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スイート・スイーパー  作者: やまじゆう
鉄組壊滅作戦編
8/18

鉄組壊滅作戦8

  総介は、鉄組の『定例総会』を目処(めど)に、虎之介のボディガードとして、彼に付き添う事となった。

  まずは、社長付きのボディガードとして、恥ずかしくない様に、身なりを整えることから始めた。

  当然の様に、聖理奈と涼音が見立て役としてついて来た。

  まずは、アル〇ーニでスーツを選び、リー〇ルで靴を選び、美容院ではボサボサ頭をサッパリとカットをしてもらい、次いでに無精髭も剃り、何故かメンズエステまでも行く羽目になってしまった。

  当然ながら、それらの費用は全て虎之介のポケットマネーだ。

  そして総介は、新しく生まれ変わったのである。


  「あの……、どうでしょうか?変ですか?」


  総介は、ドレスルームからバツが悪そうに出て来た。


  「……本当に、総ちゃん?」


  「……ウソ!?」


  聖理奈と涼音の2人は、目を見開いた。

  総介は、元々顔の造りは悪くはないのだが、無精な性格のせいか、外見に対しては、今まで全く気を遣っていなかったのである。

  下ろしたての黒いスーツにピカピカの革靴。そして、バッチリとキメた髪型で総介は、現れたのだ。

  総介の余りの変わり様に、2人は不覚にも見とれてしまった。


 ・

 ・

 ・


  社長業は、とても忙しい。

  朝、出社したと同時に会議。

  移動の車中でも会議。

  昼・夕食時でも会議。

  とにかく、一日中会議の連続で、休む間もない程の忙しさだ。

  結局この日、仕事が片付いたのは、真夜中の2時を過ぎていた。


  「どうだ、一日を通しての感想は?」


  総介と虎之介は、24時間営業のファミリーレストランへ来ていた。


  「いやー、正直に言って、社長さんの仕事が、ここまで忙しいものだとは思いませんでした。それに……」


  総介は、店内を見回した。


  「私が、いつもステーキや懐石料理を食べているとでも思ったかね?」


  虎之介は、接待や商談以外では、こうした24時間営業のファミリーレストラン等で食事を摂る事が多く、本当に時間がない時には、コンビニエンスストアのおにぎりで済ませる事もあるという。

  これでは、涼音を構ってあげる事も出来ない。


  「今回、君達のお陰で、涼音との距離が、少し近付いた様な気がするよ。ありがとう!」


  総介は、深々と頭を下げる虎之介に対し、心なしか恐縮してしまった。


  「ところで総介くん、この件が終わったら……、私専属のボディガード兼秘書をやってもらえないだろうか?」


  突然のヘッドハントだ。


  「いずれは、ウチの婿養子として君を迎え入れたい。行く行くは、私の後を継いで、会社を任せたいとも思っている。どうだろうか?」


  総介は、虎之介に相当気に入られた様だ。

  確かに、条件としては魅力的だ。今の生活を180度変えるチャンスでもある。

  その時、総介の脳裏に、ある女性の言葉が浮かんだ……。


『まだ、多くの人が……、貴方の助けを求めているのよ……。だから……』


  彼女は、総介の人生に多大な影響を与えた女性だった。

  総介は、しばらく考えた後、こう言った。


  「僕の助けを必要とする人達が、まだいる様ですから、その話は、申し訳ありませんが、お断り致します」


  今度は、総介が頭を下げた。


  「いや、いいんだ!忘れてくれ。済まなかったな」


  虎之介の未来予想図は、敢えなく崩れ落ちてしまった。


 ・

 ・

 ・


  大徳寺邸周辺では、茉里華の部下の捜査員達が、6人体制で大徳寺涼音の警護をしていた。

  自宅待機3日目に突入し、涼音のストレスはピークに達していた。


  「あーっ、ヒマヒマヒマヒマヒマーーーッ!」


  16才の涼音は、遊びたい盛りだ。元々、アウトドア派の彼女にとって、『自宅待機』というのは、拷問に等しいのである。

  学院には、『短期休学届』を提出したが、逆に学院側からは、授業を受けられない分の課題(宿題)をゴッソリと頂いたのである。

  自宅待機の間は、聖理奈が、家庭教師を兼ねて、涼音の勉強を見ていた。


  「ねぇ、聖理奈さん。ちょっと、休憩にしようよ!」


  始めて10分も経たない内に、このザマだ。つくづく、我慢を知らない娘である。


  「ダメよ!この課題をクリアしてからね!」


  聖理奈も負けじと言い返す。


  コンコン……!


  丁度その時、メイドが、涼音の部屋のドアをノックした。


  「お嬢様。神崎美里亜様という方が、お見えです」


  メイドの後から美里亜が、バスケットケースを持って現れた。なぜか、中身は空である。


  「お姉様ぁ!」


  涼音が、美里亜に飛び付いた!

  聖理奈は、ホッと一息ついた。

  美里亜は、手作りのチーズケーキを差し入れにと持って来たのだが、来る途中、捜査員達に配って来たのだという。


  「ごめんなさいねぇ……。私ったら、何をしに来たのか分かりませんよねぇ……?」


  実際に2人共、暇を持て余していたのは正直な所だ。

  特に涼音は、憧れの『お姉様』に会えた事が、よほど嬉しいのか、大はしゃぎだ。

  3人は、他愛もない世間話に花を咲かせた。


  「総介、どうしてるかな……?」


  何の脈絡もなく、涼音が呟いた。


  「きっと、テンパってるわね。ああいう堅苦しい場所に慣れてないから、総ちゃんて」


  「むぅ……!」


  総介の事なら、何でも知っているかの様な聖理奈の口振りに、涼音は、思わず頬を膨らませた。


  「2人共、総介さんの事が、好きなんですねぇ?」


  涼音と聖理奈のやり取りを眺めていた美里亜が、口を挟んだ。

  2人の顔が、急に紅くなった。


  「そ……そう言う美里姉は、どうなのよ?」


  聖理奈が、お返しとばかりに尋ねた。


  「えぇ、大好きですよぉ。総介さんとは、同じ屋根の下で暮らしていますからねぇ!」


  「ええーーっ!!」


  意外にあっさりと衝撃発言をする美里亜に、涼音は驚いた!

  何かと語弊があるが、要するに美里亜所有のマンションの一室を総介が、借りているというだけの話なのだ。

  こうして、何気ない日常が、何事も無かったかの様に過ぎ去って行った…。


 ・

 ・

 ・

 

  鉄組による『定例総会』を3日後に控えた日の夜。

  『奴等』が動いた……。

 

  一台の黒いワンボックスカーが、漆黒の夜道を走り抜ける。


  「間もなく、目標地点へ到着します」


  運転手の男が、後部座席の男達に知らせた。

  車内の男達は、運転手を含めて全部で6人。

  全員、黒い作業服に黒い目出し帽、暗視スコープ内蔵のサングラスを着用している。

  リーダー格の男が、作戦の細かい段取りを説明している。

  彼等の正体は、泣く子も黙る……いや、泣くヤクザも黙る『K-Team』のメンバーである。

  『K-Team』とは、鉄眞悟の懐刀・海堂勇が指揮する私設特殊工作部隊の名称だ。

  拉致・暗殺・破壊テロ活動等の実行部隊として、鉄組に敵対する組織は勿論、自衛隊・警察・政治家に至るまで恐れられている存在だ。

  『K-Team』は、元々自衛隊出身の海堂が5人の部下達と共に結成したフリーランスの戦闘部隊であり、世界中の戦地を転々として来た。いわゆる、『戦闘のプロ集団』だ。


  「……作戦は以上だ。作戦開始と同時に時計を合わせろ!」


  『K-Team』が乗ったワンボックスカーは、大徳寺邸から100メートル程離れた路地裏脇に停車した。

  丁度その時、海堂の携帯電話に非通知着信が入った。


  『ミスター海堂、私だ。マスターだ』


  虎之介の暗殺依頼を一方的に断っておいて、今更、何の用だろうか?

  海堂は、不機嫌な態度で電話に出た。


  「今、忙しい。手短に話せ」


  『君に忠告だ。くれぐれも、《カマエル》を起こさぬ様、気を付ける事だ』


  マスターは、それだけ言うと、電話を切った。


  (《カマエル》……、確かに聞いた事があるフレーズだ。しかし、何の事だ?何が言いたいのか?……だが、今はそんな事を気にしている暇はない)


  「作戦開始だ!」


 ・

 ・

 ・


  虎之介は、珍しく仕事を早めに切り上げ、車で自宅へと向かっていた。勿論、総介も隣に同乗している。


  「何だか、楽しそうですねぇ」


  後部座席で、鼻歌混じりのリズムをとる虎之介に、総介は尋ねた。


  「当たり前だよ。4日振りに可愛い娘に会えるというのに、喜ばない親がどこにいる?」


  相変わらずの親バカ振りだ。

  車が駅前通りを過ぎた時だった。総介の携帯電話のバイブ音が車内に響いた。着信の相手は茉里華である。


  『総介、どこにいる!?』


  茉里華は切迫した様子だ。

 

  「茉里華さん、どうかしたんですか?」

 

  『よく聞け、総介!』


  彼女の話では、涼音の警護の為に大徳寺邸周辺に配置した捜査員達との連絡が、急に途絶えたのだという。

  更に、聖理奈の携帯電話は、電波状況が悪くて繋がらないらしい。


  『総介、すぐに社長宅へ向かってくれ!社長の警護は、私が引き継ぐ!……総介!?』


  後部座席のシートに置かれたままの総介の携帯電話を虎之介は、拾い上げた。


  「警視さん。総介君なら、たった今、飛び出して行きましたよ」


  総介は、大徳寺邸へ猛ダッシュで向かった!

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