第四話『アイの霊教室』
「ねえ、知ってる??七不思議」
「知ってる知ってる!!でもどうせ噂でしょ?」
「でも、○○ちゃんとか見たみたいだよ?」
「えー、やだぁ、ちょっと見たいかもー」
「もー、やめなよー」
「冗談だってぇ!」
『あはははっ!!』
***
「通学路歩くの久しぶりだーっ!!」
白羽が、軽くスキップをしながら道を歩く。彼女が目を覚ましてから一週間、退院してから初めての久しぶりの登校なのだ。
「まあ、終業式なんだけどな。」
周りに人はおらず、ただミーンミーンと蝉の声が響くのみのはずが、どこからか少年の声が白羽の耳に届く。
まあ、怜斗の声なのだが。
当然のように怜斗は未だに彼女に憑いている。
「そうだね…。一ヶ月ぶりの学校が終業式かあ…。」
「まあ、夏休みになるんだからテンション上げてこーぜ!!」
「私のテンションを下げたのは怜斗君だよ…。」
白羽の言い分はもっともだ。
「そういえば霊ってどういうものなの?私、結局よくわかんないんだけど…。」
歩きながら、白羽は怜斗にそんな質問をする。
「いやあ…。実は俺も霊になってそんなに時間が経ってないからよくわからないんだよなあ…。」
「えー、怜斗君使えない!」
「うわー、酷っ!!」
「――教えたことを忘れちゃうのアイはダメだと思うなあ…。」
不意に、白羽の知らない声が会話に割り込んでくる。
「え?」
「あっ!!霊になりたてだった頃の俺に霊について懇切丁寧に教えてくれた高鍋アイちゃんじゃないかっ!!」
「なんで説明口調なの怜斗君。」
そんなふたりのやり取りを見て、クスクスと笑いながらアイは怜斗に話しかける。
「もー、アイが折角いろいろ教えたのに、忘れちゃダメでしょ?」
「すいません…。」
ちなみに、アイの見た目は八歳ほどであり、怜斗の見た目は十五歳くらいである。そのため、アイに叱られている怜斗の図は、えも言えぬ残念さを醸し出している。
「まあいっか…。まだ何にも知らない白羽お姉ちゃんもいるし、ざっと説明しちゃうね?」
――名前…教えたっけ…?
白羽は不思議に思いながらも、まずは霊についての疑問をなくそうと、静かに聞くことにした。
「霊って大まかに分けると二種類あるの。一般的に言われる普通の霊は地縛霊とか浮遊霊とか。アイとか怜斗お兄ちゃんはこっちね。」
「アイちゃんは浮遊霊なの?」
「うん、困ったことがあったら呼んでね?すぐ飛んで行くから。」
「うん、わかった!ありがとうアイちゃん!」
このように初対面の霊と普通に会話をはじめるところに白羽の適応能力の高さが覗く。
「あともう一つは、人の噂とかが大きくなると、噂の通りの霊が生まれたりする。アイたちはそうやって生まれた霊の事を『概念体』って呼んでるの。」「噂から霊が生まれるの?」
「うん。霊っていうのはどれくらい知られてるかとか信じられてるかとかで力を持つから。アイたちもそう。アイ達を見れる人には話しかけたり触ったりできるけど、見えない人には何もできないの。」
「でも、見えなくても声を聞くとか金縛りとかあるよ?」
「霊を信じてるとか、身近に接する機会があった人ならそういう事も起こるんだよ。夢を通して霊的なものと交信するなんてこともあるしね。」
「ふーん…。霊にもいろいろあるんだねぇ…。」
「うん。とりあえずアイたちの基本知識はこんな感じだよ。」
「なるほどね…。教えてくれてありがとうアイちゃん!」
「ううん、白羽お姉ちゃん達のためだもん。わからないことあったらいつでも聞いてねっ!!」
「うんっ!」
こうして、白羽に新しい霊の知り合いができた。少なくとも怜斗よりは役に立ちそうである。
と、アイが少し真顔になって怜斗の耳元に寄っていき小声で話しかける。
「気をつけてね、怜斗お兄ちゃん。」
「了解了解。まあ何とかなるだろ。」
白羽にはふたりがなんの話をしているのか聞こえなかった。
「ふたりとも、なんの話を――」
「ねえ白羽お姉ちゃん。時間危ないんじゃない?」
「え?」
白羽の疑問を遮るようなアイの指摘を受けて彼女が腕時計を見ると、時刻は8時20分。
始業まで残り10分であり、遅刻しそうな時間であった。
「うわっ!!急がなきゃっ!!」
白羽は学校に向かい走り、怜斗は浮きながら白羽に追随する。
「頑張ってね、ふたりとも。」
ニコニコと手を振りながらアイは白羽たちを見送った。