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スイート・スイーパー  作者: やまじゆう
鉄組壊滅作戦編
16/18

鉄組壊滅作戦16

  突然、眞吾の携帯電話が鳴り出した。

  眞吾は、一瞬びくつくも、一度深呼吸をした後、携帯電話を手に取った。

  液晶画面には、『浅光』の名が表示されていた。


  「浅光!一体どうなってる!?警察は、何をしてるんだ!」


  眞吾は、電話に出るなり、大声で怒鳴り散らした。


  『……やはり繋がっていたか』


  「誰だ?」


  眞吾は、この女の声に聞き覚えがあった。


  『忘れたか、私の声を?……まぁ良いさ。ところで、貴様の腹心の浅光は、逮捕されたぞ』


  眞吾は、思い出した。この声の主は、彼が手掛ける『ヤクザビジネス』を(ことごと)く潰してきた張本人であり、天敵と言うべき女、『神崎茉里華』の声である事を!


  「……神崎茉里華。これは、お前の仕業だったのか!?」


  『さあな。これから、武装機動隊が突入する。悪い事は言わん。速やかに投降しろ』


  武装機動隊と言えば、犯罪抑止を目的とした警察の軍隊と言っても良い程の集団だ。

  そんなモノを投入するという事は、警察が鉄組と本気で戦争をするという意味だと、眞吾は捉えたのである。


  「上等だぁ!神崎茉里華ぁ。こうなったら、鉄連合と警察の全面戦争じゃあ!覚悟しとけよ、神崎茉里華ぁ!」


  眞吾の頭の中は、戦争モードに突入した。しかし、彼は未だ全国の関連組織が、既に当局によって摘発を受けている事実を知らなかったのである。

  当然、《殺戮の天使》についても……。


  『10分だけ猶予をやる。気が変わったら、連絡しろ』



  茉里華は、最後に慈悲の言葉を残して電話を切った。

  鉄眞吾については、最高裁の即日判決により、『死刑』が既に確定していた。


  つまり、現場に於いて、『速やかに刑を執行せよ』という意味でもある。

  但し、現場の指揮官(警部以上の階級に限る)の配慮次第では、刑の執行を延期する事が出来る。

  場合によっては、最高裁で『再吟味』となるが、余程の事がない限りは減刑になる事はない。

  眞吾は、今更、警察や茉里華の恩赦に報いようなどという気は、全く持っていなかった。

  彼は、本気で警察との戦争を考えていたのである。

  眞吾が、大会議場へ戻ると、親分衆が一斉に詰め寄って来た。


  「鉄総帥、一体どうなっているんだ?このビルを武装機動隊が包囲しているというが……」


  親分衆の1人が、携帯テレビの画面を眞吾に見せた。


  「眞吾君、ボディガードとの連絡が着かないのだが……」


  「鉄さん、何がどうなっているのか、説明してもらおうか?」


  眞吾に対して、状況説明を求める声が、あちらこちらの親分衆から上がっている。

  眞吾は、それらを「やれやれ……」と言わんばかりの表情で懐から拳銃を取り出し、天井に向けて発砲した。

  室内は、一瞬にして静まり返った。


  「諸君、これより我々は、警察と全面戦争に突入する!」


  室内は騒然となった。


  「ち……ちょっと待ってくれ!そんな、急に言われても……」


  1発の銃声が鳴り響いた。

  親分の1人が、頭から血を流しながら、その場に倒れた。

  眞吾が手にする拳銃の銃口から煙が漂っている。


  「諸君らは皆、このまま警察の手に落ちたとしても、極刑は免れないであろう。だが、我々にはまだ、警察に対抗し得るだけの戦力を握っている」


  眞吾の演説に熱が籠る。

  その時だった。ドアをノックする音が聞こえた。


  「誰だ?」


  眞吾は、銃口をドアへ向けた。

  それを見た親分衆もまた、拳銃を取り出し、ドアの方へ向けて構えた。

  重厚なドアがゆっくりと開き、見知らぬ男がヒョコッと顔を出した。


  「どうも、『公認スイーパー』です」


  余りにも、緊張感のかけらもない男の出現に、一同は唖然とした。


  「警視庁の御依頼で、このビルの『掃除』に参りました」


  その直後、眞吾は引き金を引いた。

  総介は首を傾け、弾丸を躱した。


  「な……バカな!」


  確かにその通りである。

  射撃を得意とする眞吾にとって、30メートル程度の距離で標的を撃ち抜く事くらいは、造作もない。

  しかし、この『公認スイーパー』は、いとも簡単にそれを躱したのである。

  続いて親分衆が、一斉に引き金を引いた。

  総介は、咄嗟に頭を引っ込めて、一度ドアを閉めた。

  親分衆による一斉射撃は、弾切れになるまでしばらくの間、続いた。

  防音・防火・防弾対策が施してあるドアは、表面上、穴だらけの蜂の巣状態だが、貫通にまで至った様子はない。

  再びドアがゆっくりと開いた。と、同時に総介が、素早く部屋の中へ入り込み、手前の2人の手首を拳銃もろとも切り落とした!

  更に総介は、2つの円月輪(チャクラム)を巧みに操り、飛び交う銃弾を掻い潜りながら、親分衆の手首や腱、脊髄等を断ち切って行った!

  場内は、文字通り『血の海』と化し、親分衆の叫び声が、辺りに響き渡った。


 ・

 ・

 ・


  茉里華は、腕時計に目を向け、約束の10分を過ぎた事を確認すると、武装機動隊に鉄興業本社ビルへの突入指示を出した。


  「武装機動隊各員に告げる。突入せよ!」


  茉里華の一言で、ビルを包囲していた200名の武装機動隊員は、一斉に全ての入口を破壊し、ビル内への突入を決行した。

  程なくして、茉里華の元に地下駐車場へ突入した隊員からの第一報が届いた。


  『地下3階、駐車車両のトランク内から、手足を縛られた男を発見。照合の結果、破壊活動実行部隊《K-team》メンバー、大東修(だいとうおさむ)と判明。身柄を確保した。以上』


  破壊活動実行部隊『K-team』は、国際B級テログループとして、警察も兼ねてからマークをしていた。

  彼等は、世界中の賞金首に関する情報等を取り扱う、IPO(国際懸賞機関)の評価では、ランクBに挙げられているテログループだ。


  「いきなり、大物をツブしていたとは……。さすがだな、総介」


  茉里華の口元が緩む。

  茉里華は、武装機動隊の後に続いて、ビル内へ侵入した。


 ・

 ・

 ・


  「クソッ、何だってんだ!?」


  眞吾は、総介に向かって、何発もの銃弾を放ったが、総介が円月輪(チャクラム)を盾代わりに(かざ)し、全ての銃弾を弾き飛ばした。

  場内は、大量の血と熱気のせいか、赤く霧掛かっていた。

  眞吾は、親分衆を血に染めながら迫り来る『公認スイーパー』に対し、少なからずの恐怖を感じていた。


  「クソッ、この俺があんな奴にビビってるっていうのか!?」


  眞吾は、拳銃を握った震える手をもう片方の手で押さえ込んだ。


  「社長、こちらへ」


  背後から海堂が眞吾の手を取り、隣の部屋へ引き入れた。


  「クソッ、クソッ、クソーッ!海堂、奴は何者だ?」


  「彼はかつて、『殺戮の天使カマエル』と呼ばれた、元『デリーター』です」


  眞吾は首を傾げた。世界中の裏社会の情報をリークしている筈の眞吾だが、未だかつて、『デリーター』等という者の存在を聞いた事はなかった。

  かつて、世界中の戦地を渡り歩いた海堂もまた、風の噂で耳にした程度で、その存在の真偽については知る由もなかった。

  6年前のあの日までは……。


 ・

 ・

 ・


  今尚、人種間での争いが絶えない『南アフリカ共和国』。

  白人至上主義を唱えるアレキサンドル=ラザ大統領率いる『政府軍』と人種融和政策を提唱する革命家・エクス=レイ率いる『非政府軍』との間で紛争が続いていた。

  しかし、それら2つの勢力は、それぞれに2つの大国の後ろ盾があったのである。

  政府軍には米国、非政府軍には中国が付き、『南ア紛争』は二国間の『代理戦争』へと発展していった。

  そんな中、海堂達『K-team』は、中国側からの要請で、非政府軍に参加する事となったのである。

  元々、エクス=レイは軍閥出身で、国軍の実権を事実上掌握していており、国軍は非政府軍に付く形となった。

  対する、国軍を寝取られた側の政府軍は、民間人や傭兵が主体となった所謂、寄せ集めの軍隊でしかなく、その兵力の差は誰が見ても歴然であった。

  国内外の誰もが、非政府軍の勝利を確信した、その日……。

  非政府軍の本拠地・プレトリア基地が、僅か数名からなる特殊部隊の奇襲により、壊滅したのである。

  幸いこの日、『K-team』は、物資補給の為、基地を離れており、辛くも難を逃れていた。

  海堂等は、基地からの緊急通信を受けて、急いで駆け付けたものの、プレトリア基地は基地としての機能を既に失われていたのである。

  非政府軍の本拠地として、常に数百人の職員や兵士で賑わっていた筈のプレトリア基地には人影もなく、閑散としていた。

  海堂達は、基地内を探索した。

  基地内は、凄惨たるものだった。通路や階段、出入り口付近には、兵士や職員の死体が転がり、その殆どが鋭利な刃物によって、首や手首を切り落とされていたのである。

  死体は、ブロック毎に殺害方法が異なる事から、敵はそれぞれが特異な武器を装備していると認識出来た。

  一通り探索を終えた海堂は、『統合作戦指令室』へ辿り着いた。

  ここでは、各部隊への作戦命令を一手に行っている。言わば、非政府軍の頭脳と言える場所である。

  海堂は、拳銃を握り、中を覗いて見た。

  そこには、100人以上のオペレーターや警備兵の『死体の山』が、文字通りに積み重ねられていた。

  そして、その頂上には、エクス=レイの頭部が置かれていたのである。

  海堂は、驚愕の余り、声が出なかった。

  すると、どこからともなく歌声が聞こえて来た。

  それは、海堂にとっては懐かしく、馴染みのある歌だった。

  かつて、『スキヤキ・ソング』として、世界中に広まった日本の歌謡曲だった。

  その呟く様な歌声の主は、死体の山の中腹付近に立っていた。14~5才位の少年だった。

  彼は、両腰に真っ赤に染まった円月輪(チャクラム)をぶら下げていた。

  その時、海堂は、この死体の山を作った張本人が、あの『スキヤキ・ソング』を流暢な日本語で歌う少年なのだと確信した。

  少年は、海堂の気配に気付いたらしく、ゆっくりと『山』を下りて来た。

  海堂は恐怖の余り、足下が震え、身動きをとる事が出来なかった。まるで、『蛇に睨まれた蛙』である。


  「おーい、カマエル。行くぞ!」


  仲間の呼び声で、少年は、その場を立ち去った。


  「……見逃して、くれたのか?」


  海堂は、その場にへたり込み、しばらく立ち上がる事が出来なかった……。


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