第7話 宇宙人と共に
「うわっ」
隊長はその強風に体が簡単に持っていかれ、まるで紙のように呆気なく飛ばされた。飛ばされながら隊長の体に黄色い液体が沢山付着した。そして何百キロもある戦車も簡単に浮き、飛ばされていった。風の威力は衰えること無く、数百キロ先の佳一・亮大の家がある町まで吹いた。
一方こちらは佳一・亮大が住む町。二人は亮大の部屋でただ呆然と座っていた。食糧も残り僅か、水・電気・ガスが使えない…とても不便な生活だ。佳一はぼっさぼさになった髪を触ろうとした時
ゴゴゴゴゴ…
「ん?」
地震のように揺れ始め、佳一達はパニック状態になった。そしてその直後
パリーン
「なっ!」
窓ガラスが一瞬で割れ、入ってくる強風に佳一・亮大の体はあっという間に浮き、壁にぶつかった。更に布団に挟まれ、二人はサンドウィッチ状態になった。力士が何人か押しているかのように圧縮され、息が出来ない状態が暫く続いた。ようやく収まった頃には、佳一達は意識を失う寸前まで来ていた。
「「ゲホッゲホッ」」
二人は咳き込んだ後、布団の上に倒れた。
「おい、ハァハァ…なんだっ…たんだ?ハァハァ…今のは」
亮大は片目を開き、胸を手で抑えながら言った。
「わ…わかんねぇ、ハァハァ…ゲホッゲホッ」
佳一は両目を閉じ、両手を広げながら言った。佳一は目を開けると青い空が見えた。どうやら屋根が吹っ飛んだようだ。二人は起き上がって周りを見る。ガラスは全て割れ、部屋の中には外から色んな物が入り込み、ゴミ屋敷状態になっていた。
「あ、親父たち!」
亮大は階段を降り、部屋に入ろうとした時
「うわっ!」
亮大の目の前には黄色い液体が所々散らばっていた。そして壁には部屋一杯に穴が開いていた。
「どうし…」
佳一が後から降りてきた。佳一も亮大同様に黄色い液体と空いている穴に驚いた。
「そういや親父達は…い、いない!」
亮大は部屋に入ろうとした。
「おい待て!」
佳一が亮大の肩に手を置いた。
「むやみに動くな。特に黄色い液体には何があるか分からんから!」
亮大の数歩先には黄色い液体がもぞもぞと動いていた。亮大はそれに気付き数歩後に下がる。
「一回(二階に)戻ろう」
佳一の言葉に亮大は頷き二人共部屋に戻った。部屋を良く見ると黄色い液体があちらこちらに付着し、もぞもぞ動いていた。
「取りあえずこの黄色いのを何とかしようぜ。何か取るものある?」
「確かモップが部屋の何処かに…あ、あった」
部屋の隅にモップの先端だけが出ていた。亮大は黄色い液体に注意しながら物の上を歩き、モップを取り出した。黄色い液体を隅々取り出し、全て取り終わった後、モップを外に放り捨てた。
その際、二人は初めて外の景色を見て茫然とした。
「な、何だよこれ…」
「なんで…瓦礫だらけなんだ…」
そう。二人が見た景色とは辺り一面瓦礫となった家屋の姿だった。
一方隊長は数十キロ飛ばされ、深い森の中で倒れていた。
「イテテテテ…」
隊長は手を頭に当て、起き上がった。
「ん?何だこの黄色いゼリーは?」
隊長は落とそうとしたがボンドのようにくっついていて落ちない。すると何処からか
「コレカラ、獣化ヲ開始スル」
と声が聞こえた。
「何だ今の声は?」
隊長は辺りを見回す。しかし人らしき者は見当たらない。
「幻聴か」
隊長は頭に当てていた手を戻す。すると手から黒い毛が生え始めていた。
「な、なんだこれは!?」
隊長は上半身の服を脱ぐ。体のあちこちに黒い毛が生えていた。必死で抜こうとするが体はあっという間に黒い毛で覆われていった。尻尾がズボンからはみ出し、手足が急激に短くなると共に5本から3本へと本数を変え、鋭く尖った爪が姿を現す。
「な、にゃんだこれは!」
隊長は次第に喋りに変化が出始め、猫語へと変わっていった。顔も次第に小さくなり、猫顔へと変わる。
「…にゃにゃにゃあぁぁぁ!(誰か助けてくれ)」
隊長は叫ぶが完全に猫語になり、どこにでもいる一匹の黒猫へと獣化してしまった。
強風は大統領がいるポルトガルにも影響を及んだ。ホテルに泊まっていたアメリカ大統領は意識を失い玄関側の壁際の床に横たわっていた。
「うぅ……」
目を半開きにし、辺りを見る。ガラスが辺りに散らばり、家具が全て大統領側に集まっていた。腹部辺りから血が流れ、黄色いゼリー状の物が体のあちこちに付着していた。しかし大統領は黄色いゼリーよりも流れる血を手で押さえることで精一杯だった。
「ぶ、部下…いるか?」
話す度に傷口が開く。しかし大統領は何度も部下を呼んだ。
「……」
しかし全く反応がない。
「くそ…何処にいやがる」
大統領は片手で傷口を押さえ、もう片手で匍匐前進をし、散らばっているガラスの破片や小道具を退かしながら部下を探した。数十歩進んだ後リビングに到着した。左右を見たら、左側の壁の瓦礫の下に部下のズボンと靴が見えた。
「そこにいたか」
大統領は部下の元へ急いで行った。しかし
グルルル…
「え?」
大統領は獣声が聞こえた瞬間止まった。聞こえる方からガサガサと家具が動いていた。
ガルルル…ガウッ
鳴き声が太くなり、家具を勢い良く飛び、正体を現した。
「ら、ライオン…」
大統領はゆっくりと一歩二歩と後ずさりしようとした。しかし動くたびに傷口から血が流れる。そして血の匂いに反応したのか鼻がぴくぴくと動き始め、大統領の方へ歩き出した。
「く、来るな!俺を食っても不味いだけだぞ…」
ライオンが大統領の目の前まで迫ってきた。そして鼻を何回か大統領の顔に当ててきた。その様子に大統領はただじっとしていることしか出来なかった。
ガオォォォ
ライオンは一鳴きした後、ライオンは大統領を襲った。
一方亮大・佳一は部屋の片付けをしていた。
「これで最後…だ!」
亮大は最後の一個のレンガを掴み、窓の外に思いっきり放り投げた。
「やっと終わったぁ」
「あぁ、腰いった」
体を捻るとボキボキと鳴り、佳一は床に座った。
「なぁ亮大。もしかしたらだけどさ、生き残ってるの俺らだけじゃねぇかな」
「もしかしたら、そうかもしれんな」
「っていうことは他に人間はいないってことだよな」
「俺ら二人だけで生活しないといけないかもしれないっていうわけだ」
「「……」」
二人の間に沈黙の時間が流れる。
「これで人間は全員獣化だ!」
佳一・亮大が獣化していないことに気付いていない宇宙人は大喜びしていた。
「よしっ、地球に降りるぞ!」
宇宙人は月から地球へとUFOを移動させた。そして佳一・亮大が住む町にUFOは上陸した。その瞬間を佳一・亮大は見ていた。
「おい、何だあれは!?」
佳一は指をUFOの方へ指した。灰色の巨大円盤がゆっくり降りてくる。
「ゆ、UFOじゃん!」
亮大もその大きさに驚いた。UFOが着陸した後、上から何やら黄色い線が宇宙へと放たれた。そして宇宙人が姿を現した。
「獣化した人間共、おまえらが何故獣化したか分かっているか?まぁ私の言っている言葉は獣化したおまえらには分かるわけないかもしれんが…理由は一つ、貴様等は皆が共存して住むべき地球を占領したからだ!だから私はおまえらを獣化し、動物達の気持ちを分からす為にしてやったのだ。これから貴様等は動物達と共に住むがいい」
宇宙人は自分の思いをぶつけるた。その言葉を二人はじっくりと聞いていた。そして佳一は口を開く。
「た、確かにそうかもしれない…だが…」
佳一はその後の言葉が出なくなった。
「なぁ佳一…これから会いにいかねぇか?」
突然亮大がとんでもない発言を言い出した。
「ば、何言ってんだ亮大!」
その発言に佳一は驚いた。
「よく考えろ亮大、相手は宇宙人だぞ!何されるか分かんねぇんだぞ!」
「んなの分かってる!でも…でも、こうするしかないって俺は思うんだ。獣化させてのは宇宙人。なら戻る方法も宇宙人が知ってる筈。だったら会いに行って戻してもらうようお願いするしかない。そうだろ?」
「……」
亮大の意見に納得出来ないのか、佳一は亮大の顔を見ようとしなかった。確かに今人間として生き残っているのは俺等だけかもしれない。かといって無闇に行くのは自殺行為と一緒。しかしこのままでは家族や全世界の人々が獣化したまま…やはり亮大の意見に賛成せねばならないのか。
「佳一っ!」
「!…わ、わりぃ」
亮大の声に、我に帰った佳一。
「なぁ、行こうぜ」
「悪い。俺にはそんな勇気がねぇ…」
佳一は小言のように呟いた。
「ん?」
「すまんが一人で行ってきてくれないか」
「は?何言ってんだよ」
突然の発言に驚く亮大。
「一人で行けって言うのか!?」
「俺…宇宙人に会う自信がないんだ。会いにいったら俺等も獣化される気がするんだ」
「…そうか。じゃあ俺一人で行ってくる。もし俺に何かあったら後は任せたぜ佳一」
亮大は立ち上がり、部屋を出て行った。そしてその様子をアイツは…
「ふふふ…まだいたか、人間共」
透視できる双眼鏡で最後まで二人の会話を見聞いていた。
亮大が去って数十分。佳一は亮大が去ってから微動だに動かなかった。
「あいつ今頃…」
佳一は亮大の事が心配で仕方なかった。本当に宇宙人に会いに行ったのだろうか。会ったとしても宇宙人に獣化されてるかも…。佳一の頭の中で幾つもの不安が浮かんだ。
「やっぱ行くしかないな」
佳一は立ち上がり、亮大と同じく宇宙人の元へ走っていった。瓦礫の上を走り、UFOへ走る。しかし幾ら走っても亮大に会えない。佳一は全力で走った。そしてUFOの真下へと着く。
「やぁ生き残りの人間」
隣にいるような声量で佳一は見回したが、そこに宇宙人はいなかった。
「どこにいる!」
「ここだよ」
佳一は上を向くと宇宙人の足元が見えた。そして宇宙人は少し距離をおいた所に降りた。
「君が探しているのはコイツかな?」
宇宙人は指を鳴らす。するとドアらしき壁が消え、UFOからロボットが降りてきた。ロボットと共に黄色い液が入った、一人分が入るくらいのカプセルが現れた。中は全く見えない。
「この中に何が入ってると思う?」
「何…って言われても見えないから分かんねぇよ」
「ほおぉそうか。じゃあこれでどうだ?」
宇宙人はロボットに向かって何か合図をした。するとロボットはゆっくりカプセルを回した。するとそこには亮大の姿があった。
「りょ、亮大!」
「そう、君の友達だよ」
「亮大に、亮大に何する気だ!」
「そう焦るな小僧。こいつには何もしない。ただいずれこいつも…」
宇宙人はカプセルを指した。
「皆同様、獣化するだけだ」
貴様ァァァ
佳一はそう思いながら右手の拳をギュッと握った。
「亮大を助けたいか?」
宇宙人は不気味な笑みをしながら佳一に言う。
「あぁ」
「なら、俺の住む惑星に一緒に行ってくれないか?」
「な、何で行かなきゃならな…」
「おぉ?亮大が獣化してもいいのか?」
「チッ。分かったよ。行けば亮大や皆が助かるんだな?」
「勿論。じゃあ早速行こうか」
宇宙人が指を鳴らすとUFOから光を発し、宇宙人、佳一、ロボットに照らされると瞬間移動でUFOの中へ移動した。
感想宜しくお願いします。
次話、佳一達は宇宙人の住む惑星に行きます。