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スイート・スイーパー  作者: やまじゆう
鉄組壊滅作戦編
14/18

鉄組壊滅作戦14

  涼音救出の為、40階を目指す総介は、26階で鉄組の破壊活動実行部隊『K-Team』のメンバーの1人、狙撃手(スナイパー)の《F》と相対していた。


  (相手も、なかなか良い腕ですね。これでは、迂闊(うかつ)に近付けませんねぇ……)


  総介は、暗闇の中から放たれる弾丸を(かわ)すだけで精一杯だ。

  生体感知システムのお陰で、狙撃手(スナイパー)大凡(おおよそ)の位置を把握してはいるが、敵も暗視スコープで、こちらの動きを把握している限り、間合いを詰められない総介の方が、圧倒的に不利である。


  「美里亜さん、聞こえますか?頼みがあるのですが……」


  《F》は、四度目の正直とばかりに、ライフルの照準を総介に合わせ、引き金に指を掛けた。

  その瞬間、フロア内の照明が、一斉に点灯した。


  「しまっ……!」


  暗視スコープを着けた《F》の視界を眼球が潰れる程の眩しい光が襲った。


  「ど……どこだ!?」


  目が眩み、うろたえながらも、銃を構える《F》の背後には、満面の笑みを浮かべた総介が立っていた……。


  ガツッ……!


 ・

 ・

 ・


  国松十郎太。元日本銀行総裁。現在は、大手経営コンサルタント会社最高顧問の肩書きを持つ。

  そして、彼にはもう一つの顔がある。それは、裏社会に於ける経営相談役(コンサルタント)としての顔だ。

  数年前、裏社会への法律による規制が、一段と厳しくなり、裏社会の経済は表社会同様、不況の真っ直中にあった。

  彼は、表社会が不況に陥ると、人々はアングラ商品に(すが)り付くという習性を利用して、裏社会の経済を立て直したのである。


『裏経済会の首領(ドン)』と呼ばれる所以(ゆえん)だ。

  ちなみに、諸外国マフィアとの連携を保ち、情報を共有しながら、互いの利益を追及するといった『ヤクザビジネス』を提案したのも、国松であった。

  そんな、齢70を超える国松の楽しみの1つが、『少女との戯れの時間』である。

  特に、ロリータと呼ばれる様な身体的に未成熟な少女を好み、彼女達の苦痛に歪む表情に対し、至福の悦びを感じている。

  国松は、毎年この部屋で眞吾が用意した『生け贄』を食しているのであった。

  食された少女達は、その後、当然の様に『処分』されてしまう。

  そして、今年の『生け贄』は、大徳寺涼音である。

  国松は、涼音を包むピンク色の衣装の胸ボタンを1つずつ、丁寧に外していった。

  すると、白く艶のある柔肌が(あらわ)になった。

  お世辞にも、豊かであるとは言い難い胸の膨らみを小さなブラジャーが包んでいる。

  国松は、その小さなブラジャーに指を掛けた。


  「やめ……て」


  涼音のか細い声に、国松は更に興奮度を上げた。

  そして、フワフワのレースのスカートの中に手を入れ、柔らかな太ももを撫で回したのである。

  時折、涼音の身体が、『ピクッ』と反応する。


  「口を開けてごらん」


  涼音は、口を閉じたまま、首を横に振った。


  「さあ、口を開けるんだ!」


  国松の口調が荒々しくなる。

  それでも、涼音は、(かたく)なに拒み続けた。


  カチャ……


  国松は、眞吾から手渡された銃を懐から取り出すと、涼音の口元に銃口を当てた。


  「口を開けなさい、涼音ちゃん」


  涼音は、唇を震わせながら、ゆっくりと口を開けた。

  国松はそのまま、銃口を涼音の口の中へ押し込み、銃身をゆっくりと前後に動かし、それを繰り返した。


  「いい子だ……」


  涼音の大きな瞳から、大粒の涙が頬を伝わって落ちてきた。


  (お父さん……、総……介……)


 ・

 ・

 ・


  総介は、コンクリートの柱に《F》を(くく)り付けた後、27階を目指した。


  『総介さん、待って下さい。奥の部屋に生体反応があります』


  総介は、フロア内を見渡したが、部屋どころか入口らしき扉さえも、見当たらない。


  「中の様子は、どうなっていますか?」


  『その部屋には、監視カメラが設置されていないらしく、中の様子が分からないんですよ!』


  総介は、足下に違和感を感じ、探ってみると、床下へ潜る為の蓋を見つけた。

  多くのオフィスフロアは、床下に配線を張り巡らせている為、床を底上げしているのだ。

  総介は、蓋を開けて床下を覗いてみた。

  どうやら、床下を通って、隣の部屋へ行く事が出来る様だ。


  『隠し通路ですねぇ……』


  美里亜は、総介のサングラスからの映像とビルの見取り図とを照らし合わせた。

  床底には、何かを引き摺った跡と血痕と思われる付着物が付いていた。

  総介は床下に潜り、隣の部屋の床蓋に手を掛け、ゆっくりと押し開けた。

  その瞬間、モワッとした生暖かい空気と共に鼻を(つんざ)く程の悪臭が、総介を取り巻いたのである。

  部屋の中は真っ暗だ。総介は、手探りで裸電球を手に取り、スイッチを入れた。


  「……!!」


  総介と美里亜は、この世の地獄と呼ぶに相応しい光景を目にした。

  部屋の真ん中には、大量の血液が染み込んだ拘束具付きの手術台が置いてある。

  壁には、有りとあらゆる『拷問器具』が掛けられており、血しぶきと思われる跡がくっきりと残っていた。

  更に、床一面にも大量の血痕が広がり、所々でヌルッとした感触が足に伝わる。

  この部屋で何が行われていたのか、考える余地もない……。


  『こんな事って……。う……』


  美里亜は、被害者の悲鳴が聞こえてくる様な感覚に襲われ、思わず口を押さえてしまった。


  「誰か……いるの……かい?」


  総介の足下から、力のない(かす)れた声が聞こえた。

  そこには、虚ろな目で天井を見上げる美香が、全裸で腹から血を流しながら横たわっていたのである。

  彼女の爪は剥され、手の指の関節は反対に折り曲げられ、紫色に腫れ上がった顔面は、変形する程に殴られていた。

  更に、身体中は血と(あざ)色に染まり、性器も(ただ)れて、長い時間に渡り、激しい暴行を受けたと思われる。

  その上、腹部を銃で撃たれていた。


  『総介さん、この方はもう……』


  美里亜は、医者の立場から見ても、彼女には手の施し様がない事を総介に伝えた。


  「安心して下さい。助けに来ましたよ」


  総介が優しく手を差し延べる。


  「アンタ……、そ……総介さん……だろ?本当に……来たんだね……。涼音ちゃんの……言った……通りだ」


  美香は折れ曲がった指で、総介の手をなぞった。


  「涼音さんの事、ご存じなのですか?」


  「あの子は……、アンタが助けに……来るって……、信じて……たんだよ。早く……行ってあげ……な」


  美香は、そう言い残すと、ゆっくりと瞼を閉じた。


  「お父ちゃん……、お母ちゃん、また……3人で、暮らそ……ね……」


  そして、美香は静かに息を引き取った……。


  「……」


  総介は、美香の亡骸に向かって深く頭を下げた。


  「美里亜さん。先を急ぎましょう。道案内をよろしくお願いします」


  『はい……』


  美里亜は総介に対し、何故か今、違和感を感じた。

  それが一体何なのかは分からない。総介の口調も相変わらず穏やかだ。

  総介が、この女性の死に対して、少しは感情的になるかと思ったが、意外にあっさりとした様子なので、逆に拍子抜けした程だ。

  しかし、美里亜が感じた違和感は、決して思い過ごしではなかった。

  この時、既に総介からは、『笑顔』というリミッターが取り外されていたのであった……。


 ・

 ・

 ・


  警視・浅光五郎の表情は青褪めていた。

  鉄興業本社ビル35階大会議室で行われている『定例総会』の模様が、音声のみとはいえ、警察専用一般回線を通じて、PEPT(警察官専用携帯端末)に流されているのであった。

  PEPTは、警察官と職員全員に支給されている為、少なくとも警視庁管内全域に広まっているに違いない。


  「おや、浅光警視。顔色が悪い様だが、何か心配事でも?」


  同僚想いの茉里華が、心配する。……素振りを見せた。


  「な、何でもない。神崎警視は、自分の持ち場へ戻りなさい。指揮官の私に従いなさい!」


  ムキになる浅光に対し、茉里華は薄笑いを浮かべた。


  「失敬な!何を笑って……」


  ピーピーピー……


  突如、PEPTの緊急呼び出しアラームが、あちらこちらで一斉に鳴り出した!

  PEPTの液晶画面には、以下の内容文が表示されていた。


  『本日、14時00分を以て、本件の捜査指揮権を浅光五郎警視から神崎茉里華警視へ移行する。各捜査員は、神崎警視の命令に従え。』


  しかも最後には、『藤堂俊介警視総監』の署名まで付いている。


  「何~ッ!?」


  この令状に面を食らったのは、浅光だ。

  彼は、この数時間、茉里華より優位に立てた事でこの上ない優越感に浸っていたのだ。

  『天国から地獄』とは、正にこの事だろう。

  浅光にはこの後、更なる地獄が待ち受けているのであった……。

  茉里華は、PEPTを『マイク・一斉送信モード』に切り替え、口元へ運んだ。


  『私は、警視庁広域犯罪対策本部の神崎警視だ。只今を以て、広域指定暴力団・鉄組に対する壊滅作戦を実行する!』


  その直後、地鳴りと轟音を響かせながら、数十台の大型装甲バスが、ビルの周りを取り囲んだのである。

  バスの中からは、武装機動隊が姿を現し、瞬く間に鉄組包囲網が完成したのであった。

  その光景を目にした浅光は、茉里華に怒鳴り声を上げた。


  「神崎警視。鉄組壊滅作戦なんて、聞いてないぞ!」


  「当たり前だ。お前ら『癒着組』には、秘密にしていたからな!」


  「な……!?」


  浅光は、血相を変えて逃げ出そうとしたが、その前を茉里華が立ち塞いだ。

  そして、側に居た2人の警察官に、浅光の確保を命じたのである。


  「は……放せ!私が何をしたと!?」


  「背任罪、横領、恐喝、殺人未遂及び殺人幇助(ほうじょ)……。どれがいい?」


  そう言って、茉里華は、浅光の内ポケットから携帯電話を取り出した。


  「あと、身分詐称もな?」


  その携帯電話は、浅光が鉄組との連絡用に偽名で契約した物だった。

  浅光は、観念したのか、警察官に支えられるも、その場にへたり込んでしまった。

  その頃、全国各地では、それぞれの県警本部が主体となり、鉄組関連組織・団体・企業に対し、大規模な『ガサ入れ』が行われ、逮捕者が続出したのであった。

  もはや鉄組は、その本体のみを残して壊滅の危機に瀕していた……。

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