第三話『Sloppy white wing』
「誰かっ!!白羽が起きてっ!大丈夫って!!記憶喪失がっっ!!」
白羽の母親が、よくわからないテンションでよくわからない事を叫びながら、病室を出ていく。
誰か、まずは彼女を精神科へ。
ともあれ、病室には、白羽と怜斗が残された。
白羽は未だ頭上で浮いている怜斗を見据えて、再度質問をする。
「あなたは、誰?」
「あれ、さっき言ったんだけどな。」
「お母さんが錯乱してて聞こえなかった…。」
「あはは、なるほどなー。」
怜斗は、苦笑いしながら再び自己紹介をする。
「俺は、八潮怜斗だ。宙に浮いてるからわかるかもしれないけど幽霊だぜ!」
「やっぱり幽霊…?」
白羽が訝しげな声を出し、予想はついていたが胡散臭いものを見るような目で怜斗を見る。
「いやいや、俺、浮いてんだよ?」
クルクルと空中で回る。
「ほら、透けれるし。」
体を半透明にする。彼の体ごしに天井が見えた。気持ち悪い。
「幽霊ねー…。」
「信じる気になったか?」
「まあねー…。」
返事はしたものの、白羽は、全く信じることができない。余りにも日常からかけ離れている。
しかし、ここでとどまっていても全く話が進まないと考えて、白羽は話を進めることにした。
「でも、私霊感とかないよ??」
「あー…。実は霊感っていうのは霊と波長が合ってるかどうかっていう事なんだよな…。お前は事故で死にかけたから霊との波長が合ったんだよ。」
そこまで説明し、怜斗は少し考えて言い方を変える。
「つまり、お前は死にかけたせいで、霊的なものを感知する部分がチューニングされたって感じだ。」
「へえ…。」
少し納得した顔をして、白羽はもう一つ重要な質問をする。
「で、怜斗君はどうして私に憑いてるの?」
怜斗は少しギクリとした顔をして言う。
「あ、いや、霊と波長があってるってことは霊に憑かれやすいってことでもあるんだよ。だから、他の霊に憑かれる前に、枠を取っちまおうと思って…。」
「どうして、枠をとらなきゃいけないの?」
「憑いてない霊は自分の力でエネルギーを確保する必要がある。だけど、人に憑けばそこからエネルギーを補充できんだよな。つまり…。」
怜斗は一瞬間を作り、ドヤ顔で言う。
「霊だって楽したいんだ!」
「ふーん…。」
白羽は、少しふに落ちない顔をしつつも頷く。
「憑くのは私に悪影響あるの?」
「悪い霊にでも憑かれない限りないぜ?」
「じゃあ、怜斗君が悪い霊じゃないっていう保証は?」
「ないな。」
開き直ったような様子で胸を張りつつ怜斗は言う。
そんな彼を見てひとつため息をつき、窓から外を眺めながら呟く。
「まあ、いっか。別に憑いてても…。」
だが、白羽は白羽で抜けているのかおおざっぱな性格なのかはわからないが、怜斗の存在をあっさりと許容する。ここで許容できるのが、彼女の良さでもあり、悪さでもあるのだろう。将来悪い人に騙されないか心配だ。
「先生っ!!起き上がった大丈夫な記憶喪失が白羽でっ!!」
「はいはい、お母さん落ち着いて…。」
再翻訳された英文のような言語を話す母親と、諭す先生の声が聞こえてくる。
その母の言葉を聞き、白羽と怜斗は母親がどうして飛び出していったのかを思い出した。
「あー、勘違いされたままだったな。」
「ままだったね…。」
二人は、顔を見合わせて苦笑いする。
「白羽っ!!記憶喪失!!」
母親が大きな音を立てながら扉を開ける。
「違うの、お母さんっ!!違うのっ!!」
「はははっ!頑張れー。」
こうして、人と霊との奇妙な日常は始まる。まずは母親の誤解を解くことから始まりそうだ。