表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スイート・スイーパー  作者: やまじゆう
鉄組壊滅作戦編
12/18

鉄組壊滅作戦12

午前9時00分。とある国際ホテルの一室にて……。

一組の男女がテーブルを挟んで、何やら打ち合わせの真っ最中だ。

男性の方は、高級ブランドのスーツを着こなし、初老と呼ぶにはまだ若いが、落ち着きのある紳士だ。

そして、女性の方は……。


「何故、この話をわざわざ私に?……茉里華ちゃん」


男は微笑んだ。


「警察内部に彼等との内通者がいます。それに、警察組織内で信用の於ける人物と言えば、藤堂(とうどう)警視総監……、貴方だけですから。叔父様」


藤堂警視総監は、茉里華達の父親の弟……、つまり叔父にあたる人物だ。

ちなみに『藤堂』は、茉里華達の祖母方の姓である。

茉里華は、鞄の中から数十ページに綴ったリストを取り出し、藤堂へ手渡した。


「これは?」


「警察内部で、鉄組と癒着のある警察官及び職員のリストです」


茉里華は、鉄組への捜査が、いつも後手にまわっている事に疑問を抱き、以前から独自で内務調査を行なっていたのだ。

神崎グループに属する調査会社からセキュリティサービスに至るまで、あらゆる手の限りを尽くして出来たのが、このリストだ。

そして、鉄組と癒着のある警察関係者の数は、約4千人。何と、警察官を含む警視庁全職員の一割弱にも及ぶのだ。

情報漏洩により、捜査が後手にまわったのも、捜査妨害に遭ったのも、警察内部にこれだけの『敵』がいたせいだと納得せざるを得ない。


「……それで、君の眼から見て、その『公認スイーパー』の実力はどうなんだい?」


「実力は、私が保証します!」


茉里華は、自信を持って答えた。


「……分かった、検討してみよう」


藤堂は、茉里華が用意した資料の1つ、『甘井総介国際公認スイーパーに関する公式データ』に目を通していた。

そこには、『Eランク』の文字がはっきりと記載されていた。



都内有数のオフィス街。平日は、サラリーマンやOL達が、所狭しと行き交う街だが、今日に限っては、人影すら見当らない。

大企業の本社ビルが軒を連ねる中、『黒い巨塔』の異名を持つ、鉄興業本社ビル内で、本日『定例総会』が行われるのだ。

全国の鉄組系列の親分衆が、このビルに集結する事もあり、警視庁は、朝から半径2キロメートル圏内に於ける民間人及び民間車両の侵入を禁止している。

但し、事前に送付されたIDカードを有する定例総会関係車両については、通行が許可されている。

各検問所では、警察官による厳しいチェックが行われている。


「これはこれは、警視庁のアイドル、神崎警視ではありませんか!」


茉里華に対し、ライバル心を燃やす警視浅光(あさみつ)は、嫌味を言いながらのご登場だ。


「この現場は、私が指揮を執るので、部外者にうろつかれると大変迷惑なのですが……」


相変わらず、(しゃく)に障る物言いである。しかし、茉里華は気にする様子もない。


「私にも、何か手伝わせて頂きたいのだが、……宜しいか?」


「構いませんが、くれぐれも邪魔だけはしないで下さいよ」


(くくく……。私の完璧な指揮能力を目の当たりにして、せいぜい悔しがることだな。神崎茉里華!)


嫌な男だ……。


早速、茉里華は東の検問所がある第2ゲートへ向かった。

第2ゲートは、湾岸地区・千葉・埼玉・横浜方面からの車両が多く、4つのゲート中、通行車両の数が一番多い。

そのせいか、警察官達による車両チェックは比較的緩いのだ。

警察官達は、車内及びエンジンルームとトランクルームを一通り確認し、サクサクと数をこなしていた。

その頃、第2ゲートの車列の中に、茉里華が用意した高級外車に乗った総介の姿があった。

総介の車が、ゲート到着まであと1台という時に、誘導係の警察官の所へ茉里華が歩み寄り、何やら話を始めた。

話の内容は聞き取れないが、男の警察官が茉里華に何度も頭を下げ、恐縮している様子が見受けられた。

そして、男の警察官は、茉里華に促される様に、その持ち場を離れたのである。

恐らく、後の事は自分に任せて、彼に休憩を取るようにとの指示を促したのだろう。

通常、ゲート通過の際の車両チェックは、三人一組で行われる。

1人が運転手のIDカードと車内を確認し、残りの2人はエンジンルームとトランクルームを調べる。

所要時間は、1台に付き1分と掛からない。

今、前の車がゲートを通過した。いよいよ総介の番である。

携帯スキャナーを手にした茉里華が、近付いて来た。


「IDカードを確認します。お手数ですが、トランクルームとエンジンルームを開けてください」


落ち着いた口調で指示を促す茉里華に総介は、予め彼女から貰ったIDカードを提示した。

後部座席の床に、円月輪(チャクラム)の一部が見えていたが、茉里華は見て見ぬ素振りだ。

茉里華は、IDカードをスキャンすると、他の警察官達に気付かれない様に、カードと一緒にサングラスを手渡した。

トランクルームとエンジンルームを調べていた警察官達が、『異常無し』を告げると、総介は車を発進させ、第2ゲートを通過したのである。

手筈通りだ。

これで総介は、誰にも怪しまれずに、『黒い巨塔』への侵入に成功したのである。

後は、茉里華からの合図で『掃除』の開始だ。

総介は、待機する間、茉里華から手渡されたサングラスを着けてみた。

『システム起動……』の文字が、半透明で映し出される。


『聞こえますか、総介さん?』


美里亜の声だ。


「み、美里亜さんですか!?このサングラスは……?」


『総介さんのお役に立てたらと思い、茉里華姉様に頼んでお渡ししたのですが……、ご迷惑でしたか?』


「いいえ、助かります。大事に使わせてもらいますよ!」


地下でも、通信感度は良好だ。

この鉄興業本社ビルは、神崎のグループ会社が設計から施工までを手掛けた為、設計図や設備等の資料を美里亜は、簡単に手に入れる事が出来たのである。

更に、美里亜は同ビル内のセキュリティシステムにリンクして、監視カメラの映像チェックを可能にしたのだった。


『これから、総介さんがいる地下3階の見取り図を送りますね?』


総介の視界には、このフロアの見取り図が、半透明で映し出されている。

これに、生体感知システムのリアルタイムデータを重ね合わせると、このフロアのどこに人が居るかを瞬時に把握出来るのだ。

現在、このフロアには、中心に青い点印が1つ確認出来る。それ以外に、赤い点印の表示がないので、このフロアには総介しか居ないという事が判る。



正午。鉄興業本社ビル35階の大会議場では、全国から鉄組系列組織の長達が、一同に会する『定例総会』が始まろうとしていた。

まず、『裏経済界の首領(ドン)』と呼ばれる国松十郎太(くにまつじゅうろうた)がステージに上がり、開会の言葉を述べた。


『現在、日本経済は出口の見えない闇の中にある。しかし、それは『表社会』の経済に限っての事。実は、『裏社会(アンダーグラウンド)』の経済は、大変に潤っているのだ!』


つまり、不況が長く続くと、人々の心は(すさ)み、麻薬・性・博打・暴力等のアングラ的な物に(すが)る傾向がある。

それは、諸外国でも同様であり、現在各国で起きている紛争や抗争の多くは、先の見えない不況が原因とされている。

鉄組との癒着の深い大手機械工業社は、秘密裏に武器の製造を行い、それを鉄興業を通じて世界各地の紛争地域へ輸出しているのだ。

当然、鉄組は公的機関との癒着もあるので、ノーチェックで『商品』の輸出が可能なのだ。


『……以上の事から、今の日本経済を支えているのは、紛れもないアングラ経済である事を念頭に置き、今日の『定例総会』を成功させて頂きたい!』


場内は大喝采だ。



「フン!元日銀総裁が何を言う!」


モバイルパソコンから美里亜のシステムにリンクし、今の国松の演説を聴いていた茉里華が、吐き捨てる様に言った。

その頃、美里亜は、自宅地下研究所のスーパーコンピューターから、鉄興業本社ビルのホストコンピューターにアクセスし、1300台ある監視カメラの映像を一台一台チェックしていた。


「涼音さんは、いったいどこに居るのでしょうねぇ……?」



演説を終えた国松は、ステージの袖に立つ眞吾の所へ歩み寄った。


「相変わらずの名演説振り、痛み入ります」


眞吾は、蒸しタオルを手渡すと、国松はそれを手に取り、顔を拭いた。


「会長、例のモノをご用意して御座います」


「年々、質が落ちている様だが……?」


「ご心配には及びません。今年は、極上モノです。万が一お気に召されなければ、昨年同様、処分なされても結構です」


そう言うと、眞吾は拳銃を国松に手渡した。

国松は、眞吾の側近に案内されながら、40階の『超VIPルーム』へと向かった……。


「ちゃんと、撮っておけよ。ジジイとガキの絡みは、マニアに高く売れるからなぁ!」


眞吾は、不敵な笑みを浮かべ、国松の後ろ姿を見送った…。

国松は、眞吾の側近と共に、『超VIPルーム』の前に立った。


「それでは、心行く迄お楽しみ下さい」


眞吾の側近は、その場を後にした。

国松は、期待に胸を膨らませながら、その重厚な扉をゆっくりと開けた……。

部屋の真ん中の大きな円形ベッドの上には、ひらひらピンクのロリータ衣装に身を包んだ少女が座っている……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ