第二話『ハハハ・ハイテンション』
「よかった、白羽…。本当によかった…。」
「うん、うん…。」
涙を浮かべながら語りかけてくる母親に多少の意識を向けながらも、白羽のそれの大部分は、やはり宙に浮いている少年の方に注がれていた。
少年は、空中でアクロバティックにぐるぐると回っている。
「いやー、最初に見た時は『死んだな、こいつ死んだな』とか思ったけど、よく生きてんなあお前!!こんな奇跡を見れるとは…。憑いて来て正解だったわ…。」
少年は回りながら早口で喋る。
ちなみに縦回転だ。トリプルアクセルではない。もし、横回転であっても3回転半は既に突破しているからどちらにせよトリプルアクセルではないが。
「お、どうした?もしかして自分が生きてるのに感動して声も出ないか?よかったなあ本当に、はははっ‼」
少年はそう言うが、白羽が喋れない理由は間違いなく浮いている少年のせいである。呆気に取られるというヤツだ。
そんな様子に、母親が白羽が自分ではないどこか別の場所を見ているのに気がつく。
「白羽、何かあるの?大丈夫??」
白羽の上では少年が更に回転の難度を上げ、体操競技の回転シーンだけを繋いだ動画を見ているようだ。縦方向、横方向、ひねりと、自由自在に回転している。
「う…ううん、何でもない…。」
そう言いながらも、白羽の目は少年に釘付けだ。
「お、どうしたそんなに俺を見つめて。恋しちゃったか。恋しちゃったな??」
少年は、『冗談を言ったぜ!!』という顔をしながら、『こーいーしちゃったんだー』とか歌っている。
―何、あれ…。人間?幽霊…?いやそれより…。
物語の中にでてくるような宙に浮く少年を見ながら、聞きたくなったことを我慢できなくなった白羽は夢見心地で呟く。
「あなた…だれ?」
『え?』
白羽の呟きに二人が反応する。
「俺か、俺は八潮怜斗だ!!見てのとおり幽霊だ!!ちょっと憑いて来させてもらったぜ!!」「白羽っ!!私がわからないの?お母さんよ、おかあさん!!白羽あああああああっ!!」
「え…何…?」
ひとつの声と、ひとつの叫びが同時に発せられ、当然のことながら叫びが勝る。
母のハイテンションな声にかき消され、怜斗の自己紹介は残念ながら白羽の耳には届かなかった。誠に遺憾である。