私立伏吹高校の校門をくぐり、自分の教室である1年4組に向かう。
白羽が教室のドアを開くと、全員の目が白羽に向き、久しぶりのクラスメイトの登場に、一気に教室内のボリュームが上がる。
そんな中、ドアの1番近くに座っていた少女が、訝しげな表情で白羽を見る。
「…幽霊?」
白羽はドキッとしたが、相手を見てそのセリフに納得する。
「あ、弥呼子久しぶり!!」
「喋ったっ!?喋ったっ!!」
この発言で、白羽はてっきり怜斗のことを言ってるかと思った弥呼子の「幽霊?」という言葉が、自分に向けて言われていたことに気がつく。
なぜなら、弥呼子の目線はずっと怜斗ではなく白羽の方に向いているのだ。
それに気がついて、白羽は苦笑いする。
「もー、弥呼子!!私は幽霊じゃないよー!!生きてるよちゃんと!!」
「そうやね…。先生が一命を取り留めた言っとったもんね…」
ちなみに、紙戸弥呼子は占いやお祓いを専門としている一家の一人娘で、跡取りとして育てられている。
こういうのはなんだが、胡散臭い一家だ。
「ちゅーか、ウチも祓い士やけどまだまだ未熟やけん、霊は見えんからなあ…。」
「見えなくてお祓いができるのかっ!?」
祓い士(笑)の発言に、怜斗がツッコミを入れるが、届かないのが遺憾である。
「白羽っ!!」
弥呼子とそんなやりとりをしていると、ひとりの少女が白羽の方に駆け寄ってくる。
「あっ!青葉っ!!」
「白羽ぁっ!」
二音青葉。白羽の保育園の時からの友人だ。高校生にもかかわらず、背がかなり小さいのがやや残念ではあるが、活発な性格のムードメーカーである。
「青葉ぁ、相変わらずちっちゃいね!!」
「ちっちゃいゆーな!!ああ、でも白羽が生きててよかった…。」
「ごめんね…。心配かけて…。」
ふたりは、涙を流して再会を喜びあう。
「感動の再会ってやつだなあ。」
「いやあ、全くだな。こいつ、ずっと『白羽、白羽』って泣いてたんだぜ?」
怜斗の独り言に反応があった。それに驚き、彼ががバッとそちらを見ると、眼鏡をかけた知的そうな青年が浮いていた。
「おおうっ!?ビックリしたあ!!」
「お前も人に憑いてる霊か?」
「おう、八潮怜斗だぜ」
「渡瀬亮だ。そこの二音青葉に憑かせてもらってる。よろしく。」
「おうおう、よろしくよろしく!!」
頭上で霊二人が握手をしているのを、白羽は涙ぐみながらジトッと見つめ、
――ああ、なんか増えてる…。
と、少しため息をつくのであった。
久しぶりで、前よりもうるさい日常に白羽が身を委ねていると、始業のチャイムが鳴り担任の教師が入ってくる。
「はーい、みんな座ってー。あ、仁科さん久しぶりね。さあ、ホームルームを始めるわよー。」
朝のホームルームが始まり、白羽の学校生活は再び幕を開ける。
……何度も言うように今日は終業式だが。