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スイート・スイーパー  作者: やまじゆう
鉄組壊滅作戦編
10/18

鉄組壊滅作戦10

  涼音は、暗闇の中にいた。

  何も見えない、何も聞こえない、漆黒と静寂の中。

  ここは、涼音だけの世界。誰も入っては来られない、涼音1人だけの世界。

  やがて、一筋の光が射し込む。

  その光は次第に『手』の形となり、涼音の目の前で広げている。

  涼音は、恐る恐る手を伸ばし、『光の手』を掴んだ。

  それは、何とも暖かくて心地良い『手』だろうか?

  握っているだけで、安心できる……。


  「大丈夫ですか、涼音さん?助けに来ましたよ」


 ・

 ・

 ・


  (夢……?)


  (何で、あんな奴の夢なんか……)


  涼音は、周りを見渡した。どうやら、マンションの一室のようだ。


  「痛ッ……!」


  薬の効力が、まだ切れていないせいか、頭の中がズキズキとする。

  取り敢えず涼音は、外へ出る為に玄関へ向かった。

  しかし、ノブを回しても、鍵が掛かっていてドアは開かない。

  しかも、鍵は外側からしか開けられないタイプの様だ。


  「どうして、こんな……」


  涼音は、ドアに(もた)れ掛かった。


  「アンタも、親の借金の肩代わりに連れて来られたのかい?」


  涼音の目の前には、30代半ばと思われる女が立っていた。

  涼音は、唖然とした。


  「私は美香(みか)。アンタは?」


  「涼音……です」


  美香は、涼音の手を取って居間の方へ連れて行った。

  10畳分位ある居間には、他に2人の女性が座ってテレビを観ていた。


  「2人共、新しい子が来たよ!……ほら、アンタも挨拶しなさい!」


  「す、涼音です……」


  涼音は、軽く頭を下げた。

  美香は、この状況を今ひとつ理解出来ない様子の涼音に対し、本人が置かれている現状の説明を始めた。

  まずこの場所は、鉄興業本社ビル内のワンフロアであるという事。

  そして、同じ様な造りの部屋が、このフロア内には幾つも存在する事。

  更には、同じ様な境遇の女達が、他にも居るという事……等。

 ル

  「ここに居る女達は、皆、親族が作った借金の肩代わりとして鉄組に連れられて来たんだよ」


  そう言えば、シノブがその様な事を話していたのを涼音は、思い出した。


  「それじゃあ、お母……大徳寺早苗って人を知りませんか?」


  涼音は、『母親がここに居るのではないか?』という期待感を胸に込めて尋ねた。


  「ああ、その人なら……」


  ガチャ……!


  美香が答える間も無く、玄関のドアが開き、金髪と茶髪の2人の若い男の組員が中に入って来た。


  「お前か?海堂さん達に拉致られて来たっていう女は」


  金髪男は、涼音を品定めをする様に全身を見入った。


  「ふぅ~ん、結構可愛いじゃん!」


  金髪男は、そう言いながら涼音の頬を馴々しくなぞった。


  「イヤッ!」


  涼音が咄嗟に手を振り払うと、金髪男は逆上したのか、いきなり涼音を殴り倒してしまったのである!


  「このガキ、ナメやがって!」


  「オイ、よせ!」


  倒れた涼音を執拗に蹴り飛ばそうとしている金髪男を茶髪男は、体を張って止めている。


「……まったく、遣いの一つもロクに出来ねぇのか?」


  鉄眞悟が業を煮やして、上のフロアから下りて来た。


  「か、頭ぁ……」


  眞悟は、頬を赤く腫らして床に倒れている涼音を見ると、金髪男を一睨みした。


  「俺は、大徳寺の娘を連れて来いと言ったんだがなぁ……」


  眞悟は胸元に手を入れた。


  「だってよぉ、この女が先に俺の手を……」


  パン!


  その瞬間、眞悟は金髪男の頭を撃ち抜いた!

  金髪男は、側頭部から鮮血を吹き上げながら、涼音の目の前に崩れ落ちた。


  「ひっ……!?」


  涼音は、声にならない悲鳴を上げた。

  金髪男の頭から流れ出る大量の血が、灰色のカーペットに染み込む。


 ・

 ・

 ・


  涼音は、最上階の眞悟のオフィスへ連れられて来ていた。


  「お嬢ちゃん、ウチの若い者が、手荒なマネをして悪かったな」


  「……」


  涼音は、俯きながらジッとソファに座っている。


  「人が死ぬところを見たのは、初めてか?」


  眞悟は、涼音の隣に座ると、涼音の後ろ髪を掻き上げ、首筋を唇で愛撫した……。


  「……!」


  眞吾のその行為に涼音は、『ピクッ……』と、反応を示した。


  「人間てのは、呆気ないモノだろ?」


  次に眞悟は、涼音のTシャツの中に手を入れ、胸を(まさぐ)り始めたのである。


  「や……やめて……下さ……い……!」


  涼音の身体は、小刻みに震え出した!


  「さっき、お前を殴った奴。頭を撃ち抜いた途端にコロッと逝っちまうんだからなぁ……」


  眞悟の手は、涼音の内股を撫で始めた。そして徐々に……!


  「イヤッ!」


  涼音は、眞悟の手を振り(ほど)いた!


  「さすが母子だな……。良い感度だ。これなら、国松のロリコンじじいも大喜びだなあぁ」


  眞悟は、早苗の事を知っていた。このビルのどこかに監禁されているに違いない!涼音はそう思った。


  「お、お母さんを……返して下さ……い……」


  涼音は、身体を震わせながら、か細い声で懇願した。


  「その女の事、マナブなら知ってるぜぇ。……ってアイツ、確か死んだんだよなぁ?ハーッハッハッハッ!」


  高らかに笑う眞悟の背後で、涼音はソファに深く(うずくま)り、身を丸くした。


  (パパ……、私……もう……ダメ……!)


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


  (助けて、総介……)


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


  病院を出てから、どの位歩いたのか、本人にも分からない……。

  目的も無いまま、黙々と歩き続ける総介だったが、気が付くと、昨夜の事件現場にいた。

  既に警察による現場検証も終わり、周囲は、再び閑静な住宅街へと戻っていた。

  ふと総介は、足下のアスファルトに目を向けた。

  現場検証終了の際、警察によって消さた筈の聖理奈の血痕が、未だ所々に残っている。

  昨夜、この場所で聖理奈は、鉄組のワンボックスカーから振り落とされたのである。

  駆け付けた総介が、聖理奈を抱き抱えた時のヌルッとした感触は、今でも手に残っている。

  総介は手のひらをジーッと見つめた……。

  ポツポツと当たる雨が、次第に強くなる。


  「……聖理奈さん、本当に……すみません。僕が…もっと早く…来る事が出来たなら……」


  (あの時も、こんな雨だった……)


  総介の頭の中で、再びフラッシュバックが起きた。


 ・

 ・

 ・


  雨が降り続いている……。周りは、瓦礫と死体の山……。

  目の前には、瓦礫の中に埋もれた傷だらけの女性が、総介を見つめて微笑んでいる。


  「くっ……、ごめんなさい、リノア……。僕がもっと強かったら……」


  赤毛の少女リノアは、涙ぐむ総介の頬を優しく撫でた。


  「本当に….…、泣き虫なんだから……、総介は…。男の子なら……、強く……なりな……さい……」

 ・

 ・

 ・

 

  (リノア……、また僕の所為で、大切な人を傷付けてしまいました……)


  「……聖理奈が無事で良かった。お前のお陰だな、総介」


  ずぶ濡れになった総介の背後から、茉里華が傘を開いて差し延べた。

  しばらくの間、雨音だけが2人の時を刻んだ……。


  「……スコットランドヤード時代、毎週のように殉職者が出てな、上司がその都度、遺族へ報告するんだ」


  茉里華が話し始めた。

  茉里華は、『スコットランドヤード』での研修時代、管理者としてのノウハウを学ぶ為、日頃から上司に付いていた。

  殉職者の遺族への報告は、上司の役目でもあった。


  「私は幾度となく、その場に居合わせ、上司の辛い心中を察したものだった」


  上司の報告に対し、遺族が泣き崩れる様子を茉里華は、ただ黙って見ているしかなかった。


  「まさか、自分にその役目が回って来ようとは、今日まで思ってもいなかったよ……」


  茉里華の表情が、急に暗くなった。

  大徳寺邸の警護の為、周辺に配置していた捜査員の内の1人に、2発の麻酔弾が打ち込まれていたのである。

  1発では効かなかった為に、もう1発打ち込まれたのだろうと思われる。

  その若い捜査員は、麻酔薬の多量摂取によるショックが原因で帰らぬ人となったのだ。


  「彼は、母親と2人暮らしでな……。母親に『息子を返せーッ!』って泣き付かれたよ……」


  茉里華は、傘を下ろし、総介の背中にコツン……と額を付けた。


  「辛い……辛かったよ、総介。……私はもう、あんな思いは、したくない。……これ以上、悲しむ者を……増やしたくはない。だから頼む。奴等を、鉄組を……」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「……潰してくれ!」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


  降り(しき)る雨が、2人を濡らし続ける……。

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