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スイート・スイーパー  作者: やまじゆう
鉄組壊滅作戦編
17/18

鉄組壊滅作戦17

 

  『こちら12班。現在21階に到着した。大至急、医療班をここへ呼んでくれ。重傷者が多すぎる!』


  チーム毎に、各フロアへ突入した武装機動隊員から、到着の知らせが続々と入って来た。


  『こちら8班。22階だ。こちらにも医療班の増援を頼む!』


  武装機動隊が、各担当フロアに着いて、まず目にした物は、おびただしい量の血と人の手足のパーツだった。

  どれも鋭利な刃物で切断されており、それらの手には拳銃が握り締められていた。

  それらの状況から察すると、動きを封じ、拳銃を撃たせまいとする意図が感じられる。

  他にも、アキレス腱を切断された者、背骨や腰骨を砕かれた者、失血性によるショック症状を引き起こしている者までいる有様だ。

  鉄組の構成員達は、『死』までには到らないものの、想像を超える程の痛みと苦しみの中でもがいていた。

  まるで、この世の地獄を味わうかの様に……。

  この余りにも凄惨な現場を目にした隊員の中には、思わず口を押さえてしまう者さえいた。

  武装機動隊の後に続いて来た茉里華は、そんな光景を横目に、更に上階を目指した。

  医療班の増援については、予め美里亜が、茉里華に増援要請を促していた為、迅速な対応が出来た。


  『茉里華姉様、現在、総介さんは35階をクリアしました。こちらにも早く医療班を急行させて下さい!』


  美里亜は、35階の大会議場の惨状を茉里華に伝えた。


  「分かっている。今、エレベーターの復旧作業中だ。作業終了次第、現場へ急行させる!それより、涼音はどうだ?」


  美里亜は、40階『超VIPルーム』の映像を確認した。


  『大丈夫です。気を失っているだけで、特に外傷は見当たりません。でも、お相手の方が……』


  国松は、総介による階下からの警告射撃の恐怖からか、既に精神が崩壊していた。


  (総介の奴、余計な仕事を増やしおって……)


  かつて、『デリーター』として殺戮の限りを尽くしてきた総介にしてみれば、『半殺し状態』とは、社会復帰としては目覚ましい進歩であると言えよう。


  もっとも、相手にとっては、『死』よりも辛い結果となってしまったが……。


  『こちら10班。26階にて『K-team』の1人、藤田元(ふじたはじめ)を確保。更に隠し部屋を発見。中には女性の死体が……』


  茉里華の元に続々と報告が入って来る。


 ・

 ・

 ・


  「社長、屋上のヘリポートにヘリを用意致しました。私の部下の操縦で羽田へ向かい、そのままチャーター機でお逃げ下さい」


  海堂は、眞吾を国外へ逃がし、再起を図る為の段取りを組んでいたのである。


  「海堂、俺の右腕としてお前も来い!」


  海堂は、眞吾の言葉に対して暫く考えた後、こう言った。


  「私は『けじめ』を着ける為に残ります。6年前の自分に対する『けじめ』を!」


  海堂は6年前、『カマエル』と呼ばれた少年を目の当たりにしながらも、その恐怖で足が(すく)み、手が震え、何も出来なかった事をずっと後悔していたのである。

  そして、これから対峙するであろう男を倒す事こそが、エクス=レイをはじめとする死んでいった『非政府軍』の仲間達への最高の手向(たむ)けになるのだと信じている。


  「先に行って、待ってるぞ」


  眞吾は、海堂の肩を掴んでそう言うと、屋上への階段を上って行った。

  その姿を見送った海堂は、背中に(くく)り付けた日本刀を鞘ごと引き抜くと、階段を阻む様に座り込んだ。


 ・

 ・

 ・


  40階『超VIPルーム』では、総介が撃ったハンドレールガンの弾丸に目が眩み、ベッドの上で気を失っていた涼音が、意識を取り戻した。


  (……あれ、私……どうしたのかな?……たしか、銃で脅されて、口を開けたら光が……)


  涼音は、気を失う以前の記憶を徐々に取り戻していた。


  (……まだ、目がチカチカする。……誰か、……居るの?)


  涼音は、瞬きを繰り返しながら、ぼやけた視界の中の人影に、少しずつ焦点を合わせていった。


  「……!」


  「遅くなって済みません。助けに来ましたよ、涼音さん」


  涼音の前には、総介が、いつもの笑顔で立っていた。


  「何で……」


  「はい?」


  「何で、もっと早く来ないのよーーーっ!!」


  大きな瞳を涙で滲ませた涼音は、(はだ)けた胸を(あらわ)にしたまま、総介に飛び付いた。


  「総介総介総介総介総介総介総介総介ーーッ!!」


  涼音は、総介の胸を強く抱き締め、総介の名を連呼し続けた。そして……


  「涼音さ……むぐ……!?」


  何と、勢い余った涼音は、総介の唇にキスをしてしまったのだ!


  「コラッ、お前達!何をしている!?」


  部屋の入口に茉里華が、仁王立ちでこちらを見ていた。

  2人は咄嗟に離れたが、その様子はしっかりと見られていた。

  気が気ではないのは、総介の方だ。

  未成年で、しかも半裸状態の涼音と不可抗力とはいえ、キスをしている現場を茉里華に目撃されたのだから、後で大目玉を食らう事は必至だ。


  「涼音、無事だったか?」


  茉里華は、涼音の顔を撫で回し、傷の有無を確認した。

  一足遅れて、医療班が駆け付けた。


  「それと、アイツも頼む」


  茉里華は、部屋の隅で独り怯えた様子の国松を指差し、彼の手当てをも命じた。


  (『日本経済界の首領(ドン)』と呼ばれた男も、こうなってしまうと、お終いだな……)


  茉里華は、涼音と国松の手当てを医療班に任せ、自分と総介は眞吾を追う為、復旧作業が終了したエレベーターに乗り込んだ。


  そんな2人の姿を不安げな表情で涼音は見送った……。


 ・

 ・

 ・


  2人は、エレベーターで一旦50階まで上り、そこから専用階段で屋上へ向かう事にした。


「……茉里華さん。先程のアレは、不可抗力というか、涼音さんが勢い余って……」


「そんな事は分かっている。……大体、お前は脇が甘いから、付け入られるのだ。しっかりしろ!」


 茉里華は、ご機嫌ななめだ。

  エレベーターは50階に到着し、ドアがゆっくりと開いた。

  2人が立つ数十メートル先の階段では、海堂が日本刀を床に立てて座り込んでいた。


  「……やっと来たか」


  海堂は、ゆっくりと立ち上がり、右手に握った日本刀の鞘を抜いた。

  『名刀・村正(むらまさ)』。この青白く光る刀こそが、海堂の愛刀である。


  「鉄組・破壊活動実行部隊『K-team』リーダー・海堂勇。B級犯罪者……」


  茉里華は、拳銃を構えながら、ゆっくりと海堂に近付いて行った。

  すると突然、海堂は村正を上段の構えから一気に振り下ろした!

  その直後、茉里華は、空気を斬り裂く程の衝撃波を一身に浴びた。


  (な、何という闘気……。この男、化け物か!?)


  「用があるのは、後ろの男の方だ。女は失せろ!」


  (くっ……!)


  茉里華は、後退(あとずさ)りをすると、総介の肩に手を置いた。


  「気を付けろ。奴は、今までの連中とは格が違うぞ」


  「はい、大丈夫ですよ」


  総介は、茉里華の手を握り、満面の笑みでそう答えた。


  「茉里華さん。少し下がっていて下さい。すぐに終わりますから」


  そう言うと総介は、両腰の円月輪(チャクラム)に手を掛け、慎重に前へ出た。


  「6年振りだな。プレトリア基地では世話になった。『殺戮の天使カマエル』!」


  茉里華は、海堂の言葉に一瞬反応したが、総介は眉一つとして動かす事はなかった。


  「いいえ、3日振りです。あなたが、聖理奈さんを車から蹴落とし、彼女に大怪我を負わせてから、3日が経ちました」


  「……そうかい?」


  海堂は、村正を上段に構え、気を集中させた。


  「償っていただきます!」


  その瞬間、総介は目にも止まらぬ素早さで飛び出した!

  海堂も総介のスピードに合わせ、村正を一気に振り下ろした!

  総介は、その一太刀を紙一重で躱し、海堂の懐へ飛び込んだ!


()ったぁ!」


  海堂は、それを待っていたかの様に、返しの二太刀目を総介の首に目掛けて振り上げた!

  海堂は、勝利を確信した!

  しかし、振り上げた筈の村正が無い。それどころか、両腕すら見当たらない。

  何と総介は、海堂が二太刀目を振り上げる寸前に彼の両腕を切り落としていたのだ。


  「……俺の完敗だ」

 

  海堂は、両腕から鮮血を吹き出しながら膝を落とし、自らの首を差し出した。


  「……くれてやる」


  そんな海堂を尻目に、総介は屋上への階段を上り始めた。


  「何故、()らない?あの日、お前は何百人もの人間の命をその手で奪ったではないか!何故だ!?」


  総介は、階段の途中で立ち止まり、後ろを振り返った。


  「……もう、人を殺すのは飽きました」


  それだけ言うと、総介は再び階段を駆け上って行った。

  海堂と茉里華は、今の総介の言葉に対し、何故か納得してしまった。


  (確かに、あんな台詞は奴にしか言えんな……)


  「神崎だ。大至急、医療スタッフを50階へ上げろ。両腕切断の重傷者だ。一刻を争う!」


  茉里華が海堂の横を通り過ぎる際、海堂は、口を開いた。


  「神崎茉里華といったな。社長は、お前を許さないだろう。せいぜい、気を付ける事だ……」


  「……肝に命じておこう」


  そう言って、茉里華は総介の後を追った……。

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