第5話 黄色い物体
発射から一時間後。南アメリカ、ブラジル。ここではおよそ国民の5分の4が獣化していた。電気、水道、ガスが止まり、時代が戻ったかのように生き残った人々は町を離れ、狩りをしていた。
「クソッ、獲物は何処にいる!」
その中の一人の男も町を離れ、銃を持ちながらアマゾンの森の中を歩いていた。音を立てないように静かに歩き、獲物の足音が聞こえるよう手を耳を当てて、じっと待つ。
カサカサッ
奥の方から草の音がした。
「獲物か?」
男は静かにその音の鳴った方へ忍足でゆっくりと歩く。すると目の前にはゴリラが一匹座っていた。
「おっ、ゴリラじゃねぇか」
男は木の後ろに隠れ、ゴリラに気付かれないよう銃の構えをした。自分が狙われてる事も知らず、ゴリラは警戒心は無くその場に座っていた。
「よし…あいつが油断している隙に」
男はゴリラの方に銃を向ける。ゴリラは何事も無い様に足を掻いていた。
「ふ…愚か者め」
バーン
男はそう言った後、ゴリラに向けて撃った。弾は胸に的中し、ゴリラは血を流しながら辺りを走り回っていた。
「暴れんじゃねぇ」
バンバンバーン
三発の弾がゴリラに当たり、ゴリラはその場で倒れてしまった。
「よっしゃ!」
男はガッツポーズをし、ゴリラに近づく。
「ふふふ…今日の材料が手に入ったぜ」
男は喜んでいた。
しかし……
ザワザワザワ
「!」
喜びも束の間、男は銃を構え辺りを警戒した。
「だ、誰だ!これは俺の獲物だ!近づいてきたら撃つぞ!」
男は大声で警戒した。しかし音は段々と強くなってくる。そして遠くの方に何やら黄色いのが見えた。
「な、なんだあれは!?」
男はそれを見た直後、硬直状態に陥った。謎の黄色い物体がゆっくりとこっちに向かってくる。しかも一体じゃない、かなりの数がいる。
「く、来るな化け物・・・う、撃つぞ!」
しかし黄色い物体は返答せず男へ近づいてきた。
「く、来るなあぁぁぁ」
バーンバーンバーン
数発の弾が黄色い物体に当たった。しかしまるで水のように弾は黄色い物体を通り過ぎてしまった。
「う、嘘だろ……」
男は数歩後ろに下がった後、獲物を後にして逃げた。すると黄色い物体も察知したのか走り出した。
「止めろ!来るな!こっちに来るなあぁぁぁ!」
しかし黄色い物体は段々と男との距離を縮める。
「うわっ!」
男は石に躓き扱けてしまった。男は立とうとしたが既に遅かった。黄色い物体が男の周りを囲んでいたのだ。2mを越える長身がより一層恐怖を与える。
「ニンゲン確認。コレヨリ獣化ヲ開始スル」
その声と共に、一斉に男に向かって倒れ始めた。男の全身を黄色い液体が覆う。男は包まれると骨がボキボキと音が鳴ると皮膚が緑色の鱗に変わり始め、手足が急速に短くなり、爪が鋭く尖り、尻から尻尾が生え始めた。顔も変化し始めた。顔が前に伸び始め、口が横に開き、歯が牙のように変形した。耳が消え、目が両端に移動し、黄色いギョロっとした目になった。そして男は僅か1分でワニに獣化した。獣化終えると黄色い物体は男から離れ、再び歩き出した。
黄色い物体はアマゾンを抜け出し市外へ。
「おい、何だあいつは!?」
「逃げろ、逃げろぉぉぉ」
獣化していない人々は一斉に逃げ出した。しかし逃げれる訳もなく、黄色い物体は次々と人を包み込み、獣化させていった。包み込まれた人々は急速に獣化し、アナコンダ、カエル、ゾウなどにされ、ある人はサメにされ、海まで飛ばされたりと、一人も逃げ切る事なく黄色い物体は住民全員を獣化させた。
翌日になると黄色い物体は北アメリカ大陸に侵入していた。その中のアメリカ、ニューヨーク。連日多くの人々が行き交う場所だが、今では一人たりとも外へ出る者はいなかった。何故なら政府が宇宙人が最初に放った次の日に異変に気付き、国民に外出禁止命令を出し、更に獣化した人間に触るなと注意を呼びかけていたのだ。しかしそれもあまり効果なく、家に篭っていても獣化した人の体を触る人が後を絶たず、次々と獣化してしまったのだ。その報告をホワイトハウスにいた大統領が聞くと
「ふざけるな!あれほど獣化した奴等に触るなと言ったのに…」
大統領は机を叩いた。
「もう終わりだ…我々人類の時代は終わった」
大統領は頭を抱え、悩んでいた。
「だ、大統領!」
秘書が急いで駆けつけた。
「何だね?こんな時に!」
大統領は怒っていた。
「す、すみません大統領。実は現在この敷地外に謎の黄色い物体がこのホワイトハウスを囲んでいるのです」
「黄色い物体だとぉ?」
大統領は椅子を回転させ、窓を見る。
「な……何だこれは!」
大統領は目を丸くする。その光景は敷地を囲む壁の向こうは黄色の海かのように物体が果てしなく続いている光景だった。
「おい、一体なんなんだこいつらは」
「分かりません。恐らく宇宙人かと…」
「宇宙人だと?とにかくここにいると宇宙人が何時襲ってくるか分からん。今すぐヘリの準備をしろ!」
「はい!」
秘書は部屋を出た。
「…ったく一体どうなってんだよ。何故人が獣化するんだ?宇宙人は我々に何か恨みでもあるというのか」
大領領は部屋中をウロウロと歩いていた。
ガシャ
「大統領!」
男の部下が入ってきた。
「今度は何だ!」
「黄色い物体が壁を越え、近くまで来ています」
「なんだって!」
大統領は窓を勢いよく開ける。下を見れば黄色い物体が家壁まで迫っていた。大統領は窓を閉めた。
「おい、屋上に行くぞ!」
「は、はい」
大統領は部屋を出て、エレベーターに乗った。屋上に着くとヘリの準備をしている部下がいた。
「おい、ヘリはまだか!」
大統領の怒鳴り声が部下全員に響き渡る。
「あともう少しです。少々お待ち下さい」
「…ったく、こういう時に」
大統領は腕組みをし、その周辺を早歩きで歩いていた。
「大統領、準備が出来ました」
部下が報告しに来た。
「早く乗るぞ」
大統領は走ってヘリコプターに乗った。エンジンが起動し、ヘリコプターは離陸した。上空から下を見ると黄色い海のように黄色い物体が覆っていた。
「一体何何だこいつらは」
大統領は果てしなく続く黄色い物体に唖然していた。
一方ここは日本。佳一は自分の部屋である決断をした。それは
「ここを出よう。家にいては家族が心配になって触ってしまう…。ならいっそここを出た方がいい」
佳一はバックを取り出し冷蔵庫に入ってる食糧を詰め込む。更に両親の財布から札を何枚か取り出して自分の財布にしまう。詰め終わるとリビングに集まった牛になった皆に
「本当はまだいたいけど……ごめん」
と言い、急いで靴を履きダッシュで家を出た。
モオォォォ
鳴き声が聞こえたが、俺は止まる事無く走り去った。
家を出てから一時間。佳一は亮大の家の前まで来ていた。佳一はインターホンを鳴らす。
「はい」
奥から亮大の声が聞こえた。よかった…まだ獣化してなかったか。
ガチャ
「佳一か。にしてもどうしたんだその荷物は?」
ドアを開けて真っ先に亮大が佳一に言う。
「ちょっとな。なぁ亮大、泊めてくれないか?」
「はぁ?」
そう言うのは当たり前か…
「俺な…家にいると牛になった家族を触っちまいそうでさ…だから泊めてくれ」
俺は頭を下げ、お願いした
「別に構わねぇけど」
「いいのか?」
「あぁ」
「すまない。これからお世話になるわ」
俺は亮大の家で暫く暮らすことにした。
「おい、リビングは開けるなよ」
亮大は佳一に予め注意を言う。きっとリビングに獣化した家族がいるんだろう。
「あぁ分かった」
「じゃあ二階に来い」
階段を上がり、亮大の部屋に入る。亮大の部屋は男としては綺麗過ぎるほど整理整頓されていた。俺は床に座り、亮大は椅子に座った。
「にしても何だその荷物。何入ってんだ?」
亮大の指が佳一の荷物を指した。
「あぁこれ?食料だよ食料。まぁパンとか菓子類とか・・・」
佳一は荷物の中から食料を出し始めた。
「ガムとか飲料水とか・・・あこれ・・・」
「分かった分かった。とにかくしまえって!」
亮大は佳一に言った。そして佳一は食料品を全て荷物の中に戻した。
「…にしてもおまえが俺ん家に来るなんて小6以来じゃないか?」
突然亮大が話し出した。
「そういえばそうだなぁ。昔はよくおまえん家に行ってテレビゲームばっかしてたな」
佳一は昔を思い出しながら言う。
「そうだ。これから久し振りにゲームしねぇか?」
亮大は収納箱からゲーム機を取り出した。
「NINTONDO64じゃん!懐かし~」
佳一は指しながら言う。
「だろ。んじゃあ何やる?」
「そりゃ勿論…」
「「大乱闘キルブラザーズ!」」
二人はネタ合わせしたかのように同時に言った。大乱闘キルブラザーズとは選んだキャラクターでバトルするゲームで相手を攻撃すると相手のパーセンテージが加算される。パーセンテージが高くなればなる程死亡率が高くなる。
「やっぱそうだよな」
「あったりまえだろ!昔ひたすらやったからな」
「よしっ!じゃあやるか」
亮大は準備をし、電源を入れた。画面を進めていきキャラクター画面に移り変わった。
「キャラは何する?」
「勿論○ス!」
「やっぱそうきたか。んじゃ俺はファ○コン」
「出た出た。やっぱそいつかぁ」
「おまえだってそうだろ?じゃあCOM選んでやるぞ。ルールは生き残りで3、場所はランダム」
ランダムで選ばれた場所は何も仕掛けのない空中にある島になった。アナウンスのカウントダウンが始まり、バトルが始まった。何年振りのゲームに関わらず二人は熱心に操作していた。
「相変わらず強いな亮・大」
「佳一も・だぜ」
二人はCOMをあっという間に殺し、二人だけのバトルになった。現在佳一は残り1でパーセンテージは118、亮大も残り1でパーセンテージは72だった。
「いくぞ亮大!」
「かかってこい!」
二人はコントロールを操作し、キャラクター達が激しいバトルをする。亮大は佳一にダメージを与えようとするが佳一はかわす。佳一も亮大にダメージを与えようとするが亮大もかわす。
5分後。佳一のパーセンテージは161、亮大は129。二人とも死んでもおかしくない状態だった。亮大のキャラが佳一のキャラに強烈はキックが当たり、佳一のキャラがステージ外へ飛ばされた。
「やっべ」
佳一のキャラは体勢を戻し、ステージに戻ろうとする。しかしその先で亮大のキャラが待っていた。そして見事なタイミングで亮大のキャラのパンチが佳一のキャラに当たり、佳一のキャラは死んだ。
「よっしゃ!」
「負けたあぁぁぁ」
勝った亮大は喜び、負けた佳一は後ろに転んだ。
「もう一回だ!」
二人は再びゲームをしていたのであった。
感想宜しくお願いします。次話は黄色い物体が日本へ…