第一話『デイズの始まり』
「ん……」
一人の少女の目が開く。
覚醒した彼女は、朦朧とした意識の中、状況を確認するために頭を回す。
『そっか…私、車とぶつかって…』
少女の脳裏に、迫ってくる車の映像が浮かぶ。
だが、脳裏に浮かんでいるそれは車と言うよりは、トラックだろう。
再び事故の恐怖が蘇り、実際にトラックが向かってきているわけではないが、目を閉じてしまう。
『私…生きてる…』
事故の瞬間によぎった『死』。
命を失う確率の方が高かったような状況だ。
生きているのが奇跡だろう。
そのことを自覚し、彼女は喜びを覚える。
病院特有のツーンとした薬品の臭いが、彼女の嗅覚を刺激する。
「白羽?白羽っ!!」
彼女の耳に、母親が自分を呼ぶ声が聞こえた。
自分を心配しているような声音に、まだうまく出せないながらも声を出して応える。
「おかあ…さん?」
自分が思った通りの言葉を発し、それを自分の耳で聞けている。
そのことが、さらに彼女に生きていることを実感させる。
ジワッと浮かんでくる安堵の涙。ギュッと目を瞑ると一筋の涙が頬をつたう。
「白羽っ!!よかった…」
「大丈夫、だよ…おかあさん…」
母親が握っている手を握り返し、微笑みながらもう一度目を開く。
彼女の目に真っ白い天井と泣いている母親の顔と、"宙に浮いている"少年が映った。
「おっ、起きたか。よっ!!」
少年が、満面の笑みで手を振りながら話し掛けてくる。
白羽は、自分が生きているのかわからなくなった。