第4話 ほぼ独りぼっち
翌朝、ホルスタイン牛となってしまった優佳は母親に乳搾りされていた。
「ンモオォォォォォォ!!!」
牛となった優佳は野太い声で鳴いていた。絞り始めてから30分、バケツの中には濃い白色の牛乳が溜まっていた。絞り始めてから1時間。乳房から牛乳が出なくなる頃にはバケツ二個分の牛乳が絞れた。
「ふぅ~」
母親は汗びっしょりで汗を拭う。
「ンモオォォォ」
「今度は何よ!?」
母親は優佳が鳴くと同時に言った。
ビチョ、ビチョ、ビチョ
優佳は我慢していたのか、尻から尿が少しずつ出ていた。
「嘘!ちょっと優佳待ちなさい」
母親は窓を開け、外に尿を出すように移動させた。
ジャーーーーー
大量の尿と糞を排出。その間に母親は床に飛び散った尿を雑巾で拭き取った。その後佳一は優佳と母親のいるリビングに入った。
「おはよう。うわっ、くっさ!」
部屋の中は優佳が排出した尿と糞の匂いが充満していた。
「くっさじゃないわよ。早く拭くの手伝って!」
「へいへい」
俺は鼻を摘みながらキッチンに置いてある雑巾を持ち、母親と一緒に尿を拭き取った。朝食を取り、二階に上がり、携帯を開く。
「Eメール1件、着信1件。誰からだ?」
着信ボタンを押すと亮大からだった。俺は亮大に電話をかけた。
「あ、亮大?電話くれたみたいだけど何?」
「佳一!よかったぁ無事で」
亮大はホッとしたのか息を吐いた。
「は?」
「実はさ、俺の家族が大変な事になってるんだよ」
うちもだよ。
「何が起きたの?」
「信じてもらえないと思うが、実は……俺以外の家族皆が犬になっちっまったんだよ!」
「い、犬!?」
「そう犬!犬なんて飼ってないのに、今朝起きたら『ワンワン』って鳴き声が親の寝室から聞こえたから駆けつけたら犬がいたからさ。昨日ニュースで人が動物化するってあったろ?だからもしかしてって。俺どうすりゃいいの!?」
「どうすりゃいいのって言われてもなぁ。つうか俺も亮大に話したいことがある」
「なんだ?まさかおまえん家も」
「そう、家も家族皆じゃないけど、妹の優佳が」
「ゆ、優佳ちゃんがどうした?」
「…牛になっちまったんだ」
「う、牛!?」
「あぁ」
「それは残念だな。そういや佳一は朝のニュース見たか?むやみに触るなって警戒してたぜ」
「マジ?親父と母さん触っちまったぜ?」
「じゃあもしかしてなる可能性があるかもな。佳一は触ってねぇよな」
「俺は触ってない。亮大は?」
「触ってない」
「そうか。じゃあこれから俺等は触らない方がいいかもしれんな。じゃあ一旦切る。じゃあな」
「おぅ、じゃあな」
ピッ
俺は携帯を閉じ息を吐いた。
「マジかよ。両親触っちまったぞ」
佳一はあまりにもショックでベットに倒れこんだ。
「きゃあぁぁぁ!!!」
突如1階から母さんの悲鳴が聞こえた。
「ま、まさか」
俺は急いで階段を降りた。
「どうしたの母さん!」
「佳一……見てよ」
母さんはゆっくりと腹を出した。すると昨日の優佳同様、二本の小さい突起物が腹から出ていた。
「う、嘘だろ?」
俺は驚いた。まさか母さんまで牛になってしまうのか?
「佳一、実はね。もう一つ悪いニュースがあるの」
母さんは暗い顔で佳一に言う。
「何、母さん」
「あのね、実は佳那も私と同じ症状が出始めてるの」
「え?だって触ってないじゃん!」
更なる報告に佳一は唖然としていた。
「触った?」
「そう、今朝のニュースで感染者に触ると、感染するって…」
「そうなの!?今朝いってらっしゃいって言う時に肩を叩いちゃったわ。あぁあたしは何て事を」
「そ、そう言えばさっき亮大と電話したら亮大ん家も亮大以外犬になっちまったって」
「あら、亮大君家も…」
「だから俺これから亮大ん家に行って亮大を元気にさせてくるわ」
「えぇ、いってらっしゃい」
俺は部屋を出て、靴を履いた。本当は亮大ん家には行かない。亮大と電話した時に亮大が言った「むやみに触るな」っと言う言葉がどうも気になり、家に居たくなかったからだ。
俺は外へ出て、近くの書店まで歩いた。
書店に入ると、人気がかなり少なく、店員もあまりいない。この町にも感染者は相当いるみたいだ。俺はライトノベルコーナーに行き、時間潰しをした。
「ヤッべ。読んでたらもうこんな時間!」
時計を見ると時間は16時。あれから6時間程本を読んでしまった。俺は急いで書店から出て、家へ帰った。
「ただいま」
時刻は17時になっていた。
「おかえりなさい」
母親の声がリビングから聞こえる。靴を脱ぎ、リビングへ入った。母親は出る前とかなり変わっていた。体全体が肥大し、腹部もスイカのようにピンク色に膨らみ、突起物は長く大きく6本に増えていた。変化はそれだけでは無かった。足が黒く変色していた。きっと蹄になる過程だろう。
「どうだった亮大君は?」
「えっ!?」
俺は焦った。そう言えば、出る前亮大ん家に行くって言ってたんだった。
「あ、あぁ態々来てくれて有難うって言ってた」
「そう、じゃあ母さんこれからご飯作るね。きゃあ!」
母親は立ち上がったがすぐ転倒してしまった。蹄化してる足では立ちにくいようだ。
「母さん大丈夫?」
俺は手を出そうとしたがあの言葉がまた頭を過ぎってしまい、手を出すことが出来なかった。
「大丈夫」
母親がそう言うと、尻を押さえながら再び立ち上がりキッチンへ向かった。俺は差し出そうとした手をもう片方の手で掴んだ。自分が情けなく感じる。そして切なくも感じる。同じ家族なのに触れる事が出来ないなんて……
18時、家族皆で夕食。今夜は父親が買ってきたお寿司と母親が作ったサラダだ。優佳は外でそこら辺に生えている草を食べていた。
俺はご飯を食べながら辺りを見回す。母親の頭に少し角らしきものが出ていた。姉にはまだ角は出ていない。父親は何も相変わらずで何も変わっていなかった。つまり家族の中で人でいるのは今のところ父親と俺だけ。母親と姉の顔が見れるのが今日で最後になるかもしれないなんて今でも信じられない。そもそも何故こんな事が起きてしまったのだろうか。
俺は最後になるかもしれない母親と姉をちょくちょく見ながら夕食を食べた。
そしていよいよ変身が本格的に始まった。最初に起きたのは母親だった。起きたのは22時過ぎ。
その頃は家族皆リビングでソファに座り、テレビを見ていた時だ。
「うっ」
母親が突如腹を抑え、倒れ始めた。
「おい、大丈夫か」
隣に座っていた父親が母親に触れる。
母親は蹲った。すると獣毛が早送りのように生え始めた。腕が伸び始め、足と同じ長さになり、手足が蹄へと急速に変わっていった。
「嫌だ、嫌だ、牛になんかなりひゃくにゃい!」
母親は呂律が回らなくなってしまった。俺はどうすることも出来なかった。
ビリビリビリ
服が破れ始め、肌が露出する。
ミシミシミシ
床が悲鳴をあげる。
「いやよ、いや、いや……」
遂に言葉が出なくなった。
「もぉ……ンモオォォォォォ!!!」
その直後に優佳同様野太い声へと変わっていった。尻尾が生え始め、頭以外が牛へと変わってしまった。
「モォォォォォ!!!」
雄たけびの様に母親は目を真ん丸にしながら鳴いていた。
そしてそれが合図となるかのように、顔が変化し始める。骨格が変わっていき、顔が縦長になり、勢いよく頭から角が生え始め、鼻筋が突き出し、口が長く伸びていき、舌が口から出て、耳が垂れ始めた。長い母親の髪の毛以外はあっという間に抜け始めると顔の所々から獣毛が生え始めた。
もうその姿は優佳とは違うガンジー種の牛だった。
そしてその三時間後、姉も変身が始まり、ジャージー種の牛へと獣化してしまった。
更に翌日の夜、父親も変身が始まった。
「佳一…」
「どうしたんだよ!」
佳一は急いで階段を降りた。部屋に入ると母親と姉が片隅で鳴いている中、父も獣化していく。
バリバリバリ
ボキボキボキ
服が破ける音と骨の軋む音が部屋中に響く。
「と、父さんまで…」
佳一はそこから動くことが出来なかった。
「ウワァァアアアアア!!!」
体が肥大し、手や脚の爪は黒く変色し、蹄と化す。
「佳一!佳一!けいい…け…」
顔が変化し始めると父は急に喋りにくくなった。
「け…モ…モォ…モォォォオオオ」
ついに父は牛の鳴き声を発し、黒毛和牛へと獣化してしまった。俺はまた、ただ見ていることしか出来なかった。
「と…父さんまで……」
俺は壁によっかかりながら三頭の牛を見るしかなかった。
一方こちらは月。
宇宙人は発射した直後に浮遊カメラを数台地球へと送った。カメラはそれぞれの地域で映像をモニターで人間の様子を伺っていた。
「結構獣化したようだが、やはりあまり効果がないなぁ」
宇宙人は足を組みながら言った。
「仕方ない。最終兵器を使うしかない」
宇宙人は立ち上がり、奥にある倉庫に入った。4帖程の部屋の真ん中に細長いダンボールが一つ置いてあった。
「ふふふ……これで人類は終わりだ」
宇宙人はダンボールを抱え、リビングに戻った。そして発射装置がある部屋に入った。ダンボールを床に置き、開けると、黄色い液が入っているカプセルが敷き詰められていた。
「前の液は広範囲に広がるが効果は薄い。しかしこの液は広範囲プラスもう一つ効果がある。この液には特殊なDNAが入っていて、この液が地球に着く頃、人形に変化し、捕まった人間は即獣化。人間の何百倍の体力があるからこれで一人残さず獣化するだろう。しかしこいつは寿命が短いのが唯一のデメリットだ。しかし人類を獣化させるにはこれしかない」
宇宙人は発射装置にある小さい蓋を開けると、さっきのカプセルをはめた。そして別室で発射準備をする。発射時間を10分後に設定する。
「発射一分前」
先端が黄色く光りだした。
「10秒前、9、8、7……」
宇宙人はカウントダウンし始めた。そして発射ボタンを押す構えをした。
「3、2、1、発射!」
宇宙人は発射ボタンを押した。押した瞬間、黄色い光線が地球へと放たれた。黄色い光線は地球に向かい、南アメリカのアマゾンに着いた。深い森の中に黄色い液が木々や草に飛び散った。すると黄色い液体が瞬時に動き始め、人形へと変化した。数はあっという間に増え、黄色い人間軍団は人類を獣化へとさせるためにそれぞれ移動した。
感想等よろしくお願いします。今回の挿絵もEDMOLさんに描いていただきました。EDMOLさんありがとうございます。次話は黄色い液体人間が人類を襲います。